干天慈雨


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 干天慈雨とはこのことだ。朝露が零れるような瑞々しさを感じる冒頭を聴いて、ああ誤解していたと思った。なんでこれに気づかなかったのだろう。期待はずれなんてなんで思ったのだろう。チャーラップのピアノの響きにそう思った。1作目のBLUES IN THE NIGHTの印象を引きずって聴くとこういうとんでもない誤解をする。
 友枝喜久夫という老齢になって盲目となった能楽師がいて、殆ど視力を失っていたにもかかわらず、溢れんばかりの若さと柔軟性に満ちて、舞台から伝わってくる「気」に感心したある随筆家のものを読んでいて、それが「心(しん)よりいでくる能」という短い文章となってあった。その文の冒頭に
 「惣じて、目ききばかりにて、能を知らぬ人もあり」
という世阿弥の『花鏡』からの言葉を引用してある。知識というのはあるに越したことはないけれど、能を見ている最中には能に没頭しなければならない、というその随筆家の言葉にハッとしたのだ。
 先入観というある意味の「知識」が、没頭して聴く姿勢の邪魔になってしまうことがあるのだなと反省させられた。
 また、つまらないことを言ってしまった。しかし、音楽を聴くというのは、実に微妙なものだなと改めて思った。没頭して聴いても、その日の体調や心の状態など音楽がバロメーターにさえなる。だから、冒頭のそれを聴いても、焼け石に水という時さえある。疲れすぎて、心に染みてこない。こうなったら、あっさり聴くのをやめて他のことをしたほうが、良さそうだ。
 エリントン自身の演奏というのは、音数を極端に削ってしまうものだったように思うが、チャーラップもそんなイメージを幾分取り入れている感じもする。ベースとドラムも今回は、ピアノに張り付いて動きが少ないところもあって、それでやや物足りなさを感じる部分もあるのかなとは思った。
 でも、4曲目の今回のタイトルになっているLOVE YOU MADLYなどは、どうだ。NEW YORK TRIOの名目躍如という感じである。レオンハートのベースソロの躍動、ビル・スチュアートのドラミングの巧みさ、そしてチャーラップの破天荒に弾きまくる様は、エリントンだかなんだかわからんと言うほどもの凄い。これが8曲目でまた来る。いやはや、凄い。
 スウィングする5曲目や10曲目なども心愉しく聴けるし、6曲目I'M JUST A LUCY SO-AND-SOの音の緊迫感は、ゾクゾクするほど良い。いつぞや書いた「もったり感」がここで再現される。このもったりをC JAM BLUESで使ってしまうなんて畏れ入った。
 そんな具合で、今までのこのトリオになかった局面も聴けて収穫ありだった。
 

NEW YORK TRIO / LOVE YOU MADLY

BILL CHARLAP:p
JAY LEONHART:b
BILL STEWART:ds
April.7.2003
Venus
1.STAR CROSSED LOVERS
2.JUMP FOR JOY
3.IN A SENTIMENTAL MOOD
4.LOVE YOU MADLEY
5.SOPHITICATED LADY
6.I'M JUST A LUCY SO-AND -SO
7.PRELUDE TO A KISS
8.IT DON'T MEAN A THING
9.C JAM BLUES
10.I LET A SONG GO OUT OF MY HEART
11.WARM VALLEY