夏の終わり


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JAMAL.
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 古い記憶を辿りながら、目をつぶってあれこれ思い浮かべながらこれを聴いていると、暗い湿った空間で、やや下水管の臭いがするジャズ喫茶の、カウンターやら自分を置いて他に人影のない閑散としたテーブル席が浮かんでくる。僕はこれをジャズ喫茶と名のつくところで聴いた記憶がないにもかかわらず、そういう情景が浮かぶのは何故なのかと思った。
 わからないままに、この当時は奇抜と思っていたリズムやらそれぞれのソロに身を浸していると、やはりその季節は夏の盛りで、冷房の利いたエアコンの寒々さや、アイスコーヒーを飲み干したグラスの中で残った氷が、溶け出してカランと音を立てるのが懐かしく思い出されるのだ。
 どこか気だるいジョージ・コールマンのソロが鬱々とするまだ若かった僕の怠惰な日々と重なってイメージされる。
 腕を胸の前で組み、目を閉じて音の渦に没頭して聴いているしか時間をやり過ごすことが出来なかった、あの当時の延々と続く気だるい時の流れ。将来ということが見えてこない漠然とした焦燥。
 こんなにも溌剌としたリズムなのにかかわらずどこか暗澹とした記憶と結びつくMAIDEN VOYAGEから始まる一連のドラマ。スルスルと出てくるコールマンのソロにも、どこか澱んだものを含んでいる。力の限り吹くハバードのトランペットに寂しさを感じるのは何故か。海という茫洋としたイメージに漂う小舟の頼りなさが、僕の「若さ」の記憶と結びつくのだろうか。鳴り続けるウィリアムズのシンバル音の中でハンコックのモードのフレーズがつかみ所のなさを醸しだす。
 

HERBIE HANCOK /MAIDEN VOYAGE

HERBIE HANCOCK:p key
GEORGE COLEMAN:ts
FREDDIE HUBBARD:tp
RON CARTER:b
TONY WILLIAMS:ds
MAR 17.1965
BLUE NOTE 4195
1.MAIDEN VOTAGE
2.THE EYE OF HURRICANE
3.LITTLE ONE
4.SURVIVAL OF THE FITTEST
5.DOLPHIN DANCE