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VLADIMIR SHAFRANOV / RUSSIAN LULLABY



VLADIMIR SHAFRANOV:p
PEKKA SARMANTO:b
JUKKIS UOTILA:ds
Sep 11 2003
澤野工房

1.ESTE SEU OLHAR(THESE EYES OF YOURS)
2.RUSSIAN LULLABY
3.CAPE VERDEAN BLUES
4.SPARTACUS LOVE
5.IF I SHOULD LOOSE YOU
6.CELIA

7.SLOW BOAT TO CHINA
8.NOCTURE
9.OUR DELIGHT
10.HAVE YOU MET MISS JONES
11.THESE GOES MY HEART
12.LAZY BIRD
  

 ウラジミール・シャフラノフというピアニストは、どちらかと言えば品が良くて、端正な演奏をする人という印象があった。彼のWHITE NIGHTSというアルバムでは、ベースにジョージ・ムラツ、ドラムにアル・フォスターという凄腕のサイドマンによって、大人しめの演奏に終わらずに活きの良いアルバムに仕上げられていた。このアルバムも同様に、サイドマンが活きが良く、品格良好というものに納まらず、時にアグレッシブな演奏を展開することになる。
 それだから、シャフラノフが嬉々として演奏してしている様が微笑ましく、水を得た魚のごとく躍動するものあり、染み渡るものありでまことに良いのである。彼の心象がみえてくる感じで親近感を覚える。
 シャフラノフのアルバムには、あまりオリジナルというのが出てこない。WHITE NIGHTSでは、スクリャービンのエチュードをベースにした、タイトル曲が印象的だったが、他2曲彼のオリジナルの他は、すべて過去のミュージシャンがやった名演が想起させられるというものが多く、シャフラノフの演奏はもとより、あの曲には、あの人のあのアルバムということが連想的に思い出され、聴き比べるという愉しみを加えてくれていた。
 これまた、同様にこのアルバムでも、RUSSIAN LULUBYはジョン・コルトレーンのシーツ・オブ・サウンドの凄まじいSOUL TRAINがあるし、SLOW BOAT CHINAはソニー・ロリンズをはじめ、数々の名演があった。
 HAVE YOU MET MISS JONESはオスカー・ピーターソンのPLEASE REQUESTなんて具合である。
 今回のアルバムの冒頭は、アントニオ・カルロス・ジョビンの知らなかった曲が使われた。これが、まず印象を強める働きをしている。爽やかでやっぱりシャフラノフが弾くと品の良さが印象となる。僕はピアノ・トリオはまずサイドマンから聴く方だが、これは彼のピアノが優美であって、正攻法というかそういう聴き方となった。

 とツラツラ曲目を見るだけでも、シャフラノフという人は、演奏家である前に、いちジャズ・ファンなのだという気がしてくる。自分のコレクションの中から、いいやつを見つけ出して、これやってみようという彼のウキウキした気分が察せられる。
 
 ロシアの子守歌で、本来の僕の聴き方であるサイドマンが気になり出す。ベースのPEKKA SARMANTOの凄腕を堪能し、ドラムのJUKKIS UOTILAの凄まじいソロに煽られたかシャフラノフも豪快に弾きだす。寝た子も起き出すコルトレーンの演奏には到底及ばずも、かなり力の入った演奏となっている。
 
 その寝た子も起き出すSOUL TRANEを久々に聴いてみて、コルトレーンは、マイルスの元にいた頃には、猫をかぶっていたのではと思うふしがある。どうも拗くれたフレーズが気になる。ところが、このSOUL TRANEたるや、うざいマイルスがいなくてせいせいしたといわんばかりの伸び伸びしたものとなっている。
 勿論まだ彼はマイルスから完全に脱却したわけではなかったが、自分の世界を広げつつあった頃のものであると言えよう。
 親分の元から抜け出て活き活きと演奏したアルバムを作った例などは、挙枚にいとまがない。ジャズの世界でも宗旨変えは頻繁に起こる。意趣返しとでも言えそうな按配である。恩など感じていたのでは、ひとかたの者になれないのだろう。創造者とは、酷薄な存在なのかも知れない。

 だいぶ話が逸れたが、 躍動するホレス・シルバーのCAPE VERDEN BLUESなどは嬉々とした演奏で浮かれたつ。これはシルバーの同名のアルバムがあるのだが、まだ聴いたことがない。いずれ欲しいと思うが、こんな具合に芋蔓式にアルバムが増えるのもジャズ蒐集の愉しみである。

 ヨーロピアン・ジャズ風の味付けのSPARTACUS LOVE THEMEやサイドマンによってぐっとグルービーとなったIF I SHOUL LOOSE YOU等々だが、特に気合いの入ったCELIAと最後のLAZY BIRDが良いのだ。
 バド・パウエルのCELIAではこんな一面をシャフラフノフが持っているとは思う。ぐいぐい押し込むような勢いで圧倒する。一丸となって突進するというのが相応しい。あっという間の出来事である。
 どれもそれなりに良い出来で、書き出せばきりがない。

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