究極のバリアフリー策

 「説似一物即不中」という言葉を最近憶えた。
またまた、そんな難しいことを云って煙に巻こうとしてると言われるかも知れないが、これは憶えていて良い言葉だと思う。
「せつじいちもつそくふちゅう」と読む。絶対なるもの、究極なるもの、あるいは本来的なものを、「絶対」とか「究極」などという言葉で表現する。ところがそれが「中(あた)らず」=的はずれだということだ。
 大威張りで自説を説いたはいいが、見当違いだったなんてことはざらにあることで、僕がよがっていってることなどハズレもハズレ、一等賞の大ハズレだったと反省することが多い。
 ジャズを何年聴いても、自分は萬年ビギナーだなと思うわけである。

LOU DONALDSON
THE TIME IS RIGHT

BLUE MITCHELL-tp
LOU DONALDSON-as
HORACE PARLAN-p
LAYMON JACKSON-b
DAVE BAILEY-ds
RAY BARRETTO-cong
1959.10.31
BLUE NOTE 4025
SIDE 1
1.LOU'S BLUES 2.BE MY LOVE 3.IDAHO 4.THE NEARNESS OF YOU
SIDE 2
5.MACK THE KNIFE 6.CROSSTOWN SHUFFLE 7.TANGERINE

 

CHAELES McPHERSON/BUT BEAUTIFUL
KEITH JARRETT/ MELODY AT NIGHT, WITH YOU
I
INTRODUCING THE KENNY DREW TRIO
BLUE NOTE 5023

 先日『ジャズ批評』に面白い一文を見つけた。”ブルーノート65周年”特集の一文である。
 某氏曰く、ジャズの敷居を高くしたのは、ジャズの物書きどもだと。もっとビギナーに優しくなれ・・・とまあそういうことだったのだが、僕はこのビギナーに優しくしろというのがいまいちわからない。
 これは僕の自説になるけれど、敷居を自分の力で乗り越えてこそ立派な一人前のジャズ・ファンになれるんだと思う。いちいちお膳立てして、「さあ、ここからお入りやす」なんて旅館の仲居さんみたいな優しさは必要ない・・・と敢えて言いたい。甘えるんじゃない!

 確かに某氏の言わんとしてることも頷ける。データー解析ばかりの面白くもないレビューなど読んだところで、益々ジャズは面白くなくなる。知識はあっても「知恵」がない。ハズレと言われても大威張りで、ジャズの「面白み」を伝える言葉が欲しいと常々思う。
 早くああいう無機質な、不感症の文がなくなれば良いと思う。彼らはある意味臆病なんじゃないかと思うのだ。書いたものが、批判の矢面に立たされることを畏れて、「確実な」データーを並べ、決まり切ったワンパターンのイディオム(語彙)を使って、少々その筋の玄人きどりをしたうえに、無難な表現で済まそうとする。
 ああ、またかと思い始めると僕などは、一、二行で読むのをやめる。

 見当はずれなど世の中日常茶飯誌だ。当の某氏などは、以前言ってたことを「素直に」撤回してしまう思い切りの良さ、というか勢いで言ってしまったものをいちいち取りざたされたら堪ったもんじゃない、過去のことは過去のこと、今の自分が正解という潔さがある。これに参るわけでだ。

 良いのだそれで。で、かの一文に今まで何度となく説いてきた彼の自説が。旋律だ、メロディだ、曲だと。
 これはその通りだろう。ジャズに目覚める以前に彼らは色んなジャンルのものを聴いてた筈で、それらはメロディがメインであるものであったのだから。
 僕は、ジャズに入っていく段取りとしてヴォーカルをとことん聴く時期があった方が良いと思っている。そこで曲を覚える。これがジャズに親しむ為に欠かせない。それから少し小難しく感じるかも知れないが、インストものにも耳を傾けてみると、ああ、この曲知っているとなればしめたものである。ぐっと親近感を感じるようになる。
 その後、どうすれこうすれ等とビギナーに説く器量は僕にはない。

 それで、僕がこれさえ入っていれば、どんなアルバムでも良く思えるという曲のひとつであるBE MY LOVEの最近の愛聴盤、L.ドナルドソンのTHE TIME IS RIGHTを挙げよう。まさにこの曲に惚れている。
 最近ではC.マクファーソンがこれをやった。L.ドナルドソンのTHE TIME IS RIGHTに入っていることも以前から知ってはいたけれど、暫し待ったのだ。
 是非アナログで欲しいと。そして手に入った。真っ先に聴きたいのだが、まあ、待て!いずれこれが鳴り出すのはわかっているのだから、折角だから頭から聴こうと。欲しかったアルバムが手にはいると、そわそわして落ち着かなくなる。どういう手練手管を持ってすれば、最も相応しく聴けるかと。まずは、雰囲気づくり。いつものドリップ珈琲じゃなくて、エスプレッソを作って聴く。
 
 まずは軽快でポップな雰囲気のテーマを持つLOU'S BLUES。ドナルドソンのアルトは、伸び伸びした明快さが信条で、ブルーノートも4000番台に入るとポップな感じの曲調にその伸びを生かしたアルトを聴かせてくれる。

 で、BE MY LOVEだ。R.バレットのコンガが入って軽いポップな雰囲気を醸し出すバックに乗って、ドナルドソンの伸びやかなアルトがこのテーマを吹き出す。曲の流れからいって愛らしく奏で、メロディに酔わされ、終わりに向かって盛り上がっていく。情感を籠めて吹いているけれど、全体のノリを軽く仕上げているから幾分薄まってはいるものの、曲のもつ愛らしさ、切なさに変わりはない。

 BE MY LOVEの入っているアルバムでは、先のC.マクファーソンのやK.ジャレットのソロアルバム、そして最近手に入れたK.ドリューの5000番台のKENNY DREW TRIOにも入っていた。

 自分の好きな曲をもつこと・・・これはどんなに敷居が高く感じるジャズでも、ながく聴き続けることの出来る「究極のバリアフリー策」に違いないと思うが、不中(あたらず)であろうか。
 
 



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