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DEXTER GORDON
GETTIN' AROUND
DEXTER GORDON-ts BOBBY HUTCHERSON-vib BARRY
HARRIS-p BOB CRANSHOW-b BILLY HIGGINS-ds May 28,291965
BLUE NOTE
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1.MANHA DE CARNAVAL 2.WHO CAN I TURN TO 3.HEARTACHES 4.SHINY STOCKINGS5.EVERYBODY'S
SOMBODY'S FOOL 6.LE COIFFEUR 7.VERY SAXILY YOURS 8.FLICK OF A TRICK
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入り口で図録として売られていた四角い緑のものの中心にレイアウトされた絵は、随分と前に読んだ宮本輝の『星々の悲しみ』の装丁に使われていたものだった。
ああ、これ知ってる・・・と思ったが、作家の名前が直ぐ出てこない。
あれ、ほれ、僕が好きな・・・あの・・・と心許ない記憶の隅を探すがもどかしくも出てこない。
この日丁度、齢49と48の夫婦の結婚記念日でもあったのが、連れ合いに
「また、今度ね」と匙を投げられてしまった。
建物、風景、植物、樹々、人物、裸婦、動物など多種なデッサンが展示されていた。どれも彼のものや人を観る目の細やかさと優しさをを感じさせる素敵なものだった。
小一時間をゆったりとした気分で過ごして館内を出ると、あまり天気もよい日ではなかったが、暮れ出す時間になっていた。
少し早いが夕食を食べに、最近見つけたレストランに向かった。
宮本輝の『星々の悲しみ』という短編には、二十歳で亡くなった青年の同名の油絵がテーマだったが、作者の名前同様中身は筋を少しばかり憶えている程度で、細かいところまでは覚束ない。
「葉の繁った大木の下で少年がひとり眠っていた。少年は麦わら帽子を顔に乗せ、両手を腹のところに置いて眠り込んでいるのである。大木の傍らに自転車が停めてあり、初夏の昼下がりらしい陽光がまわりを照らしている。さやかに風が吹いているのか、葉という葉がかすかに右から左へとなびいている。それだけの絵だった。」
そして
「絵の下に小さな紙が張られてあり、そこに絵の題と作者名が記されていた。
『星々の悲しみ 嶋崎久雄 1960年没 享年二十歳』。
と。
こういう絵を僕も観たことがあるような気になったものだった。よくありそうな題材だと思う。しかしこの絵の少年は大木の下で死んでいると主人公の妹がこの絵を見たときに言い出すのだが、そのことがこのストーリーの展開とダブりだす・・・というあたりだけは何故か憶えている。
1枚の絵を観て人それぞれに思いを巡らすが、若くして亡くなった人のものとなると殊更感慨も深くなるものだ。
なんだか話がシリアスに流れそうなので、書きかけのスケッチのようだがこれくらいにして、MANHA
DE CARNAVAL(黒いオルフェ)で始まるD.ゴードンのGETTIN' AROUNDである。
仕事で疲れた足を引きづって職場から帰宅して、これを聴くとホッとするのでよく愛用した。よく聴いたのは夏から秋にかけてのアフターファイブというような時間だった。
ゴードンのアルバム中、これほどリラックスムードになれるものは他にはないんじゃないかと思う。
黒いオルフェはゴードンのテナーが夕暮れに緩やかなダラダラ坂を下るような少し寂しさと緩やかさがある。そしてB.ハリスのピアノがムーディに流れる。
2曲目.WHO CAN I TURN TOはとことんゴードンのテナーに癒される。思わずフッと溜息が出るが、深く吸っては吐く息と共に、沈殿していた重い気分の塊の一欠片が抜け出ていくように思える。
3曲目のHEARTACHESのように軽快になるとB.ヒギンズのスネアを打つスティックの音が心地よく鳴り出す・・・その調子で最後まで、という具合だ。
「ジャズは眉根を寄せて聴くものじゃない」・・・なんてよくビギナー向けの寄ってらっしゃいに使う言い方があるが、そういやこれなどは打ってつけかも知れない。
全てのジャズを好きにならなくても、これを聴けばD.ゴードンというテナーマンを好きになることだろう。そういうアルバムだ。
そしてブルーノートというレーベルは、ビ・バップから現代までをカバーする辞典みたいなもので、萬(よろず)のスタイルを取り揃えている。
それらをお勉強じゃなく、一枚一枚を時代感覚を感じ取りながらも、古い新しいに関係なくその時々の自分の気持ち具合や要求にあったものを見つけるのは愉しいものだ。
一枚の気に入った絵を眺め、描いた人の目とその時の思いを共有するのに似た時間が流れるだろう。
佐藤忠良じゃないが、「仕事の手を休めて」こんなゴードンのアルバムはいかがか。
大樹のようなゴードンのテナー、その下でくつろげるんじゃないだろうか。
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