JAZZ徒然

2004.5

WALTER BISHOP Jr / WHAT'S NEW
WALTER BISHOP Jr-p
PETER WASHUNGTON-b
KENNY WASHINGTON-ds
Oct 25 1990
DIW
1.I'LL REMEMBER APRIL
2.WAHT'S NEW
3.SPEAK NO EVIL
4.CRAZY SHE CALLS ME
5.THINGS AIN'T WHAT THEY USED TO BE
6.WALTZ ZWEETIE
7.FOR ALL WE KNOW
8.UNA MAS

 

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WALTER BISHOP Jr / SPEAK LOW
AL HAIG / INVITATION


I

 

 50代に片足突っ込んでいると言うぐらいで、「老い」なんていうのは小癪だと言われるかも知れないが、躰は正直なもので若いときのような無茶はできなくなっている。身すぎ、世過ぎの為とは言え宿直をする24時間勤務なんて、正直言って躰に応える。そろそろ年貢の納め時と考えたくなってきた。
 躰ばかりじゃない。記憶ということになると、人の名前が直ぐ思い出せない。ちょっと前のことなのに、それが何月何日かと言われると、やや暫く頭の隅を探ってみるがどうにも思い出すことができなくなった。
 でも、年をとって来て良かったと思うことがある。若い頃つまらないと思って聴いていたものが愉しめるようになったことだ。これは単純に呆けとか年寄り臭くなったと片づけられると少々寂しい。

 最近「上手に枯れる」という言葉が気に入っている。これは豊臣秀吉の元茶頭で千利休の弟子にあたる山上宗二という不運な(何故不運かはここでは省くけど)人物が、利休と再会を果たした折りに、久しぶりに利休の所望で茶を点てた時、利休の口から発した賞賛の言葉(野上弥生子『秀吉と利休』より)に、
 「正直なことをいえば、長年の田舎暮らしがお前の点前にも幾分祟りはせぬか、と案じていたのに、どうして、見事に枯れた。お前の茶はもともとそうした味わいではあったが、それが一段とかじけて、寒いところまで行けたらわしも及ばない」というのがあった。
 若いときの枝葉が落ちて、華はないけど元もとの幹だけはしゃんとしている。そんな老木からみたり聴いたりする周りの風景というのはまた一段と違ったものになる、自然と考え方や所作が違って来ると言う風に読んだ。
 できればこういう風に老いたいと思っているのだが、どうなることか・・・。

 ところで、今回はウォルター・ビショップJrだ。ジャズ・ファンの一里塚として彼のSPEAK LOW1枚キリから脱出するというのがあるんじゃないだろうか。「ウォルターの神髄この1枚にあり」と嘗て寺島靖国氏はジャズ批評に書いていたが、後年、寺島氏は大いに反省して、この一言を撤回せざるを得なくなった。
 今回のこのWHAT'S NEWのライナー・ノーツを書いているのは、誰あろう寺島氏であって、僕はこの部分が気にいっている。
 「・・・マイルスやチック・コリアのように音楽をパッケージで飾って人気を倍増させるようなミュージシャンではない。ミシェル・サダビーやアル・ヘイグのように、あくまで一部の真摯なファンの支持とマイナー・レーベルの良心によって守られるジャズメンなのだ。」

 さてこのアルバム。「一部の真摯なファン」というような朴念仁な気分に陥る必要は全然ない。なにせ、ベースとドラムがケニーとピーターの両ワシントンなのだから。いやはや、またしてもサイドマンに助けられたかという感じもある(SPEAK LOWはジミー・ギャリソンがいたからこそ名盤となったという決まり文句もあるから)。それでもいいじゃないか。サイドマンに踊らされたにせよ、彼の持ち味が旨く引き出されれば。
 これを聴いて悦に入っている自分を、「上手に枯れた」と自画自賛したい気分なのだ。良いには、凄く良いとしみじみ良いとあるとすれば、これはしみじみ良い。捉えようによっては、「しみじみ」が「凄く」を超える場合もあるなと思う。
  
 アル・ヘイグのことが少しでたので、彼の1974年のINVITATIONというのを少し聴いてみたのだが、ウォルターと比べると品も格も違うやや高踏なかんじがした。ちょっとこれでは気後れがする。そこへいくと、ウォルターのピアノは親しみやすく、地べたに座るようなさり気なさが良い。
 そういうウォルターをサポートする両ワシントンの絶妙な「張り」が効いている。張りに背中を押されて、かなり張り切ったところもあって微笑ましい。更に、ウォルターのオリジナルWALTZ ZWEETIEを聴くと決して凡庸なものでないことを実感するし、ケニー・ドーハムのUNA MASなんてかなり気合いが入って凄みが効いている。

 さてはて、老いに差し掛かった僕の”見立て”は如何?


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