EE MORGAN / INTRODUCING

MILES DAVIS/ 'ROUND ABOUT MIDNIGHT
MILES DAVIS-tp
JOHN COLTRANE-ts
RED GARLAND-p
PAUL CHAMBERS-b
PHILLY JOE JONES-ds
1955.8.27
1956.6.5,8,10
CBS

1.'ROUND ABOUT MIDNIGHT 2.A-LEU-CHA 3.ALL OF YOU 4.BYE BYE BLACKBIRD 5.TADD'S DELIGHT 6.DEAR OLD STOCKHOLM
      -------------------------------------------------
 今回は何にしようかと今週書いたものを読み直してみたけれど、迷った。リラクゼーション効果のGETTIN'AROUNDか、愉快愉快のY.キョロシーにしようか、それとも乾坤一擲(けんこんいってき)M.ディヴィスの'ROUND ABOUT MIDNIGHT・・・か。でも、これは僕には書けない、と思った。
 アルバムの重みから言って桁が外れている。そう思うと尚更憂鬱になって来る。でも、今、夜中の2時を廻ったところで、雰囲気ばっちりじゃないか。
「草木も眠る丑三つ時・・・」うんうん、この調子。
で、「孤高なる精神が静寂(しじま)に彷徨い歩く」・・・これじゃあ、まんまじゃん。でも、そういうこったよな。
「マイルスの研ぎ澄ましたトランペットが、彷徨する生の喘ぎを・・・」それで、どうした。
「喘ぎを・・・」どうした。「喘ぎとなって・・・」を?「とほほ・・・」ありゃ、やっぱり駄目だ。

 そうだ!(何を突然)今日というか今夜は七夕の夜・・・だった。と、思ってカーテンを開けて外を眺めれば、夜空に星が煌めいて・・・いると思ったらもう白み始めていて星なんてもうない。なんだ。
 
 'ROUND ABOUT MIDNIGHTは言うまでもなく、T.モンクの名曲だけれど、この曲の決定的名演はこのマイスルのものしか僕には考えられない。それはこのサウンドまるごとの雰囲気が僕のなかで鮮烈に刻印されているからで、他のどの演奏を聴いても、ああ、また'ROUND MIDNIGHTか・・・になってしまう。決定的というにはあまりに短く、それだけに無駄をこれでもかと言うほどそぎ落としたものだが、(聴きながら書いていると、書き終わらないうちに、演奏は終わってしまう。だから、書けない・・・。そういうことではないが)紙幅に余る演奏といえる。
 このサウンドを聴くと「死刑台のエレベーター」を思い出す。フランス人ミュージシャン(B.ウィラン等と、フランスで活動していたK.クラーク)との共演したヌーベルバーグ作品のサウンドトラックだが、やっぱり暗いモノトーンな雰囲気を基調にしたもので、映画の場面に合わせて演奏されたものだ。(それを聴こうと思って古いレコードを引っ張り出していたら、妙なものが出てきた。「くやしいけれど幸せよ」'70ビッグヒット歌謡集・・・なんじゃこれ。誰が持ってたんだ。とことん駄目だ今日は)
 このトーンを聴くと、また更に当時のヌーベルバーグ作品に共通な妖しさ、陰鬱さ、デガダンス等々を彷彿とされる。ヌーベルバーグの三羽烏である、クロード・シャブロル、フランソワ・トリフォー、ジャン・リュック・ゴダール・・・(うーん、凄い名前が出てきた)などに先行する形でルイ・マルがこの映画を発表したのだけれど、同時期アクションもので「殺られる」という作品のサウンドトラックはA.ブレイキーとJ.MでトランペットはK.ドーハムだったと思う。これまたマイルスのと似た雰囲気がある。

 うーん、だからどうしたという話だな。もっと格好良く書こうと思ったのに、今回は駄目だ。
 でも、とにかく鮮烈で恰好が宜しい。マイルスが人間として恰好つけすぎで、ヘンにシャイで、捻くれた奴でも(中山康樹『マイルス・ディヴィス』のラスト・エッセイを読み終えて・・・ああ、ジャケットの男の顔が嫌な奴に見えてきた)、マイルスのサウンドを通したスタイルが恰好イイのだ。チ・チ・チ・・・!(意味不明)

 この決定的名演の他に、BYE BYE BLACKBIRDとDEAR OLD STOCKHOLMの名演を含んでいる。
 このBYE BYE・・・のイントロからテーマに入るところの繋ぎでP.J.ジョーンズのズドンの一発が効いているが、このアルバムもそうだし、これが引き込み線となって所謂マラソン・セッションと繋がっていくのだが、どれもイントロが凝っていて、そこだけ楽しみに聴いても一聴の甲斐がある。
 例えば、RELAXIN'の2曲目YOU'RE MY EVERYTHING。R.ガーランドがお洒落に弾き始めたのを、マイルスがピューっと口笛を吹いて演奏を制止して、「ブロック・コードで、」と注文をつける。そして即座にガーランドが注文通りブロック・コードに直して弾き始めるなんざ恰好良すぎる。
 例えば、WORKIN'の冒頭IT NEVER ENTERD MY MINDのガーランドの弾くバッハの平均律みたいなイントロがそのままテーマに引き継がれていくあたりもゾクゾクくる。

 これ以上書いても映画のストーリーを全部言っちゃってしらけるのと同じで、持っている方は聴き直してみて頂ければ良いし、持ってないかたは余計なことだがジャズ・ファン必携とも言える盤だから是非是非と言いたい。

 松岡正剛氏の「千夜千冊」の千冊目は良寛だった。うーん、そうか。『外は、良寛。』か。淡雪・・・。刹那の前後に気を配る・・・ってことだな。

 淡雪の中にたちたる 三千大千世界(みちあふち)
   またその中に 沫雪(あわゆき)ぞ降る

 憶えておこう。
 (途中でこんなの読んでるから)もう、僕の今日のエネルギーは費(つい)えた。すっかり、朝になったし・・・。
 (4年7月8日記)
 

 戻る