こころ萎えたら・・・

 先日、職場の喫煙室で喫煙仲間が揃ってこんな話をしていた。
 ひとりの同僚が嫌に疲れた表情で「疲れた、疲れた」を連発している。いつもの事だったからどうしてとも聞かずにいると、また一人で喋り始めて
「何の疲れなんだろう、これは。諦めの疲れかな・・・」などと言い始める。
 そこで僕は察することがあったので、彼の転勤の話がどうなったかを聞くと、
「半々だな」という。
 

COLMAN HAWKINS /SOUL
COLMAN HAWKINS-ts KENNY BURRELL-g RAY BRYANT-p WENDEL MARSHALL-b OSIE JOHNSON-ds
Nov 7, 1958
PRESTIGE
SIDE 1
1.SOUL BLUES 2.I HADN'T ANYONE TILL YOU 3.GROOVIN'
SIDE 2
4.GREENSLEEVES 5.SUNDAY MORNIN' 6.UNTIL REAL THING COMES ALONG 4.SWEETNIN'

 

 彼は単身でこちらの職場に転勤となって3年が経ち、そろそろ元の職場に戻って家族と暮らしたかったのだった。
「3年が限度だよ」と彼は続ける。「仕事が終わって冷えた部屋の電気をつけると、つくづくそう思う」と、何度か聞いた言葉をその時も漏らした。
 寒い、寒いと彼は良く言っていた。元の職場の在るところのことは良く知っているが、確かに内陸型の北海道のなかでは温暖な土地だったことは確かだが、冬の寒さはそう違いはないだろうし、かえって雪の量の少なさから言えばこちらの方が断然少ない。彼の元の職場のあるところは、日に何度も雪かきをしなくては生活に支障が出るほど、積雪量の多いところだ。 しかし彼の言うことも半ばわかる気もするのだ。道東のこの辺りの海岸沿い風景というのは、内陸の町からトンネルひとつ抜けるとがらっと変わって、霧が立ちこめ木々の葉の色も褪せる。湿地帯でもあって、湿地に生える谷地坊主が生える風景というのは、うすら寒さがいや増す感じがするものだ。総じて生気がない、いやこちらの生気を失わせる風景だと言えるかも知れない。彼が言う寒さの原因の大本はそこにあったらしい。
 よほど肌に合わないところだったらしいが、僕もこの土地に赴任して20年が経つ。来た当初同じことを感じたものだったが、時が経つにつれこの土地の野性味のある良さに気付いて、野外での楽しみを見つけられた。野鳥を双眼鏡で覗いたり、川をカヌーで下ったり、林道に分け入って野趣を満喫した。
 そういう愉しみでもなければ、やはりうら寂しさばかりが募る土地柄かも知れなかった。

 職場とアパートとの行き帰りや、接待での夜の街ぐらいが精々のその彼には良さがわからなかったに違いない。

 その話から転じて、一人になれる時間のことになった。僕は自分が一人になれる時間がないとやっていけないことを話すと、彼はそういう事を考えたことがないと言う。そういうタイプの人間がいることを僕には信じられないことだが、実際いて彼もそうだという。
 僕はストレスの溜まった時ほど、一人になりたい質だし、何か真剣に考えているときには、周りに人がいて欲しくないほうだ。

 彼は子どもの頃、テレビの下で良く寝ていたそうだ。テレビの音も気にせず寝られる程だったから、人と話していても自分の考えに没頭出来るというのである。聞いているようで聞いてないと良く言われる彼らしい話だが、それも特技と言えるかも知れない。

 一人になる時間を持たない子供は、内省が育たないと、ある児童心理の学者がラジオか何かで話していたことがあった。
 僕は若い頃、自分の内向的、良く言えば内省的な性格が嫌で外向的に振る舞える人を羨ましく思ったものだった。自分の考えだけに没頭する自分の性格が嫌いだった。そんな僕も世過ぎ身すぎの為もあり人とのつき合いも人並みに出来るようにはなって、色んなタイプの人を見るにつけ逆に人付き合いは良いが、いったいこの人は何を考えて生きてきたのかという内省の育っていない人への疑念を感じるようになった。

 ひとりになれる時をもつことで、萎んでしまったいのちが生気を取り戻しふくらみを回復するように思える。音楽を聴き、本を開いてあれこれ考え始めることでふくらみを取り返し、心の温度を上げることが出来る。野外での楽しみを見つけられた時も、野鳥を双眼鏡で覗いたり、川をカヌーで下ったり、林道に分け入って野趣を満喫するのも一人の方が良かった。勿論仲間や家族と出かければまた違った愉しみとはなったが、やはりそう言う一人のときが自分に欠かせない。それが僕といういのちのあり方なのだろう。

 ひとりになれる時をもつのを欠かせないと感じる者とそうでない者がいる。そこには何かいのちのふくらませ方の違いがあるのだろう。

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 まさに胃の腑より飛びださんばかりのホーキンスのSOULが飛び散る冒頭が凄いその名もコールマン・ホーキンスのSOUL。
 小手先無用の腕っ節の強い素手で来るテナーに圧倒されるアルバムである。これぞジャイアント・オブ・ジャズ!

 ソウルフルな冒頭。ジャージーなK.バレルのギターと絡むホーキンスの骨太いテナーの音。張り裂けるテナーは魂をふるわす。

ピアノがR.ブライアントだというのも嬉しい。曲に応じて彼の持ち味を堪能出来る。
むせび泣くGREENSLEAVESなんて入ってるのが、これまた嬉しいじゃないか。

 哀切なメロディを崩すことなくそのまま吹ききる純な魂が伝わって来る。

 楽しい曲は楽しくスウィングし、張り裂けんばかりの魂のふるえをそのままにテナーに託すバラード等々、時はハードバップ全盛の折だが、時代の流れに頓着せず自分のステイタスに自信と確信を持って立派に聴く者を捉えて離さない演奏をやってのこけるジャイアント・オブ・ジャズ。
 
 揺れる僕の今の心に心棒を与えてくれる父性的なホーキンスとその仲間に鼓舞され、よし明日からまた・・・と、萎んだいのちをふくらませるのだ。

 心萎えたら、じっくり聞き込んで魂を吹き込んで貰おう。

 
 

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