胎動

OUTSIDE BY THE SWING
CHIHIRO YAMANAKA
VERVE

CHIHIRO YAMANAKA-p
ROBERT HURST-b
JEFF 2TAIN" WATTS
May 13-15 2005
1.OUTSIDE BY THE SWING 2.IWILL WAIT 3.IMPULSIVE 4.HE'S GOT THE WHOLE WAORLD INHIS HANDS 5.TEARED 6.YAGIBUSHI 7.CLOPATRAS DREAM 8.MATURIBAYASHI/HAPPY GO LUCKY LOCAL 9.2:30 RAG 10.LIVING WITHOUT FRIDAY 11.ANGEL EYES 12 ALL THE THINGS YOU ARE 13.CANDY

 この新作を手にして、チヒロヤマナカのキモチが読み取れず、どこか白々したものを暫く感じていた。
 最初の2,3日は彼女の指先辺りを見やっていたが、どうもに腑に落ちない距離感ばかりが僕とチヒロヤマナカの間にあった。
 そこで思い切って彼女の口からか臍の穴からでも入り込んでしまおうと思い立ち、ハラが見えないのだから、やっぱり腹からが良いと臍から入り込んでみた。
 内蔵物から発する律動が僕の頭から全身に伝わって来て、次第に僕の胸の鼓動と共振し始めた辺りから、外から見ていたチヒロヤマナカの指先辺りをしらっとして見ていたのとは違う振動を受け始めていた。僕は母胎の胎動だという気がした。チヒロヤマナカの体内温が微妙に上がり下がりし、神経が機敏に何かに反応し、血流が早まったり遅くなったりする。
 母胎のなかの胎児と化した僕はリズミカルに振幅する揺れに身を委ねて、自らも共振していた。
 
 ドクドクと流れる血流や鼓動のリズミカルな振幅をしたかと思えば、心地よいスウィングに微かにチヒロヤマナカの全身が揺れる。更にメロディアスなキモチが豊に彼女を包んだようで、仄かな律動と共に僕の神経に伝わって来た。
 ロバート・ハーストのベースの振動がチヒロヤマナカの腹の辺りや脳のシナプスを刺激したり、ジェフ・ワッツのドラム音の間断ないフレキシブルなブラッシュ・リズムの波動が彼女の神経を高ぶらせている。彼女はそれに呼応して、鍵盤を揺るがして応える。
 鍵盤を勇躍するフレージングは相変わらず小気味よい。
 
 彼女は静かに咽頭を動かして声にしない歌を歌い始める。それは指先の方に流れていったようで、それは冷たく凍り付いたかのような鍵盤をさすって、美しいメロディとなった。体内にいる僕は子守歌でもきかされるようになって、ウトウトしはじめる。母胎の主であるチヒロヤマナカの真剣なしかし優しさの籠もった表情が僕の脳裏に映っていた。
 聴き馴染んだメロディも胎内にいる僕には律動でしかなく、それらが彼女の息づかいの合間に素早く溢れ出す。チヒロヤマナカのキモチが少し感じ取れたような気がして、僕は元来た体内を通過して外に出た。

 VERVE移籍第一弾。澤野で聴かせた彼女のしなやかでしたたかな感性は、移籍後のファーストで律動的なアプローチに気を注いだかのように思える。それはドラマージェフ・ワッツ、ベース ロバート・ハーストからの刺激への呼応なのか、それとも自らの体内に宿っている体内律動を表にし始めたからなのか。いや元もと彼女には同じようなアプローチがあったが、気付かずにいただけのこととかも知れない。では、何も変わってはいないのか。そうなのかも知れない。
 しかし前作WHEN OCTOBER GOESは明らかにメロディアスに重点が置かれていたと思えたが。もっと歌っていたと。だから、しなやかに聞こえた筈だ。

 結局未消化のままラストとなる。ピアニカで弾くCANDYの飄々さが、さりげない。やっぱりしたたかだ。
 これは移籍後の胎動に違いない。

 


 

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