DODO'S BACK /DODO MARMAROSA
MICKAEL"DODO" MARMAROSA-p RICHARD EVENS-b MARSHALL EVANS-ds
May 9,10 1961
CADIT LP 4012

SIDE1
1.MELLOW MOOD 2.COTTAGE FOR SALE 3.APRIL PLAYED THE FIDDLE 4.EVERYTHING HAPPENS TO ME 5.ON GREEN DOLPHIN STREET

SIDE 2
1.WHY DO I LOVE YOU? 2.I THOUGHT ABOUT YOU 3.ME AND MY SHADOW 4.TRACY'S BLUES 5.YOU CALL IT MADNESS

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  "のろま”のブルトドー

 ブリキの缶に入っていたのは、昔のサッカー選手のブロマイド、ブリキのレーシングカー、小さな自転車競技選手の人形、色とりどりのビー玉、欠けためのう石、マッチ箱の中に入った黄ばんだ布の切れ端・・・

 これは”ドミニク・ブルトドー”という男が子供の頃、アパートのバスルームの壁のタイルを剥がして、穴のなかに隠しておいた缶に大事にしまわれていた宝物だ。

 まぬけでのろまなブルトドーはその缶と共に、たくさんの小さな記憶を蘇らせた。
 学校の休み時間にビー玉遊びに勝ってクラスメートのビー玉を全部せしめたのに集合時間に遅れて先生にこっぴどく叱られた。
「ブルトドー!」
 彼は先生のおっかない声に怯えたうえに、ビー玉をいっぱい詰め込んだポケットが破れて、せっかく取ったビー玉を全部ばらまいてしまった。そんなつらい記憶も。

 この話はフランスの作家、イポリト・ベルナールのあの『アメリ』のなかに出てくる”ブルトドー”という男の話である。
 彼がまぬけでのろまだったかどうかとは書かれていない。でも、その名前が呼び起こすイメージは、あの先生が彼を叱って呼ぶ彼の名の語感と共に、僕には「のろま」「まぬけ」という印象を受けてしまう。
「ブルトドー!」

 他にも、食料品店の店主で、少し知恵の送れた従業員リシュアンを虐めてばかりいる意地悪な男”コリニョン”という舌のもつれそうな名前もすきだ。
 いつも虐められているリシュアンが、デュファイエル爺さんにそそのかされて、リシュアンは勇気を出してコリニョンを馬鹿にした言葉を一杯吐く場面がある。
「コリニョンはバカだにょん」「コリニョンは、アホだにょん」「コリニョンはトンマだにょん」「コリニョンは脳天パーだにょん」「コリニョンは糞たれだにょん、コリニョンは臭いにょん」・・・とね。
 夢中になって吐く連続した言葉が、フランス語のイントネーションのなかでとても愉快に響く。

 ”ドードー・ママローサ”。正確には、マイケル”ドードー”ママローサだが、1925年ピッツバーグで生まれる。彼の”ドードー”は大きな頭と短い体のポルトガル語の「のろま」という意味だという説がある。
 それで”ブルトドー”の話をしたのだ。何となく語感の似通った綴りで、イメージも相似しているから。

 僕は今「本当に好きな10枚」のレコードを選ぼうと思っている。最初は50枚ほどを選び、その中からどうしてもはずせない10枚を厳選してみたいと思っている。色んなコンディションを考えるとこれはそうとう根気のいる作業になりそうだが、あのブルトドーのブリキ缶に入った宝物のような10枚が選んでみたくなった。それには、ブルトドーのようなせつない記憶が伴うかどうかはわからないが、何かしらのエピソードを書き添えて記憶に仕舞い込みたいと思っている。

 そんなことでまず暗証番号1は、ドードー・ママローサのDODO'S BACK。
 50枚に絞る作業では間違いなく残るだろうし、多分最後の10枚にも残したい一枚だろう。

 これをかけようとする期待感は、どこにあるのか。
まず、毛先の長くも短くもない派手さのない落ち着いた雰囲気の絨毯が目の前に敷き詰められていて、その毛先の微妙な深さを味わいながら描かれている紋様を辿っている。
 僕はとても心地よくそこに横になり、少し湿り気のある哀感を噛みしめて、どちらかと言えば平坦な起伏のない色調にもかかわらず愛着が温存されているのを感じている。
 平坦で起伏がないと言ったが、タッチは決して平板ではなく、かといって円やかさが勝っているわけではない叩きつけるような連打だ。強打の連続は時として平坦にさえ思えるものだが、その印象の逆に躍動感があり、はたまた優雅に笑い転げる貴婦人のようなタッチのアクセントが挟み込まれるといった、バド・パウエル以降のオーソドックスさが感じられる。

 愛着を得るに充分なMELLOW MOOD。出だしが心を掬わなければ愛着には結びつかなかったかも知れない。
 これはその意味でこの出だしは充分な出来映えだ。
 聴くほどに何かの匂いの染みついた懐かしい肌触りのタオルケットか毛布のようであるから。
 金文字で記された背表紙が並ぶ古ぼけた棚を飽きずに眺めているような時間であるから。
 銀縁のあしらったティーカップから、レモンティーの香りと湯気が立ち上がっているような時の流れがあるから。
 とはいえ、やはりブルトドーのブリキ缶につまった宝物への愛着に勝る表現はないようだ。
 まぬけでのろまなブルトドー少年が、アパートの壁のなかに隠したあのブリキ缶こそ、”ドードー”のDODO'S BACK !だ。
 
 ちなみにこの映画の主演アメリ役は、オドレイ・トトゥだった。



  
    


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