バイン王都。国の中心にして、商業もそこそこ盛んな大きい町だ。領地の大体中心にあり、周りはほとんどが平原であ
る。もしも大軍がこの王都に攻めてきても、おそらくは早めに発見できるだろう。そういう意味ではなかなかいい位置とい えるが、西の方角のちょっとした岩場以外が全て平原であるために包囲される可能性も高い。…その意味ではなかなか 危険といえなくもないが、この町に住む人間はそんなことはまったく考えていないようだ。 妙に不安がられない分、城下を警戒する側の人間もやりやすいといえばやりやすい。
王城に続く大きい道がある。他の道は網目のように入り組んで、石で整備されているため綺麗だ。道の両側には行商
の姿もあり、にぎわっている。店で談笑したり、歩きながら周囲を物色(悪い意味ではない)していたりしている人がい て、それぞれが思い思いに過ごしている。 建物も石で出来ている物が多い。だいたいは白い石で出来ているために昼間はどこを見ても眩しいので目がチカチカ
する。慣れてしまえばどうと言うこともないが、レイチェルには少しきついようだ。 「フェイさ〜ん…、目が、目がチカチカしますぅ…」
レイチェルはふらふらと歩きながらフェイをうつろな視線で捉える。
「しかたないな…城に連れて行…」
そこでフェイはハッとした。いくら知り合いとはいえ城の関係者ではない者を長い間城に置いておけるだろうか。大体、
一兵士にそこまでの権力はない。 (さて…、どうしようか…。うーん…、まぁ、考えても仕方ないか。世話役としていてもらうとかでいいかな…)
だがフェイの場合、そうでもないのだ。
「フェイしゃぁ〜ん…」
レイチェルはついにふらりとよろけた。フェイは倒れないように抱き留めると器用に背中に回しておぶさる形になる。一
連の動作は、フェイの長年の経験の賜物だ。 (何だ結構軽いな…ん?これは…って、いかんいかん!)
フェイはぐったりとしたレイチェルをおぶさって、人の往来の激しい大通りを歩いていく。
二十分近く歩いただろうか。そこでようやく城へたどり着いた。もちろん城も外壁は石で出来ているためまぶしいほどに
白い。が、さすがに中はそうではないので安心だ。 まず目指すは医務室。
「おっ、フェイ隊長。今日は女の子連れですか?」
だが、そこに行くまでにはいろいろな障害が待ち受ける。それの一、門番だ。
「ま、そんなところだよ。門、あけてくれるかな?気を失ってるんだ」
フェイは上を向いて話している。門番は門の上にある物見やぐらのような場所にいるためだ。まあ本当に『一応』なの
だが、王城に入る人間をチェックしている。 「ハッ!お待たせして申し訳ありません!」
門番はやぐらの上でびしっと直立…したと思う。正直、角度がついているためにそんなことをされても見えない。
「そんなに固まらないでいいよ」
フェイは上を見たまま言った。
「門番ですから…」
ゴゴゴゴゴ、とものすごい音を立てて門が開かれた。木製の門は金属の鎖によって引っ張られ、それによって動いてい
るらしいが、どういう仕掛けになっているかはよくわからない。 もしかしたら魔法かも、とフェイはひそかに思っていた。
フェイはにこっと笑って門を通っていく。少し歩くと大きな噴水が両側にあり、さらにもう少し進むと城の入り口にようやく
たどり着く。 「フェイ!」
城の内部に入った時、フェイは不意に呼び止められた。声のした方向へ向き直る。さすがに少し腕も疲れてきたが、
無視するのもなんなので、きちんと返事をした。もちろん声で相手はわかっていたが。 「久しぶりだな、ナード」
フェイは微笑んでナードと呼ばれた青年のほうを見た。
「今着いたばかりか。今日は女連れか?珍しいな」
彼の名はナード。本名ナード・クロックル、フェイと同じく十九才で、同期ではないのだが、昔に同じ所属であったことか
ら、同い年ということもあってフェイにとってのはじめての友達だった。 実はフェイ、城にいる期間が結構長い。このナードも同じである。
所属は違うが、今でも親友として付き合っていて、この二人は本当に仲がいい。
「おいおい、勘弁してくれよ…そんなんじゃないって」
手を使えない分フェイは肩をすくませて表現した。
「ハハッ!判ってるよ!お前のことは判ってるつもりさ」
けらけらと大口を開けてナードは笑った。訓練の途中なのか、頭につけている兜がからからと鳴る。
「悪いな、腕もさすがに疲れてきたんだ。俺は医務室へ行くよ」
(気は進まないけど…)
「…了解だ、二十七番小隊隊長殿」
ナードは手を額に当てて指を立てた。
「ふふ…、じゃあな、十五番小隊隊員君」
そう言ってナードを背にフェイは医務室へと急いだ。
「あ…」
「気が付いた?まぁ、この国に最初に来た人はこうなっちゃうんだけどね…」
レイチェルはベッドに寝かされていた。側ではフェイが椅子に座ってレイに優しい表情で話しかけている。レイチェルの
おでこには濡れたタオルも置かれている…もちろんフェイがやったものだ。 「看病…してくれたんですか…」
「ま、そんな大層なもんじゃないけどね…」
レイチェルはおでこに置いてあるタオルを手で枕元にどけて、半身を起こす。
「もう動ける?」
フェイはレイチェルの体を心配して手でサポートする。頼りなげだが、もう大丈夫のようだった。
「ありがとうございます…、もう大丈夫です」
レイチェルは静かに掛け布団を静かに足元までどかしてくるりと直角にまわってすっくと立ち上がる。そして掛け布団を
きちんと元のように直した。 (器用だな…しかも早い…)
「もう、大丈夫だね」
そばの椅子に腰掛けていたフェイもゆっくりと立ち上がり、レイチェルのほうを見る。
「フェイさん…優しいんですね…」
「いや、そんな…」
そこで医務室のドアが開く音が豪快に響いた。木のドアは悲鳴を上げたが、もちろん彼女の行動をとめることなど出来
はしなかった。そして同時に、声も響いた。響く、という表現が本当にぴったりな。 「誰かいるのかー?ん?」
金色のまとめられた髪を振り乱し、グラマラスな女性が部屋に入ってきた。王国の制服もラフに着こなしていて、かなり
色っぽい。他の女性兵士とは明らかに一線を画している。 「おっ?フェイじゃないかぁ〜。今帰ってきたのかい?」
語尾にハートでもついているようなしゃべり方は、聞き間違うはずもない。しゃべり方が微妙に男っぽいのも、もちろん
のこと。 「はい。…じゃなくて、なんでいないんですか?それで…」
「なに?私に気でもあるのか〜?」
(もう…話を最期まで聞かない人なんだからこの人は…。はぁ、やっかいだ…、まぁ、根はいい人なんだけど…)
フェイは先ほどの続きの言葉をつなげようとしたが、レイチェルがそれをさえぎった。
「あの…私が…」
レイは申し訳なさそうに口をひらく。しかし彼女はそれすらも最期まで聞くことはしない。自称、聞き上手だそうだが、ど
こまで本当なのかわかったものではない。というか、完全に嘘だ。フェイの観察眼が、いや、フェイのものでなくても―― そう告げていた。 暴走するとまさにマシンガントーク。相槌も打たせてはくれない。
「私のフェイが他の女と…?私だけじゃ満足できないのね?しょうがない子なんだから…」
私の、という部分をどうしても否定したかったが、それはやめておいた。のどまででかかった言葉を引っ込め、別の言
葉を無理やり口から吐き出そうとする。聞いてもらえるかは別としても。 レイチェルは言葉を失っている。無理もないだろう、最初のこの人に会う人は大体こうなる。
「はぁ…、いい加減にして下さいよ…俺は行きますからね!レイ、行こうか」
レイチェルは「は、はい…」と、少し戸惑っていたが、フェイに促されるままについていった。
「いっけずぅ〜」
これは無視。
「あ、そうそう、ベッドお借りしましたよ。どうもありがとうございました…クライア医務室長」
クライアと呼ばれた女性は穏やかに笑い、こう返した。
「あんたのその真面目なとこ、嫌いじゃないよ。いつでも来なさい、手厚く看護してあげるわ」
そしてウィンク。
「はぁ…、いつでも来ますよ」
フェイは横目に彼女を見て言い、そして去っていった。
廊下に出て、フェイはレイチェルに話しかける。
「ゴメンね…。あの人、いつもこんな調子なんだ…」
レイチェルは苦笑いして答えた。
「楽しい方ですね」
(はは…レイの方がよっぽど優しいよ…)
「あ、そうそう…ちょっと頼みたいことがあるんだけど、さ」
レイはきょとんとした表情でフェイを見て、次の言葉を待っている。肯定とも否定とも取れない表情だ。だが、事実聞い
てくれなきゃ結構困る。 「ここにいる間はさ、ちょっと俺の隊の世話役になってくれないかな」
フェイはレイチェルを見据えて言った。
「いいですよ?みなさんのお役に立てるなら…。でも、何をするんですか?」
レイの答えは、意外に早くて、簡単なものだった。フェイは少し驚いたが、こちらとしてはなんら問題はない。
「まぁ、やってる内にわかるよ。まあ、特に何も無いと思うけどね。みんなに紹介するから、とりあえず部屋に行こうか」
コクリとうなずき、レイはフェイに従って歩く。
城の構造は、大きく分けて三つの建物から成る。メインの大きな建物は作戦会議室(全小隊、全大隊)と、王族の部屋
…等がある。医務室もここだ。門から入って右側の建物、ここは兵士達の生活の場になっている。と言っても全員ではな く、希望の兵士だけが入っている。フェイもその一人だ。門から入って左側の建物は、主に訓練場以外はフェイも利用し たことはないが、どうやら特務の兵士達の詰め所があるらしい。ちなみにフェイは特務兵士ではないからよくは知らされ ていない。 医務室は一階にあり、フェイのいる隊の詰め所(作戦会議室?)はその上にある。階段も近くにあるのですぐだ。ただ
し、入り口からは結構遠いのが難だが。 人が横に五人くらい並んでもまだあまりあるくらいの幅の通路に、赤い絨毯が敷かれている。壁は少し肌色がかった
色である。掃除が行き届いていて綺麗だ。…誰がやっているのかは、わからない。 その通路の一角に、その部屋はあった。ドアには『第二十七番小隊作戦室』と、そう書かれていて、しっかりと閉まって
いる。そのドアを見てレイチェルが声を上げた。 「本当に兵士さんなんですねー…」
間抜けとも取れる発言が、レイから発せられるとそうは聞こえない。
「レイも今日から兵士みたいなものさ。しっかりね!」
「き、緊張させないでくださぁい…」
フェイは勢い良くドアを開けた。中にはすでに何人かの隊員がいて、椅子に座っている。フェイの姿を確認した隊員の
一人が声を高くして挨拶をした。 「隊長!今お戻りになったんですか!おはようございます!」
若い(そう言ってもフェイと同じくらいの)隊員は、大きく頭を下げる。茶色の髪がふわりと揺れた。
「バイパー…、とりあえず座れ。ちょっと紹介したい人がいるんだ」
フェイはそう言いながらも穏やかに微笑んだ。
「はい」
そこで他の隊員もそれぞれフェイに気付き、そちらへ向き直った。そしてそれぞれが口を開く。
「フェイ隊長!戻ったんですか!」
右の奥のほうに座る少年…いや、子供と言ったほうが正しい、その少年が言う。フェイと同じ青い髪と、あどけなさしか
ない顔が特徴的だが、この部屋にはまるっきり合っていない。 「遠路はるばる、ご苦労さん…」
今度は左の一番奥で腕を組みながらいすを傾けている男が口を開いた。この中では比較的年をとっている感じだが、
まるでそんなことは感じさせない。 「ずいぶんぶりだなぁ、隊長?」
荒々しい口ぶりと共に青年は手を挙げてフェイに言った。フェイに負けず劣らずのツンツン頭がいやでも眼を引く。怖
いイメージだが、その砕けた口調はなかなか親しみやすい。もちろん、慣れるのに時間はかかるが。 「そちらは誰です?」
まだ幼さが残るものの、整った顔立ちの少年が言った。先ほどの少年よりは年が上のようだが、それでも若い。
見ればわかるが、全部で五人いるようだ。フェイはさっきの言葉を繰り返す。
「紹介したい人がいるんだ。みんな、話聞いてくれるかな」
ニコニコと笑いながらフェイは部屋を隅まで見渡した。
「了解!」
五人同時。
(チームワークは抜群だな…いつ見ても…)
フェイはさっきから後ろでもじもじしているレイチェルを肩に手を置いて隣に招く。レイチェルは戸惑いながらもフェイの
手に従って歩いて、みんなの前に立った。 「彼女はレイチェル。今日からみんなの世話役になってくれる…仲良くしてやってね」
フェイはなるべくレイチェルに緊張させないように話したが、どうやらそんな必要はなかったようだ。
「あ、あの…何かと迷惑をかけることもあるでしょうが…、どうぞ、よろしくお願いします…」
レイチェルはぺこりと頭を下げて挨拶する。フェイのおかげではないだろうが、緊張は大分ほぐれてきたようであった。
それを見たみんなもつられて挨拶する。 「俺はクリューガーだ。よろしく!」
まず挨拶を決めたのは、フェイとは一歳(上)違いのクリューガー。槍の名手で、槍を使わせると右に出る者はない。言
葉が多少荒っぽくて、性格も同様に荒っぽいが、根にあるのはたぎる熱情…だと、フェイは思っている。 趣味は特訓…被害に遭う(相手にされる)のは日によって違うが、結構みんな暇なので良くつき合わされている。
「隊長が直々に連れてきた人かぁ…。僕はバイパー、どうぞお見知り置きを」
次はバイパー。年は二十四、剣の腕は普通だが二刀流で、なかなかの使い手だそうだ。クリューガーと共によく訓練
場に出入りしているらしく、剣術の上達は早い。まぁ、この隊にいる人間は大体暇をもてあましているせいもあるが、進 んでクリューガーと共に訓練場に出入りしている人物である。 「俺と同じくらいの年ですよね?よろしく!」
彼はティンガース。年は十六で、フェイが直々に兵士にスカウトした人物だ。正義感あふれ、努力家。スカウトしてきた
ときとは比べ物にならないほどに戦闘の技術が向上している。次期隊長候補だとフェイは思っているが、フェイが言うこ とでもないのだろうがまだ若い。 そんなことを知ってか知らないのか、日々鍛錬に励んでいる。
「これでまたこの隊に華が添えられると言うわけだな…。どうぞよろしく。俺はロメオ。しがない老兵士さ」
しがない…じゃなくて、その老兵士はロメオ。年は四十二。ずいぶんこの国の兵士として勤めていて、小隊の隊長であ
ったこともあったらしい人物だ。フェイとしては頼りになる先輩だが、実は城にいる期間はフェイとあまり変わらないらし い。…と言ってもフェイもかなりいる期間が長いのだが。 昔は地方で兵士をやっていたそうだが…詳しいことはフェイはわからない。
「僕はロックと言います。どうか仲良くして下さいね」
彼はロック・シーナゲル。年はまだ若く、十だ。二年くらい前にフェイが連れてきた男の子だ。まだ若輩(フェイもだが)
だが、素質は十二分にあるだろうし、もう今の時点で自分なんかは越えられている、とフェイは思っている。それはティン ガースに対しても同じだ。 かなりの人材を拾った、とフェイ自身絶賛しているくらいである。
「みんな、結構いい奴だろ?」
「はい。これならすぐに慣れそうです」
レイチェルはニコッ、と笑って胸の前で両こぶしを握り締めた。もう緊張はなく、期待しか胸にない、といわんばかりに
はじける笑顔だった。 (細かいことは気にしない性格なんだな…)
「まぁ、大体こんな感じのメンバーだよ、いつも。あと一人、マネージャー役の女の人がいて…後は、大体が外にいるね」
「そうなんですか〜」
レイチェルは感嘆の声を上げた。もうこの場の雰囲気になれた感じだが、相変わらずフェイの度肝を抜いてくれる。
「ったく、どっかの世話係とは違っておとなしそうで良かったよ」
ポツリと声が言った。
「バイパー…、それは…」
バイパーだ。フェイはあわててその言葉をさえぎろうとする。しかし……、もう遅かったようだ。
すると突然、ドアの向こうからものすごい殺気が溢れてくる。いや、もちろん予想は出来ていたことだったのだが、なん
とか避けたい事態だった。 「こ、 このプレッシャー…」
フェイは縮み上がった。
ドアが悲鳴を上げながら開かれる。そこに立っていたのはすらりと背の高い女性だった。さらりと伸びるきれいな金髪
と、それに見合った均整の取れた顔立ち…だが、その眼には怒りが溢れている。いや、眼だけではない。 「私は…、世話係を好きでやってるわけじゃないのよ…。何度言ったら判るのかしら?」
澄んだ瞳は、バイパーを鋭くにらみつけている。大型動物でも尻尾を巻いて逃げ出しそうな、そんな視線だった。バイ
パーの顔にもう生気はまったく見えない。やっとのことで彼は口から言葉を締め出した。 死ぬ寸前の魚とはまさにこのような状況なのだろう。
「え、エリザ…」
ドアのところで動物以上の視線を見せている彼女の名はエリザ。年は二十歳。今まで世話係兼兵士だった女性だ。
元々は弓の名手だったそうだが、今では医療魔法の研究もしていると言う変わり種だ。性格にも少し問題はあるようだ が、隊にはなくてはならない存在である。 「エリザさん、彼女が今日から世話係になったレイチェルです…」
そう言ったのはフェイだ。彼女には何故か本能的に敬語を使ってしまう。話題をそらすために言った言葉だが、エリザ
にそんな小細工は無意味だったかもしれない、とフェイは思い直して、別の解決策を探そうと思案しようとしたが… 「た、隊長…。いらしたんですか…、って、新しい世話係?隊長!」
その必要はなかったようだ。
エリザはさっきのことなどすっかり忘れたようで、フェイの手を握り上下にブンブン振っている。
「は、はい…なにかいけないことでも?」
フェイでもさすがに女性には弱い。
「違います違います!いいんですよ!ありがとうございます!これで片方に専念できます!私のこと考えてくれてたんで
すね!感激です!…どっかのバカと違って」 (覚えていたか…さすが…。ってなにがさすがなんだ?ま、怒りは収まったようで、何より)
「しかし、しばらくの間は教育係として兼任していただくことになります。よろしいですか?」
エリザはフェイのことをにやりと悪戯っぽく笑って見つめる。
フェイは心臓が飛び出すかと思った。怒りの矛先がこっちに向いたら…怖い。
「だ・か・らぁ〜敬語じゃなくていいって言ってるじゃないですかー!はい!では、しばらくは教育係として兼任させていた
だきます!ではッ!」 そう言って彼女はきびすを返す。フェイは心底ほっとしながら彼女の背中に向かって言った。
「また二十六番小隊?熱心です…いや、熱心だね」
「今にマスターして見せますよ!」
それを最期に彼女は部屋を出ていった。一体彼女は何をしにここへ来たのだろうか。その真意は誰も知ることは出来
ない。なんにせよ、事が起きなくてよかった。 「一応、兵士長にお伺いを立てないといけないから、行って来るよ」
誰に言うでもなく、フェイは部屋全体に向かって言った。
「上司の顔色伺うのも大変だろ?」
部屋全体の返答の代表として、ロメオが口を開いて答える。皮肉、というより軽いヤジだ。この二人、戦死長とロメオは
過去に何らかの関係があったらしい、というわけで今でも結構仲がよく、この隊もいろいろとその関係で目にかけてもら っている。 「きつい事いいますね…」
こうしてフェイも部屋を後にした。
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