AWKWARD ARCADE

第八話 城下治安維持計画! 1





第八話 城下治安維持計画!


 朝、フェイはゆっくりと体を起こした。痛みはまだ残っているが、動くのには問題ない。傷はそこまで印刻になるほど深くはなかったために今ではほとんど問題なく動ける。夜遅くまでレイチェルが看病してくれたおかげだろうか。傷口はとりあえず大地属性の魔法《引き合う生命》(ソーイング・アップ)でふさがっている。血が足りないおかげで体力がまだあまり回復していなかったのでまだ完全とは言えない。

「あ〜…体が思うように動かないなあ…」

 フェイはソファから身を起こして、掛けてあった毛布をはぎながら腕をぐるぐると回してみた感想を誰に言うでもなく述べてみる。もちろん、誰に言ったわけでもないのだから返答が帰ってくるわけもないが…

「私のせいか…どれ、見せてみな?」

 予想と反し、クリエスがちょうど起きてきていた。わざとかどうかわからないがフェイに気配は感じられなかった。フェイは手で軽く頭を小突く。

 レイチェルのためにフェイが少ない給料を切り崩して買った服(もちろんレイチェルは遠慮していたが、さすがにそうもいくまい)の中のひとつを着ている。寝るときに着るための薄いシャツと、短いズボン姿だ。もともとミニスカートをはいていたクリエスだが、これはこれで似合う。

 クリエスはフェイの返答などは待たずにフェイの体をソファにうつ伏せに寝かしつけた。フェイもなすがまま、抵抗などはせずに滑らかにその体制へと移行する。

 クリエスはフェイの上に馬のりする形になった。腰の辺りに柔らかい感触が走る。

「ううっ!?」

 そして次の瞬間、背中に二つの強い圧力。そしてそれは背中を一点一点、どんどん突いていく。

「どう?効くでしょ?」

「ああ!か、かなり…ね」

 とても痛いが、なんだか効いているような気がする。血行…か何かよくわからないがとにかく健康にいいような感じがする。

(む、昔だったかいつだったかに…クライアさんにやってもらったときみたいだ!痛い!)

「体の動きを滑らかにするマッサージさ…人間に効くかはわからないけどね!」
「うお…く!?」

 それを考えてもかなり痛い。本当に効いているかどうかは別として、フェイはクリエスの行動に心の中で感謝していた。

 朝のゆったりとした時間の中に、フェイのうめき声が延々と続く。




「だめだよクリエスちゃん…まだあんまり回復してないんだから!」

 今はテーブルを囲んで、三人で食事を取っている。レイチェルが言っているのは朝のクリエスのマッサージのことだ。あの後結局レイチェルが目を覚ましてその光景を見るまでそれは続けられていた。レイチェルから見ればクリエスが一方的にフェイをいたぶっているようにしか見えなかったに違いない。

 もちろんフェイはちゃんとクリエスのことをかばったわけだが…それで納得するようなレイチェルではない。どこか頑固なところあるんだよなあ…とフェイはそれ以上の反論をやめた。

「でも、結構調子は戻ったよ…さすがに昨日の今日じゃ、回復しきれはしないさ。
 …ここまで回復したのはレイが必死に介抱してくれたのと…クリエスのさっきのあれのおかげだよ」

「減り切った血液の量を補うのはさすがの私にも出来ないからね。あれくらいしか出来なかったけど…」

「いや、十分。体さえ動ければ城には着けるから…」

 それを聞いたレイチェルは突然立ち上がる。着けっぱなしのエプロンのすそが少しだけテーブルの上に顔をのぞかせ、そしてすぐにひらりと落ちた。

「ど、どうした…?」

 相変わらずレイチェルの行動に驚いているフェイは、たじろぎながらもそう聞く。野菜の刺さったフォークが口の手前で止まった。

「し、城に着くって…行くつもりですか!?」

「そりゃあね…、一応兵士だから」

 クリエスは座って今日の朝食の一品にスプーンを通して口に運びながらこくこくと頷いた。ま、当然だな…と言っているのだろう。それに対しての関心はまったくないようだった。

「そんな…無茶ですよ!」

 レイチェルは引こうとしない。テーブルの上に両手をついてフェイの方をじっと見る。

「いや、しかしね…必要ないとは思うけど、隊長だしさ…行かないとさ…」

 そうは言うものの、相手が相手だけにそんな強硬な姿勢も取れない。だが、今回ばかりはフェイも負けるわけにはいかないのだ。

「でも…!」

 そこで助け舟が出た。

「本人がそう言うんだから…そうさせてあげたら?」

 レイチェルは首だけを動かしてクリエスのほうをキッと睨んだ。一瞬だが、クリエスの顔をたじろぐという一面が覆ったが、もしかしたら気のせいかもしれない。少なくとも食事の手は一瞬止まったように見えた。

「こうなってるのは…誰のせいかなあ?」

 クリエスは「うっ」と一瞬もらしたが、それはすぐに持ち直して元の表情に戻す。どうやらさっきのは気のせいではなかったらしい。

「そんなにフェイの事が信じられないか?」

 その一言で、レイチェルは少したじろいだ。クリエスのほうに向けていた視線を一瞬だけフェイのほうに移し、そしてまたもとの位置に視線を戻す。

「こいつは私に傷を負わせたほどの奴…そうやわな奴とは思えないけど?」

(…本心だな。光栄だよクリエス…俺は君に完全に負けていたけどね…命があるだけでもありがたいって本当に)

「そう言う事。俺がやられたのはクリエスが化け物みたいな実力を持っていたからだよ」

 フェイはそこまで言うと自分の使った食器(木製)を台所までもって行き、あらかじめ張ってあった水の中に放り込んで自分でもみ洗いをし始める。

「クリエスちゃん?ちゃんとフェイさんのこと見ててあげてね?」

 レイチェルはフェイが食器を洗っているのを横目に、クリエスにフェイに聞こえない程度の声で言う。

「心配性だなあ…大丈夫だとは思うよ?あれで奴は逃げ足が速そうだから…」

 そう言うと、クリエスも台所に歩いていって食器を台所の水の中に入れていった。

「頼むね?」

 クリエスは声もなく頷く。

「レイ、君のも洗おうか〜?」

 レイチェルは呆気に取られていたが気を取り直して大きく「ありがとうございます!」と返事をしてテーブルの上の片づけをし始めた。もちろん、クリエスも手伝わされていた。












トップへ
戻る