AWKWARD ARCADE

第八話 城下治安維持計画! 4





「おはようございま――あ、あれ?」

 フェイ達三人が小隊作戦室に入るといの一番に挨拶する声がひとつ。濃い青い髪の少年、ティンガースだ。勢いよく頭を下げて挨拶を決めたはいいが、最後まで言葉を発する事が出来ずにうまく決まらなかった。

「やあ…またつれてきちゃった。座ってくれるかな?」

 フェイはいつもの笑顔でティンガースの肩に手を置いてから、優しく押してティンガースの向く方向を転換させる。そしてフェイから背を向けるようにすると、今度は背中をぽんと押した。

 フェイは後ろ佇むクリエスのほうを指差して、レイチェルはティンガースと同じくフェイの言葉に従って横をすり抜けて椅子に向かって歩いていく。

 レイチェルの動きで他に残っていた隊員(もちろんいつものメンバー。ロメオ、エリザ、ロック、バイパー、クリューガー、そしてティンガースの六人だ)も気がつき、それぞれがたった今入ってきた隊長…の後ろにいる新入りに視線が向けられた。

「みんな、聞いてくれ!また新入りだよ、今度は兵士だ」

 後ろをちらりと見てフェイはクリエスを横に招きよせた。クリエスは何の抵抗も反抗もすることなくその指示に従い、狭い歩幅で静々と歩み寄ってくる。…相変わらず驚かせてくれる変容ぶりであった。それでもその表情には何の感情も張り付いていない。まだ信用はしきっていないのは無理もないことだろうと、それはフェイにもわかっていた。

「…名前はクリエス。言っとくけど、この子は相当できるよ。俺もやられちゃったし…ま、仲良くしてやって下さいね?」

 フェイはにこっと笑ってクリエスのほうを振り返った。

 だが、フェイのその表情と部屋の空気はまったくの別物になっていることに本人は気付いていないようだった。

「(隊長を倒した…?)」
「(嘘だろ?フェイ隊長だって俺より強いはずだぜ…なのに…)」
「(隊長を倒すとは…やはり、あの体から出る力のようなものを感じた僕は間違ってなかったようだ)」
「(隊長を最初に倒すのは僕のはずだったのに!…くそ〜!)」
「(ふうん。強いんだ…見た目通りね。でもあの隊長が負けるなんて…何かの間違いだわ)」

 全員がざわめいている。今までこんな空気になったことはそうはなかったはずだ。それほどフェイの今言った言葉はここにいる全員の心を突き動かしたのだろう。フェイとしては軽い冗談(事実であるが)のつもりで言ったことで、予想もしていなかった。

 だが、それでもその中でただ一人だけ平静を保っている人物がいた。一番奥のいつもの席で、安っぽく出来た木の椅子を傾けて、フェイの横を薄っすらと目を開けてみている。さすがだ、とフェイは一人で感心した。

「はは…皆、そんなことは気にしないで仲良くしてあげてよ。悪い奴じゃないから…ね?」

 フェイがそう言うと、少しではあるがどよめきが収まり、隊員達は互いに顔を見合わせると「ふう」と息を吐きあってもう一度フェイの横にいる人物を眺め始める。

「よく見ると結構かわいいですね。目つきはきつそうですけど…エリザに比べれ…あ、いや…」

 バイパーが一番に口を開いたが、それは最後まで言われることもなくついえる。

(言わなきゃいいのに…)

 そう思ったが、ついつい口から出てきてしまうらしい。何度もエリザの『制裁』を受けてもなお…いや、むしろ。それに今回はクリエスの無言の気合も含まれ、小心者のバイパーにとっては相当きつい状況だったはずだ。

「確かにな。でも強いってのは信じられねェ…あの隊長よりよ」

 クリューガーはそう言いながらも体はそうは言っていなかった。口の片側は吊り上げられ、瞳の瞳孔が開き気味である。戦いたくてしょうがないのだろう…自分より、何より強い者と。その向上心には、フェイもたびたび驚かされていた。そしていつも間にか席を立ち上がってこちらに歩み寄ってきている。

「俺はクリューガーだ!強いってんなら、是非一度俺と手合わせ願うぜ」

 クリューガーはいきなり立ち止まり、クリエスに歩み寄るとすっと右手を差し出して歯を出してにこやかに笑った。クリエスはそれにつられて微笑し、自らもその手に向かって右手を差し出し、そして握り合った。

「聞いたと思いますが…」

「敬語じゃなくって良いぜ」

 コホン、クリエスは咳払いをした。

「聞いたと思うけど、私はクリエス。お手合わせならいつでも受けよう」

 二人はにやりと笑いあい、そして手を離した。

「チッ、どうやらこりゃ本物だな…」

 自分の手を見つめてクリューガーはそうつぶやきながら自分が今まで座っていた席へと戻っていった。そして自分のこぶしを強く握り、形相とも取れる表情でにやりと笑う。クリューガーの底知れぬ闘争の本能には、少し恐怖も覚えるほどだ。

 すると、今度は一斉に全員が立ち上がってクリエスの周りを囲い始め、クリエスは瞬く間に見えなくなってしまっていた。さすがのクリエスも無表情はそこまでで、額に汗などかきつつ浴びせられる質問を一つ一つ性格に受け答えしていた。
 …不思議なのはその質問投げかける側にレイチェルがいることである。

「…人気ですねえ」

「…そうだな」

 フェイのつぶやきにそばにいたロメオが口を開いて答えた。とうのクリエスはみんなの質問攻めに遭っていて、なんと律儀に受け答えしている。よくキレたりしないもんだなあ、と感心していると横にいたロメオが椅子をうならせてフェイの方へ向き直った。

「今のうちだな。隊長さんよ、報告してえ事があるんだが…」

 ロメオはフェイの前へ出て隊長席のほうを親指で指した。フェイはロメオの表情が変わったのを微妙な顔の筋肉の動きを見て察し、フェイも緩めていた表情を少し引き締めた。

(ロメオさんが…一体なんだろう…)

 フェイは机の上に無造作に置かれた紙類を少してでどけてから隊長席に座った。







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