AWKWARD ARCADE

第八話 城下治安維持計画! 6





 日が暮れてしばらく、夕暮れの名残も完全に西の空へと消え去った頃、フェイ達第二十七番小隊の面々はいっせいに城下へと繰り出した。作戦などは特に決めていなかったが、とりあえずバーを全て固めると言うほとんど張り込みのような形にする予定だった。小一時間くらい固めて何もなければ城に戻る。…判断は個々で。
 かなり適当ではあったが、人数が増えた分それだけ効率は上がるはずだ。

「よーし、じゃあ散ろうか」

 間の抜けた声でフェイは言う。まるでやる気の無いようにも感じるが、一応みんなに緊張を与えまいと隊長自ら余裕を醸し出しているというだけで、決してそういうことは無い。

「お前…いつもこうなのか?」

 いつもなら誰もこの態度に反論はしないのだが、今日は違った。新入りだ。ぎざぎざの攻撃的な髪が特徴的な少女…クリエス。

「そ、そうだけど…」

 特に強く言い返す言葉もなく、フェイはたじろぎながら一応相槌を打つ。まさかこんな事で文句を言われるとはさすがのフェイの予測の範囲には入っていなかった。さっきまで感じないようにしていた焦りがフェイの心を駆け巡る。
フェイが返答に困っていると意外な人物から助け舟が出る。

「クリエス…オメーは隊長の事を知らねえからそんな事が言えんだよ」

 クリューガーだった。クリエスの事を遠くから少しきつめの視線で見つめながら、斜めに構えている。フェイより何より驚いたのは隊の面々だった。まさかクリューガーがそんな事を言うとは思ってもみなかったのである。まさかあの、協調性のかけらもないといわれたクリューガーが。

「なるほど…。わかった、そのことについては触れないようにするよ」

 クリエスは周りの空気などまったく気にも留めない様子でそういい、肩を軽くすくめて見せた。クリューガーは本気で怒っている様子ではなかったようで、それ以上言及しようとはしない。

「じゃあ、適当に散ろう。この城下にはみんな詳しいはずだから…」

「襲われやすいのは人のいないところってわけじゃないが、さすがに人が多いところでもなさそうだぜ。だから、このメインの通りの周辺はおそらく襲われる心配はないと思う」

 ロメオが割って補足に入り、その説明にフェイは少し驚いた。

「まだ二件目だって言うのにそこまで絞って平気でしょうか?」

 フェイが口を開こうとしたら今度はティンガースが割ってはいる。フェイは音をわざと立てて息を吐いた。

「俺…隊長なんだけどなあ」

 そんな声は聞いていないといわんばかりに感情をこめずにロメオは口を開いた。身振りまでわざわざ交えて。

(…酷いなあ)

「大丈夫じゃないとは言い切れないが、人数が人数だし、メインのとおりならおそらく対処も早いだろう…誰かが顔でも見てくれりゃ、それでもうけもんだと思うぜ」

 ティンガースはぴょんと跳ねている自身のくせっ毛をいじりながら呻く。不服がある様子だ。

「被害を未然に防ぐのはまだ今の段階では無理そうだねえ…」

 フェイはフォローを入れるかのように言った。全員がそれに答えてうなずき、ティンガースも遅れてうなずく。眉間にしわがよっているのはいつものことだ…やはり納得していないらしい。

「とりあえず、散ろう。判断は個々、後で必ず報告をすること!」

「了解!」

 その号令で一斉に第二十七番小隊は駆け出した。




 フェイは図らずもレイチェルと共に城下を歩いていた。メインの通りではないとこの時間、以外に人がいない。明かりは街頭の日が多少ある程度でつきの明かりも建物に邪魔をされて入ってこない場所だ。ここはフェイ自慢の警戒ポイントに指定されている場所で、酒場こそないものの警戒のために歩かなければならない場所であった。
 地面は砂利で、メインの通りのように白い石で固められているわけではない。見える色は空の深い青、ほかはすべて黒か、火の周りのわずかな色だけだった。もちろんその場所は白色である。

「こ、怖い場所ですね…」

 レイチェルはフェイの一歩後ろを歩き、フェイは当然レイチェルの一歩前を歩いていた。さすがのフェイもここを歩くときは全身に神経を集中させている。いつもとは違い今日はレイチェルがいるのでなおさらだ。
 フェイはレイチェルの声ではっとした。

「ご、ごめん。何?」

 集中しすぎてレイチェルの声すら聞き逃していたのである。一番重要なところに気が回っていなかったとフェイは冷や汗をかいた。もしレイチェルに何かあっても…気が付かなかっただろう。

「ここ…結構怖い場所ですね」

 言われて、フェイは周りをもう一度見渡してからもう一度レイチェルのほうを見た。

「そうだね。暗いし…怖い?」

「す、少し…」

 レイチェルは一歩フェイに近づいて申し訳なさそうに頭を下げた。だが怖がるのも無理はないとフェイは思う。この場所は誰もいないし、建物があるとはいえその中からはすでに人の気配はあるものの眠っていてないも同然であるからだ。
 よりによってレイチェルがいるときに来てもしょうがなかったかな、とフェイは思った。

「大丈夫、俺がついてるだろ?ほら」

 フェイは手を差し出した。

「フェイさん…」

「わわわっ!」

 レイチェルはフェイの手をつかむことはせず、腕にしがみついた。レイチェルの体の感触がフェイの腕全体から伝わってくる。フェイは思わず声を上げた。

(こんなのみんなに知れたら袋叩きかな…)

 フェイはレイチェルを連れ、その場所をしっかりと見回ってから次の警戒ポイントへと向かった。



 そしてすべてを回り終えた後に、さらにもう一回酒場の場所だけを回ってからフェイたちはとりあえず城に戻ることにした。





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