秋葉原観光案内 第19話


シンシア・ナルセ:
ぴく、ぴくく

僕のたてた僅かな音に反応してセレスの猫耳が動いた。
でも、少女の表情に変化はない。

「ふう」
僕はため息をつくとテーブルの上にミルクティーを並べた。
砂糖、ちょい多めのロイヤルミルクティー。
ちなみにセレスの好みは不明なので、とりあえず僕のと同じにしといた。
でも、どうしようかなぁ。
声かけると怒られそうな気がするんだよね。


セレス --何故か僕(というかシンシア)と瓜二つな外見を持つ論理兵器の少女-- は、「猶予がない」という言葉を発した後で黙り込んでしまった。
いや、一言だけ声を発したか。
「五月蝿い!」って。
どうやら考え事をしているみたいなんだ。
しかも、そこそこ長く。
何をしていいか解んなくなった僕が、悩み、考え込み、とりあえずお茶をいれに行って、いれ終わって、まだそのままなんだから。


状況が切迫してるのは僕にも解る。
だって銀河コラボはジェス・レーヤーの手に落ちようとしているし、乗り込んでいったお義父様達も心配だし、更には停止してしまっている銀河コラボの影響で銀河的にトラブルが発生しているはずだから。
あと、セレスが言ってた猶予がないってのが、とんでもなくまずい状況なんだって理屈抜きで実感できる。
はい、この理屈抜きでって部分が重要ですよ~。
なんせ、なぜ猶予がないかって点についてはさっぱりなのだ。
どう行動すべきか慎重に考えないとな・・・・・・あ、お茶が冷めちゃったら嫌だな・・・セレスも座って考え事すればいいのにな・・・ん?

唐突にセレスの尻尾が動いた。
だらりとたれた尻尾の先端だけが、ピクッっと。
そういえば、やたら尻尾を触りたがったお客さんがいて困ったっけなぁ。
本来体に存在しない部分の感覚なせいか、くすぐったいというか、ぞくっとするというか、とにかく不思議な感覚なんだよね。
あ、また動いた!
先端だけがピククって。

・・・・・・。

僕はしばらく考え込んだ後、そっとセレスの後ろに回りこんだ。
うん、そんな場合じゃない。それわ解ってるんだよ。うん。
・・・・・・・・・ツン
!!!
刺激に反応した尻尾がさっと遠ざかり、またゆっくり戻ってくる。
・・・・・・・・・ツツン
おおっ
・・・・・・ツツツン
おおおっ
・・・ツクツツン
おおおおっ
ギュ!
「うにゃ、、あん・・・なななに?何がおこったの???っっって、何やってんのアンタわー!!」
まずい!やっぱり怒った!!
「え、あーと、お茶!」
「お茶ぁ??」
紅茶に興味を引かれたのか、幸いなことにセレスはそのまま素直に着席。
カップを手に取り、少し口をつけて顔をしかめた。
「先に冷まさないと!」
「う・・・先に言いなさいよ!」
今度は過剰なまでにフーフーしている。
ええと、なんか、無駄に可愛いいんですけど!?
「まったく、アンタには緊張感ってもんがないの?」
不満げにセレスが愚痴った。
緊張感・・・緊張感かぁ。
そんなものは随分昔に捨ててきたなぁ。
というか、どこで落としちゃったんだろう?
「何遠い目してんのよ。」
「人生色々だよねぇ。」
「意味解んないからっ!・・・ああ、もうなんでコンナノがあたしなのよ~」
コンナノ呼ばわりデスカ?あと、まだ僕とセレスが同一人物なんて無茶な設定を押し通す気まんまんらしい。
しばらく唸ってたセレスは、観念したかのようにため息をつくと、紅茶を飲み始めた。
どこか興味深げに。
恐る恐る、試すように。
でもそこはかとなく、幸せそうに。
しっかし、これはホントに
「何見てるのよ」
「え?いや、可愛いなって。」
「!・・・!!>!!!」
盛大に紅茶をふきだしたセレスは、激しく咳き込んだ。よほど苦しいのか顔を真っ赤にしている。
「だ、大丈夫?」
しばらくして落ち着いたセレスが、恨めしげに自らの猫耳を触った。
その仕草が両手で頭をかかえている感じで、これまた無駄にかわいい。
うーむ、どうにも警戒が緩むんだよなぁ。
セレスには散々酷い目にあわされているのに。
「イヤガラセ?」
「へ?」
セレスは意外な単語を口にした。
どういう意味だろう?
「やっぱり、イヤガラセ、なのね?」
「え?いや、」
涙目のセレスがにじり寄ってくる。ええと、これって、逃げるべき!?
「解ってやってるんでしょ!!これも猫耳も何もかもっ!!!」
「うわ、尻尾つかまないで!って、ちょ、ヘンなとこ・・・」
マウントポジションとられた!!
なんだかまずい!!
「そそそうだ!今は緊急事態だからこんなことしてる場合じゃあ、」
「あ、あ、アンタが言うなあああーーーーっっっ!!!」
怒気をはらんだ大音響が我が家の窓を揺らした。


(時間は少し戻る)
金子裕也:
突入を前にして部屋は静まりかえっていた。
子供探偵とアンドロイドは最初からほとんど無言だし、ロアス教授は作業に没頭している。
アス・ナルセすらも深刻な顔で黙り込み、俺は軽い息苦しさを自覚した。
シンシアがいたら色々まぜっかえしている場面だな、確実に。
ふと、そんなことを連想する。
あの化け猫もどきはTPOってやつをわきまえないからな。
あるいは、そーゆー概念を敵視しているというか・・・俺は戦闘をしていて何もかも心底馬鹿馬鹿しく思ったのはアレが初めてだ。
そうだよ。
だから、後から現れた相手にあっさりと捕まっちまったんだ。
正直、二度と敵にしたくない相手だ。
不条理な意味で!
なんだか味方にもしたくない気がしてきたな。

「ほう」
ロアス教授が険しい顔で、しかし興味深げな声を発した。
「・・・なにかあったんですか?」
数秒遅れでアス・ナルセが反応する。
「確かにこれなら論理兵器と呼べるかもしれん。」
「そういえば、論理兵器って何なんだよ?核爆弾みたいなもんか?」
沈黙。
・・・俺の被害妄想かもしれないが、なんだか「やれやれ」って感じの雰囲気があたりにただよった。
地球人なんだからしょうがないだろうが!!
「記録・・・いや、童話では因果を書き換える兵器、と伝えられている。なんでも惑星系の中から1つの惑星だけを消し飛ばしたそうだ。他の惑星どころか消滅した惑星の衛星にすら影響なく、な。」
ロアス教授が俺の問いに答える。
よく解らないが、そんなものがあったら不可能なんてなくなるんじゃないのか??いや、しっかし・・・
「どんなにいい技術があっても、結局は兵器にしちまうんだな。」
「それは良い疑問だぞ。」
「良い疑問?」
「ま、急ぐ必要があるようだ。こんなもの気軽に使っていいわけがない。」
その幼い容姿には似合わない、どこか「よっこらしょ」と掛け声が聞こえてくる風でロアス教授が立ち上がる。
そしてあっさりとこんなことを宣言してくれやがった。
「猶予がなくなった。強行突破する。」


シンシア・ナルセ:
もぞもぞする感覚に身をよじりつつ僕はセレスを見上げた。
そのセレスは、仰向けに寝転がった僕のお腹の上。
その右手は僕の尾てい骨からのびる尻尾の先端を弄んでいる。

最初は悪霊ちっくだったセレスは、いまや普通の人間と変わらないように見える。
お腹には息苦しいほどにその重みが加わっているし、細いけど柔らかくて暖かい太ももの感触は確かに女の子って感じだ。
当然お子様サイズなはずなんだけど、僕もお子様サイズなわけで、結果的、体感的なスケールは・・・ううむ。
更に、僕は半裸で、セレスのスカートはめくれあがっている。
その結果、パンティに包まれているお尻の感触もダイレクトなわけで。
・・・・・・。
『ずり、ずり、ずり~』
仰向けのまま抜け出そうとしてみたけど、セレスを乗っけたまま数センチ移動しただけに終わった。
くすぐられているのは尻尾の先だけなんだけど、首の奥とか背骨の真ん中とか全身がむずがゆいようなそうでないような変な感じ。
刺激されつづけたせいで敏感になってしまったみたいだ。
「えーと、降りてくれないかな~、なんて。」
返事がない。
「うひゃう!」
脇腹を指でなぞられた僕は思わず身をすくませた。
「うん、だいたい理解したわ。」
「理解ってなに!?、そもそも、何する気、なのかな?」
「お仕置き。」
即答!
何!?
首、噛まれた!!??
「ふぁれ?ずれてた?」
ただでさえ体が火照っているのに、首筋で発せられた言葉の振動が、ちょ、ヘンなこと触!
「ちょ・・・やめ・・・ああっんんんん」
自分の口から漏れ出しそうになった思いがけない声に、僕は慌てて自らの口をふさいだ。
「こっちは当たりね。じゃ、こっちは?」
なに?なに!?
必死でもがくが、両手で自らの口を押さえてたんじゃあ抜け出せっこない。
それは解ってるんだけど、
「んんんっ・・・んくっ」
僕は口を押さえる手に更に力を込め、自らの声を封殺した。
自分の声が恥ずい。恥ずかしすぎる!!
というか、セレスってば自分が何してるか解ってるの!?
あちこち触ったりかじったり、というか急所を探り当てる精度が向上してるんですけど!!??

まずい。
本気でまずい。
なにがって、もちろん、倫理面が!!

くっなんとか抜け出ないと・・・力は互角みたいだけど、瞬間的に運動拡大を最大にすれば・・・ダメだ。密着しているその肢体は柔らかくてあったかい。この状態で無理に動けば怪我を負わせてしまいかねない。
この少女を傷つけるなんて、絶対嫌だ。
あれ?
なんでだ?
なんで傷つけるのが嫌なんだ?
「んんーーっ」
僕は自らの口を押さえたままのけぞった。
はぁ、はぁ、いつのまにか息が荒くなってる。
もう頭グルグル。
なんとか止めさせないと。
そ、そうだ。
セレスも尻尾をくすぐったがってたし、姿形は同じわけだから、僕が感じた部分を攻めれば・・・って、ダメー!!もっとダメ!!つーか、一発で発禁処分!!!
「・・・・・・!!」
断続的かつ正確に繰り返されるあちこちからの刺激に、僕の思考は再び乱される。

だ、だめだ。
何をやっても勝てる気がしない。

僕が妙な方向に絶望しかかっていると、それを察知したかのようにセレスが声を発した。
「止めてあげても良いわよ。」
「ええっ」
「あたしの言うこと聞くならね。」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「時間切れー、再開しまーす。」
「きく!言うこときくからーー!!」
僕は少なからずショックを受けていた。
僕は愛撫を止めてほしくなかった?
こんな状況で?
それを少しでも肯定してしようような返事を、するわけにはいかなかった。


セレス・バルチモス:
やたっ!!
弱点発見!!
まあ、あたしの弱点でもあるわけだけど。

あたしはちょっと複雑な気分で、がっくりと手とひざを突くシンシアって名前のあたしを見下ろした。
どうでもいいけどさ。
解かりやすすぎない?
その絶望ポーズ。

というか、やりすぎた?
ひょっとして、ダメージ大きかったの??

「ね、大丈夫?」
思わず心配になったあたしは、恐る恐る声をかけた。
なにせ、目の前のあたしにはこれから大仕事が待っているのだ。
傷ついた顔で無言のままうなずくシンシアって名前のあたし。
それにしても、なんなんだろうなー、この罪悪感。
たくらみごとをしたヤツがいたとしても、シンシアって名前のあたしには責任ないわけだけど。
あと、変な洗脳されているってコトもなさそうなのよね。
さすがに表層部分を乗っ取られていることくらいは覚悟してたんだけど。
ええい!
「え、えーと、シンシアって呼ぶわね。仮に。」
そう言いながらちょっと近づいてみたら、シンシアは慌てたように腕をクロスさせて自らの股間をガードした。
なんなのよ、その反応!
ぐ・・・ここは我慢。
「少しは悪いと思ってるのよ。すぐにでも同化を再開してあげられたら良かったんだけど、時限ロックかけちゃったからしばらく無理なのよ。・・・記憶がバラバラな状態だとつらいでしょうけど、もうしばらく我慢して。それより、あたしだったら解るでしょ?本当にまずい状況だって。」
努めて優しく話しかけつつ距離を詰める。
「・・・出てって」
な!
「着替えるから出てって!!」
顔どころか全身を真っ赤に上気させたシンシアが叫ぶ。
バタン
背後でドアが閉まった。
逃げるように部屋から飛び出たのはあたし。
ドアを閉めたのもあたし。
「あたしってば、なんで素直に出ちゃってるのよ・・・な~んか、調子狂うのよね。」
廊下で1人、ポツリと発した言葉が行き場を失ってもやもや漂っている気がした。


あとがき
謎の声:「ずいぶん間があいたじゃない?」
でこビュー:「えーと、じゃあ今回はそうゆーことで。」
謎の声:「終わるな!」
でこビュー:「・・・・・・。」
謎の声:「それで?」
でこビュー:「・・・・・・クライマックス間近ですっかり続きが出版されない小説って結構ありますよねぇ。」
謎の声:「それって間が空く理由にはならないわよ?」
でこビュー:「いや、この間ラノベ系の本を整頓してたてそう思って。」
謎の声:「プロの場合だと売れないと続きが出版できないんでしょうし、途中で売り上げが失速したんじゃないの?」
でこビュー:「それは解んないんですけど、なんか別シリーズ書き始めちゃって読みたいシリーズの続編を全然書いてくれないんですよ。」
謎の声:「ああ、それってロッククライミングの原理よ。」
でこビュー:「えーと?」
謎の声:「ロッククライミングって両手・両足のうち3点はしっかり足場を掴みつつ、残った手足で新しい足場を探すでしょ?」
でこビュー:「なんか聞き覚えありますね、それ。」
謎の声:「いや、そーなのよ。それって落下を防ぐための鉄則でね、新たな足場が崩れたとしても他の手足がしっかりした足場を捉えてれば落下しないって論理なのよ。」
でこビュー:「・・・つまり、新しい人気シリーズをだすまでは調子のいい既存シリーズを終わらすつもりがない、と?」
謎の声:「当然よ。命がかかってるんだもの。人気シリーズを持ってれば新シリーズだって始め易いでしょ?」
でこビュー:「かかってるのは命じゃなくて生活でしょうけど・・・ヤな理由だな、それ。」
謎の声:「ま、あたしの想像なんだど。」
でこビュー:「納得しかけたじゃないですか!」
謎の声:「そう、納得できちゃうわけよ。」
でこビュー:「むう」
謎の声:「メディアミックスって定石もあるし、もはや人気シリーズの維持は作者だけの問題じゃなかったりもするわけ。それに比べたらしがらみのないアマチュア作者って気楽よ?」
でこビュー:「ところで、あとがきの内容じゃないですよね。これ。」
謎の声:「この話題ふったの誰だっけ?」
でこビュー:「えー、最近寒暖の差が大きかったり地震や・・・」
謎の声:「それも あとがき でする話題じゃないわね。」
でこビュー:「では、次作で!」
謎の声:「・・・」

(またづづいた)