相棒はつらいよ!(その2)

作・2代目福助

 

二世は、すこし落ち込んでいた。まさか、自分より、変装術が劣る二代目に騙されるとは、思ってもいなかったからだ。天然ボケが入っているとはいえ、あんな変装にだまされるとは、二世のプライドはズタズタだった。

「あの〜これ食べます?」

あのヘリの操縦席で縛り上げた福娘が、おずおずとアンパンを。二世に差し出した。二代目に預けるまでは、次世代の新鋭と、呼ばれていた福娘だったが、今では、アンパンを子供のように頬張る小娘に成り下がっていた。

「まったく、二代目は、どんな教育をしたのだ。こいつに・・・」

二世に睨みつけられて、福娘は猫に睨まれたネズミのように、二世の執務室の隅っこで、アンパンをかじりながら、小さくなっていた。そんな姿を見ながら、二世は、大きくため息をついた。

「はぁ〜〜ぁ、まったく二代目の奴は・・・」

飄々ととらえどころがなく、すぐに,ふらふらと、どこへともなくふらついて行く、相棒のことを思うと、本当にため息しか出なかった。ふと、二代目との出会いを思い出そうとすると、なぜか、思い出せなかった。というよりも、いつの間にか、自分のそばにいた感じがするのだ。

師匠より、二世襲名を、許可されたとき、奴の二代目襲名を、師匠に願い出ていた。奴も一緒に襲名させれば、いつもそばに居ると思ったからだ。だが、二代目を襲名しても、奴は、修行時代と同じく、とらえどころがなく、いつもふらっといなくなった。そう、奴は、昔からそうだったのだ。そう思い出すと、二世はなんだか可笑しくなって、笑い出してしまった。そんな二世を、福娘は、アンパンをかじりながら、不思議そうに見つめていた。

「そういえば、こいつも2代目か」

そう、この福娘も、2代目だった。初代は、超一流のサポーターだった。この二世もかなり世話になったものだった。

黙々とアンパンを食べている福娘を見ていると、二世は、ふと、落ち着いた気持ちになれた。この数日、2代目や、師匠の訪問で、疲れ切っていたココロに安らぎが生まれたというべきかも知れない。あのころの福娘にはなかったこの、人に安らぎを与える雰囲気を見つけたのは、二代目なのかもしれない。それは、この福娘の本来の魅力なのかもしれない。

「だが、あいつ。捕まえたらただじゃおかないからな!」

二世は、ふと、笑いながら、そうつぶやく自分が、おかしくなり、声を立てて笑い出してしまった。

と、その時、デスクの上の電話がけたたましく鳴った。

「はい、二世だが?どうした。なに、師匠が・・・それで、うんうん。わかった、すぐ行く。」

二世は、電話を置くと、執務室から飛び出していった。

「あ、あ、あの〜〜まってくださ〜〜い」

福娘は、食べかけのアンパンを一気に口の中に押し込むと、飛び出していった弐世のあとを追って行った。もちろん彼女には、二世のあわてぶりの原因など知るよしもなかった。二世のあとを追う福娘のその姿は、まるで、親猫のあとをあわててついて行く子猫のようだった。

二世は、中央司令室にやってくると、チーフに詰め寄った。

「いったいどうなっているんだ」

「は、はい。それがですね・・・」

まるで食いつかんばかりの二世の迫力に、あせってしまったチーフだったが、すぐに冷静さを取り戻すと、事情を報告し始めた。

「初代様をお迎えに行っていた者たちからの連絡によりますと、初代様が運転されていた車が事故に巻き込まれて、初代様は、我々の組織下にある病院に運び込まれたそうです。外傷はないのですが、事故に会われたときに頭を打たれたらしくて、まだ意識不明とのことです」

「で、命には・・・」

「その点は心配ないそうです。もうしばらくされると、意識も戻られるだろうとの報告でした」

「そうか・・・・」

二世はほっとしたような表情をすると、そばのイスにどかっと腰を下ろした。と、その時、後ろから妙な声がした。

「おも〜〜い、二世様、おもいよ〜〜」

「な、なんだ?」

二世はあわてて立ち上がると後ろを振り向いた。すると、二世が座ったイスには、アンパンの入った袋を大事そうにもって、泣きそうな顔になった福娘がいた。

「ふみ〜〜〜」

「お前なぁ、なんでこんなところにいるんだ」

「だってぇ。二世さまが、あわてて飛び出して行くのだもの、しんぱいで・・・・」

「ふぅ」

上目遣いで、二世を見上げる福娘の顔を見て、二世はため息をついた。

「俺はこれから出かけてくるから、お前はここに居ろ」

「わたしもいくぅ〜〜」

「だめだ、遊びに行くんじゃないのだから」

「わたしも初代様のお見舞いにいくぅ〜〜〜」

「だめだ」

「いくぅ〜〜、初代様のお見舞いにいくぅ〜〜エ、エ、エ」

今にも泣きそうな顔をして、二世を見る福娘に、これ以上なにも言えなくなってしまった。

「泣く子と、泣く福娘には敵わないか」

二世は、ため息をつきながら肩をすくめた。その先には、ひまわりのように明るい笑顔をしたアンパン娘。いや、福娘がいた。

そんな福娘を見ながらも、二世は、基地を飛び出して行った二代目のことが気になっていた。

「あいつめぇ、帰ってきたらお仕置きだ」

だが、二世は、これから起こる大騒動をまだ知らなかった。