福助被害者ファイルNO.3
剣崎まこと 20歳 ドーラー
ぼくの名前は、剣崎まこと。バイト料のほとんどを着ぐるみに使っていた。そして、ぼくの着ぐるみは一般的に言われる着ぐるみコスプレヤーとは違って、アニメやマンガの女性キャラなどの着ぐるみではなくて、オリジナルのマスクを使った着ぐるみだったので、ぼくを単に女装の男として阻害する連中がいた。だから、いつの頃からか、部屋の中で着ぐるみを楽しむだけになっていた。
そんなぼくだったが、会心の作品が出来たので、やはり他の人に見せたくなった。いやな出来事があったけど、ぼくは、コミケに出ることにした。新作のマスクと衣装をバックにつめて家を出た。
会場に着くとすぐに更衣室を探して、持ってきた衣装に着替えた。男としては小柄で痩せたぼくが女性キャラの着ぐるみをすると本物の女性が着ぐるみコスプレをしているように見えた。ぼくは、腰と胸にパットを付け肌色のタイツを着ると、ぼくはまるで、裸の女性のように見えた。そして持ってきた衣装を着ると、新作のマスクを被った。そこには、男のぼくの姿はなく、大きな瞳をした人形のような少女が立っていた。最近では、材料と制作方法の進歩のおかげで、昔のように頭からすっぽりと被る大きなマスクではなくて、本当の頭より少し大きなマスクを作ることができるようになっていた。
いま、ぼくが被っているマスクも、身体とのバランスが取れたものだった。だから、昔のような頭が大きい着ぐるみとは違って、等身大のリアルドールが動いているようなものだった。そのうえ小柄なぼくが女らしい仕草をしたら、女性のドーラーと思われても仕方なかった。それに、ぼくは、股間に自作のパットを当てて、あそこの膨らみを隠していたから、なおさらだろう。
なぜかぼくは、他の人のようにアニメやマンガのキャラには関心が薄かった。どちらかというと、美しい女性になりたい。というのとも違うし、特定のキャラになりたいわけでもない。そう、理想の女性像を自分で作り上げたいというのが一番近いかもしれない。だから、ぼくは特定の女性キャラのマスクを作ることはあまりなかった。
それが、一部の人にとっては、女装をしたいだけの者がマスクコスプレの名を借りて女性を楽しんでいるように見え、神聖なコミケを汚す存在に思えるのだろう。まだ、女装してのコスプレのほうが彼らは許せるのだ。
だから、ぼくのような存在は許されないのだろう。そのため、排除しようと腕力に訴えて、力がないぼくはズタぼろにされるのだ。それがわかっていても、ぼくは、他のドーラーの人と出会う機会があるコミケに来てしまう。こんなぼくでも受け入れてくれる人たちがいるからだ。実は、今回の参加も、自分の作品をいろんな人に見てもらいたいという気持ちから開いたHPにこのコミケへの参加を誘ってくれた人がいたからだ。ぼくの作品を見て、一緒に出ようと誘ってくれた人がいたから、いやな思いがあったコミケだったけど、参加することにしたのだった。
でも、その人は急な用が出来、参加できなくなってしまった。でも、そんな人がいることが、大きな励みになり、ぼくは、新作のマスクで、コミケに参加した。
この格好でコミケの会場を歩いていると、結構たくさんの人から声を掛けられ、一緒に写真をとった。中には、つい声を出して、男とばれても、可愛い女の子の人形として扱ってくれる人や、マスクやスタイルを誉めてくれて、HPアドレスやメールアドレスを聞いてくる人もいた。そして、オフ会に誘ってくれる人もいた。楽しい時は、突然に終わるもの、ぼくが人ごみに押されてよろけた時、三人組の男の子のひとりにぶつかり、思わず声を出してしまった。
「すみません。大丈夫ですか。あ・・・」
ぼくは、出かかっていた声を飲んだ。その三人組は以前、別のコミケでぼくを袋叩きにした3人組だった。
「お前、男だな。」
「男のくせに、そんな格好をして、お前、おかまか?」
「神聖なおれ達のコミケを女装野郎のオナニーに使われてたまるかよ。ちょっと来い。」
ぼくは捕まえようとする三人組から逃げ出すと、コミケ会場の人ごみの中に紛れ込んだ。3対1では、いくら逃げても見つかる可能性が合った。彼らはしつこく探し回るからだ。前回も、会場の出口で張っていたのだ。
ぼくは隠れる当てもなく会場内を彷徨った。そして、見つかった時の変態の誹りを覚悟して女子トイレに逃げ込んだ。そして、洗面所の鏡を見ながらメイクをしている女の子がいた。鏡に映ったその顔は綺麗だった。その子の横を通って、個室に逃げ込もうとした。そのとき、個室のひとつが開いて、その中が見えた。そこには、手足を縛られ、口にストッキングの猿轡をされた女の子がもがいていた。その何かを訴える顔は、鏡を見ながらメイクしていた女の子にそっくりだった。
「え?」
ぼくは、その場に立ち竦んでしまった。縛られた彼女の顔は訴えるような表情から、恐怖に引きつった顔に変わった。
「あら、いけないものを見てしまったようね。あなたも、じっとしていれば、この子は無事だったのにね。」
その声は、ぼくのすぐ後ろからした。ぼくは新たな危機に観念した時、あの男達の声がした。ぼくは、縛られている女の子のいる個室に飛び込んで、カギを閉めた。そして、もがく女の子に静かにするように言うと、そっと、外の音を聞いた。
『おい。ここかもしんないぞ。』
『奴は、女装しているから、可能性はあるな。行って見るか。』
『おう。』
どやどやと、ここに入ってくる音がしました。そして、まさに、端から個室を空けようとした瞬間。女の声がしました。
『あなたたち、なにしているの。ここは女子トイレよ。でてってよ。』
『うるせえな。おれ達はオカマヤローを探してんだ。だまってろ。』
『そんなことを言って、女子トイレに忍び込むつもりね。出て行ってよ。』
『うるせえな。黙ってろよ。』
『きゃ〜へんたい〜〜〜。たすけて〜〜〜。』
さっきの女の子は黄色い声をあげて叫びました。その声に驚いた彼らはここから出て行ったようでした。
『おぼえてろよ。』
『ええ、わたしをこんな目に合わせた奴はけっして忘れないわ。』
お決まりの捨て台詞に女の子は強い調子で答えました。この声に駆けつけた警備員に女の子が何かを告げると、警備員は去っていき、また、ここは静かになりました。そして、彼女は、ぼくの隠れている個室のドアを開けたのです。
「フフフ、あなたには何か事情があるようね。このことは黙っていてね。あなたのことも黙っててあげるわ。」
そういうと、ぼくの足元にいる縛られた女の子の顔にスプレーをかけました。すると、すぐに、ぐったりとなってしまいました。
「死んだわけではないわ。眠っただけ。さてあなただけど・・・・どうしようかしら。」
その彼女の冷たい目にぼくは動けなくなってしまった。
自分がどうなるのかわからないとおもうと、なんだか激しい感情が湧いてきた。情けないやら、悲しいやら悔しいやらで、涙が溢れて、とめどなく流れてきた。
「あなた、泣いているの。こういうのは、わたしの趣味ではないんだけど聞いてあげるわ。」
ぼくは、自分でなにを話し出したのかわからなかったけど、ドーラーになってされてきたこと、彼らにされた事をとめどなく話していた。いままで胸に秘めていた事を吐き出しながらぼくは、落ち着いていった。
「ふ〜ん、自分の狭い認識で他の人の価値観をつぶしているのね。そう言う奴は許せないわ。同じフェチとしてはね。」
そう彼女が言った時、誰かが入ってきた。また、犠牲者が・・・とぼくが思ったとき、入ってきた人は意外なことを言った。
「二世。どうしたの。遅いわよ。」
個室の前に立つ彼女のそばに現われたのは、高校生ぐらいの天才人形師が作った少女人形かと思うほどに端整な顔立ちをした美少女だった。
「あ、由希。丁度よかったわ。彼に合いそうな子を見つけてきて。」
「彼は?」
美少女が彼女の肩越しに覗き込んだ。その美少女に彼女は何かささやいた。
「そう言うことなの。わかったわ。でも、最近二世って、2代目に似て来たわね。」
「うるさい。さっさと行きなさい。」
美少女は、笑いながら出て行った。
「あなたは・・・」
「わたしは、変装フェチなの。この子の姿が気に入ったから借りたのよ。気に入った子になるのがわたしのこだわりなの。あなたと共通するところがあるわね。」
違う、と叫びたかったが、ぼくはいうことができなかった。彼女とは違う。でも・・・なぜか彼女に惹かれるところがあったからだ。
「二世。持ってきたわよ。」
さっきの美少女が帰ってきたようだ。美少女は、二世と呼ばれた美女にスポーツバッグを手渡した。
「され、はじめようかしら。さあ、着てる物をすべて脱いで。さあ、早く。」
彼女にせかされて、ぼくはマスクを脱ぐと、衣装を脱いだ。
「全部って言ったでしょ。そのタイツも、下着も脱いでね。」
戸惑いながらも言われたようにすべて脱いだ。
「うん、いいわよ。さあ、始めましょうか。」
そういうと、バッグの中からスキンカラーのタイツを取り出して、ぼくの足元に屈んだ。
「さあ、右足を出して。そう、ここに差し込んで。」
ぼくは言われるままに、そのタイツに右足を差し込んだ。そして、膝までそれを引き上げた。それは、ぼくの足をキュ〜と引き締めた。
「今度は、左足を出して。」
両足の膝まで引き上げると、そのままずっと引き上げた。
「手を離して。着れないでしょ。」
ぼくは息子を抑えていた手をどかされた。彼女は腰までそれを引き上げた。優しく息子は包まれそのタイツの中に収まった。彼女はさらにそのタイツを引き上げた。それには形よく膨らんだ胸があり、長袖の手袋のようなものまでついていた。それに腕を通し、肩まで引き上げると、彼女は背中にあるらしいジッパーを引き上げた。すると、いままでたるんでいたタイツは身体にフィットして、僕の身体を引き締めた。いくら男としてはスリムでも、女性の身体に比べては大きいところはある。引き締められて苦しいところもあったが、少しするとなれて、締め付けを感じなくなった。
「次はこれよ。目をつぶって、いいというまで黙っていてね。」
そい言って彼女が差し出したのは、膨らましてのびきって空気の抜いたスキンカラーの風船のようなものだった。それには耳のような物と、小さな切れ目と少し大きめの切れ目、それと小さな穴が二つついていた。それをぼくの頭から被せると、切れ目とあなを目、鼻、口に合わせるかのように伸ばしたり、引っ張ったりしていたがフィットしたのか、彼女は目を開けるように言った。
「どう、目を開けられる?口は?鼻からスムーズに息ができる?」
ぼくは彼女に尋ねられた事を試したが別に異常はなかった。
「大丈夫なようです。ん?」
そう答えた時、ぼくは口篭もってしまった。体形の割にはドスの利いたぼくの声が、甲高い女性の声になっていたからだ。
「こ、これは・・・どういうわけ?」
「うふ、あなたは、女の子になったのよ。どう、何かきているという違和感はないでしょう。」
そう言われると、何かを纏っているという違和感はなく、触ると、触られているという感触が合った。いま身に纏ったものはぼくの身体の一部になってしまっていた。
「そう、胸もあそこの感覚もすべてあなたのものとして感じることができるわ。でも、いまはだめ。あいつらを懲らしめてからね。」
そう言いながら、ぼくに衣装を手渡した。それは、長襦袢に矢絣の着物に茶袴。ぼくがどう着ていいのかわからずに戸惑っていると、由希と呼ばれた美少女がぼくのそばにくると手早く着せてくれた。そして、肩までの長さがあるかつらを被せると後をリボンで縛って、ポニーテールにしてくれました。
「さあできたわ。それでは行きましょうか。」
「はい。」
ぼくはそう答えると個室から出て行った。縛られて眠っている女性を見ないようにして、出て行った。このときぼくがなっている女性も、この子のようになっているのだろうと思うと心苦しかったけど、考えないようにした。
トイレを出かけたときに鏡に映ったぼくのいまの姿は人気ゲームのヒロインキャラにそっくりだった。マスクではなくて、ただのコスプレなのだが、そのキャラにそっくりだった。
「心配なのでしょう。その子がどうなっているかが。」
まるでぼくの心を見透かしたかのように由希さんがいった。
「大丈夫よ。その子はコスプレをして会場にいるわ。」
「でも、ぼくとその子がであったら・・・」
「心配ないわ。いまはドールコスプレをしているから。わたしは、二世とはちがうわ。」
ぼくはその言葉に安心した。だが、ドールコスプレの意味があんな事とは気づいてはいなかった。
ぼくたちは、混雑している会場を回った。だが、意外とすぐに彼らは見つかった。彼らは美人コスプレーヤーの後を追い掛けていた。
「彼らね。行くわよ。」
二世と呼ばれていた美女が、彼らに近づいた。
「ねえ、君たち。わたし達と写真とらない。」
いつの間にか某超人気漫画のやさしき女神様のコスプレをしていた。女神もかくやというほどの美人の二世、人気ヒロインのアンテナ娘にコスプレした美少女の由希さん、そして、人気ゲームのヒロインのコスプレをしたぼくたち3人に、彼らはホイホイと着いてきた。写真を撮り、このまま別れるのはなんだから、といって、彼らを二世さんが準備していたワゴンに彼らを乗せると隠し持っていたあのスプレーを彼らにかけました。彼らが完全に眠っているのを確認すると、二世さんは、わたしに言いました。
「自分達の狭い了見で人を判断するなんて許せないわ。それに、食わず嫌いの彼らに女装の世界を教えてあげるわ。骨のズイまでね。」
「彼らをどうするのですか。」
「彼らのお相手をあるクラブの方々にお願いするのよ。彼らよく見ると可愛いからこれからの人生変わるかも・・・ウフフ。」
二世さんと由希さんは、彼らを乗せたワゴンの後部のドアを閉めると運転席に乗り込んで、去っていった。
「て、これどうやって脱ぐの・・・」
ぼくはこの姿のまま家に帰る事にした。殺伐としたワンルームマンションにもどると、ドアのカギを閉め、着ていた着物を脱いだ。バスルームの鏡の前で、今の自分の裸を映して、思ってもいなかった出来事に戸惑っていた。
女になりたいとは思っていなかったのに、今はどう見ても女の子だった。
「どうしたらいいの?」
ぼくはとまどいながらも、その日は顔を赤らめながら風呂に入り、これからのことを思い描きながら眠りについた。
翌朝、ぼくは元に戻っていた。昨日の事が夢だったような気がした。なぜなら昨日着ていたタイツは跡形もなく消えていたからだ。
「あれはなんだったのだろう?」
その後、ぼくはある噂を耳にした。あのコミケに飾ってあった等身大のフィギアから女の子が出てきたというのだ。彼女は発見された時は睡眠薬を飲まされて、眠った状態だったらしい。そして、あの三人組はあの後何処にも見かけなかった。ただ、かわいい3人組の女装コスプレーヤーが現われたと風のうわさに聞いた。
ぼくはというと、相変わらずマスクコスプレをしている。あれからさらにいろんな仲間と知り合い、一緒にコミケなどに行くようになった。そして、あのときのことを思い出すこともあるが、あのタイツを作ろうとは思わなかった。やはりぼくが求めているのは、現実的なものではなくて、自分の理想とするものだからだ。自分の手で作り出さないと意味がない。
ぼくは、今日も理想の女性を求めてドールワールドを彷徨っている。どこかで見かけたときには気軽にぼくに声をかけてください。それでは、また。