定説・金色夜叉

 

今宵、たくさんのお運び痛みいります。狭く小汚い小屋ですが最後までお楽しみください。

うるさい、ほっとけ?あ、これは席亭。申し訳ございません。

ちょっとした枕ですよ。お客様への冗談。この小屋で講談ができて小生幸せです。ほんと。

 

さて席亭のご機嫌も治ったところで、今宵は明治の大文豪 尾崎紅葉先生の名作中の名作「金色夜叉」を不肖わたくし変幻亭憑依が講釈をあいつとめます。お時間まで、お付き合いのほどお願いいたします。

 

熱海の海岸散歩する〜〜 貫一お宮の二人連れ〜〜(キコキコとバイオリンの音色)

ちまき食べ食べ兄さんが〜〜はかあってくれたせいのたけ〜〜 て、違うでしょう。もう伴奏はいいよ。

 

月の明かりに照らされた熱海の海岸の松林を歩く二つの人影。後ろを振り返りもせずすたすたと歩く人影を追うもうひとつの影。

ふと、先に歩いていた影が立ち止まりました。

「宮さん、アイや、お宮。ダイヤモンドに目が眩み。よくも、よくも僕を裏切ってくれたな。」

「貫一さん。」

よよよと泣き崩れて貫一の足元にすがりつくお宮。

「離せこの売女(ばいた)め。お前とは今宵かぎりだ。」

「貫一さん。別れろ切れろは女のときに言う言葉。今のわたしにはいっそ死ねと言って下さい。」

「ええい、離せ。離せというに。ダイヤに目が眩んで、あの成金の富山と身体を入れ替えたお前など、わたしが愛した宮さんではないわ。」

「そ、そんな。あなたの留学の資金にとしたことを、そこまでの言われよう。宮は、宮は悲しゅうございます。」

一代で富を築きました熊のような大柄の身体でよよと泣き崩れる宮の姿に、さすがの貫一もゾッといたしました。

わたしもその場にいたならゾッとして、鳥肌がサボテンのとげになったかもね

「貫一さん。よく見るといい男だね。女のときは色白でひょろひょろとして頼りなかったけど、男になってみると女っぽくてかわいいじゃない。いっしょにいいことしましょう。」

足にすがり付いていた宮は、貫一を押し倒師、着ていた学生服を剥ぎ取ると、猛り狂う息子の望むようにさせたのでした。

あわれ貫一は大事な操を富山になった宮に奪われてしまったのです。

「貫一さん。男って言うのもいいものね。今度は女になった富山と一戦するか。」

そう言うと、宮はすたすたとこの松林を去っていくのでありました。

後に残された貫一は、宮に汚された身体を残っていたマントで包むと、恨めしげに月をにらんで呟きました。

「宮さん、今月今夜のこの月を、来年の今月今夜のこの月を、再来年の今月今夜のこの月を、10年後の今月今夜のこの月を、僕の悔し涙で曇らせて見せるぞ。」

 

それから数年後、ドクトル・ヘボンの弟子ドクトル・ケボンの卓越した医学力によって麗しき美女に生まれ変わった貫一は、その類まれなる頭脳と、新たに手にした美貌で政界・財界・軍部をもその手中に収め、自分の操を奪った宮と宮の美しい身体を奪った富山に復讐を果たすのですが、それはまた別の話。

それでは、「てーせつ・金色夜叉」今宵はこれまで、時間までご拝聴頂きありがとうございました。

 

お客さん、座布団は投げないでください。わ、湯のみや、うえ、土瓶まで飛んできた。

金色夜叉はどうなったのだって、ちゃんと講釈しましたでしょう。

こんな話と違うって、だってちゃんといいましたよ。

『今宵は、てーえす・金色夜叉』って。

チャンチャン

 

 

あとがき

 

これは、あさぎりさんが言っていた『光一さん〜〜〜』という一言を見て、こんなセリフを思いついたのです。

『光一さん、別れろ切れろは女のときに言う言葉、今のわたしにはいっそ死ねと・・・』

それならば、光一を使わず原作通りでもいいのではないかと思いこんな話しになりました。

元が古すぎたかな。ま、いいでしょ。

それでは、また。