ルパン・ザ・サド
壊れかけた小屋のドアが軋みながら開いた。
「まったく、手入れをしないからドアまでいかれて来ちまったぜ」
そうぼやきながら黒ずくめのスーツを着こなしたヒゲ面の男が入って来た。
「ルパンいるか?」
それ程広くもない家の中に良く通るダンディな声で叫んだ。
「へ、いねえのか」
かぶっていた黒の帽子を脱ぎ、垂れてきた前髪を後ろに撫で付けると、手に持った帽子をかぶりなおした。
「まったく、あいつはどこをほっつき歩いているのやら。どうせまた、女のケツでも追っかけているんだろうがな」
そうブツブツとぼやきながら、男は暖炉の前にソファに座ろうとした時、奥の部屋から物音がした。男の目は天敵を警戒する獣の眼に変わった。奥の部屋の壁に音もなくすばやく走り寄ると、そっと聞き耳を立てた。部屋の中からは、かすかな音が聞こえていた。
「ギィギィギィ」
それは、何かを吊り上げるような音だった。男は、その部屋のノブに手をかけると勢いよく開け、ドアの前に身体を伏せて、愛銃のマグナムの銃口を部屋の中に向けた。だが、部屋の中から返ってきた反応は予想外のものだった。
「なにやっているの?次元」
次元と呼ばれた男は立ち上がり、服についたほこりを払いながら部屋の中に向かって言った。
「なにやっているんだ?ルパン。おまえが誰かに縛り上げられたかと思ったぞ」
「うふ、そうなの?でも、それは当たっているわね」
「なに?」
次元はその時になって始めてルパンの声が、いつもと違うことに気がついた。その声は甲高く、まるで・・・
「不二子の声みたい?そう、それで正解よ。次元」
次元は、目の前の状況が理解できなかった。レザースーツを胸のしたまであけた峰不二子が、白いボールギャグを噛まされて、ルパンに縛り上げられているのだ。不二子を縛り上げたロープは、彼女のナイスなボディに食い込んで、不二子は苦しそうな表情をしていた。
「どういうことだ。不二子は、縛られてえいるじゃないか」
「だから、この縛り上げられたわたしは、ルパンなのよ。そして、わたしが本物の峰不二子」
「なんだって?」
次元はますます訳がわからなくなってしまった。
「なにを冗談やっているんだ。おまえはルパンだろう」
「ちがうのよ。ルパンたら、わたしに化けて、わたしの行きつけのフィットネスクラブに覗きに入ろうとしたの」
「フィットネスクラブ?」
「そう、職員もすべて若い女性の女性専用のクラブだから男性は入れないの。だからわたしに化けて入ろうとしたみたいなの」
「ふむ、それは確かに奴がやりそうなことだな。でもなぜおまえはルパンの格好をしているんだ」
「彼ったら、わたしを呼び出して、わたしにこんな格好をさせて、追って来られなくするつもりだったみたい。もう、ひどいんだから」
「用意周到てわけか。でもドジって」
「わたしに縛り上げられたって訳。次元、ルパンが逃げないように見張っていてくれない。わたし早くこんなマスク脱ぎたいの」
「よしわかった。俺が見張っていてやるから着替えてきな」
「ありがとう次元」
そういうとルパンの姿をした不二子は次元の頬にキスをした。
「やめろ。気色悪い」
「アハ、ごめんなさいね」
そういいながら、ルパンの姿をした不二子は部屋を出て行った。
「いつもながらすごい変装だなぁ。これがルパンだとは思えないぜ」
縛り上げられて強調された胸は今にも千切れそうだった。不二子の姿のルパンは苦しいのか、身もだえした。それがまた、男とは思えないほどエロチックだった。次元は、その胸を触った。それは本物のようにやわらかく重かった。胸を触られながらルパンはまるで本物の女性のように胸をまだ触る次元を怖ろしい目つきで睨みつけた。
「おっと、怖。不二子の話を聞いていなかったら、俺でもおかしくなりそうだぜ。ルパン。自業自得だから諦めな。不二子が出て行ったら、ほどいてやるから、それまで大人しくしてな。でも、これで、ルパンに変なクセがつかなければいいがな」
吊るされた不二子の姿をしたルパンは、次元に何か言いたそうに盛んに首を動かしたが、次元はその仕草に答えようとはしなかった。
一方、部屋を出て行った不二子は、別の部屋に入ると誰もいないことを確認すると高笑いを始めた。
「グフフガハハハハ。次元が単純で助かったぜ。不二子に化けて、フィットネスクラブに忍び込もうと、不二子に眠り薬入りのワインを飲ませようとしたらバレるんだもの。あせったぜ。慌てて不二子を縛り上げたら次元の奴が帰ってくるものだから、あんな嘘をついたけど・・・まったく、次元て、タ・ン・ジ・ュ・ン」
そう言いながらルパンの姿をした不二子に化けていたルパン(あ〜ややっこしい)は、着ていた服をするっと脱ぎ捨て、素っ裸になると壁の隠し戸をあけてメイクルームに入っていった。そして、そこの壁に掛けてあった女性型ボディスーツを手に取った。
「不二子のサイズに合わせたこのスーツを身に着ければ・・・」
そういいながらルパンは、そのスーツに脚を差し込んだ。するとルパンの毛むくじゃらのガリガリの脚が、引き締まってスベスベの女性の脚に変わった。両足を突っ込み、スーツを腰まで引き上げると、ルパンの下半身はスタイルのいい女性の下半身へと変わった。
「こいつを隠すのにいつも苦労するけど、これがまたなんともいえない倒錯感が・・・」
などといいながら、ルパンは男のシンボルをそのスーツで包み込むと、一気に胸までスーツを引き上げて、だらんとたれていた腕の皮の中に両手を差し込み、背中のジッパーを引き上げるとそこにはナイスバディのルパンがいた。(ウエッ!)
「女に化けるたびにいつも思うけど、この倒錯感だけはたまんねえなぁ〜〜」
そういいながらルパンはふくよかな自分の胸(?)を持ち上げ、股間へと手を伸ばした。
「あ、あ、あん、んん〜〜」
胸を揉み、股間を触りながらルパンは悶えだそうとしていた。
「あ、あ、アア、こんなことをしてらんねぇ。早いとこクラブに行かなくちゃ」
いい感じになりかけていたルパンは自分を取り戻すとメイク台に取り付けてある鏡戸をあけた。そこには、次元、五右衛門、銭形警部のマスクに混じって不二子のフェイスマスクがあった。それを取り出して、鏡戸を閉じるとルパンはそれをかぶった。そして、顔にフィットさせるとシワを伸ばし、メイクをし始めた。シャドーを入れ、髪をブラシでとくと、そこには、あの部屋に縛られて次元に見張られているはずの峰不二子が鏡の中にいた。
「これでよしっと。おっと、声、声。ルパ〜〜〜ン」
いつもの少し鼻にかかった甘い不二子の声がメイクルームに響いた。前が編み上げになった白のドレスに身を包むと、その姿を鏡に映してポーズをとった。膝まである白のロングブーツを履いた右足をメイク台のイスに掛け、前のめりになって胸の谷間を強調するポーズをとると鏡に映った自分に向かってウインクして、投げキッスをした。
「ウッフ~~ン、ルパ〜〜〜ン」
それはどこから見ても峰不二子そのものだった。
「さて出かけようかしら、いってきま〜〜す。フ〜〜ジコちゃ〜〜ん」
不二子の姿になったルパンは、メイクルームの隠し戸を閉じ、部屋を出ると、いまだに吊るされた本物の不二子を監視しながら銃の手入れをしている次元の頬に軽くキッスをすると隠れ家を出て行った。
「次元てウブでやんの」
不二子に化けたルパンのキッスで頬を赤らめた次元をルパンは見逃さなかった。こうして、ルパンは不二子の行きつけのフィットネスクラブへと潜入した。
降ろされ、縛りを解かれた本物の不二子に、次元が往復ビンタを食らわされたことはいうまでもない。そして、ルパンはというと・・・・いまだ行方は知れない。