『夏の浜辺の永松先生と拓也とその他大勢』

作:月華


クーラーの効いた部屋の中でも、僕と先生の体は汗ばんでいた。
「どう、拓也君。ここ、気持ちいいでしょ?」
永松先生の指先が、僕の乳首に触れる度に、僕の体にはぴくぴくと震えが起こる。初めは指の腹を押し当てるだけだった動きが、尖り始めた乳首を乳房へと押し込むようになり、そして親指と人差し指で、乳首を摘み上げようとしてくる。
「あ、先生。ちょっとそれって……」
まだ慣れていない体で、しかも敏感になっている僕は、先生の動きに痛みを感じたけれど、止めて欲しいとは思えなかった。
「ここが感じるみたいだったから、つい集中しちゃったわ。それじゃあ今度は、優しく撫でてあげる」
僕の気持ちを察した先生が指先を離した乳首は、摘まれたままの形を残すように尖っていた。離した人差し指で、僕の大きくなった乳輪をなぞってから、今度は手のひらを、僕の乳房へと重ねていく。
しなやかな指先にすくい上げられ、僕の乳房は形を変え、乳首が上を向く。先生の指先と僕の胸板の間に固いゴムまりを挟んでいるかのように、指先の動きが、ダイレクトに伝わってくる。
「うふふ。この子の胸って、まだ発育中みたいね。小さくって、硬くって」
「そう、なんですか?」
「あら。自分の胸だってのに、どうなっているのか分からないって言うの。ま、無理もないわね。ずっとわたしばっかりが触っているんだから」
先生は、僕の左手を掴んで、そのまま僕の胸へと当てさせた。僕の手のひらには乳房の柔らかさが、僕の胸には触れられるくすぐったさが沸き起こる。
「今は、あなたの胸なんだから、遠慮せずに好きなようにして良いのよ。
ほうら、こんな風に」
「あはっ」
僕の口から、甘い溜息が漏れる。先生の指先が僕の乳房を這う度に、くすぐったさが消えていき、変わってもどかしさが溜まっていく。男の体では味わうことのなかった、慣れない感覚なのに、それが欲しくって堪らなくなっていく。
「ほら、拓也君も、触ってみなさい」
はい、と小さく返事をしてから、僕の右乳房で動く先生の指先を真似するように、ゆっくりと細い指を動かしてみる。今は自分のものになっている乳房を、自分のものになっている手で触ってみる。果物の新鮮さを見るように指先でわずかに押してから、今度は重さを量るように軽く持ち上げてみる。指先の動き、乳房の変形と共に、乳房の位置や重さが違っていくのを感じると、本当に僕の乳房なのだと実感が沸いてくる。
「拓也君ったら、ずいぶんとぎこちないのね。まるで、初めてオナニーする女の子みたいじゃない」
「す、すいません」
「別に謝らなくても良いのよ。わたし、そういうのって好きよ。女の子に憑依して、慣れない感覚に戸惑いながらエッチする拓也君を見ているとね。エッチなことに好奇心を覚えて、自分の体をはじめて触る女の子を想像しちゃうもの」
「そういう、もんですか?」
「ええ、そうよ。それでね、いろいろと教えたくなっちゃうの。
どうやって胸を触れば良いか、とか」
言って先生は、僕の右乳房に乗せている手を動かし始めた。長い先生の指は、胸全体を包み込むようにしてから、形をなぞるように、せわしなく動いていく。
「あ、あぁ」
「ほら、拓也君も指を動かして」
僕の手のひらに、乳房の柔らかさが伝わってくる。先生は小さくって硬いって言っていたけれど、女の子の体で一番柔らかい部分でもある乳房は、僕としては十分柔らかかった。そんな乳房を、横で動く長松先生の手つきから見様見真似で触ってみる。指の動きを教えてくれるような弾力を感じていると、僕と先生の二人で、一人の女の子をいじめているように思えてくる。
「そうよ。そんな風に触っていくと、もっと感じていくわよ」
それと同時に、僕の胸元では、二つの手が動いている。一つは女の子のもの、もう一つは大人の女性のもの。一方の手は、僕が感じる場所を探り当てるようにゆっくりと動いている。そしてもう一方は、僕を攻め立てるように激しく動いている。
永松先生と一緒に女の子の乳房を触る僕がいて、永松先生に乳房を触られる僕がいて……
そんな二つの感覚を同時に感じているうちに、だんだんと触られる女の子としての感覚の方が強くなってきた。
いくら今は自分の体と言っても、利き腕で無い方の手で、自分の左胸を揉むってのは、結構難しいものだ。手を引っ張り込むような動きになるから、力も入らないし、微妙な動きもできない。
そんな僕の動きとは対照的に、永松先生の動きは、僕の敏感な場所を確実に探り当て、攻めてくる。
乳房の表面を指先でなぞって、柔らかさと滑らかさを伝えてくる。
手のひらを当てて、乳房全体でぬくもりを感じさせてから、そっと上下に揺らして乳房の重さを感じさせる。
二本の指で乳首を摘み、その敏感さを教えてくれる。
「あは……」
先生が感じさせてくれる、女の子としての感覚に、僕は女の子のため息を漏らして応え続けた。

ピピピピピ

突然、セットしておいた目覚し時計の電子音が響いた。
「あーあ、そろそろ時間みたいね」
今まで、鋭い表情で僕を見つめていた先生が、一転して子供っぽい笑顔を見せた。
「一時間だけってのは、短いわよね。延長とかってできないのかしら」
「そんな。ラブホテルじゃないんですから」
「じゃあ、チェンジをお願いね。タクシー代は払うわよん」
先生は、風俗で遊んでいるみたいな言葉を口にする。
「チェンジって。また別の女の子を捜しにいくんですか?」
「決まっているじゃない。そのために、こうやって貸し別荘まで借りているんだから」
「はいはい、わかりましたよ」
そう言ってから、僕は近くに投げ捨ててあった、女の子の水着を身に付け始めた。僕がぎこちなく着替えをするのを楽しそうに見つめてくる先生の視線を感じつつ着替えを終えた僕は、先生を部屋に残したまま、一人で貸し別荘の外へと出て行った。
ドアを出ると、目の前は海岸だ。僕は、辺りを見回して、女の子の体に憑依した場所を探し出して、そちらへと向かう。
そして、砂浜に横になり、彼女の意識を起こしてから、僕は彼女の体から抜け出ていく。
ふわり、とした感覚があってから、全身が重力から開放される。1メートルほど浮かんでいる僕の下には、僕が憑依していた彼女が、目をこすってから、辺りをきょろきょろとして、不思議そうな顔をしているのが見える。
彼女にしてみれば、いつのまにか寝てしまっているように感じているはずだから、どうして眠ってしまったのか、不思議に思っているんだろう。この一時間の間に、実は僕が彼女の体に憑依をして、永松先生とエッチをしたなんてことは、覚えていないはずだ。

そう、永松先生に連れられて夏の海へとやってきた僕は、永松先生が目をつけた女の子に憑依をしては、先生とエッチなことをしているのだった。
女の子への憑依は、先生が発明した幽体離脱装置を使っている。この春に、先生から幽体離脱装置を渡された時は、相手の意識は残ったままだったし、その間のことも記憶が残ってしまっていたけれど、今では改良を加えて、憑依している間は、意識をなくして眠っている状態にすることもできるようになっている。
「つまり何をやろうと自由、ってことよ」
なんてことを、永松先生が言っていた。
それでも、憑依できるのは一人一時間まで、って制限はまだ残っているみたいなので、こうやって女の子に憑依して永松先生とエッチをしては、一時間後には別の女の子に憑依して、また永松先生とエッチをする、ってことを繰り返している。
宙に浮いたまま、僕は先生のいる場所へと戻った。ドアを通り抜けて部屋へ戻り、リビングのソファに横になっている僕の体へ覆い被さると、体中が下に引っ張られるような感覚が沸き起こる。全身で感じる重力とベッドカバーの肌触りに、僕は自分自身の体へ戻ってきたことを実感した。
「お帰りなさい、拓也君」
隣の部屋へ行くと、水着の上に白衣を身に付けた永松先生が、待ち構えていたように、僕を出迎えてくれた。
「それじゃあ、さっそく次の女の子を捜しに行きましょうね」
待ち構えていたのは、早く次の女の子を見つけたからだった。
「ほらほら、早く行きましょうよ」
僕の手を引っ張る先生へ、僕は慌てて付いていった。

「あの子なんかいいんじゃないかしら。結構遊んでいるみたいだし」
先生の指差す先を見ると、茶髪の女の子が、砂浜に座っていた。
「ほら、さりげなく辺りを見る振りして、いい男を捜しているようだし。じゃあ、拓也君。次の子は、彼女で決まりね」
僕は小さく頷いてから、別荘へと戻り幽体離脱装置を身につけて、ソファに横になる。スイッチを入れると、頭を直接刺激するような光と音が起こる。目の前の光に吸い込まれていくうちに、僕の体が、ふわりと宙に浮いた。
見下ろすと、装置をかぶった僕が、ソファに寝ている。僕の体を残したまま、僕は海岸へと向かい、永松先生の姿を確認してから、先生が御指名をした女の子へと近づいていく。
彼女の後ろへと回って、ゆっくりと体を重ねていく。僕の顔が彼女の後頭部に触れた瞬間、僕の全身は彼女へと吸い込まれた。彼女の姿に合わせるように、僕の足は前へと伸ばされ、次の瞬間には、全身に夏の空気が感じられた。
「ふう」
深呼吸をすると、潮風が口に入り込んでくる。この体の持ち主の意識を探ってみたけれど、もう眠っているようで、その気配は感じられない。
僕は後ろを振り返ってから、白衣に身を包んだままこちらを見つめている先生に手を振った。先生も僕に手を振り返してくるのを見てから、僕は先生の所へと向かい、そして一緒に別荘へと向かったのだった。

「どうかしら? 今度の体は?」
先生が、僕の両足の間から顔を上げて、僕に問い掛けてくる。その間にも、僕の股間へと入った指は、動きをやめようとしない。
「あはぁ、あ……」
言葉で応える代わりに、僕は声と表情で応えた。締め切ったお風呂の中で、いやらしい僕の声と、先生の指先が濡れた股間をいじくって起こる水っぽい音だけが響く。
顔は僕の方を向いているんだけれど、先生の指先は、僕の敏感になっている場所を、僕が触ってほしいと思う場所を、着実に触っていく。きっと、僕の表情を見て、触るべき場所を確認しているんだろう。
先生の鋭い目に、僕の全てが見通されていると思うと、ますます興奮が高まっている。
「あっ」
僕の中に入っていた先生の人差し指が引き抜かれる。いとおしいものを失ってしまったことをアピールするように、僕は驚いた表情を先生に向ける。
そして、先生の指先が、再び僕の受け口へと近づいてくる。それも今度は人差し指一本だけじゃなく、中指を加えた二本の指が。
先生の指を感じようと、僕はお尻に力を入れると、アソコも一緒に締め上げるようになって、先生の指先が、はっきりと感じられる。
赤いマニキュアを付けた爪の先端が僕の股間を刺激し、指の腹が僕の股間を押し広げる。体の奥へと指が入ってくる感覚と同時に、入り口では指の関節が潜り抜けていくのが感じられる。
一回、二回。通り抜ける関節の数を数えることで、僕は自分の体の中に先生の指先が、すっぽりと入り込んでいる実感を高めていく。
「やっぱりこの子、男性経験は結構あるみたいね。ほら、こんな風にしても、痛くないでしょ」
僕の中へ入った二本の指が、上下に広げられる。体の中が押し広げられる感覚と、二本に分かれた指先に、僕の肉襞がまとわりついていく感覚が伝わってくる。
先生が指先を動かす僕の股間からは、ぐちゅり、ねちゃっ、と僕の感覚をあらわす音が伝わってくる。
先生の指先をもっと味わおうと、僕は腰を前後へと動かす。体の奥で何かが動く。多分、僕の中にある子宮が、奥までは入りきれていない指先を待ち焦がれるように下へと動いているんだろう。
「うふふ。指だけじゃ満足できないって顔ね」
荒い息の中で肯定する僕を見て、先生は満足げな笑みを浮かべたかと思うと、僕の股間から指先を抜いた。
……あ、そんな。まだまだこれからだって言うのに。
「心配しなくてもちゃんと可愛がってあげるから大丈夫よ。
さっきはね、オナニーも満足にしたことなかったみたいだから、あんまり派手なことはできなかったけれど、今度は私も楽しませてもらうのよ」
そう言って先生が取り出したのは、ピンク色の棒だった。それも、先端が一回り大きくなっている、いわゆる双頭ペニスというやつだ。
シリコンでできた柔らかいものらしく、先生が両手で持つと、ぐにゃりと折れ曲がった。
「ローションは、もう必要ないわね」
そう言って先生は、僕の股間へとシリコンの先端を押し当てた。
「あは……」
指よりも大きくて柔らかいものが、僕の入り口を撫で上げる。ぴたりと張り付いてくるそれは、見た目以上に大きく感じられた。
先端を当てたまま根元の方を上下に大きく動かしていくうちに、ピンク色の亀頭部分には、透明な粘液がまぶされていく。
「それじゃあ、入れるわよ。足を広げてもらえる」
折れ曲がらないように先端と真中を握られたシリコンの棒が、僕の中へ入ってくる。さっきまでの触る動きから、押し入る動きへと変わる。
指よりも太いものが、僕の股間を押し広げる。でも、指と違うのは太さだけじゃない。指の方は形を変えないままに入ってくるけれど、シリコンだとその形が変わっていく。まるで生き物のように、僕の隙間に入り込んできては、僕の中を占領していく。
「どう。もう指よりも深く入っているはずよ」
先生は僕に確認をさせるように手にしたシリコンを揺さぶると、振動が体中へと広がってくる。
「あら、いっぱい入っているから、ヌルヌルしたものが、溢れてきちゃったわよ。どれぐらい濡れているか、見てあげるわね」
いきなり、ペニスが引き抜かれた。
「先生、抜かないでください」
思わず僕は叫ぶ。もどかしくて、物足りなくて、欲しくて堪らない。
「心配しなくてもちゃんと入れてあげるわ。だからさっきも言ったでしょ。わたしも楽しませてもらう、って」
先生は、膝立ちになってから、抜き取った双頭ペニスの先端――それもさっきまで僕の中に入っていた方――を、自分の股間へと押し当てた。
「わたしの方はまだ濡れていないから。ローションを使うのよりも、こっちの方が興奮するでしょ。さっきまであなたの中に入っていて、すっかり濡れている上に、あなたの温もりまで残っているものを入れた方が。
ん、暖かくって、濡れてる」
先生は、双頭ペニスを使ってまで、女の子の体を――僕の体を味わっているのだ。そんな先生を見ていると、僕は男の心としても、女の体としても、興奮してくる。
「さあ、いくわよ。拓也君」
ピンク色のペニスを股間から生やした先生が、僕の両足へと割って入る。先端を押し当ててから、ゆっくりと腰を前へ進めつつ、指先を後ろへと動かし、着実に僕の股間へと、先生のペニスを押し入れていく。
体の中に、シリコンの棒が入り込んでくる。その感覚は、さっき味わったばかりだったけれど、さっきとはまるっきり違っていた。
それは、目の前に、永松先生がいるからだ。
先生と僕は、一本のペニスを分け合って、お互いの股間へと挿入している。
先生と同じような表情を、僕もしているんだろう。
僕が感じているのと同じことを、永松先生も感じているんだろう。
同じ感覚を味わうこと、同じ気持ちを味わうこと――男の体のままでは、絶対に出来ない経験を、僕は今している。
「拓也君、もっと感じあいましょう」
そう言って先生が、僕の手を引っ張ったので、僕はお風呂の床から背中を離して、上体を持ち上げた。
「そのまま、わたしに抱っこされるみたいにしてね」
わざと子供っぽい言葉を使って、先生は僕を誘い入れる。一本のペニスでつながったままに、先生と抱き合って座位の格好を取ると、ますます同じことをしているって気持ちが高まってくる。
「ねえ、拓也君。もっと近づいて」
耳元でささやかれた先生の言葉に従って、腰を曲げて頭の位置を少し下げると、いきなり、僕の唇に永松先生の唇が重なってきた。
突然のことに、目を閉じることすら忘れている僕の目の前には、先生の鋭い瞳が見える。目を閉じることもせず、じっと僕を見つめている、先生の瞳。
口元からは、撫で上げるように動かされる、先生の柔らかい唇が感じられる。僕も頭を動かして、唇を触れ合わせると、重なり合った部分がじんじんと痺れてくる。お互いが、唇の形を探り合っていく。敏感な場所を、探り合っていく。
やがて、先生の唇が、僕の唇へと、ぴたりと重なった。それと同時に僕の後頭部へと先生の手が回り、僕と先生は、さらに密着する。
そんな僕の唇へ、さらに柔らかいものが押し当てられた。唇よりも意志をもったもの――永松先生の舌だった。
さわり心地を確かめるように、先生の舌が僕の唇を舐め上げる。ぐるりと口の周りを一周してから、舌先が歯にあたり、そして僕の中へと入ってくる。
僕は自分の舌で、先生の舌を受け入れた。わずかに舌を持ち上げると、先端が、表面が、裏側が、先生のもので磨き上げられていく。初めは、先生に触られるだけで満足していたけれど、だんだんと物足りなくなってきた。
先生と同じことをしたい。先生と同じことを感じたい。
今度は僕の番だ、そう思って舌を伸ばすと、逃げるように先生の舌が離れていく。僕は、先生の口の中へと、舌を伸ばした。先生がこれ以上逃げないように、先生の後頭部へ手を回してから、先生へと舌を絡ませていく。
――これって、先生に挿入していることになるのかな?
先生のぬくもりを感じながら、僕はそんなことを思った。女の人はキスが好きって言うけれど、ひょっとしたらこういう気持ちがあるからかもしれない。今の女の子の体で、永松先生に一番近づこうと思ったら、こうやってキスをすることなんだろうから。
舌だけじゃなく、口の中を舐めまわしていると、先生の舌が伸びてきて、同じことを僕にしてくれた。お互いが、唇を舐めあって、歯茎を刺激しあって、舌を味わい合う。
「ずいぶんとキスに熱心なのね。まるで本当の女の子みたいよ」
唇を離した先生が、そう僕に語りかけてきた。
別に意識して女の子みたいにしていた訳じゃない僕は、ちょっと照れくさかった。
「わたしとキスをするんだったら拓也君の体でも出来るんだから、今は女同士でしか出来ないことを楽しみましょう」
今度は図星だった。さっきの僕は、女の子としてキスしているんじゃなくて、拓也自身として、永松先生とキスをしていたんだろう。
「ほら、こうやって」
永松先生は、近くに置いてあったローションの入ったボトルを手に取ってから、密着している僕と先生の体の間へと、透明なローションを流し込んだ。
どうせだったら、僕の体で先生とキスしたい、そんなことを思っていた僕の意識は、ヌルヌルとしたローションの感覚と、先生との密着感に、女の子としての体へと引き戻された。
「どうかしら? こういうのって女の子同士でしか味わえないでしょ」
言いながら、先生は体を左右へ揺らし、胸元に垂らしたローションを、僕のおっぱいへとなすりつけてくる。先生が動くたびに、大きな乳房が僕のおっぱいを撫で上げていく。
胸元を見ると、ローションに濡れて光る、四つの膨らみがある。あまり形の変わらない僕のおっぱいと、押しつぶされて形を変える先生の乳房。
僕のおっぱいが、先生の乳房に包み込まれている。僕の乳首が、先生の乳房に食い込んでいる。
「ほら、拓也君も、もっと動いてみて」
先生の真似をするように、僕も体を左右へと動かしてみると、先生の乳房が形を変えていく。僕の胸についているものに比べるとはるかに大きくて、思わず羨ましくなってしまう。
「ね、女同士って凄いでしょ」
「は、はい……」
僕は息絶え絶えに応える。
「それじゃあ最後に、女同士じゃなくって、女として味わってもらうわよ」
「あはっ!」
突然突き上げてきた先生の腰に、僕は思わず声を上げる。体を密着させて、すっかり股間に入り込んでいる双頭ペニスが、僕の股間を刺激する。
「どう? 感じちゃうでしょ。もっと声を上げたくなるでしょ」
僕を両手で抱きしめたままに、先生は何度も腰を突き上げてくる。お互い抱き合っている格好だから、激しい動きじゃないはずだけれど、先生に胸元には先生の乳房があたって、背中には先生の両腕が巻きついて、目の前では先生の鋭い視線があるんだから、すごく力強く感じてきちゃう。
きっと、好きな男の人に抱きしめられた女の子って、こんな感じなんだろう。
僕は、女の子が抱きつくように、先生に抱きついた。キスをして唇を重ねて、ローションのついた胸を密着させて、先生の背中に回した腕に力を入れて、先生の体から伸びて僕に入り込んでいるペニスを、思いっきり感じていく。
「ねえ、イッていいのよ。拓也君のイッちゃう顔を見ながら、わたしもイクから」
先生の言葉が、きっかけになった。
先生と同じようになりたい――そう思った僕の股間の奥から、熱いものがこみ上げる。
これまで以上の感覚。ひょっとしたら、ペニスを通じて先生の感覚が伝わってきたんじゃないかと思ってしまうぐらいだった。
「先生、永松先生。僕、もう……」
最後は言葉にならなかった。その代わりに、先生をぎゅっと抱きしめた。
先生も、僕を抱きしめてきた。
そして二人して抱き合う中で、僕と先生は同じ絶頂を味わったのだった。

      ***

「うーん、やっぱり海は広いな大きいな、って感じよね」
僕の隣に立っている永松先生は、目の前に広がる海を見渡しながら、僕に語りかけるともなく、そんな感想を漏らした。
横を向いて先生の顔を見上げると、先生の長い黒髪と、海水浴用に作ったという紫外線防止白衣が、潮の混じった風に流されていくのが見える。
白衣の下には、黒いビキニが見え隠れするのが、ちょっともどかしい。
「先生、今日はエッチはしなくて本当に良いんですか?」
この海岸に来てから三日目の今朝になって、先生がそう言い出した。僕はその場で確認をしたんだけれど、今回の旅行の話が出た時には、三日間エッチ三昧と聞いていたから、本当にそれで良いのかなあ、と心配になっていたので、改めて聞いてみた。
「さっきも言ったでしょ。せっかく海に来たんだから、最後の日ぐらいは、普通に海水浴でも楽しみましょう、って」
「はい、それは聞きましたけれど」
「だったら良いじゃないの。せっかくの夏休みなんだから。夏と言えば海よね、拓也君」
「はい」
頷く僕を見て、先生は拳(こぶし)をぐっと握りしめて、
「そう。夏と言えば海。海と言えば謎の海洋生物とのバトル、そして深海秘密基地に潜む悪の総統との決着っ!」
「そ、そういうもんですか」
夏の暑さとは違う所から来る汗を流しながら、これから何が起こるんだろうかと心配になってきた。
「ま、今回はそんなことはないけれどね」
次回はあるんだろうか……
「拓也君が、にぎやかで騒々しいのが良いって言うんだったら、そっちでも良いけれど。そういうのと二人でのんびりするのって、どっちが良い?」
「そりゃあ、二人でのんびりする方が良いですよ」
にぎやかで騒々しいのだったら、いつもと同じですから、とは言わずに、二人っきりという先生の言葉に、僕は笑顔で応えた。
「と言っても。
せっかくのんびりしようってのに、こんなに人がいたら、座る場所も無いわよねえ……」
先生の言う通り、砂浜へと目を移せば、海水浴客でごった返した風景がいやでも目に入ってくる。
その言葉に頷こうとした時、
僕の首元が突然締め付けられた。
く、苦しい……
何が起こったのか分からないままに首の所に手をやってみると、ベルトみたいなものが首に巻き付けられていて、さらには鎖が伸びている。
僕の様子に気づいたのか、先生は僕の方へ顔を向けた。
「あら、どうしたの。急に首輪なんか付けちゃって。
新手のイメチェン?」
違います、と言おうとしても、喉が締められて声が出ない。
「おほほほ。さっそく本日一人目の奴隷を確保ですわ」
声のする方へ、僕と先生が振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
歳は二十歳ぐらい、肩まで伸びた茶色い髪をたなびかせ、赤いビキニに身を包んだ女性、それが、僕に首輪をつけた張本人だった。
相変わらず声が出せない僕に代わって、先生が大声で叫ぶ。
「いったい、どういうつもり。拓也君をこんな風にイメチェンさせて。
あんまり似合っていないじゃない」
だから、違うって。
「見て分からないの。こうやって、男奴隷を集めているのよっ」
どことなく永松先生と似た雰囲気で、彼女は余裕を持って答えた。
「そんなの見て分からないわよ」
先生も負けずに勝ち誇ったように胸を張って、
「いきなり首輪を投げつけて、何が男奴隷を集めるって言うのよ。
男を奴隷にするってぐらいなら、後ろから注射して意識を失わせるとか、いきなり押し倒してエッチするとか、ってのが定石でしょ」
「なるほど、それも一理あるわね」
「納得させてどうするんですか」
ようやく首輪を外した僕は、何となしに会話を成立させている永松先生にツッコミを入れる。
「いったい何なんですか? この首輪は?」
僕ははずした首輪を彼女に見せつけた。
「見ての通り、あたしに忠誠を誓わせるための首輪よ。さあ、あたしのことは白沢様とか麻衣様とか遠慮がちに呼ばないで、気軽に女王様って呼びなさい」
どうやら彼女は白沢麻衣と言う名前らしい。
「何を言っているのよ。拓也君が女王様と呼んでいいのは、エカテリーナ二世だけよ」
いや別にロシアの女帝だけを特別視しても、あんまり意味はないと思うんだけれど、永松先生的には、何か得るものがあるんだろう。
「ふっ、エカテリーナ二世だけとは、良く言ったものね」
永松先生の言葉を、普通に受ける彼女。一体どうして会話が成立するんだろうか?
「とすると、そいつはあなたの奴隷ってことね」
「ま、そんなところね」
違う、と僕がいう前に先生は間髪入れずに彼女に応える。
「さあ拓也君。あなたの奴隷っぷりを見せてあげなさいっ」
「さっそくの奴隷攻撃をするとはっ」
身構える彼女と先生を見つめながら、僕は呟く。
「そんなこと言われても……」
もう訳がわからない。なんとなくぼんやりしているうちに、話は勝手に進んでいるようで、
「まあ、いいわ。このあたしにかかれば、奴隷なんかいくらでも集まるんだから。
そんな雑魚(ざこ)、あなたに譲ってあげてもよくってよ」
彼女の言う雑魚ってのは、僕のことなんだろう。奴隷扱いされるのもなんだけれど、雑魚扱いってのもなあ……
なんて思っていると、横から先生が飛び出したかのように、僕の前に立った。
「拓也君を捕まえて雑魚だなんて、良くも言ったわね」
先生の顔を見ることは出来ないけれど、その口調だけからも、かなり怒っているのが分かる。
「そうよ。このあたしになびかないなんて、奴隷の素質なし、ただの雑魚ですわ」
「ふんっ。自分がブドウを取れないのを棚に上げて、あのブドウは酸っぱいって決め付けた狐が、昔話にいたわよね」
先生の言葉に、彼女は小さく舌打ちをした。
二人の間に、無言の時間が流れる。どうやら二人とも、引っ込むつもりは無いみたいだ。
僕としては当然永松先生を応援したいけれど、せっかく二人っきりの海水浴なんだから、ここは穏便に済ませたいんだけれど……
「こうなったら、あなたと勝負よ」
先に口を開いたのは、永松先生だった。びしぃ、と伸ばした人差し指を、彼女に突きつける。
「その勝負。受けて差し上げますわ。
勝負方法は簡単、今日一日で、どれだけの男を集められるかで勝負よっ!
ただしっ、あくまでも女性としての魅力で、男を集めるのよっ。つまりは、ナンパで勝負っ!」
「ふっ。受けて立つわっ」
まるで、剣客同士の勝負が一撃で決まるかのように、話は一瞬にして終わったのだった。

「先生。ナンパして集めた男の数を競うなんてなっちゃいましたけれど、自信はあるんですか?」
細かい勝負方法を決めた後で、彼女と別れた僕と永松先生は、海の家で焼きとうもろこしを食べながら、作戦会議を開いた。
「自信ねえ。ナンパなんてなっちゃったけれど、どうしようかしらね」
磯辺焼を一つ食べ終えてから、先生は言葉の割には、あんまり困っているようには見えない表情で、そう答えた。
「厳しいですね」
「厳しいわね。遠足でおやつは百円以内、フィリピンバナナはおやつに含まれないけれど、台湾バナナはおやつに含む、ってのと同じぐらい厳しいわね」
「なんですか。それは」
「中国の子供は、そういうギャグを言うのかな、って思っただけよ」
相変わらずの永松イリュージョン風味の篭(こも)った、訳の分からない発言だ。
「それよりも問題はナンパよね。こう見えてもわたしって、男なんてナンパしたことないもの。拓也君だってないでしょ?」
「はい、無いです」
「そりゃ、拓也君が男をナンパするわけはないわよね」
「そうじゃなくって、女の子のナンパをしたことがないってことです」
「あら、そうなの? 女の子をナンパしたことなら、わたしはあるけれど」
「でも、ここに来てからは、女の子に憑依をさせて、エッチなことをしているじゃないですか?」
「あれは、女の子と普通にエッチをするよりかは、拓也君を憑依させての方が面白いからよ。わたしが本気を出せば、女の子だったらいくらでも集まるわよ」
「じゃあ、女の子に対してするのと同じようにすればいいじゃないですか?」
言われて先生は人差し指を顎に当てて、しばらく考えてから、
「でも、女の子に対するナンパのテクニックって、そのまま男に対して使えるってものじゃないでしょ」
「女の子にだったら使えるテクニックなんてあるんですか?」
「ええ、そうねえ。たとえば、他人が見てない隙に、優しく胸を揉んで乳首を弄ったりとか、あそこに指を入れたりとか」
「……それはただのテクニックじゃなくって上にフィンガーって文字の付くテクニックじゃないですか。
って言うか、世間一般では犯罪と呼ばれています」
どういうナンパをしてきたんだろうか、先生は。
あ、そういえば。
ナンパといえば、永松先生って、これまでに付き合った男の人って居るんだろうか。先生と会ってから数ヶ月経つけれど、少なくとも今は誰とも付き合っているみたいじゃないし、これまでにそんな話は聞いたことがない。
「じゃあ、先生が付き合っていた男の人とは、どんな風に出会ったんですか?」
思いついたことを悟られないように質問をしてみると、僕の言葉に先生はしばらく考えてから、
「拓也君。気になる女性が昔につきあっていた男のことを気にする暇があったら、今の男として自分がどうすれば良いか考えなさい」
そう言ってから、目線をテーブルに置いてあった磯辺焼へと向けて、半分にちぎって片方を口に頬張った。
「はあ、そうです、むぐぅ……」
先生が、残り半分の磯辺焼きを僕の口に入れてきたので、僕は先生に口を塞がれたようになった。
何だか質問をはぐらかされたみたいだけれど、僕の質問も的外れって言えないようなものなんだから、これ以上聞く訳にもいかない。
「で、どうしましょうかね? やっぱり地道にやっていくしかないんじゃないですか」
「そうよね。それじゃあ、ナンパってものをやってみましょうか」
言いながら先生は、紫外線防止白衣の袖を捲り上げた。
「あ、そういえば、聞き漏らしたけれど」
「何ですか?」
「やっぱり、生きたままで連れていかないと駄目なのよね」
「……当たり前です」
はじめる前から、早くも先行き不安だった。

「で、どういう男を狙えば良いのかしらね」
「僕に言われても……とりえあえずは、いかにもナンパをしに来ましたって男に声をかければ良いんじゃないですか」
「そうねえ。それじゃあ、あそこにいる男にでも、声をかけてくるわね」
先生が指差す先に歩いているのは、サーフボードを見せびらかすよう持っている男だった。体はこんがり日焼けをしているけれど、世間の目を気にして日焼けサロンで焼いたような、それこそナンパ目的の男だった。
「そこのあなたっ!」
男の目の前に立つなり、先生は声を上げた。相手の男は、『俺?』、と言った感じで先生の顔を見る。
「そうよ、あなたよ。いかにも格好良いところを女の子に見せ付けて、あわよくばセックスの一つでもしようかと思っているようなあなたよっ。
なんだったら、このわたしが、あなたにナンパされても良くってよ」
両の腰に手を当てて、高らかに宣言する永松先生。
そんな先生に気圧されるままに、男は逃げるように歩いていったのだった。
「せ、先生」
僕は慌てて駆け寄って、先生に驚きのこもった声を掛けた。
「ちっ、この根性無しが。わたしの誘いの言葉を無視するだなんて」
「今のって、誘いの言葉だったんですか?」
「聞こえなかった?」
「聞こえてますけれど、そういう風には聞こえないんです」
「でも、内容としては、ちゃんと言ったんだけれど」
「言い方の問題ですよ。
なんて言うか、先生には隙が無いんですよ」
「隙ねえ」
僕の言葉に、先生はしばらく首をかしげてから、しばらくして、
「わかったわ。それじゃあ今度は、隙ってやつを相手に見せてあげるわ。
という訳で、次はあそこにいる男に声をかけてみるわね」
言って先生は、近くを歩いていたサングラス男の前へと歩いていった。
「そこのあなたっ」
声を上げながら、先生は相手に向かって、びしっと人差し指を向ける。
「暇だったらこのわたしが」
そこで言葉を区切って、先生はぐるりと体をひねった。後ろを向いてから、そのままの勢いで、再び正面を向く。
「あなたにナンパされてもよくってよっ」
目の前に右腕をやってから、横に薙ぐようにして、相手に向かって顔を見せる。ちなみに、人差し指と親指を立てて、指の先までポーズを決めている。ちょうど、戦隊ものの変身シーンを見ているかのようだった。
ちゅどーん!
そして先生の背後では、赤い色の付いた爆煙が巻き起こった。
永松先生がそんなポーズを取っている間、相手の男は一歩も動こうとはしなかった。そして爆煙が消えても、永松先生はポーズを取ったままに、男は身動きできないままに、止まったような時間が過ぎていく。
このままじゃいけない、そう思った僕は、慌てて先生の元に駆け寄って、そのまま腕を取って、海の家へと引っ張り込んだ。
「永松先生、何をやっているんですか!?」
「拓也君の言う通り、隙を見せたんじゃない。
ほら、良くネタにあるじゃない。戦隊ものの変身ポーズは隙だらけ。どうしてあの時に攻撃をしないんだ、って」
「違います」
僕は短く断言する。
「あら、違ったの。でも、相手が逃げなかっただけでも、一歩前進よね」
何ら臆することもなく、先生はそう決め付けた。
「まあ、一歩前進でも戦略的後進でも良いんですけれど、ちょっと違うと思うんです」
「どこがどう違うの」
「ええと、ですねえ。ポーズをとるってのは良かったと思うんですよ」
「ってことは、火薬の量が少なかったってこと?」
「どこの世界に、火薬を撒き散らしてナンパする人がいるんですか?」
「ふっ。良い女は危険な香りがするものなのよっ」
「そうじゃなくって、ポーズって言っても、ああいうのじゃなくって……
もっと色気を出してみたらどうでしょうか?」
「色気、ねえ」
「例えば、ルパン三世の峰不二子とか」
古い例えだなあ、と思うけれど、先生と話を合わせるために、ルパン三世の再放送はいつも見ている僕にとっては、一番手っ取り早い例だった。
「そうか。峰不二子の要領でやるのね。それならわたしに任せなさい。再放送から見ているだけのあなたと、毎週の本放送を楽しみに待っていたわたしとのレベルの違いってものを見せてあげるわ」
なんだか良く分からない優越感を背にして、先生は再び都合よく近くを歩いていた男の人へと歩いていった。
「ねえぇ。そこのあなた」
鼻にかかる声で、先生はその男に声をかけた。
「よかったら、あ・た・し、と楽しい夜を過ごさない?」
後ろ髪を掻き上げながら、先生は甘い声を出して、男を誘う。体をわずかに覆った黒いビキニに彩られたプロポーションを見せつけるように腰を曲げて、全身を見せつける。
先生を見慣れている僕でも、あの表情には堪らない。ましてや、先生の目の前にいる男は、体が勝手に、なんて感じで、ふらふらと先生の方へと向かっていく。
腕が届くぐらいまで近づいたところで、先生はどこから取り出したのか、オーデコロンを手にして、吹き付け口を男へと向けた。
指先が動くと同時に、薄い霧が相手の顔へかかる。その途端、相手は体を崩して砂浜に倒れこみ、そのまま鼾(いびき)をかきはじめた。
「じゃあね、ルパン」
そして手を振って、倒れる男から離れていく永松先生。
「って、何をやっているんですか!」
僕は先生に駆け寄って、再び海の家へと引きずり込んだ。
「はっ。思わず調子に乗りすぎちゃったわ」
引っ張られながら、驚いたように答える永松先生。
「そこまで真似をしなくても良いんです」
ようやく椅子に座ってから、僕は先生に噛んで含んで説明をした。
「うーん、ちょっと先生には、普通にナンパするってのは向いていないような気がするんですよ。もっと別の方法を考えた方が良いかもしれないなあ、って」
「別の方法ねえ……」
先生は人差し指を顎の下に当ててしばらく考えてから、
「そういえば、聞き漏らしたけれど」
「何ですか?」
「半殺しにして連れて行ったら、二人合わせて一人分にカウントするってルールは無いわよね」
「……当たり前です。
だから言っているでしょう。あんなことをすれば、どんな男だって逃げるって」
「あら、そうなの?」
「そうですよ」
念を押すように先生が聞いてくる。
「どんな男だって逃げるって言っても、拓也君は逃げないじゃない」
「え……それは」
しどろもどろになる僕を、先生が楽しそうに見つめてくる。
「何を純情可憐少女みたいに赤くなっているのよ。そういう表情は、女の子になっている時にしなさい」
僕の頭を、ぽん、と叩きながら、冗談めかして言ってくる先生に、僕は曖昧な言葉で返事をするしかなかった。

「こうなったら作戦変更よ。やっぱり正攻法で行くしかないわ!」
今までの行動に作戦があったかどうかは分からないけれど、しばらく考えた末に先生は、こぶしを握り締めて、そう宣言した。
「正攻法ってどんなですか?」
「これよ」
そう言って先生は、白衣のポケットから小さな瓶を取り出した。
「なんですか。それは?」
「これはね、妹の所からくすねてきた性転換薬なのよ。今回の勝負って、どれだけの人数の男を集めたか、って言うんでしょ。だったら終わり間際になって、この薬を使ってあの女が集めた男全員を、女の子に性転換させてしまえば、問題なし! 勝負はチャラになるって寸法よ」
「そ、それのどこが正攻法なんですか?」
「この同人誌的には正攻法ってことよ」
「何なんですか。その、同人誌的って」
「わかりやすく言うと、お約束ってやつね」
「わ、分からない……」
「それじゃあ、ちょっと試してみようかしら。なにしろ、この一瓶しか持ってこなかったから、使い方を確認しておかないとね」
小さな瓶の蓋を開けようとする永松先生。でも、蓋が固いらしくて、なかなか開こうとしないみたいだ。
「あら? なかなか開かないわね。こういう時は、蓋を叩いて」
近くのテーブルに打ちつけようと瓶を振り下ろした時、先生の手から瓶が滑り抜け、近くにあった海へ流れ込む川へと飛んでいってしまった。
飛んでいった瓶は、放物線を描いてから、川にあった石にぶつかって割れて、そして瓶の中身が流れ出した。
わずかに川の色が変わった部分は、そのまま流れに乗って海へと下っていく。
僕と永松先生は、その光景を言葉を出さずに眺めていた。僕の頭には、いつもの二倍の鮭が川を上っていき、二倍の数の海亀が卵を産みに来る映像が浮かぶ。
「先生……」
僕は、先生の様子を伺った。
「ふっ。最近の環境ホルモンには困ったものね」
「誤魔化せてなーいっ」
僕は、空に向かって叫んだのだった。

そんなことをしているうちに、お昼を過ぎてしまった。僕たちは、作戦会議と称して、海の家で焼きそばを食べながら、今後のことを話した。
「こうなったら仕方が無い。最後の手段よ」
「最後の手段って、何ですか?」
僕は身を乗り出して先生に尋ねると、
「こうなったら勝負のことなんて忘れて、当初の予定通り海水浴を楽しみましょう」
ぐっ、と握りこぶしを作り、先生は答えたのだった。
「い、いいんですか。それで」
「わたしが良いって言うんだから、良いのよっ。
拓也君だって、わたしのナンパなんて見ているよりかは、一緒に泳いだ方が楽しいでしょ」
「それは、まあ……」
曖昧に答えるけれど、先生の言う通り、二人っきりで海水浴を楽しみたかった。
「それじゃあ、決定ね」
言って僕と先生は、海岸で楽しい時間を過ごした。
楽しい時間ってのは、あっと言う間に過ぎていくもので、
「先生。もう時間ですよ」
予定の三時になろうとした頃合いに、僕は先生に声を掛けた。
「あら、そうね。この時間で帰ったら、ちょうどいいくらいにマンションに帰れるわけ」
「いや、そうじゃなくて。あの人との決着の時間ってことです」
「そういえば、そうだったわね。それじゃあ、あいつのところにいきましょう」
「行ってどうするんですか? 負けを認めようって言うんですか?」
「わたしがそんなことするわけないじゃないの。ほらほら、一緒に行きましょう」
せかされるままに、僕は先生と一緒に、最初のルール決めの時に決めた集合場所へと向かったのだった。

たどり着いた場所には、白沢麻衣を先頭にして、後ろに男の人が大勢集まっている。多分、彼女が集めた人たちなんだろう。ざっと数えてみて、三十人ぐらいはいるみたいだ。
「あら、てっきり逃げ出したかと思ったわ」
すでに待ち構えていた彼女は、腕を組みながら余裕の表情を浮かべている。
「ごらんなさい。あたしの方はこんなにたくさん。とても一人じゃ数えられないわ」
「先ほど数えましたところ、三十四人でした」
彼女の横に立っている黒尽くめの男が答えた。多分、彼女の付き人なんだろう。
「全員、揃っております」
と言ったのは、彼女の隣に立つ、もう一人の黒尽くめの男。とりあえず、付き人Bということにしておこう。
「ごくろう」
彼女の言葉に、付き人Aが答える。
「さて、あなたの方は、何人いるのかしらね?」
先生に向かって、彼女が尋ねてくる。
「どうみても一人しかいないように見えます」
と付き人Bが、僕と先生を見て答える。
「聞きますところ、あの女に捕まった男はいないとのことです」
これは付き人A。
「あーら、勝負だいうのに、これはどういうことかしら。ま、お情けで隣にいる人も人数に入れてあげるけれど、それでも一人だけって言うんだったら、あたしの圧勝ってことかしらね」
「ふっ。負けを認めるわけにはいかないわね」
先生はあくまでも、余裕たっぷりに答えた。
「あら、負けを認められないとは、どういうおつもり?」
「このわたしが負けるわけはないってことよ。
こうなったら、この自爆スイッチを押して、全てをうやむやにしてあげるわ」
言うなり先生は、胸元からライターのようなものを取り出した。蓋を開けると、中からスイッチ見たいなものが姿をあらわした。
「このスイッチを押せば、わたしのあたり一面に仕掛けた爆薬が飛ぶのよ。
嘘だと思ったら、試してあげる」
先生がスイッチを押すなり、遠くの方から爆煙が沸き起こった。
慌てて振り向く白沢麻衣と付き人ABと、後ろにいる男の人たち三十四名。
「どうかしら?
さあ、次はいよいよ、ここの周りにあるスイッチを押すわよ」
先生の親指が、天を向いて、ゆっくりと降りていく。
ひいっ、という男たちの叫び声が上がったかと思うと、まわりにいた野次馬も含めて、わらわらと逃げていった。その中には、夏でも黒尽くめの付き人の姿も見える。
「先生っ、そんなことしちゃ駄目ですっ」
僕は慌てて走った。そして、すぐさま先生の手を掴み、スイッチを奪い取る。そして蓋を閉めて、とりあえずはスイッチを押せないようにした。
「いきなり何をするのよ!」
唯一逃げなかった麻衣さんが、先生に向かって叫ぶ。
「何って、勝負の本当の結果を見せてあげたのよ」
「本当の結果ですって?」
「そうよ。周りを御覧なさい」
先生は黒髪を掻き上げながら、落ち着いた表情を見せた。
「あなたの魅力で集めたって言う男たちは、一人もいなくなったでしょ。
でも、わたしの拓也君は、こうやってわたしを止めようとしたのよ。
つまり、あなたが集めた男なんて、所詮はうわべだけのものだった、ということよっ」
言って先生は、勝利の高笑いをした。
「主人が爆破されそうになったら、逃げずに運命を共にしてこそ下僕、って昔から決まっているのよっ!」
「そんなこと、いつ誰が決めたって言うのよっ!」
「そんなの、今わたしが決めたに決まっているじゃないっ!」
あっと言う間に前言をひるがえす永松先生。この態度を見ただけで、どっちが真の勝者なのか、一目瞭然だ。
「あたしは、負けた訳じゃないわっ! あなたが常識外れなだけよっ!」
麻衣さんが口にしたのは、事実上の敗北宣言だった。
「ふっ、その言葉、誉め言葉として取っておくわ」
誉めてないと思う……多分。
何はともあれ、実質負けを認めた麻衣さんは、どこかへと走っていき、後には僕と先生の二人だけが残された。
「先生。良かったですね。これで終わりってことで」
「あら、まだ終わっていないわよ」
先生は組んだ腕を解き、再び髪を掻き上げた。
「言ってたじゃない。『負けたわけじゃないわ』、って。
ってことは、わたしが今からどんな物理攻撃をしようとも問題なしっ!」
絶対問題あると思う。
「決着はこれからよ! 家に帰るまでが修学旅行の原理よっ」
何か良く分からないけれど、永松先生の中ではしっかりした筋道が出来ているんだろう。
「で、どうやって決着をつけようって言うんですか?」
「ふふふ、もちろん、これに決まっているじゃない」
そう言って先生が取り出したのは、毎度おなじみ幽体離脱マッシーンだった。
「これを使ってね……」
いかにも秘密の相談をするように、先生の小声が僕の耳をくすぐっていく。
「先生、本気(まじ)ですか?」
聞き終えた僕は、驚きながら問い返した。
「本気も本気。大本気。
本気と書いてナガマツケイコと読むのよっ!」
「読みません」
「ちなみに、本気と書いてモトキって読むと、人の名前みたいよね」
「なんなんですか、それは」
「それじゃあ、拓也君。さっそく準備をしましょう」
先生に促されるままに、僕と先生は別荘へと向かったのだった。

準備を終えてから、幽体離脱装置で体から抜け出した僕は、宙に浮かびながら白沢麻衣さんの姿を探した。
さっきと同じ場所にいた彼女の横には、夏でも黒服に身を包んだ付き人がいるけれど、今の僕にはそんなことは関係ない。僕は、彼女の背後から近づいていって、一気に体を重ね合わせた。
途端に、視界が狭まって、体中に空気が触れる感触が起こる。
「どうされましたか?」
一瞬、体が震えたことを察したのか、隣に座る付き人Aが声をかけてきた。
「ううん、なんでもないのよ」
「そうですか。どうしたのかと心配しましたが」
とは、付き人B。
「気にしないで。それより、一時間ほど出掛けてくるわね」
「どちらへ?」
たずねてくる付き人Aに対して、僕はちょっと考えてから、
「沖まで泳いでいるつもりよ」
と嘘をついた。こうしておけば、本当は永松先生がいる場所に行ったとしても、見つかることは無いだろう。
「そうですか。私どもはこのように黒尽くめのスーツのため、一緒に泳ぐことは出来ませんので、ここで見張っています」
付き人B(Aも含む)は、どうしてもスーツを脱がないつもりらしい。まあ、その方が僕にとっては好都合なんだけれど。
「じゃあ、行ってくるわね」
はい、という付き人Aの言葉を背に受けて、僕は先生のいる別荘へと向かったのだった。
そんなやり取りをしている僕の頭には、麻衣さんの意識が響いてくる。
(あら、あたしったら、どうして勝手に考えてもいないことをしゃべっているのかしら?)
先生が改良を加えたこの幽体離脱装置は、相手の意識を眠らせることが出来るんだけれど、今はその機能は使っていない。だから、僕が彼女に憑依している間中、彼女の意識が伝わってくることになる。
(付き人A,B。見ていないで、あたしの体を止めなさいよ!)
なんて、さっきのやり取りでは叫んでいたんだけれど、もちろんそんなことは、彼らに伝わるはずはない。僕が聞き流してしまえば、それでおしまいだ。
彼女の意思に反して、僕は足を進めて、先生が待つ別荘へと向かった。
(ここはどこなのよ。どうして勝手に入っていくの?)
彼女にしてみれば、知らない家に入っていくことになるんだけれど、そんなことはお構いなし。僕はリビングへと向かった。
「よく来たわね」
リビングに入ると、藤で組んだ椅子に足を組んで座る永松先生が、声をかけて来た。
先生の姿は、上半身には何も身に付けていないで、きれいなバストを見せつけるようにさらけ出している。
腰のところにはパレオが置かれていて、そこから伸びる両足にはガーターストッキングを、そして足にはハイヒールを履いている。
先生が『エマニエル夫人みたいな格好で待っているわよ』と言っていたのは、このことなんだろう。僕は、レンタルDVDで見かけた、「エマニエル夫人 無修正版」の文字を思い出した。<!--この行を書くために、ネットでエマニエル夫人の画像を探したり、下着販売サイトに行ってガーターベルトについて調べたりした。まったく、女性の下着描写をするのは面倒くさい。身近な女性に聞くというわけにもいかないし。-->
(どうしてあいつがここに?)
「ずいぶんと驚いているみたいね」
麻衣さんの考えを察して――と言っても、この状況では誰でも驚くだろうけれど――先生は両腕を椅子の肘掛に置いてから、言葉を続けた。
「あなたが自分の意思に反してここにやってきた理由。そう、それは本当はあなたがわたしの威光に屈服して、跪(ひざまず)きたいと思っているからよ。だからこうして、わたしの元にやってきた、というわけ」
(嘘よ、嘘よ。あたしはそんなことは思っていないわ)
「ちょっと言葉が足りなかったわね。正しくは、あなたの意思ではそうは思っていなくても、負け犬の本能として、勝者になびく、と言えば良いのかしらね」
(あたしが、負け犬ですって)
「その証拠に、あなたはどんなことがあっても、どんなに嫌だと思っても、わたしの命令には従うのよ。嘘だと思ったら、この部屋から出てごらんなさい。鍵はかけていないんだから」
(そうよ。こんな場所、すぐにでも出て行くべきだわ)
彼女はそう思っても、体を動かしているのは僕なんだから、もちろん一歩も動かない。
「ほらね。それがあなたの体の、あなたの本能の応えなのよ」
落ち着き払った先生の声を聞いていると、つい本当にそうなのかと思ってしまう。
「あなたの本当の心はね。ここに居て、わたしに奉仕をしたいと思っているのよ」
(奉仕って何よっ!)
先生の言葉に、麻衣さんが驚きの声を上げる。
「今のあなただったら、これを見ても逃げ出すなんてことはないはずよ」
立ち上がった先生が、腰に巻いたパレオに手をやって、ゆっくりと腰からはずしていく。(な、何よっ! それは!)
麻衣さんが驚くのも無理はない。パレオをはずした永松先生の股間から現れたものは、すっかり勃起した、男のものだった。
もちろん、最初っから先生に付いているものじゃない。なんでも先生の妹さんが持っている薬を黙ってもらってきて(奪ってきたとも言う)、さっき飲んでこういう状態になったのだ。
僕は永松先生から、この話は聞いていたから驚くってことはないけれど、いかにも女性って言う永松先生の体に、男のものがついているってのは、ちょっと戸惑ってしまう。でも、麻衣さんの意識を残したままで、あれを使ってエッチなことをして二人の優劣関係を思い知らせようってのが、今回の作戦だから、これも仕方がない。
……作戦って言えるかどうか、知らないけれど。
(ちょ、や。近づかないでよ)
嫌がる麻衣さんをよそに、先生はゆっくりと近づいてきて、僕の目の前に立った。麻衣さんの体は、僕に比べれば背が高いから、先生との身長差はあんまりないけれど、それでも見上げる格好になる。
「跪(ひざまず)きなさい」
先生が鋭く命じる。命令には従うように、と言われているので、僕は先生の前に膝立ちになった。
目の前には、ちょうど先生の股間があり、そこから生えている男のものがある。生えているのはペニスだけで、本来ならその下に垂れ下がっているはずのものはなく、代わりに一昨日から何度も見た、永松先生の女性のものが見える。
両性具有、という言葉でしか説明できない光景だ。
男としての僕のものよりも大きなそれは、小さく上下へと、ぴくん、ぴくん、と動いている。その間隔は、かなり短い。先生の鼓動の早さを、ペニスを通じて見せ付けられているようだった。
心臓がドキドキしているのは、僕も同じだった。
「さあ、奉仕しなさい」
そう言われても、いざ実行しようとすると、何をどうしてよいのか戸惑ってしまう。まずは触った方が良いのか、それともいきなり口にする方が良いのか……
「ほら、早く舐めなさい」
(嫌っ!)
頭の中に、彼女の声が響く。多分、自分の意志とは関係なく、先生の命令を聞いてしまうことを想像しているんだろう。そんな彼女に、少しは同情をしようかと思えてくる。
(何でこんな女に、そんなことしなくちゃならないのよ)
……こんな女ってのは、永松先生のことなんだろう。僕は、彼女への同情よりも、先生をこんな女呼ばわりされたことで、すぐさま行動を開始した。
口を開けて舌を伸ばし、先生の先端へと近づいていく。そして、舌先に柔らかいものが触れた。
(嫌よっ。こんなの、舐めたくないっ)
舐める度に、木の枝をはじいたように、左右に揺れては、下の場所に戻っていく。そんな動きを二、三回してから、今度は根元へ指を当てて動かないようにしてから、再び舌を伸ばした。
舌先に感じるペニスからは、味は伝わってこないで、ただ柔らかい感触だけが伝わってくる。アイスクリームでも舐めるつもりになってみるけれど、文字通り味気ない気持ちの中で、僕はだんだんと変化をつけるようにしてみた。
先端へ舌をつけたまま、ゆっくりと下に下ろしてから、亀頭の周りをぐるりと舐めまわしてみる。反り返っている上の部分は舐めづらいけれど、僕は先生の言葉に従って、ひたすら舐め続ける。
(こ、こんなのって……やだ)
嫌がる彼女の声を無視して、僕は舌先を裏筋に沿って這わせたんだけれど、途中で舌が渇いて張り付いたように動けなくなる。僕は舌を口に含んで唾液をまぶしてから、再度先生のペニスを舐め下ろした。目の前には、うっすら輝く唾液の跡が見て取れる。永松先生のものを僕が舐めた跡なのだと思うと、興奮が高まってきて、もっともっと舐めようと思えてくる。
根元までたどり着いてから、再び上へと舐め上げる。そして、亀頭を舐めているうちに、その先端から白い液体がわずかに出てきた。男の体の時におなじみの、先走り液というやつだ。
舌先で掬い上げると、ねっとりとした舌触りと、しょっぱい味覚が伝わってくる。
(やだ、汚い)
ちらりと見上げると、二つの乳房が見える。そしてその間から、永松先生が目を細めて、こちらを見つめている。先生が感じている気持ちは、僕にも良く分かる。
そんな先生を、もっと気持ち良くさせようと、僕は先生のものを口に含んだ。唇に、歯に、舌に、先生の固くて熱いものが触れてくる。
口に挿入をさせるように、まずは口の奥まで飲み込んでみた。亀頭が上あごの奥に触れて、そろそろ喉にぶつかるというところで、頭を引いて挿入されたペニスを引き出してみる。僕の口から出てきた先生のペニスは、僕の唾液で輝いている。
それから、もう一度口にくわえてから、今度は雁首のくびれに唇を重ねながら、舌先で先端を撫でてみる。
(いやよ。気持ち悪い。どうしてこんなことしなくちゃないけないの!)
頭の中には、男のものを口に入れさせられることで、永松先生に屈辱を感じている彼女の気持ちが伝わってくる。彼女にしてみたら、男に命令されるままに、自分の意志とは反してこんなことをさせられているんだから、そう感じるのは当然だろう。
でも、僕にはそんな気持ちは無い。むしろ、永松先生に、優越感すら感じていた。先生の敏感なものを口にして、思うままにしゃぶって、先生を気持ちよくさせる。先生の感覚を、僕の指で、僕の舌で、僕の口で自由に操っているかのようだった。
優越感を感じているのは、永松先生に対してだけじゃない。麻衣さんに対してもだった。女に命じるままに、男のものに奉仕をさせる、それが今の僕の立場でもあるのだから。
永松先生に対する女としての優越感、そして麻衣さんに対する男としての優越感、さらには彼女の心を通じて伝わってくる、女としての屈辱感、僕は一つの体で、まるっきり違う三つの感覚を同時に味わっているんだ。
「そうよ。そうやって舌と唇を使って、丁寧に舐めるのよ」
鋭い先生の声が届く。
見上げると、先生の顔には見下ろした表情が浮かんでいる。それは、目の間にいる相手を支配している顔だった。
先生は、男としての気持ちよさを感じると同時に、男として征服感を感じているんだろう。
そんな先生の気持ちを盛り上げようと、僕は言葉を返す。
「どうですか。あたしの舌と唇、気持ちいいですか? もっともっと、奉仕させてください。もっと、気持ちよくなってください」
「ん……気持ちいいわよ。あなたの舌、あなたの唇、あなたの表情」
僕の顎に当てられた先生の手に引っ張られて、僕は顔を上げる。その間にも、僕の右手は形をなぞるように先生のペニスを触り続けている。
「その手も、気持ちいいわよ。わたしのためにそんなことをしてくれるあなたを見ていると、ついこんなことをさせたくなっちゃったわ」
言葉と同時に先生の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。途端、僕の顔の両脇に先生の手が添えられ、そのまま口をペニスへと押し当てられる。
僕は慌てて口を開き、先生のものを受け入れた。
(嫌っ。そんな、無理矢理)
頭の中で、麻衣さんが叫ぶ。僕が体を操っているのとは違って、今回は永松先生に無理矢理に口に入れさせられたんだから、さっき以上に驚いているんだろう。
「もっと舐めなさい。あなたの口を性器みたいに動かして、奉仕なさい」
言いながら先生は、僕の頭をつかんで前後に動かす一方で、自分の腰も動かして、僕の口へと挿入運動を行っている。
口を大きく開けて、歯がぶつからないようにする僕の中へと、先生のものが入ってくる。
「ほら、舌を巻きつけて、口をすぼめて。わたしが入れているのは、あなたの口じゃないのよ。あなたのお○んこなのよ」
いやらしい言葉が先生の口から漏れる。僕は命令されるままに口を動かしてみて、そして想像する。僕の唇が、女の子の入り口になっていることを。僕の舌が、女の子の膣壁になっていることを。
先生のものが入ってくると、僕の唇が先生のものを撫でる。僕の舌が包み込む。先生のものが出て行くと、唇が先生の雁首を締め上げる。そして出てきたものは、僕の出した蜜で濡れて輝いている。
そんなことを感じていると、動きだけじゃなく感覚まで性器になったような気分になってきた。女性の口も性感帯って言うけれど、そういうことなのかもしれない。それに、股間の辺りも熱くなってきた。体の一部が僕の意思から独立して、こっちに入れて欲しいと自己主張をしているみたいだった。
刺激が与えられる度に、僕の口はますます敏感になっていく。先生の大きさ、先生の形がはっきりと伝わってくる。
その先生のものが、さらに大きく感じられた。頭に押し当てられた手にも力が入り、突き立ててくる腰の動きも激しくなっていく。
「口に出すわよっ。全部、飲みなさいっ」
言葉と同時に、僕の口へと先生のものが奥まで突き立てられた。そして喉の奥に、粘り気がぶつけられた。
うめき声と共に、先生の腰が僕の頭から離れる。口からペニスが抜かれ、後には先生が吐き出した精液だけが残っている。
「飲みなさい」
短く、鋭く命じてくる先生の言葉に従って、僕は頭を上げて、口の中のものを飲み込んだ。味を感じる間も無いままに、先生のものが僕の喉を通り、そして体へと流し込まれていく。
(いやよ。こんなもの、吐きたい)
彼女の声に逆らうように、僕は口の中に残る先生のものを舌先で舐め取っては、喉を通していく。
「ほら、こっちにも残っているでしょ。あなたの舌できれいにして、これも飲みなさい」
先生が腰を突き立てて、僕の口元へとペニスを押し当ててくる。ゆっくりと舌を伸ばすと、先端にしょっぱいものが触れた。さっきは先生の精液を飲み込む行為だとしたら、今度は先生の精液を味わう行為なんだろう。僕は舌を伸ばし、ぺろぺろと舐めては、舌を口へと入れて、そして飲み下していく。
「いいわよ。その表情。わたしの精液、そんなに美味しい?」
美味しいか、と聞かれても、そうは答えられない味だった。まずいって言うか苦いって言うか、変な味だった。でも僕は、
「はい。とっても美味しいです」
そう答えてから、顔をうっとりとさせて、先生のものを舐めつづけてみた。男のものをしゃぶって、精液を美味しそうに飲んでいる自分を想像すると、なんだか興奮してくる。
そうしているうちに、小さくなりかけていた先生のものが、再び大きくなってきた。
「あなたの顔を見ていたら、もう一度したくなっちゃったわ。
さあ、水着を脱いで、わたしに裸を見せてちょうだい」
――そんな、という麻衣さんの言葉が響くけれど、僕は立ち上がるなり水着を脱ぎ始めた。
(見、見ないでよ)
僕は、脱いだ水着を床に落として全裸になって先生の前に立ち、乳房も股間もさらけだす。
「裸にさせたんだから、何をするかは分かっているわよね」
目の前に、先生の顔が近づいてくる。僕の顎に手をやって、軽く持ち上げてから、僕と視線を合わせてくる。
先生の右手が、僕の肩に触れてから、腹の脇を這って、股間へと向かった。
「あら、これから入れようってのに、あんまり濡れていないわね」
先生はそう言ってくるけれど、アソコが濡れているのは、僕には良く分かっていた。分からないのは、どうして先生が、そんなことを言うかだった。
「ちゃんと濡らしておかないと、わたしのものは受け入れられないわよ。
だから、あそこでオナニーをしてみなさい」
先生は右手で僕の股間を触りながら、左手でベッドを指差した。
そうか、先生は麻衣さんにオナニーをさせることが目的だったんだ。そう納得した僕は、小さく頷いてから、ベッドへと座り、そして右手を乳房へと伸ばしていく。
「胸なんか良いから、それよりも、あなたのお○んこを触って、早く濡らしなさい」
「は、はい」
慌てて僕は、指先を股間へと伸ばした。指先に、粘液が感じてから、柔らかい女性の襞が感じられた。僕が股間から感じていた通り、そこはすでに、濡れていた。
「ん……」
指先が触れるなり、小さなため息が漏れる。さっきまでは口で奉仕していやらしいことばかりしていて、触ることが出来なかったから、その反動のせいか、初めて触ったばかりなのに、痛みも、くすぐったさも感じなかった。
僕はもどかしげに指先を動かして、一番敏感な場所、彼女のクリトリスだけを、執拗に触りつづけた。まずは被った皮の上から突いてから、今度は体の中へ押し当ててみる。指先が触れるだけなのに、僕の口からは声が漏れ、体が震え、両足に力が入る。溢れる粘液を中指で掬(すく)っては、クリトリスへと擦り付け、そして皮をむいて、敏感な部分を指先へとさらけ出す。精密に出来た女性の部分を、繊細な女の子の指が触る様子が、僕の間近で、僕の股間で行われている。特等席で女の子のオナニーを見せ付けられている。
「自分だけ楽しんでいたら駄目でしょ。わたしにも、見せて御覧なさい」
先生の鋭い声が届く。僕はベッドに腰掛けたまま両足を広げて、藤の椅子に座る永松先生へと向かう。
(そんなとこ、見せたくない!)
僕は、麻衣さんが隠そうとしている部分を、永松先生にさらけ出した。指先を股間にある穴の両脇に添えて、左右へと引っ張ると、小さな穴が出来た。
「見てください。あたしのここ、もうこんなに濡れています。早く、ください……」
僕の口から、女の子のいやらしい言葉が、艶(なまめ)かしい口調で漏れていく。
近くに鏡が無いけれど、僕がどんな格好をしているかは、全身から伝わってくる感覚で、はっきりと想像できる。すがるような上目遣いで先生を見つめ、興奮に荒れた呼吸に肩を上下させ、男の体を受け入れるために大きく左右に足を開き、そして男のものを導くために、両の指で股間を広げ、入り口へと誘っている。
それが、麻衣さんの姿でもあり、僕の姿でもあった。男の人のものが欲しくて堪らない、女の人の姿だった。
「あら、わたしの言ったことを覚えていないの。まだ濡れていないから、オナニーしてみなさい、って」
先生の言葉に逆らうことは出来ない。僕は、男のものが欲しくて堪らない体をなだめるように、指先を股間へと伸ばした。
今度はクリトリスじゃなくて、その下にある穴へと指を入れる。伸ばした人差し指は、すっかり濡れた入り口へ、するりと入っていく。クリトリスほど強烈ではないけれど、体の中から刺激される感覚は、男の体では味わえない、女性だけのものだった。でも、そんな感覚は、僕を満足させることは出来なかった。指だけじゃ、頼りなくて、物足りない。指先にまとわりついてくる僕の肉壁も、もっと太いものが欲しいと、指を引き込むように動いている。
いやらしい、僕の体の動き。でも、目の前に座る永松先生には、僕の中の動きを伝えることはできない。だから僕は、いやらしい表情を、いやらしい言葉を作ってみる。
「お願いします。欲しいんです。あたしのここに、先生のものを、下さい」
再び股間を両の指で広げながら、僕は先生に哀願した。
(あ、あたしも……欲しい……)
僕のオナニーに刺激されたせいか、聞こえてくる麻衣さんの心も、だんだんと嫌がる感じから、男のものを求める感じ、僕と同じ感じになってきたみたいだ。
(こんなこと言いたくないけれど、わたし、欲しい)
「こんなこと言いたくないけれど、わたし、欲しい」
僕は、頭に聞こえた彼女の言葉を、そのまま口にしてみた。
(あ、あたしったら、なんてことを言っているの)
「あ、あたしったら、なんてことを言っているの。でも、欲しくて堪らないの。体が勝手に開いちゃう。声が勝手に出ちゃうの」
後の方は僕が勝手に付け足しているんだけれど、今の彼女にはそんなことは分からない。さっきまでは意思とは違う言葉が出ていたのが、今は思った通りの言葉が出ているように思ってしまっているみたいだ。
そんな僕の様子に気づいた永松先生は、立ち上がって僕の目の前に近づいてきた。
「うふふ。ずいぶんと素直になったみたいね。これで、わたしとあなたの絶対的な優劣ってものが分かったでしょ。さあ、本当に欲しいんだったら、もう一度『下さい』って言って御覧なさい」
いつもの僕には見せることのない、鋭い目つき。それは、先生が僕ではなく、麻衣さんに向かってしゃべっている証拠だった。だから僕は、その言葉を口にしなかった。代わりに、クリトリスを軽く触って、乳房をわずかに持ち上げて、彼女をもどかしくさせていった。
(そんなこと、言いたくない。言いたくないけれど……)
必死に我慢する彼女の声が聞こえてくる。でも、いくら心で我慢をしても、体は完全に僕の支配下にあるんだから、指先の微妙な刺激から逃れることは出来ない。むしろ積極的に足を開いて、僕の動きを受け入れては、さらにもどかしさを高めていくだけだった。
(言いたくないけれど、欲しい……)
「言えないわ。『下さい』なんて」
僕は、麻衣さんの意思を揺さぶるように、そう口にしてみた。
「あら、そんなことを言うの。だったら、ずっとそうやって、中途半端な気持ちでいれば良いわ。残念ね、一言『下さい』って言えば、あなたが本当に望んでいることを、してあげるのに」
再び、先生が麻衣さんを責める。
(分かったわよ。言えばいいんでしょ……)
頭の中に、しばしの静寂が起こる。そして次に、
(下さい)
短く、はっきりとした彼女の声が聞こえた。
「下さい」
僕は、彼女の口調で、彼女の言葉そのままを口にした。いやらしさは感じられないけれど、はっきりと負けを認めたような、すがるような言葉だった。
「よく、言えたわね」
先生が腰を曲げて、僕に近づく。そして、僕の唇へとキスをした。触れるだけの軽いキスだけれど、僕の頭が痺れ、体から力が抜けていく。
(ああ……キスって、こんなに良かったの?)
口をふさがれた僕に代わって、麻衣さんが頭の中で言葉を漏らす。
「あなたに御褒美を上げるわ。うつぶせになって、わたしにお尻を見せ付けなさい」
ぼんやりとした頭で、先生の言葉に従う。僕と同じく麻衣さんも先生の言葉に逆らおうとはせず、体を動かそうとする意思が伝わってくる。
ベッドにうつぶせになると、これまで触れる事の無かった乳首が、シーツに擦れる。胸とシーツの間に柔らかい乳房が挟まっている感覚も、乳首が押し付けられて乳房にめり込む感覚も、女の子だけが感じられる感覚だった。いきなり感じる慣れない感覚は、いつも以上に刺激的だった。
でも、それ以上に刺激を感じるのは、持ち上げているお尻の方だった。腰を持ち上げて、わずかに足を広げると、開いた股間へと空気が当たってくる。太ももの内側を、僕の股間から湧き出た蜜が流れ落ちていく。まだ先生には触られていないのに、先生に見られていると思うだけで、乳首以上に感じてしまう。
「もっと足を広げなさい。お尻は見せつけるようにしなさい」
(そんな、恥ずかしい。でも、体が勝手に)
頭に響く彼女の言葉からは、嫌がる感じは伝わってこなかった。むしろ、自分の意志とは関係なく動く体に、任せっきりにしてしまいたいような感じだった。
「すごくいやらしい格好よ。あなたのお尻も、濡れたアソコも丸見えじゃないの」
(あたしの体が勝手にやっているだけよ。あたしは何もしていないわ)
「はい、あたしの体。すごくいやらしいです。だから、もっと見てください」
(あたしが言っているわけじゃないのよ。口が勝手に)
言い訳にしかなっていない、麻衣さんの声が聞こえてくる。
「うふふ。それじゃあ」
お尻の両脇に、先生の手が当てられた。途端、敏感になった僕のアソコへ熱いものが押し当てられたかと思うと、一気にずぶずぶと入り込んできた。
入り口が雁首で一杯に広げられてから、わずかに狭められる。亀頭の形が、敏感な入り口を通して、頭に浮かんでくる。中に入ってきたペニスの先端が、僕の体を突き進みながら、雁首のくびれは僕の中を擦っていく。どこまでも、僕の中に入ってくるかのようだった。
「ふぁっ!」
ずん、とした重たい刺激に、僕は弱々しい声を上げた。
「ほうら。わたしのものが、あなたの一番奥まで入り込んでいるのよ」
腰の動きを止めながら言ってくる先生の言葉とおり、股間からは、その奥にある大事なものに、先生の先端が押し当てられているのが感じられる。
「わたしのものを、あなたは受け入れているのよ。
お尻を持ち上げて、動物みたいな格好をして、わたしのものをすっぽりと飲み込んでいるの」
(動物みたいな格好だなんて)
麻衣さんの恥ずかしげな意識が伝わってくる。
「あなたなんか、メス犬みたいなものよ。本能に従って、男のものを受け入れるしか能のない、メス犬よ」
(あ、あたしが……メス犬……)
さすがに彼女も腹が立ったみたいで、叫びの声を上げようとするけれど、体も口も僕の支配下にあって、動くことはない。
「その証拠に、わたしのものが入っている場所、ぴったりとはまっているでしょ。あなたの体は、男を受け入れるために、作られているのよ」
先生の言う通り、先生のものは狙い定めたように、僕の中へと入り込み、体の中心へと向かっている。先生は動物みたいって言っているこの体位、動物がするぐらいだから、一番自然なセックスのスタイルなんだろう。
男が入れるための、女が受け入れるための格好。
まるで体の中に風船を入れられて膨らまされているみたいに、僕の中へと入った先生のものは、四方八方へと僕の股間を刺激する。
「それに、わたしは入れてるだけなのに、あなたの中って、ぴくぴく動いて、わたしのを撫でまわしてくるんだもの。それに、エッチなよだれも溢れつづけているじゃない。
本当、いやらしい体」
(……それは、体が勝手に)
体が勝手に動いているのは、麻衣さんだけでなく、僕にとっても同じだった。意識しないでも、アソコがひくひくと動いて、太ももに粘り気のある汗みたいなものが流れつづけているんだから。
「どうせ体が勝手に動いていると思っているんでしょ。でも、こんないやらしい体の持ち主なんて、よっぽど淫乱なんでしょうね。
あら、淫乱なんて言葉を言ったら、アソコがもっと締め付けてきたみたいよ?」
先生の言葉は麻衣さんに向けられているんだろうけれど、麻衣さんの体を操っている今の僕にも向けられているように思えてきて、なんだか先生に責められているような気持ちになってくる。恥ずかしいし、屈辱的だけれど、体はそこから逃げようとはせずに、むしろ求めていってしまう。
「淫乱なあなたのお○んこには、お仕置きをしてあげないとね」
言うなり、僕の中に入ったものが引き抜かれた。雁首のくびれを入るとき以上に感じながらも、空気が抜けていくような物足りなさを感じてしまう。
「どんなに感じても、声を上げちゃだめよ。声を上げたら、すぐに止めちゃうわよ」
再び、先生のものが入ってくる。さっきとは違って、それこそいきなり体の奥に押し込められる感覚が伝わってくる。
「ん……」
思わず声が出そうになるのを、僕はシーツを握り締め、歯を食いしばって耐える。体の奥に力強いものがぶつけられた次の瞬間には、先生のものは僕の入り口近くまで抜き出される。体中を持ち上げられては、突き落とされるような感覚だ。
先生の動きは、ますます乱暴になっていく。先端の突き当たる場所が体の奥だけから全体へと広がっていったり、奥に差し込まれたまま入り口のところを捏(こ)ね回されたりしていく。
「ふぁっ!」
僕は思わず声を上げてしまった。その途端、僕の体から、先生のものが引き抜かれて、股間に空洞が出来たみたいになる。
「あらあら、声を出しちゃ駄目って言ったのに。やっぱりあなたって、体だけじゃなく、心も淫乱なのね」
(違うわ。今はあたしの声じゃないわ!)
必死に否定する彼女の気持ちは、僕にも良く分かる。突然暗闇に放り出されたような、不安感みたいなものが、股間から伝わってくるのだから。
「でも、ずいぶんと欲しがっているみたいだから、もう一度チャンスを上げるわ。
いやらしい言葉で、わたしにお願いをしてみなさい。淫乱なあなたなんだから、そんなのは簡単でしょ」
(お願いします。いやらしいあたしに、入れてください)
「お願いします。メス犬みたいにいやらしいあたしのお○んこに、先生の大きくなったおち○ちんをいれてください。あたし、欲しくて堪らないんです」
麻衣さんの言葉を膨らませて口にしたけれど、彼女は否定をしようとしない。むしろ、思っていること以上に言えたことに、満足しているようだった。
「良く言えたわね」
再び、先生のものが入り込んでくる。抜かれて焦らされていた間を補うように、僕の体はさっき以上に敏感に、先生のものを感じようとする。
「良いです。先生のおち○ちん。太くって、熱くって」
「本当、あなたって淫乱ね。でも、あなたの体はこんなものじゃないわよ。もっともっと乱れさせてあげるわ」
腰に当てられていた先生の手が動く。わき腹とお腹を這ってから、先生のものが入れられている場所の、すぐ上へと伸びた。
「ああっ。そこは……」
「そうよ。あなたのクリトリスよ。どうしてあなたの体には、こんなものがついているのかしらね? 気持ちよくなるためにしか存在しない、こんなものが」
人差し指の先端で、クリトリスがわずかに突付かれる。気持ちよくさせられるよりも、むしろもどかしくさせられる動きだった。
「それは……あたしの体が淫乱だからです。あたしは、淫乱なんです」
自分の口から女の子の声で『淫乱』なんて言葉を漏らすと、すごいエッチな気分になってくる。淫乱なのは、彼女だけでなく、きっと僕もなんだろう。
「良く言えたわね」
言葉と同時に、先生の人差し指に力が入る。先生のものは股間に入ったままに、二箇所を同時に責められる。
敏感なクリトリスには、女の繊細な指先が当てられる。貪欲な膣には、男の力強いものが当てられる。
「凄いです。クリトリスも、お○んこも……」
喘ぎながらも、僕は必死に恥ずかしい言葉を口にしては、求めるように腰を振ってみると、先生の動きはますます僕を刺激していった。
バックで挿入されながらクリトリスを触られる感覚は、押さえ込まれて体を串刺しにされたままで、一番敏感な場所を触られているようだった。指先が触れる度に、背中を通って僕の全身へと電気が流れていく。思わず体がぴくりと動くと、体に入ってきている先生のものが動いて、さらに刺激を大きくしていく。
「あなたの顔、わたしに見せて」
先生の声に振り返ると、髪をなびかせ、乳房を揺らしながら僕に挿入を続ける先生の姿があった。
「あなたの顔、すごくいやらしいわよ。うっとりとして、とろけるようで」
「み、見てください。あたしの顔、もっと見てください」
僕は両腕で体を持ち上げてから、腰を捻って、先生に顔を見せつけながら、目を細め、口をだらしなく開けて、先生が見たい表情を作ってみる。自分の顔を僕は見ることが出来ないけれど、先生がそれを見て興奮してくれれば良かった。
僕の顎に、先生の左手が当てられた。押し出されるままに頭を右へ捻ると、僕の目の前に先生の顔が近づき、僕の唇へ先生の唇が押し当てられる。柔らかい唇同士が触れ合ってから、ねっとりした舌同士が触れ合っていく。
クリトリスへの刺激はなくなってしまったけれど、先生の挿入は続いている。体の奥に男のものを突き入れられながら、女同士の柔らかいキスを続けていく。
「ふぁっ」
触れ合っていた口を離して声を上げてしまったのは、先生の左手が胸へと伸びたからだった。胸自身の重さに引っ張られていた乳房が下から持ち上げられ、鷲づかみにされる。荒々しい男の欲望に従った、激しい動きがだった。
「おっぱい……激しくて……男の人みたい」
僕は先生を興奮させようと、激しい動きを求めていく。
「あら、わたしのどこが男だって言うのよ。わたしが男だったら、あなたの背中にこんなものが当たるかしら?」
僕の背中全体に押し当てられた柔らかいもの、それは永松先生の乳房だった。柔らかいスポンジで背中を擦られるような感覚に、僕は先生の乳房の大きさを、身をもって感じてしまう。
「ねえ、分かる。わたしの乳首、あなたの背中に当たっているのよ。あなたを滅茶苦茶にして興奮してすっかり固くなっているから、良く分かるでしょ」
僕の乳房にかぶせられた先生の手に力がますます入り、より力強く先生の乳房が押し当てられる。先生の乳首を感じようと背中に意識を向けると、背中の敏感さが増して、先生の乳房をさらに感じられるようになってきた。単純に、先生の乳房を感じているんじゃない。女の体にとって背中も性感帯って言うんだから、僕は性感帯で先生の乳房を感じているのだった。
女の性感帯で感じる、女の乳房。
「はい。あたし、感じています。背中で、先生の乳首、感じています」
「うふふ。背中で感じるだなんて、本当にいやらしいのね。それじゃあ、あなたが一番感じる場所を、攻めてあげる。あなたが、男のものを一番感じる場所をね」
腕の付け根が掴まれ、僕の上半身が持ち上げられる。体の重心が後ろへと移り、僕の体に挿入されていた先生のものへと、深々と突き刺さる格好になった。
「はうっ!」
両腕を掴まれ体を起こされる不安定な状態の僕へ、先生は激しいピストン運動をしてくる。僕を支えるのは、先生の腕と、ペニスだけだ。
腕を引っ張られると同時に先生の腰がぶつかってくる。体を前へ押しやられると同時に、先生の腰が後ろへ下がり、抜ける直前で再び僕の体が引き込まれる。
先生が動くたびに、僕の胸元では乳房が激しく揺れる。腰の動きに合わせて持ち上げられると一瞬、乳房から重みが消えたかと思うと、次の瞬間には左右へと引っ張られ、大きく膨らんだかのようになる。引き戻されると再び重みが消えてから、今度は下へと引きおろされる。まるで、目に見えない大きな手で、僕の乳房がこね回されているかのようだった。
股間からは、ぐちゅぐちゅという音が聞こえてくる。粘液を流しつづける僕の股間を、先生のものが入り込んでかき混ぜている音だ。そこから溢れた蜜は、僕の内股を伝って流れ落ちていく。何本もの小さな指先が、僕の敏感な場所をなぞりおろしているかのようだった。
僕の体の動きは、永松先生に支配されていた。体だけでなく、心も。
「お願いします。もっと激しく……」
(そう、あたしに、もっと……)
だんだんと、僕の意識がぼんやりとしてきた。先生に腰を突かれている感覚は、さっき以上に敏感に感じているんだけれど、それが当たり前の状態のように思えてきた。こうやって、先生からエッチなことをされることが、自分にとって当然というように。
先生が僕に与えてくれる感覚だけが、僕を包み込んでいく。僕は、先生の動きだけを感じていれば良いんだ。自分を空っぽにして、先生を受け入れれば、先生はもっと凄いことをしてくれる。
「そろそろイクわよ。あなたの中に出すから……受け入れなさい」
(はい……)
僕と同様に麻衣さんも先生の言葉に頷いて、先生が出してくるものを待ち構える。
さっきまで以上に腰の動きが激しくなる。激しさに意識が遠くなり、そして激しさに意識が呼び戻される。
「イクわよっ。あなたも……イっちゃいなさい!」
僕の両腕が引かれ、先生の腰の動きが止まる。深々と差し込まれた先生のもの先端が、僕の中で膨らむのが感じられる。体の奥にある入り口を、こじ開けられたかのようだった。
「ああぁっ!」
叫び声を上げたのは、僕の中へと先生のものが、さらに入ってきたからだった。先生が僕の中で吐き出した精液が、ペニスでも入ってこれない場所へと、ぶち撒かれる。その感覚は、精液が体の中に染み込んでいくかのようだった。
「あはぁ……」
ため息を漏らしつつ、僕は先生のものがピクピクと動いて、僕をさらに刺激しつづけているのを感じた。
体中に、心地よい脱力感が広がっていく。前へ崩れ落ちそうになっていく僕を、永松先生が引っ張りあげてきた。さっきみたいに、僕の両腕を掴むのではなく、僕の胸元へと手を伸ばし、体を包み込むように、抱きしめてくれる。
僕の背中に当たってくる、大きくて柔らかい先生の乳房は、今は優しいものに感じられる。
胸に当てられていた手が僕の顎を捕まえる。僕は、先生の手に動かされる前に自分から顔を後ろへ向けて、先生とキスをする。
男の体と違って、女の子の体って、イった時の感覚が体の中に残りつづけていることを、僕は先生に抱かれながら実感している。女の子の体で先生とエッチをして良かった、と思う。
先生の唇が、僕から離れた。
「さっきはいやらしいことを言ったり、言わせちゃったりして、ごめんなさいね」
「え……」
突然の言葉に、僕は戸惑う。
「でも、これも愛し合い方の一つなのよ。相手に身も心も任せるって言う」
「先生……」
「こういうのも、たまには良いでしょ?」
永松先生の言う通りかもしれない。僕は、さっきまでの先生とのエッチを思い浮かべながら、先生がしてくれることを受け入れていく気持ちよさを思い出していた。
そして、僕は頷こうとすると、
(はい、永松様)
僕より先に、麻衣さんが先生の言葉に同意したのだった。

いろいろとあった海水浴だけれど、僕と永松先生は、その日の夜の電車で、東京へと戻ることになった。
「拓也君。わたしとの海水浴、楽しかった」
「楽しかったって言うか、いろいろあったって言うか……」
「あたしは楽しかったですわっ」
僕と先生の前の座席に座る白沢麻衣さんが、そう答えた。
「また、永松様と来たいですわ。いえ、海と言わず永松様が行く所でしたら、どこへでもお供いたしますわ」
どうして彼女が僕たちと一緒にいるかと言うと、エッチの後の先生の言葉にすっかり心酔してしまったからだそうだ。
先生の魅力が認められたってのは良いけれど、このままこんな状態が続くとしたら、ちょっと心配。
今の僕に出来ることは、今回の件に永松先生が味を占めて、麻衣さんみたいな人を屈服させていく旅に出たりしないことを祈るだけだった。