サクラ大戦

変身奇談 帝都桜花狂乱

 

 みなさま、本日はようこそ、この大帝国劇場にお越しくださいました。厚く御礼申し上げます。え、わたくしは、何者かと。わたくしは、米田支配人の下、副支配人をおおせつかっております藤枝かえでの姉、あやめでございます。葵叉丹との戦いで、肉体は失いましたが、魂魄となって、米田指令といっしょに育てた帝国華撃団花組の彼女達のことが気になってここに留まっているのです。彼女達は、わたくしの娘、いえ、かわいい妹達なのですから。

 さて、きょうは、皆様とご一緒に、この大帝国劇場の中を探検してみたいと思います。降魔大戦も一応決着がつき、平和が訪れ、彼女達も歌劇のほうに気持ちを向けられるようになりました。きょうは、新しいお芝居の稽古が始まっているようです。

 まずは、めったに見られない舞台裏に行って見ましょう。おやおや、楽屋から何か、声が聞こえてきましたよ。

「サクラさん、あれはなに、あれでは、わたくしが、馬鹿みたいじゃありませんか。」

「すみません、すみれさん。わたしが悪いんです。」

「そうよ。あなたが悪いのよ。」

 あらあら、すみれさんが、サクラさんを怒っているわ。でも、ケンカになったら大変だわ。ちょっと、楽屋を覗いて見ましょう。

「サクラさん、あなたが、おかしな演技をするとそれは、わたくしの演技と思われますのよ。そこのところ、気をつけていただかないと、わたくしが、迷惑しますわ。」

「すみません。」

「すみません。すみませんて、あなたはそればっかりじゃありませんか。もうわたくし、知りません。」

 え、叱っているのは、こじきの衣装のサクラさんだし、謝っているのは、すみれさん?これどうなっているの。

「もういいかげん。わたくしの顔で謝るのおやめになって。わたくし、気分が悪いわ。」

 そう言って、サクラさんは、自分の顎のあたりに手を当てて、きゃ、顔の皮がめくれた。サクラさん、なんてことを・・・

サクラさんの顔の皮は徐々に捲れて、そして、筋肉と血管だけになった恐ろしい顔が・・・・と思いきや現われたのは意外にも、すみれさんの端整な顔。

 「さあ、あなたも、そのマスクを早くお取りなさい。わたくしの、そんなにびくついた姿などみたくありませんわ。」

 そう言われて、もう一人のすみれさんは、同じように顎に手を当て、顔の皮をめくり、そして、その下から現れたのは、サクラさんのかわいい顔。

 「ふん、しっかりと練習をなさることね。わたくしほどにはできなくても、それに近いくらいにはなってもらわないと、あなたにこの役降りてもらいますからね。」

 「はい、がんばります。」

 「あたりまえですわ。ほんとうに。わたくし、先にあがらせていただきます。失礼。」

 そういうと、すみれさんは、サクラさんの髪型そっくりの鬘を取ると、鏡の前におくと、楽屋を出て行ってしまた。

 「おつかれさまでした。」

 出て行くすみれさんに、ふかぶかと頭を下げると、サクラさんは、倒れるように椅子に座りこみ、顔を伏せて泣き出してしまった。

以前より強くなって、人前では決して涙を見せない子だけど、緊張の糸が切れたのね。

 『サクラさん、元気を出して。がんばりやさんのあなたなら、きっとできるわよ。』

 「ありがとうございます。あやめさん。あやめさん?」

 サクラさんたら驚いて当たりをきょろきょろとみているけど、私に気づいてないようね。いくら彼女でも、魂魄のわたしは見えないでしょうから。

さて、今度のお芝居はどんあのかしら。台本をこっそり覗いて見ましょう。

 『フェイク? 乞食と王子を元にしたお話で、女乞食とわがままな王女が魔法で姿が入れ替り、お互いの気づかなかった苦労を知り、深い友情で結ばれるというお話で、早変わりの代わりに、月組が、潜入工作をするときに使用しているゴムマスクを被ることによって、一瞬の入替りを可能にする。』

なるほどそう言う仕掛けなのね。その上ケレンの好きな江戸川先生らしく、二人にお互い相手の姿のままで演技させ、千秋楽で、入替りの秘密をお客様に種明かしするつもりなのね。面白そうだけど大変ね。もう、本当に困った先生だわ。

 それじゃあ、入替ったあとは、すみれさんの顔をしたサクラさんが、王女を、サクラさんの顔をしたすみれさんが女乞食の役をするのか。ああ、ややっこしい。これで、さっきのすみれさんの言った意味がやっと理解できたわ。

 あら、サクラさん。すみれさんのマスクと茶色の鬘をつけて、ふらふらと舞台の方へ歩いて行くわ。いつものサクラさんなら心配ないけど、今のあの子は少し様子がおかしかったから心配だわ。後をつけてみましょう。

 すみれさん、いえ、サクラさんは、ふらふらと舞台に上がっていくわ。おや、お芝居を始めたわ。

 「わたしは、どうすればいいの。わたしの姿は変わってしまった。だれもわたしを、フローレンスだとわからない。わたしは、本当にどうしたらいいの。」

 まあ、サクラさんたら、いつの間にか、せりふがうまくなって、わたしは、なんだかうれしくなってしまう。

 これならサクラさんはもう心配ないわね。

 さて、他のみんなの様子を見に行こうかしら、そうだ、まずは、わが愛しい妹のかえでのところへ行きましょう。

 え〜と、あのこの部屋は・・・ここね、かえでの部屋は。あの子はいるかしら。ん〜いたいた。机に向かって何かしているわ。

 『姉さん。みんな、しっかりとやってくれています。わたしを姉のように慕って・・・

 わたし、姉さんがいなくなったことはさびしけれど、あの子たちのためにも頑張って、この帝劇を盛り上げていくつもりです。だから、姉さん。心配しないでね。・・・』

 まあ、わたしへの手紙だわ。ありがとう、わたしも安心したわ。あの子達の様子をみたらよくわかるもの。

 かえで、大変だけど頑張ってね。

さて、次はだれのところにいこうかしら・・・おや誰か駆け込んでくるわ。

「かえでさん。いますか。」

 ドアの外で誰かが、かえでを呼んでる。

 「だれ。どうしたの?」

 「すみれさん、いえ、サクラさんが大変なんです。」

 かえでが、ドアを開けるとそこには真っ青な顔をしたかすみさんが立っていた。いつも、落ち着いた彼女がこんなに慌てているなんてどうしたのかしら。

 「かすみさん。どうしたの。」

 「はい、サクラさんが、舞台の奈落に落ちて怪我をしたのです。」

 「それで、サクラさんは?」

 「はい、劇場内の見回りをしていた大山さんに担がれて病院に行っています。」

 「判ったわ。米田支配人への連絡をお願い。わたしも、病院に向かいます。で、何処なの病院は?」

 「はい。銀座第一病院です。」

 行き先を聞くや否や、かえでは部屋を飛び出していった。わたしも彼女が心配だわ。病院に行ってみましょう。

 

 こんなとき、魂魄のわたしは便利ね。すぐに病院に着くことができるから。

サクラさんは、外科病棟の一室で、足を吊り上げられてベッドの上に寝ていた。その横に大神君が心配そうに付き添っている。お似合いなんだけどな、この二人。

 サクラさんは、すみれさんのマスクは取っていつもの自分の顔に戻っているけどでも、シュンとしているわ。

 「お、ここだここだ。お〜いみんなここだぞ〜〜。」

 この大声はカンナね。

 「ここは病院よ。もっと静かにしなさい。」

 「そうですわ。もうだから、常識のない人は困まりますわ。」

 「じょうしきのないひとはこまりますわ。か、わるかったな、常識がなくて。」

 「ええほんとうですわよ。一緒にいるわたしたちの常識まで疑われますことよ。」

 「もう、すみれも、カンナも止めなさい。ここは病院で、夜中なのよ。」

 「ねえ、さくらは大丈夫なの。」

 「大丈夫や。足をくじいただけやて隊長はんがゆうてはったから。ほないこか、アイリス。」

 「うん。」

 ドアが開き、懐かしい顔ぶれがドアの向こうから現れた。あの激しい戦いの中よく無事でいてくれたわ。

 さっき見た顔なのになんだか、わたしの目に涙が溢れてきちゃった。

 「よお、サクラ元気か。」

 「元気じゃないからここにいるのでしょう。もう、サクラさん、あなたって人は・・・どうするの。こんなになって舞台ができないじゃないの。」

 「すみれ、いまはそんなことを言っている場合じゃないでしょう。隊長様態はどうなのですか。」

 「うん、くじいた時に足の筋をひどく痛めたらしくて、2週間は動けないそうだ。」

 「2週間て、舞台は一週間後やで、こりゃ大変やわ。」

 「サクラ、いたくない。」

 サクラをそっと覗き込むアイリスにサクラはやさしく言った。

 「ありがとうアイリス。もう痛くはないわ。」

 「さあ、みんな、サクラの無事な姿を見たら安心したでしょう。もう帰るわよ。」

 まだがやがやと騒いでいるみんなを外に押し出しと、マリアは大神君に言ったの。

 「隊長はどうされます。」

 「いま担当医と話しているかえでさんが帰ってきたら付き添いを変わってもらって劇場にもどるよ。」

 「ハイ、それではそれまで、サクラの事をよろしくお願いします。」

 そう言うと、マリアは出て行った。

 「大神さん。ごめんなさい。私がどじなばっかりに・・・」

 「ああ、たしかにどじだな。ぽっかり空いた奈落に落ちるなんて、危なく死ぬところだったんだぞ。」

 「ごめんなさい。」

 「でもよかった。足をくじいただけで・・・」

 「大神さん。」

 うふっ、ここは二人だけにしてあげましょう。あら、もうこんな時間。わたしも戻らなくては・・・・

 

 翌朝支配人室では、大変な事になっていたの。

 「どうするかだな、サクラの代理およ。」

 「米田さん。あの台本はサクラ君をモデルにかいとるんじゃ。ほかのものに代理は無理だ。」

 支配人室のテーブルには、米田支配人と、演出・脚本の江戸川先生、大神君に、マリア、それに月組の加山君までいるわ。

 「支配人。代理は無理です。花組は全員舞台に出てますし、かすみさんたちも、前売りが予想以上にいいので、お客様の対応にいそがしいと思います。」

 「となると、誰もいないか。」

 そのときまで黙って聞いていた加山君がつぶやいた。

 「大神もいそがしいのですか。」

 「大神か。ああ、雑用でな。」

 「じゃあ、ほかの者でもできるのですね。」

 にやつきながら大神君を見る加山君の視線が気になるわね。

 「加山、なにがいいたいのだ。」

 「まあまあ、大神そう熱くなるなよ。月組もこの舞台には協力しているのだから、どうしても成功させたい。ところで、米田支配人。ちょっとお耳を、それに、江戸川先生もこちらにいらしてください。」

 加山君は、二人を部屋の隅に呼ぶとなにやらこそこそと話し始めた。そして、話が終わると3人ともにやりと笑って、大神君を見たの。

 その薄気味悪さにわたしは気味悪くなって思わず表に飛び出したけど、そのあとすぐに、大神君とマリアの驚嘆の声が上がって、大神君は部屋を飛び抱いてきたの。

 「待てよ大神。」

 「話にならん。俺は、仕事に戻る。」

 「大神。」

 その後を追い掛けかけた加山君を止めたのはマリアだった。

 「わたしに任せてください。」

 そう言うとマリアは、大神君の後を追っていった。

その日の夕方、大神君は特別指令で、加山君と一緒に花やしき支部へ出て行ったの。

 

 3日後の朝、すこし足を引きずりながらサクラさんが劇場に帰ってきたの。だけどそんなサクラさんを出迎えたのはカンナひとり。実は、カンナは、ほかのみんなと舞台で早朝から練習をしていたのだけど、カンナは練習中におなかが減り、こっそりと朝食を取るつもりで抜け出したの。

 「おお、サクラ。もう足はいいのか。」

 「あ、カンナ・・・いや、はい、カンナさん。無理をしなければ、舞台に立ってもいいとお医者様がおしゃいましましたので。」

 「カンナ?おしゃいましました?サクラ、お前、頭も打ったんじゃないのか。」

 「だいじょうぶだよ。いえ、ですよ。さあ、おけいこおけいこ。」

 ちょっとおかしなサクラさんの後姿を、カンナはしばらく不思議そうにみつめていたけれど、おなかが減っていたのを思い出して、食堂へと走っていったわ。もうカンナらしいわね。

 サクラさんは、食堂へと急ぐカンナの後姿を見送りながら自分の部屋へ歩いて行ったの。ドアを開け、おそるおそる、部屋の中を覗き込みながらそ〜と、入っていったのよ。そして、ベッドの上にどっかりと腰をおろし、ごろんと横になると部屋の天井をじっと見つめだしたの。

 「これからどうしよう?」

そんなことを呟いていたけれど、よっぽど疲れていたのかいつの間にか眠ってしまったわ。かわいい・・・ん?いびき?あら、サクラさんイビキをかくのね。

「サクラ、サクラ。」

しばらく眠っていたサクラさんは、自分を呼ぶ幼い声に目を覚ましたの。声のするほうに顔を向けるとそこには金色の髪をした西洋人形のように可愛い女の子が心配そうに覗き込んでいたの。そして、いつの間にか部屋の中はすっかり暗くなっていた。

「あ、アイリス。」

「まだ、足痛む。おまじない掛けてあげようか。」

「ありがとう。もう大丈夫よ。疲れていたので眠ってしまったのね。もう大丈夫よ。」

青い目を潤ませて心配そうにサクラさんを見つめるアイリスに優しく微笑みかけて、その頭を撫でたの。

「あは、サクラ、まるで、お兄ちゃんみたいだ。」

「お兄ちゃん?」

「うん、大神のおにいちゃん。」

サクラさんはそう言われて驚いたような顔をしたの。そうよね、大神君と言われては誰でも驚くわよね。

「てへ、ごめんね。へんなこといちゃって、撫で方がお兄ちゃんに似ていたから・・・」

「そうやで、アイリス。サクラはんがこまってはるわ。おかえり、サクラはん。」

アイリスの後から顔を出したのは、緑のチャイナドレスを着た紅蘭だった。

「うちら、サクラはんを迎えにきたんや。みんなまっとるで。」

「さあ、サクラ行こう。」

「一体何処へ?」

二人に誘われて、戸惑うサクラさんは困惑しているの。そんなサクラさんを二人は部屋の外へと連れ出していった。

「ど、どこへ?」

「おふろで〜ス。乙女は清くうつくしくなければなりませ〜ン。昔から言いま〜ス『掃き溜めにフラミンゴ』」

廊下に立っていた深紅のドレスを着た黒髪のラテン系の美少女が甲高い声で言った。

「それは、『掃き溜めに鶴』や。でも使い方が違うで。」

「ノ〜プログレム。問題ありませ〜ン。通じればいいので〜ス。サクラさん、大丈夫ですよ。」

そう言うと少女は、そういうと三人を残し、すたすたとあるいていったの。

「だれ、あれは?」

サクラさんは、紅蘭にそう聞いた。ほんと誰かしら?

「あれは、今日入隊してきたソレッタ・織姫。星組から来たんや。」

「そうなの。」

そして、三人はみんなが待つおふろばへと向かったの。

三人は途中で出会ったカンナと一緒に階段を降りて、浴槽の横の更衣室へと入っていった。サクラさんはまだ、足が完全ではないので、カンナがお姫様抱っこして2階から連れてきたの。さすが、カンナだわ。脱衣場の床の上にサクラさんを優しく下ろしの。

「さあ、風呂に入ろうぜ。サクラ、脱がせてやろうか。」

「いや、カンナ・・・さん。大丈夫。自分でできる・・わ。」

「そう、それじゃあ、先に行ってるぞ。」

カンナは、さっと着ていた服を脱ぐと肩にタオルをかけて浴槽へと入っていった。カンナって筋肉質に思われがちだけど結構引き締ってスタイルいいのよねえ。あれで、がさつでなければ・・・でも、それがカンナらしいところだけどね。

「サクラ、はやくはいろうよ。」

アイリスもすでに裸になっていた。その姿は生き人形のようにかわいいわ。

「サクラはん、はよ、脱ぎいや。」

陶器の中国人形のように白い肌で綺麗な紅蘭が、長く三つ網した髪をほどいて胸までたらしていたの。

「ちょっと待って、すぐに行くから。」

サクラさんは、二人のほうを見ずに脱衣棚を見たままで、もじもじしていた。

「ほな、中で待ってるさかい。はよ来てや。うちらさきに行こか、アイリス。」

「うん、それじゃ、サクラ待ってるよ。」

紅蘭とアイリスは、一緒に浴槽に入っていった。脱衣室の残ったサクラさんは着物を脱ぐ様子もなく、ただそこに立ちすくんでいた。

「どうしよう。ばれたら・・・たいへんだし・・・」

サクラさんたら、なにをぶつぶついってるのかしら?そんなときに、あのにぎやかなラテン少女が更衣室に入ってきたの。

「サクラさ〜ン、なにしてるのですか。さっさと風呂はいるで〜ス。」

サクラさんが脱衣棚の前で戸惑っていると、その子が、そっと後ろに立って素早くサクラさんが着ていた着物を脱がせてしまったの。

「え、え?」

「サクラさ〜ン。いい身体してますね。これを隠すなんて、『頭隠して尻丸出し』で〜ス。」

相変わらずあけのわからないこといってるわね。この子。

「やめてくれ〜。」

「さあ、触ってごらんなさ〜イ。」

そういいながら、サクラさんの手を取ると、形よく膨らんだ胸に手を添えさせて、その上からもみだした。

「どうです。きもちいいでしょう。」

「あ、ん、ん、ん〜〜〜、や、やめて・・・お、おかしくなる〜〜〜。」

「下のほうもきもちいいで〜ス。」

そういって、胸をつかませていた右手を下のほうに動かして、花園を摩らせたの。もう、なんて子かしら、見ているわたしのほうが、恥ずかしくて、顔が火照ってきたわ。この子にいいようにあしらわれていたサクラさんは、顔を真っ赤にして、恥じらいながらも悶えだした。

「サクラさん。もう、あなたは女の子なのですよ。」

「う、う、う〜〜ああ〜〜〜〜ん。」

サクラさんは赤い顔をして恥らっていたの。浴室では、アイリスや紅蘭たちが騒いでいて、サクラさんの声は聞こえていなかったみたい。

「うふふ、もう元には戻りたくなくなるわよ。」

彼女は、意地悪そうな笑顔を浮かべて、真っ赤になってしゃがみ込んでしまったサクラさんを見つめた。そして、着ていた自分の服を脱いでしまうと、そのみごとなスタイルをあらわにしたままで、床にしゃがみ込んだサクラさんの後に坐ると、包み込むようにサクラさんをだきこんだの。

「サクラ〜。」

アイリスは浴室から顔を出すと、サクラさんと、織姫さんのそばに駆け寄った。

「サクラはん。」

紅蘭も浴室から顔をのぞかせたの。

「サクラ、どうした。やい、織姫。おまえ、サクラになにしやがった。」

脱衣場の異常さに気がついたカンナが浴室の中から今にも飛び掛りそうになったのをマリアが後から抱きとめた。

「カンナ、やめなさい。でも、たいちょ・・・・いえ、サクラはどうしたの。」

「わかりませ〜ン。ちょっと、サクラさんの身体を触っていたら、顔を赤くしてしゃがみ込んでしまいました。」

そういいながら、織姫は、派手なボディランゲージをしながら浴室に入ってきました。

「サクラ。いこう。」

サクラさんは、からだにタオルを巻いて、まだ顔を赤らめながら、アイリスに手を引かれて、浴室へと入ってきました。でも、まだ、顔を伏せたままでした。サクラさんが湯船に近づいた時、まだ何かわめいていた織姫さんがそっと後ろに回ってサクラさんの背中を押したの。サクラさんはバランスを崩して湯船の中に落ちそうになったのを、マリアが前に立ちはだかって、倒れてくるサクラさんをしっかりと抱きとめたのだけど、抱きとめた時、手を滑らせて、サクラさんの頭は、マリアの大きな胸に埋まってしまったの。サクラさんは何が起こったかわからない様子で、頭を左右に振ったの。サクラさんの頭に胸を摩られて、マリアは思わず声をあげたの。

「や、やめて、たいちょ・・・・いえ、サクラ。あああ〜〜〜ん。」

声をあげてマリアがさらにサクラさんの頭を胸に押し付けたの。サクラさんは今の状況が理解できないようだったけど、自分の顔に押し付けられたやわらかいものに気がついたとき、噴水のように鼻血を噴出したの。それに驚いたマリアが手を離すと、サクラさんの血で真っ赤に染まった湯船の中にばったりと倒れて、大きく目を開いたまま、倒れてしまったの。

「大変、紅蘭は、そこのとを開けて、アイリスは、タオルを持って来てたい・・・いえ、サクラの身体にかけて、カンナは、サクラを部屋まで運んで。」

マリアは、そのことに驚きながらも、冷静にその場を指揮したの。さすがに、みんなのリーダーだわ。

「それでは、わた〜しが、つきそいま〜ス。」

織姫はまるであたりまえのことのようにそう言ったの。

「それは、まずいわ。こうなったのはあなたも関わっているのよ。」

マリアは、織姫にそういったが、織姫は聞く様子もなかった。

「皆さんは、あしたも、稽古がありますが、わたくしは大丈夫で〜〜ス。『備えあればうれしいな〜。』で〜ス。」

「それは・・・そうね、おねがいするわ。」

「おい、マリア。付き添いならおいらがしてやるよ。」

「わたしもする。」

「カンナ、アイリス。ありがとう。でもあなたたちは、あすも、舞台稽古があるでしょう。ここは、今回参加していない織姫にお願いするわ。いいわね。」

マリアの有無を言わせない強い言葉に二人は黙ってしまったの。

サクラさんの身体をタオルで包むと、カンナは、サクラさんを抱きかかえ、部屋へと運んでいったの。その後を織姫がついていったわ。

階段を駆け上り、カンナがサクラさんの部屋のベッドにサクラさんを下ろすと、織姫は、カンナを部屋から押し出し、部屋のカギを閉めてしまった。

それに気がついたカンナはドアを壊れん限りに叩いたの。

「おい、どういうつもりだ。ここをあけろ。やい、こら。」

でも部屋の中からは、何の返事もなかった。気になるわね。ちょっと中に入ってみましょう。ごめんなさいね。

おや、サクラさん以外に誰かベッドにいるわ。え!まさか、織姫さん。サクラさんとそんな。

部屋の中で、織姫さんとサクラさんは、愛し合っているの。そして、織姫さんたら、なにかサクラさんにささやいているわ。

「あなたはサクラ。神宮寺サクラなのよ。」

それを、繰り返し、サクラさんの耳元でささやいている。織姫さんがこんな人だったなんて。もう、しらない。

「ぼ、ぼく・・・わたしは、サクラ・・・」

 

 それから一週間。多少の台本の手直しはあったけど、舞台の初日を無事迎える事ができた。

 ちょっと動きや台詞回しがおかしなところはあったけど、何とか舞台の千秋楽を終えて、みんなホッとして、楽屋に戻ったのよ。

 そこに、椿ちゃんが、みんなに支配人室に来るように呼びにきた。カンナたら、ご褒美だ、ご馳走だっておおはしゃぎ。みんな何事だろうとぞろぞろと支配人室に入って、自分の目を疑ったわ。

 そこには、米田支配人と、かえで、加山君と・・・サクラさんがいたの。みんなは、一緒に来たサクラさんのほうを振り向いた。一緒に来たサクラさんはうれしそうな顔をして、こう言った。

 「サクラ君。もう大丈夫なのかい。」

 それは、声は確かにサクラさんだけど、言葉の口調はまぎれもなく大神君だった。

 「ハイ、大神さん。ありがとうございました。」

 「大神さん?隊長?」

 みんな自分の目を疑った。いままで一緒にいたのが大神隊長だったなんて。

 「え、じゃあ、アイリスと一緒にお風呂に入ったのはおにいちゃん?」

 「じゃあ、わたくしといっしょに着替えて気絶したのは、隊長?」

 「それじゃあ、あたいが大喰らいして、腹壊した話をしたのは・・・隊長?」

 「ほな、うちが昔の事を思い出して泣いてる時に慰めてくれてはったのは、隊長はん?」

 みんな、サクラさんと信じて付き合っていた人物の正体を知って驚愕したみたい。やはり、マリアだけは知っていたみたいね。

 「おや、マリアはん。驚きまへんな。さては知ってはりましたな。サクラはんの正体。そうでなけりゃあ、ばれんはずないものな。」

 「マリア〜〜。」

 あらあら、マリアったらみんなから怖い顔でにらまれいてる。

 「仕方なかったのよ。舞台を成功させるにはこれしかなかったの。」

 「でも。アイリスとお風呂に入ったときは、お兄ちゃんは、たしかに女の人だったよ。」

 「そうね、わたくしと着替えたときもちゃんと胸はあったわ。わたくしほどではありませんでしたけど。」

 「それは、ぼくが説明しよう。」

 やっぱり月組の加山君が関わっていたのね。

 「我が月組の変体術を使って、大神を女性の体形にかえたんだ。だから、アイリスちゃんたちと一緒にお風呂に入ってもばれなかったのさ。」

 「ふ〜ん、それでか。アイリスとサクラ、いえ、おにいちゃんがお風呂に入ったときに、マリアのおっぱいでパフパフをした時、サクラが鼻血を出してひっくりかえったの。」

 「ひっくり返ったのか。こいつは・・・もったいない。」

 米田支配人はあきれた顔をして、サクラの姿をしたままの大神君を見たの。

 「うん、う〜〜〜んバタン。って。」

 それを聞いていたサクラさんの眉間に血管が浮かんできた。そして、左手にもっていた荒鷹の柄を右手で掴むとスラリと抜いたの。

 「大神さん。」

 「は、はい。」

 「大神さん。わたしの姿でそんなことをするなんて・・・」

 「不可効力だよ、サクラくん。おちついて。」

 「そこになおれ、大神成敗してくれる。」

 「うわ〜〜たすけて〜〜。」

 舞台衣装のままのサクラさんを、荒鷲を大上段にかまえたサクラさんが追っかけていった。

 「でも、いくら変装でも、こんなに長く被っておけるマスクがあるとは思えへんけどなあ?」

 「それはだな。月組秘術の変体術で顔を変えていたからだよ。」

 「身体でさえも信じられないのに、顔も変えてたなんて、信じられないわ。」

 「これでも信じられないかい。」

 そう言うと加山君は自分の顔を触り始めたの。

 ゴキグキガクギコキ

 「これでどないや。」

 手を離した加山君の顔は・・・

 「紅蘭。」

 そうなのです。そこには髪型や、体つきは加山君なのだけど、顔は紅蘭なのです。

 「これでも、信じられへん?」

 声も確かに紅蘭なのです。

 「信じられませんわ。紅蘭ぐらいの容貌の人はざらにいますもの。」

 まあ、すみれさんたら、結構きつい事を言うのね。ほら、紅蘭が、恐い顔をして睨んでるわよ。

 「それなら、こんなのは・・・どうかしら?」

 また、加山君が顔を触り始めると、紅蘭の声も途中から変わっていったの。加山君の顔の前で蠢いていた手が離れるとそこから現われた顔は・・・

 「これでいかがかしら?オ〜ホホホ。」

 顔だけは神崎すみれの加藤君がそこに立っていたの。それを見たすみれさん。絶句してしまった。

 「でも、これだけではございませんことよ。」

 再び加山君は顔を触り始めたの。そして・・・・

 「これはど〜で〜ス。は〜い、みなさ〜ン。」

 そこには、あのにぎやかなラテン娘が・・・

 「織姫・・・さん?」

 「織姫。おめえ、朝からいないと思ったら・・・」

 「そうで〜ス。わたしは、大神のサポートで織姫をしてたので〜ス。これがほんとの『虎の皮を被る狐』で〜ス。」

 なんと、あの織姫さんが加山君だったなんて。でも、じゃあ、ふたりは・・・え?

 「でも、隊長はんて、あないにおしばいがうまいなんて。しらんかったわ。」

 「そうね。知っているわたしも、本当のサクラさんが帰ってきたのかと思ったぐらいだわ。」

 事情を知っているマリアも驚いていた。

 「それは、わたしが、淫眠術で大神をサクラさんに変えたからで〜ス。」

 「淫眠術?」

 「まあ、いやらしい名前です事。まやかしではありませんこと。」

 「信じられませんか。それでは、あなたで試してみせま〜ス。」

 そう言うと、織姫さんの顔をした加山君は、すみれさんを後ろから抱きつくと胸を揉みだしました。

 「お、おやめなさい。わ、わ、わたくしは・・・あ、あ、ああ〜〜〜〜ん。」

 「ほら、ほら、ほら、息遣いが変わってきた。気持よくなって来たでしょう。」

 すみれさんは乱れだしてきた。

 「アイリスは見てはダメ。」

 マリアは、アイリスを抱きかかえると、その青い目を隠しました。

 「あなたは、大神一郎。あなたは、大神一郎よ。」

 加山君は、すみれさんの耳元でささやいたの。

 「わ、わたしはおおがみ・・・ぼくは大神一郎。」

 耳元でささやかれながらすみれさんの言い方は、変わっていった。まるで大神くんの話し方そっくりに・・・

 「お、加山。どうしたんだ。それに、おれはどうして着物を着てるんだ?それに胸が妙に苦しいな。ん?・・・なんじゃこりょあ?」

 自分の胸を触ったすみれさんは、自分の胸を触って、声を張り上げたの。

 「ま、まさか?」

 そう言うと、すみれさんは、股の間に手をやったの。そして・・・

 「な、ない。ない〜〜〜。」

 「変わりにこれがありま〜ス。」

 加山君は、すみれさんの着物の胸を開いたの。そのとき、すみれさんのふくよかな胸はポロリ。それを見たすみれさんは・・・

 「あ、い、お、むむ胸が、胸が〜〜〜。」

 すみれさんは、鼻血をだして倒れてしまった。

 と、そのとき外のほうから声がしてきたの。

「こら待て〜〜〜。おおがみ〜〜〜〜。」

 「サクラくん。ゴメン・・・・」

 二人のサクラは、中庭で追っかけ子を続けていた。

 窓の外では春の終わりを告げるかのように太正桜の花びらが雪のように風に舞っていた・・・・

 

 

 

 

あとがき

 

 これは、憑依話ではありません。わたしなりの「サクラ大戦」を書きたくて、書いてみたのですが、いかがでしょう?