アンケート

 

ある日曜日の朝、わたしは、クラスメートの裕子と駅前の銅像の前で待ち合わせをしていた。

「もう、裕子ったら、また遅刻ね。いつもあの子遅れるんだから。」

わたしは、ぶつぶつ、文句を言いながら、辺りを見回した。さすがに日曜日の朝とあって、待ち合わせの人や、駅を降り立ち、街中に消えていく人たちで、いっぱいだった。でも、かわいい女子高生の女の子が一人で、ぽつんといると目立つんだぞ。早く来い、裕子。などと思いながらも待っていた。

やはりこんなところには、いつも沸いて出てくる(ごめんなさい)人たちも、あちらこちらにいた。

「あなたは神を・・・」

「彼女、ちょっと時間いいかな?」

「これどうぞ。はい、どうぞ。」

それは、人ごみの中を漂う木の葉のように動き回る勧誘や、アンケート、テッシュ配りの人たちだった。

「あの〜、すみません。アンケートに答えてもらえませんか。」

いつの間にか、アンケート用紙を挟んだバインダーを持って、気の弱そうな若い男の人が立っていた。そんなに悪いスタイルではないのだが、おどおどした態度とかなり甲高い声が、かなりのマイナスになっていた。

「あの〜、アンケートにお願いします。」

いつもの、わたしならば、すぐに断るのだが、待ち合わせの裕子が、まだ着そうにないのと、妙におどおどしている彼の態度が気になって、わたしは、アンケートに答えてあげることにした。

「ありがとうございます。すみませんが、ここにお名前をお願いします。」

名前まで書くのか。と思ったが、名前だけのようだったから、書いてあげることにした。

「佐伯若菜さんですか。ありがとうございます。それでは、質問です。あなたは、神を信じますか?」

マア、なんとありきたりな質問。そう思ったが、答えるといった手前、わたしは、そんな質問にも答えていった。質問は、50近く続いた。

「され、次の質問です。よく考えて答えてください。あなたは、自分が好きですか?」

自分が好きかって?わたしは、自分の顔にもスタイルにも不満を持っていたので、すぐに答えた。

「いいえ。」

「今すぐにでも、あなたは、誰かと変りたいですか?」

いつの間にか、あたりに人が集まってきていて、別に珍しい光景でもないのに、私たちを見ていた。これは、彼の外見と声のギャップのせいだろうか。これだけの人たちに見られて、恥ずかしくなったわたしは、すぐにでもこの場を離れたくて、こう答えた。

「はい、これだけの人に見られては、恥ずかしいわ。今すぐにでも、誰かと変って、この場を離れたいわよ。」

「ありがとうございます。それでは、お望みどおりに・・・」

「え?」

彼がそういった瞬間、目の前が揺らぎ、意識が一瞬遠のいた。でも、すぐの元に戻った・・・・元に?

いつの間に動いたのだろう?目の前にわたしが、立っていた。そして、そのわたしを見つめるわたし?

「若菜。待った?」

裕子の声だ。わたしが、答えようとすると、目の前のわたしが、先に答えた。

「ええ、待ったわよ。マックおごってよね。それじゃあ、友達が来たので失礼します。」

そういうと、軽く会釈して、目の前のわたしは、裕子のそばに駆け寄り、彼女と話しながら去っていった。

「誰あの人。ちょっと、いいじゃない?」

「アンケートの人。それより遅れるよ。いそご。」

わたしの目の前から消え去る二人を見つめながら、わたしは、ただ呆然と立っていた。

「いったいなにが起こったの?」

わたしは、状況がつかめないままでいた。そして、軽くなった胸に手をやるとそこには・・・ちょっぴり自慢の胸は、なかった。それにスカートだったのに、足元もおかしい。と、思ってみるとそこには、ズボンを履いた足が・・・

「え〜〜〜〜。」

わたしは、駅のトイレに駆け込んだ。そして、洗面台の鏡を見て思わず大きな声を出してしまった。

「いや〜〜〜〜。」

そこには、さっきのアンケートのお兄さんが映っていたのだ。

「なんでぇ。どうして・・・」

わたしがパニくっているとき、後ろから土鍋を叩き壊さんばかりの声がした。

「ぎゃ〜〜〜、チカンよ。ヘンタイよ。ちょっと、あんた。こっちに来なさい。」

中年の羞恥心をなくしたようなでぶった厚化粧の女の人がわたしの手を、ものすごい力でつかんだ。男になったわたしが、このまま連れて行かれたら、どういうことになるか。わたしは、必死で抵抗し、何とかその手から逃れると、トイレから飛び出して、その場から走り去った。

わたしは、わたしの体になったあの男の人に連絡をしようと思って、はたと困った。今まで覚えていたはずの自分の住所やケイタイの番号をすべて思い出せなくなっていたからだ。覚えているのは、わたしが、佐伯若菜だったことと、その思い出だけ。わたしは、どうしていいか、わからなくなってきた。

消えていった記憶の変わりにわたしは、新たな記憶が浮かび上がってきた。それは、このアンケートが、身体交換の契約書で、アンケートの質問項目は、契約内容のチェック。そして、最後の2問は最終チェックだということと、名前が本名であることと最後の質問のときに本当に変りたいと思わないと、入れ替われないということだ。

わたしは、毎日駅前に立って、物色している。どうせ変るなら、ステキな体がいいな。さて、誰にしようかしら?

「あの、ちょっとアンケートに答えてもらえます?」

 

 

あとがき

 

 行きつけの店(チャット)で、バーのチェンジについて、ばかな質問をして、その流れで思いつきまいた。

あきみさん、遅くなってすみません。このサイトの趣旨とは違うけど・・・いつものことか。