美少女は饅頭とともに・・・
それは、ある祭日のことだった・・・
「野郎ども、差し入れだぞ」
隆は、手に提げていたコンビニの手提げ袋を、掲げると部屋に入っていった。部屋の中では、むさい野郎どもが、死んでいた。
「ああ、隆か」
死んでいた骸が起き上がり、隆を迎えた。
「佐伯、どうだ。進行具合は?順調か」
「順調に遅れていますよ。水谷先輩」
別の骸が起き上がって答えた。
「このバカが、完璧なものを・・なんて、御託を言うから、遅れっぱなしだ。なあ、神田」
神田と呼ばれた骸は、黙って起き上がるとうなずいた。
「コミケをバカにしちゃいかん。完璧なものでないと、客は喜ばんのだ」
最初に起き上がった佐伯という骸は、つばを飛ばして叫んだ。だが、その言葉を誰も聞いてはいなかった。
「おい、隆。差し入れは何だ」
「疲れているだろうから、甘いものだ。これだ」
そういって、隆は、ビニル袋から、紙包みを取り出した。
「わあ、人形焼だ。かわいい」
女の子のように華奢でかわいい恵が、隆の持ってきたお土産の包みを開けて、叫んだ。
「ほお、人形焼か・・・こ、こ、これは、ラ○マじゃないか」
テーブルに広げられた人形焼は、あのラン○1/2のキャラクターそっくりだった。
「アカ○に、うっちゃん、シ○ンプー、女○ンマに・・・天道な○き?」
「あ、なびきは、オレの趣味。好きなんだ、あんな強気の女の子。それと、数合わせに動物を入れてもらったんだ」
隆が、すこし照れくさそうに言った。
「なに!天道○カネだと、全部もらった」
脂ぎっただぶだぶの身体を起こし、目にも留まらぬすばやさで、アカ○の人形焼を選び出すと、自分の前に集めた。
「おい、佐伯。ア○ネだけ選ぶなよ。○カネは、みんな好きなんだから」
佐伯を、バカ呼ばわりした松田が、佐伯が集めた○カネの人形焼を取り上げようとしたら、佐伯はそれを、ぜんぶ自分の口の中に押し込んでしまった。そして、それを飲みこもうとして、のどに詰まらせた。
「み、みず〜〜」
そう叫びながら、キッチンへと駆けていった。
「欲張るからだ」
「そうだそうだ。あとは、キャラは、一個ずつか」
「アカ○は人気があるらしく、サービスで2個入っているんだって。店の親父が言っていたよ」
「じゃあ、オレは、うっちゃん。かわいいんだよなあ。あの鶴さんの声」
そういうと、松田が、右○に似た人形焼を取った。
「それと、この犬もかわいいな」
そういって、犬の人形焼も取った。
「じゃあ、ボクは、シャン○ー。となると、やっぱり、猫だな」
恵は、シャ○プーと猫の人形焼を取ると、それをかわるがわる口にほおばった。
「ラ○マと、たぬき」
今まで黙っていた神田が、ボソッと言うと、ラン○と、たぬきの人形焼を手に取って、一息に食べてしまった。
「それでは、なび○と・・・きつねか。ま、似合っているかも」
そういいながら、隆は、人形焼を食べた。そこへ、水を飲んで、一息をついた佐伯が戻ってきた。
「まったくひどい目にあったよ。でも、○カネの人形焼おいしかったなぁ」
その日高のり子に似た甲高くかわいい声・・・・ん?かわいい声?奴の声は、どうしようもないだみ声のはずだが。皆が、佐伯の方を見て、声を失った。
「さ、さえき・・・」
「おまえか?」
「なに言っているのだよ。俺以外の誰だというのだ」
皆、顔を見合わせた。
「やっぱり佐伯だ。この鈍感さは」
その答えに、隆は、納得してしまった。
「佐伯、お前、水を浴びたか?」
「みず〜〜、オレの風呂嫌い知っているだろう」
「そうだなぁ。でも、これじゃあ、埒が明かないから、恵、こいつを風呂場に連れて行ってくれないか」
「オレは、風呂は嫌いだ」
「まあいいから」
松田は、恵に、佐伯を無理やり、風呂場に連れて行かせた。
「10・9・8・7・・・」
神田が、ぽつりぽつりとカウントダウンを始めた。
「・・・3・2・1・0」
「なんじゃ〜こりゃ〜!こりゃこりゃこりゃ・・・・グフフフ・・・あ○ねちゃ〜〜〜ん」
「やっと、奴は現状を把握したみたいだな」
「ああ、でも、何であんなことが?」
「まさかこの人形焼が?」
包み紙をがさがさとひっかき回していた神田が、隆たちの前に、一枚の紙を差し出した。
「呪泉郷名物 呪姿変貌人形焼?隆!これをどこで買ったのだ」
「いや〜、来る途中、人民服の男が売っていたので、買ってきたのだ。ちょっと値切ったけど・・・」
本当は、買う人もないその店のオヤジを脅して、ただ同然の値段で買ってきたのだ。
「先輩、ここに注意書きがありますよ。水を飲むと、食べた人形焼の姿に一週間、自由になれます。元に戻るには、お湯をお飲みください。ですか、決して、一個以上は、食べないでください。一個以上食べますと、水を飲むたびに・・・・姿が変わります」
「ということは、同じものを食べた佐伯は、○カネになったのか。じゃあ、別々のものを食べた俺たちは、どうなるのだ」
皆が、顔をつき合わせて考え込んでいるところに、松田が、水がなみなみと入ったコップを、みんなの前に置いた。だが、それに手を出すものはいなかった。
「キャ、は、は、は、あ、あ、あ〜〜〜〜〜ん」
佐伯の戸惑いの声が、歓喜の声に変わっていた。その声は、彼らの不安と期待を揺さぶった。彼らが食べたキャラと動物の融合した姿。動物の耳と、尻尾ぐらいならかわいいが、それが、違ったら・・・。だれもが、そのことを考えると誰も、手を出せなかった。
だが、ひとつの手が、コップへと伸びていった。
「きゅあ〜〜〜ん」