その日、珍しく夜更かしをして、深夜の映画劇場を見ていた。この番組はノーカットで見せてくれるので有名だった。子供のころ、怖くて薄目を開けながら見ていた怪獣映画もこの年になって見てみると、色あせ懸命に戦う怪獣と防衛隊の攻防が喜劇にしか見えなかった。この映画を見て帰る途中、日が暮れてあたりが薄暗くなってきた時、ビルの間から怪獣が現れそうな気がして泣きだしてしまったことを思い出しながら、俺は苦笑した。

 あのころは俺も想像力がたくましく、色んな想像をしていたが、今は、現実にどっぷりと染められ、すべて疑い、勘ぐり、大概のことには驚かなくなってしまった。そんな俺が作家とは世の中程度が知れるというものだ。

 作家といってもサラリーマンをしながら書いているので、たいしたものも書けず、出世もしない、どっち付かず生活を送っていた。だから、いつもは夜更かしなどしないのだが、珍しく有給が取れたので、明日はゆっくりと寝れると言う安心感からの夜更かしだった。

 番組が終わりかけてきたとき、いつもなら一気にラストまでいくところで突然、CMがはいった。スポンサーのごり押しなのだろう。

 無名の若手のコメディアンなのだろう。見たこともないみすぼらしい若者がレオタードを着て、カップめんを食べながら現れた。彼がスープまで飲み終えるとそれは始まった。短く刈り上げられた髪が伸び始め、ごつごつした顔がやさしいカーブを描き始め、黒かった肌も白くきめ細やかになり、毛深い手や足から毛が抜け、筋肉質の体が丸くなり、胸やお尻が膨らみだした。その間15秒程度だったのだろうか。そこにはさっきのみすぼらしい若者の姿はなく、若くてスタイルのいいレオタード姿の美女が立っていた。そして、彼女の姿にオーバーラップして、字幕が出た。

 

レディースぬーどる 新発売!

 

 それにナレーションがかぶった。

『レディースぬーどる 新発売! あなたを華麗で魅力的な女性にします。 ブロンドラベルも同時発売です。』

 

 ん?新しいヌードルのCMか?食べてきれいになる食品がブームなので、それに便乗しようと発売したのだろう。だが、女性ではなくて、男をつかうとは、考えたというべきか。だが、話題にならなければ失敗だろう。このメーカーも凄い賭けをしたものだ。それにさいきんのSFXも凄いな。スムーズに男から女への変身シーンを見せていたからだ。聴いたこともないようなメーカーだったから、社運をかけたCMなのだろう。

 その夜は、俺はそのまま寝る事にした。この番組はビデオにとっていたし、このCMも気に入ったので起きてからまた見ることにしたのだ。その夜、おれは奇妙な夢を見た。俺が、あのCMに出て、あのヌードルを食べるのだ。そして、俺は、髪の長い日本人形のような綺麗な少女に変身したところで、目が醒めた。