続・ビューティ・ステューデント・ソルジャー カオリ
最終話「カオリ死す!!」
いままでのお話『女子高生のカオリは、地球の精より、不思議な能力を受け継ぎ、人類にとって代わろうとしていたミュサピエンス族を辛うじて倒したのだが、休む間もなく新たな敵である人類の消滅を企む悪魔人類・デビエンスとの戦いが待っていた。次々と送り込まれてくる人類消滅の使者たちをかろうじて倒し、ついにデビエンス一族最後の使者・ドールマンと対決することとなった。だがドールマンは、カオリの友人マサミに乗り移り、罠を仕掛けてある体育館へとカオリを誘いこんだ。
だが、マサミがドールマンに憑つかれていることを知らないカオリは、疑うこともなくドールマンの操るマサミに誘われるままに、深夜の体育館の中へと入っていった・・・』
月明かりもない夜の体育館の中は、真っ暗だった。
「マサミ?どこにいるの」
カオリは、先に体育館の中に入ったマサミを呼んだ。だが、体育館の中からは、返事がなかった。いや、物音ひとつしなかった。
「マサミ?マサミ!どうしたの」
カオリは、異常さに気付き、入り口から闇に支配された体育館の中に叫んだ。だが、なんの返事も帰ってこなかった。いくら彼女が、美少女学生戦士だとしても、年頃の女の子。この闇の中に一人で飛び込んでいくのは、躊躇したとしても仕方がないだろう。
「マサミ!」
「カオリ?」
それは消え入りそうな声だった。だが、たしかに親友のマサミの声だった。
「マサミ大丈夫?」
「ええ、でも、ここはどこ?真っ暗で何も見えないわ」
「今行くから、そこを動かないで」
「ええ、わかったわ」
闇の中でおびえているはずのマサミは、残忍な笑みに顔をゆがめて、立っていた。それはまるで、目の前に飛び出してきた獲物を、弄ぶ獣のようだった。
「マサミ?マサミ、どこなの」
「ここよ、ここ」
「どこ?」
暗い体育館の中で、カオリは、辺りが見えないことをもどかしく思いながら、マサミを探した。ふと。いままで厚い雲に覆われていた月が顔を出し、体育館の高窓から明かりが差し込んで、闇に包まれていた体育館の中を照らし出した。高窓から差し込む月明りに照らし出されたマサミは、身体を縛り上げられ、体育館の中央に転がされていた。
「マサミ」
駆け寄ろうとするカオリの前に、いままでに苦戦しながらも何とか倒してきたデビエンスの怖ろしき使者たちが立ちはだかった。
「クラブマスターに、モスキラー、ジャガーサーベル」
彼らは、偶然も手伝って、何とか倒せた相手だった。だが、もう一度戦うとなると、カオリには、勝つ自信などなかった。
「マサミを助けるには、あなた達を倒さなければならないのね。マサミを助けるためにも、あなたたちには負けないわ。いくわよ」
カオリは、死を覚悟して、彼らに向かって行った。だが、その姿をじっと見ているマサミがつぶやいた言葉を、もしカオリが聴いたら決してこのような無茶はしなかっただろう。
「カオリ、お前は友達思いのいいやつだなぁ。くくく、さあ、わたしを助けて、カオリ」
マサミは、復活怪人たちに弄ばれ、傷つき、ふらふらになりながらも戦うカオリの姿を見ながら、冷たい笑みを浮かべていた。カオリのその姿を楽しむかのように・・・
「マサミ」
縛られて床に転がされていたマサミの前に、カオリがやって来た。傷つき、力も使い果たし、立っているのがやっとの状態のカオリは、マサミに優しく微笑みかけた。
「マサミ、遅くなってゴメンネ。もう大丈夫だよ」
そう言うと、崩れるようにマサミのそばに座り込むと、マサミの身体に食い込んだロープをほどき、彼女を抱き起こした。
「マサミ」
カオリが、マサミに抱きついた。強くマサミを抱きしめた。まるで、マサミの無事を確認するかのように。だが、次の瞬間。カオリは、マサミを放し、後ろへと後ずさりをした。
「マサミ・・・これは、なに?」
信じられないような顔をして、カオリは、マサミを見た。カオリの胸には、ナイフが根本まで突き刺さり、そこから、赤いシミが広がっていった。
「マサミ、これは何かの冗談だよね。マサミ?」
カオリは、いまの自分の状態が信じられないような顔をして、マサミを見た。そして、同意を促すように、力なく微笑んだ。だが、その微笑みも、マサミの口からこぼれた言葉に凍りついた。
「ふん、やはり復活怪人では、弱いか。わたしが、小娘を始末することになろうとはな。でも、こんな小娘に、我がデビエンス一族が敗れようとは・・・」
「マサミ?あなたは・・・」
「マサミだと?わたしの名はドールマン。マサミなどではないわ」
そう言うと、マサミの身体が、前のめりに倒れ、その後ろから、黒のレザースーツで身を包んだスキンヘッドのデビエンスが現れた。
「あ、あなたは、じゃあ、マサミは・・・」
「そう、お前を倒すためにこの娘の身体を借りていたのだ。だが、それも終わった。お前はもう助からない」
「そう、よかった」
カオリは、ほっとしたような笑みを浮かべて、ドールマンを見つめた。
「何だ。その笑みは、お前は死ぬのだぞ」
「そうね。でも、そのおかげで、これから開放される。ありがとう」
「なに?」
死ぬことを喜ぶかのようなカオリの言葉に、ドールマンは戸惑いを覚えた。
「なにを強がっている。命乞いをしないか。助けてやるかもしれないぞ」
「いえ、わたしはもう助からない。でもおかげで、これから開放される。ありがとうよ、ドールマン」
カオリの声は、穏やかなものだったが、最後のほうになると、声はかすれ、低い男のような声に変わった。いや、声ばかりではなく、その姿も変わっていった。人とは似ても似つかないおぞましい姿に・・・
「ええ、その姿は・・・ミュサピエンス!」
「そう、我は、ミュサピエンスの生き残りだ」
「でも、お前達は、カオリに滅ぼされたのでは?」
「いや違う。我は、カオリを倒した。だが、その時、カオリの呪いもかけられたのだ」
「カオリの呪い?」
「そう、その呪いは、お前に引き継がれる。ククク、サラバだ!」
そう言い残すと、ミュサピエンスは、消滅してしまった。
「呪いをわたしに?カオリの呪いとは、いったい?」
ドールマンは、ミュサピエンスが残していった言葉の意味を考えていた。だが、それは、無駄になった。なぜなら、その呪いを実感することになるからだ。
「ん?身体が熱い。まるで溶け出しそうだ」
崩れそうな身体を押さえるかのように、ドールマンは、左右の肩を、両腕で、しっかりと掴んだ。胸の前で交差する腕。だが、その腕を何かが押し上げていった。
「な、なんだ?」
彼が下を向くと、徐々に膨らんでいく胸が、彼の交差した腕を押し上げていた。
「な、なんだこれは?何でわたしの胸が膨らんでいるのだ。そ、それにこの服は・・・」
胸を見たときに、彼は、自分が、緑の襟に、赤いリボンタイをして、白い服を着ているのに気がついた。そして、腰には、緑色のスカートが、巻きついていた。さっきまで着ていたはずの、黒のレザージャケットは、跡形もなく消え去っていた。
髪も、肩まで伸びていた。彼の頭は、毛根のないデビエンズのスキンヘッドのはずなのに・・・
「髪の毛まで・・・まさか、そんなばかな?」
あまりの変化に、彼はまだ気付いてはいなかったが、彼のがらがら声は、甲高く鈴のようにきれいな声に変わっていた。それはまるで、女の子の声のように・・・
「このわたしになにが起こっているのだ。どこかに鏡は・・・あ、あった」
彼は、体育館中央の壁に取り付けられた、大きな鏡の前に立った。そして、いまの自分の姿を見て、絶句した。
「カオリ・・・」
そう、鏡の中の彼の姿は、さっき倒した美少女学生戦士・カオリの姿になっていたのだ。
「まさか夢だ。これは夢なんだ。こんなものが、わたしにあるはずは・・・」
そう、自分に言い聞かせながら、彼は、自分の胸のふくらみを掴んだ。だが、それは確かにあった。その感触は、電撃のように、彼の胸から全身に走った。
「あ、あ、あん。こ、こ、この感触は・・・いや〜〜ん」
彼の戸惑いは、頂点に達した。
「い、い、いや〜〜〜」
彼は、叫び声と共に、今の状況に耐えかねて、気を失ってしまった。
それからどれくらいが経っただろう?彼は、誰かに揺り動かされた。
「カオリ、カオリ」
「う、う〜ん、あ、マサミ」
「カオリ、気がついた?でもなんで、わたしはこんなところに倒れているの?それに、わたしは、どうしてここに居るのだろう?」
「もう、マサミが、体育館に忘れ物をしたから、いっしょに取りにいってと言うから来たんじゃないの」
「そうだっけ、ごめん、ごめん。勘違いだったみたい。帰りましょう」
「もう調子がいいんだから」
「てへっ、ゴメンネ」
「ううん、もういいよ。帰ろう」
「うん」
元気なマサミの姿を見ていたら、カオリはもう何も言えなくなった。これでいい、これで。でも・・・彼女にはわからなかった。あの激しい戦いの後、マサミに乗り移っていたデビエンスをどうやって倒したのか。
「わたし、確かに胸を刺されたはずなのに・・・でもいいか、勝ったんですもの」
ふと見ると、いつの間にかマサミは、体育館の出口にたって、叫んでいた。
「カオリ、早く!置いて行くわよ」
「待ってよ!マサミ」
カオリは、込みあがるうれしさを感じながら、マサミのほうに走って行った。
「わたしは、美少女学生戦士。わたしの愛する人たちを、いえ、愛する地球を絶対守るわ」
カオリは、決して負けられぬ美少女学生戦士としての、辛い宿命を感じていた・・・
次回からは『新・ビューティ・ステューデント・ソルジャー・カオリ』が始まります。新たなる敵に、どう立ち向かうのか?新たなるカオリの活躍をお楽しみに・・・