メール
ある日、見知らぬメールが届いていた。あて先は、たしかに俺なのだが、差出人には思い当たる人物がいなかった。ファイル添付の見知らぬ人物からのメール。いまだに、ウィルスメールが横行しているので、俺はそのメールを他の、ダイレクトメール(最近、郵送のDMが減ったような気がする)と一緒に消そうと思ったが、差出人の名前を見て、思いとどまった。それは、 差出人の名前が、女だったからだ。そりゃ、ネットおかまだっているが、なんだか、うれしい展開を期待して、メールをあけてしまった。
『はじめまして、わたくし、いつも、通学されている電車で一緒になるものです。いつの頃からか、あなた様のお姿が眼に入り、あなた様のお姿を一目でも、見なければいられないほどになってしまいました。
こんなくらいわたしでは、あなた様のそばにいられないのは判っているのですが、どうしても、一度だけ、お声をかけていただきたくて、お手紙差し上げました。こんなわたしですが、『おはよう』の一言でも結構ですので、お声をおかけください。それだけで、わたしは、幸せです。
どうぞよろしくお願いいたします。
雅代。』
ちょっと(かなりかな)暗そうな、女からのメールだった。俺は、開いたことを公開しながらも、メールを消そうとして、まだ続きがあることに気が付いた。
『P.S
はずかしいのですが、わたしの写真を添付します。よろしかったら、ご覧ください。もし、お気に召して、名前を呼んでいただけたら、わたしのすべてを差し上げます。』
まあ、消す前に、見ても良いか、とおもって、俺は、添付されたファイルを開いてみた。そして、そのファイルに入っていた写真の女は・・・・
俺は、自分の頬をつねった。そこに写っていたのは、今、騒がれているアイドルなんて、ただの芋姉ちゃんになってしまうくらいかわいい女の子だった。こんな子が俺のことを見つめていたなんて、俺はなんて愚かだったんだ。俺は、その写真を見つめながら、つぶやいてしまった。
「まさよちゃん。」
と、そのとたん、パソコンの画面がフラッシュして、俺の目の前は、ホワイトアウトしてしまった。そして、俺の頭の中は白い闇に包まれていった。
「あれ、わたしは、どうしたんだろう。どうして、ここにいるのかしら?」
わたしは、見知らぬ部屋のパソコンの前に座っていた。
「やだ〜、わたしったら、知らない人の部屋に来てしまっているわ。すぐに帰らないと、ご主人様が、心配なさるわ。ご主人様、雅代は、すぐに帰ります。」
わたしは、だぶつく服を、何とか絞り込んで着直すと、その、見知らぬ部屋を出て行った。でも、ここの人はどこに言ったのかしら?
持ち主のわからないパソコンの画面が、ただ、白く輝いていた。
「ご主人様。また、新たなメイドが、こちらに向かっております。」
「ウム、そうか。ご苦労。これで、また、メイドコレクションが増えたな。わははははは・・・・」
コントロールルームの奥にある玉座に座った貧弱な分厚いめがね男が、折れんばかりに背を反らして高笑いをした。
「ねえ、京子。ご主人様って、くらいわねえ。」
「仕方ないわよ。今世紀最大の天才にして、世界一の大金持ちでも、純女(生まれながらの女性のこと)の前では、あがって何も言えずに、顔を真っ赤にして、鼻血ブ―じゃ、彼女は出来ないわよ。」
「だからって、ウィルスメールを送って、男の子を自分好みの女の子に変えるなんて、暗いわねぇ。」
「それでも、やっと、お話が出来るぐらいなんですもの。しかたないわね。」
「こら、そこの二人、オシャベリはそれくらいにして、つぎのターゲットにメールをしろ。まったく、おかまは、おしゃべりで困る。」
「は〜い。」
コントロールパネルの前に座ったマッチョな二人の男は、その、ごつい手からは想像がしにくいほど軽やかに、まるで、最高のピアニストが、鍵盤を叩くかのようにキーボードを操作すると、次のターゲットをリストアップした。
前方の巨大画面にその男の写真とプロフィールが現れた。
『姓名・たか○○○。年齢・◎✖才。身長・・・。体重???。スリーサイズ@@@。独身。住所・%%%県##市!!区\\\\町13-2-3
インクエスト荘屋根裏部屋。趣味・・・』
あとがき
インクエストのひっこし祝いですが、お気に召しますか。気に入っていただけたら、部屋の隅にでも、置いていただけたら幸いです。
あ、それと、このメール、欲しがらないほうが・・・絶対服従のメイドに洗脳されますから。