オセロ

 

「俊。いる?」

わたしは、幼馴染で、ボーイフレンドの俊彦の部屋にやってきた。手には、おじさんからせしめた四角い何かが入った包みを持っていた。

「ああ、明子。それは・・・チョコ?」

「もう、俊ったら、食いしん坊なんだから。いいえ、これは、もっといいものよ。」

そういうと、わたしは、乱れた髪を整えながら、その包みをテーブルの上においた。そして、わたしが、包みを開けて中から取り出したのは、クロス模様の入ったグリーンの布を張ったゲーム盤だった。

「なんだ。オセロか。」

「なんだは、ないでしょ。これは、おじさんの形見なのよ。」

「え、明子のおじさんの!」

俊彦は、驚いた。わたしのおじさんというのは、某五流大学の民俗学の講師で、昔から俊彦と気が合い、GFのおじさんというよりも、年の離れた兄貴という感じだった。そのおじさんの形見・・・

「明子。おじさんは、いつ亡くなったんだ。」

俊彦は血相を変えて、わたしに詰め寄った。

「俊。誰が、死んだなんていった?おじさんは、今、わたしの家で寝ているわよ。おかあさんに『もう、いい年して、こんなところでごろ寝しているなんて、この弟は・・・』なんて、言われてね。」

「じゃあ、形見って何だよ。おじさん生きているじゃないか。」

「生前分与よ。これ頂戴って言うのに・・・」

「黙って持ってきたな。」

「ちがうもん。ちゃんと断ってもらってきたんだもん。」

わたしは、そのかわいい口を尖らせた。

「寝むそうなおじさんのそばに行って、体をゆすって、これ頂戴。って、言ってもらったんだから。」

「それ、拷問じゃないか。」

「かなり眠たそうで、やけ気味に良いって言ったけど、ちゃんともらったんだよ。」

あのおじさんは、俊には優しいが、本当の姪っ子のわたしには、お土産ひとつくれたことがなかった。これも、俊へのお土産だろうが、先に、わたしがいただいたというわけだった。いいでしょ、おじさん。

「さ、やろう。」

「ああ。」

これ以上、なにを言っても無駄なことは、長い付き合いの中で、俊彦もわかっているようだった。

俊彦は、黙ったまま。コマを並べ始めた。

「わたしが白ね。」

「ああ、黒で良いよ。」

こうして、わたしたちはゲームを始めた。二人とも実力が互角で、一進一退を繰り返していたが、何とか、わたしが、2コマ差で勝利を収めた。

「勝ったわ。」

「ちえ、負けた。もう一勝負。」

「いいわよ。」

そういって、コマを並べかけたとき、俊彦の様子がおかしくなった。

「わわわわ・・・・・わ〜〜〜ぁ。」

俊彦の体は痙攣を起こし、震えだした。そして、絶叫すると、テーブルの上のオセロ盤に、前のめりに倒れた。

しばらく、顔を伏せたまま痙攣していたが、それも止まってぴくりっともしなくなった。

「え、まさか、俊、俊、俊ぃ。」

わたしは、動かなくなった俊の体をゆすった。はじいた、蹴飛ばした。でも、俊は、何の反応も示さなかった。

「え〜ん、俊が、死んじゃった・・・・」

わたしが、声の限りに泣いていると、ぴくりとも動かなかった俊が、起き上がり、手で、耳を押さえて叫んだ。

「うるさいなぁ。寝てられないじゃないの。静かにしてよ、あき。」

そういうと、さっきまで、ぴくりとも動かなかった俊が、起き上がってわたしを睨んだ。

「と、俊だいじょうぶ?」

「ええ、ちょっと、体中が痛いけど・・・あれ、あなたはだれ?」

「なに言っているのよ。明子じゃないの。俊どうかしたの?」

「明子・・・・?え、あれ、わたしの声もおかしいわ。あれ、あれ、あれ〜〜〜?」

起き上がった俊は、自分の体を触りまわっていたが、股間を触っていたけど、アレが、膨れ上がってくるのに気づくと、わたしのほうを見て言った。

「ねえ、あなた。わたしって、どう見える。女?男?」

「男。」

「そうよね。男よね。うん、おとこ。(深呼吸をすると)いや〜〜〜〜〜〜!」

そう叫ぶと、俊は、気を失ってしまった。

 

「俊、俊、大丈夫?」

「う、う〜ん、アキ。わたし男になった夢を見ちゃった。おかしいわね。わたしは、かわいい女の子なのにね。」

「と、俊・・・・」

わたしは、悲しくなってしまった。俊が、おかしくなってしまった。まるで、まるで・・・

「信じられる?わたしのあのふくよかな胸が・・・」

自分の胸を触っていた俊は、言葉に詰まった。

「それに、自慢の引き締まった腰・・・え?この形の良いお尻・・・い、いや!」

自分の腰や、おしりをさわって、俊は、泣き出してしまった。

「イ、いや〜、夢なら醒めてよ。わたしは、女の子なのよ。」

泣きじゃくる俊をなだめながら、わたしは、頭が混乱の度を高めていた。

 

「と、いうわけなの。」

泣き疲れて、落ち着いた彼女?から聞き出したことをまとめると、こうなった。

彼女の名は、俊恵で、彼女は、明雄というBFと、オセロをしていて、彼女が、2コマ差で、負けたらせたらしいの。そして、再勝負をしようとしたとき、体が、引き裂かれるような気がして、気づくと男の子になっていたというのよ。

「よく見ると、あなた、明雄に似ているわ。もしかしたら・・・・」

だけど、わたしたちは、そこで、推測をやめて、とにかく元に戻る試みを試すことにした。それは、さっきのオセロの試合を再現することにした。そして、ゲームは始まった。

「これで、チェックメイトね。」

「あ、明子さん。ここ違っています。だから、この勝負は・・・わたしの勝ち。」

「え?え!え〜〜〜。」

勝負のついた瞬間、わたしの体は何か目に見えない強い力に引き寄せられて、そして・・・・引き剥がされて、闇の中へと引きずられていった・・・

 

誰かが、わたしを呼ぶ声に、気がついた。

「明雄。大丈夫か。明雄。」

その声を聞きながら、わたしは、自分は、明雄じゃないと、頭の中で叫んだ。

「う、う〜ん。」

「明雄大丈夫か。」

「だから、わたしは、明雄じゃないの。わたしは、明子。」

「明子?」

わたしは、テーブルに伏せていた頭を持ち上げて、声のほうを向いて、そう叫んだ。そこには、セミロングのかわいい女の子が、不思議そうな顔をして、わたしを見つめていた。

「明子?おまえ明子なのか?」

その姿に似合わない男言葉で、彼女は聞いた。

「そうよ・・・もしかしたら?俊君?」

「その口調は、確かに明子だ。じゃあ、明雄は・・・」

わたしは、その問いには答えず、まじまじと俊君の顔を見た。確かに男の俊君の面影はあったが、どう見ても女の子だった。

「俊くん。あの、わたし・・・」

わたしが、そう聞くのを察してか。俊君は、わたしの前に鏡を差し出した。そこには、精悍な顔立ちの男の子が映っていた。確かに、わたしの面影があった。

「わたし・・・」

その問いに、俊君は、黙ったまま頷いた。じゃあ、あのときのショックが・・・・わたしは、頭の中ではこうなることを予想していたとはいえ、かなりのショックだった。

「すぐに始めましょう。」

あせるわたしを、彼は押しとどめた。

「まあ、まて、明子。その前に、俺の話を聞け。」

そういうと、俊君は、話し始めました。この世界は、平行世界で、わたしと、俊君の性別が入れ替わっているだけで、後は、もといた世界と同じで、おじさんは、この世界でも女の俊君。つまり、俊恵ちゃんをかわいがっていたみたい。だから、男のわたしは、おじさんから、このオセロを取ってきたみたい。

「それとなぁ。むやみやたらにこのオセロやると、どんなことになるか、わからないぞ。」

つまり、2コマの負けで、こういうことが起こったのであって、もし、違う負け方をしていたら、違う展開になっていたかもしれないというの。それを、俊君は、明雄君と話し合っていたみたい。わたしたちは、そんなことも考えずに、ゲームをやっていたのだ。そのとき、わたしは、ぞ〜っとした。

わたしたちは、シュミレーションした。ふたりがもどれるようにするにはどうしたら良いかのコマ運びを・・・

さっき、わたしが入れ替わったときも、こっちでは、紙に書いてシュミレーションしていたらしいのだけど、完成させなければ、大丈夫だろうと、明雄くんが、コマを並べたらいいの。そして、コマを並べているときに、俊くんが、間違いに気づいて、それを直したとたん。

明雄くんとわたしの入れ替わりが、起こったみたい。その失敗を踏まえて、わたしたちは、紙でコマを作ってシュミレーションを続けた。

真剣な顔をしてシュミテーションする俊君の、顔を見ていると、わたしは、ムラムラとしてくるのを感じた。

「俊くん。」

わたしは、押さえつけられない燃え上がる感情と、股間が、熱くなるのを感じていた。

「お、おい。明子、やめろよ。この状態で、変なことをするとどうなるか判らないぞ。」

「もう、どうなってもいい。俊くんは、ここにいるから。」

そういうと、わたしは、俊君を押し倒していた。男と、女の力の差は歴然で、わたしは、俊君を床に押付けた。最初は、抵抗していた俊君も、観念したのか、おとなしくなった。

「やさしくしてね。」

俊君は、震えるような声で言った。

「かわいい〜。」

わたしは、ふとそう思った。そのとき、わたしにちょっとした隙ができた。その瞬間。わたしは、股間に激しい、息の詰まる衝撃がおそった。

「う、ぐ。」

「まったく、にわか男は・・・」

股間を抑えてうずくまる、私を見て、俊君は、哀れむような目で、わたしを見つめた。

 

それから、うずくまるわたしを、横目で見ながら俊君は、作業を続けた。そして、何とか、あの時と同じ手順を見つけた。

「明子、さあ、始めるぞ。」

「う、うん。」

わたしは、まだ違和感のある股間を気にしながら、俊君の向かいに座った。

「さきに、明子が戻れ。そして、そのあとすぐに俺は帰ってくるから。」

そういうと、俊君は、わたしにコマの配置を指導した。言われるままに置いていき、最後の一枚を置いたときに、わたしは、あの感触を感じた・・・・

 

「う、う、う〜〜ん。」

目を覚ますと、目の前に、女の子がいた。

「あん、俊くん。失敗よ。」

「俊くん?あなたは、ひょっとして、明子さん?」

「え?」

その自然な女性っぽい話し方に、わたしは、相手の顔をよく見た。それは、見慣れた顔だった。

「あれ?あなたは・・・わたし?じゃあ、わたしは、だれ?」

目の前のわたしは、わたしの前に鏡を置いた。そこに映っていたのは・・・

「と、俊くん!」

「ごめんなさい。わたしがあんなことやったばっかりに・・・」

彼女は、わたしの顔で、泣き出してしまった。

彼女の話によると、わたしと同じく、にわか男になった彼女は、明雄くんを襲って、してしまったらしい。そのとき二人の体は、入れ替わってしまったのだ。そして、もう一度試そうとしたとき、わたしと入れ替わってしまった。どうすればいいの?

もどるためには、わたしとするしかない。でも、戻れる保証はない。どうすればいいの?

わたしは、また、あのときの熱い感情が、体の中にわきあがってくるのを感じながら、戸惑いで、パニクってしまっていた。

 

するべきか、やめるべきか。それが問題よ。

 

 

あとがき

愛に死すさんところの「オセロ競作」を読んで、感想を書くつもりが、自分も書いてしまいました。萌えない話ですが、いかがなものでしょう。(三人の方には完全に負けますが)