ポンポコ玉

原案・吹田まり

作・よしおか

 

「何だ?このタヌキのぬいぐるみは?・・・あ、メモが。『女になりたいポンポコピー』何だこれ?」

部活から帰ると差出人の名前のところに『差出人不明』と明記された小包が机の上に置かれていた。大体こんな怪しげな荷物を受け取るなよな。その前に、差出人の名前が『差出人不明』なんて怪しげな物を受け付けるなよ。いくらなんでもお届けだからといいても・・・白犬便!

とは言っても届けられたものに文句をいっても仕方がないので、俺は小包を開けてみることにした。無骨な文字で書かれていたのなら開けないのだが、可愛らしい丸文字で書かれているのでついつい開けてしまった。

(うるしぇ〜!そうだよ。俺は女日照りで飢えてますよ~~だ。まさか、ネカマ・・いやいや、リアル・オカマからじゃないだろうからな)

小包をあけるとその中には、ちいさな青いたぬきのストラップが入っていた。

「なんだこれ?」

俺は何気なくそのストラップを摘み上げた。するとそれの大事なところが点滅し出して・・・・

・・・うわぁ〜〜!俺のカラダが女になって行く〜〜〜ッ!!い、いや〜〜ん!

俺は、思わず手に持っていた青いたぬきのストラップをベッドの枕元に放った。その時には、ストラップの音も点滅も止まっていた。

 

『男になりたいポンポコピー・・・男になりたいポンポコピー・・・男になりたいポンポコピー・・・男になりたい・・・ん?・・・あ!! 先輩の家に置いたタヌキに先輩が触ったみたい! これできょうから憧れの先輩の身体はアタシ、いや「俺」のものだゼ!』

 

「はぁ、はぁ・・・。な、何だ?この身体は?! ・・・あれ?この顔は・・・同じ部活の後輩の美穂ちゃん?!
オレ、密かに好きだった美穂ちゃんになっちゃったのか?・・・あ、声までかわいい声に

・・・あん・・・あぁ〜ん・・・あん、感じる〜〜
(ガチャ)

突然、部屋のドアが開いた。

「ただいま〜・・・じゃなくてこんにちわ〜!・・・あ!先輩!アタシの・・・「美穂」のカラダ気に入ってくれたみたいですね

俺はあせった。なぜかわからないが密かに好きだった美穂ちゃんの身体に変わってしまった自分の体を、ベッドの上に横たえて探求しまくっている時に現れた人物。

「え?お前は・・・な、なんで、俺が?」

俺は、自分の目を疑った。ドアから入ってきたのは、俺だったからだ。でも、そうすると、俺は俺じゃないから、あの 俺は・・・

「あらあら?和彦センパイってボキャブラリーが少ないんですね。それじゃあ、困るわ、わたしがお馬鹿さんに見えてしまうじゃないですか。もっと勉強してくださいね。それに、女の子としても・・・」

「な、何を、いったい・・・あ、ああん・・・」

『俺』は、この状況に戸惑っている俺の上にのしかかると、俺をベッドに押し倒して、探求していた時にはだけてしまったシャツから露わになってしまった胸の乳首を優しく噛んだ。

「あ、いやっ・・・」

「おやおや、感じているのね。ふふふ、それでいいのよ」

『俺』は、俺の乳首をなまめかしく蠢く舌で玩んだ。

「ウ、ウアンアァ、な、何でこんなことを、するんだ」

「あら、まだわからないの?本当にだいじょうぶかしら、あなたに私を任せるからよ。あなたが、私になって、私の評価が下がったら困るでしょう。評価が下がったら、私と釣り合わなくなってしまうわ」

「わたし・・・や、やはりお前は・・・あぁああ・・・ん」

「やっと気付いたの?こんなんじゃ心配だわ。わたしは、センパイといつも一緒に居たいと思っていたのよ。だから、センパイの身体を頂いたの」

「な・なぁぁああ〜〜ん」

俺は、『俺』に玩ばれて、さっきまで自分で身体を触っていた時よりも、はるかに強く深いエクスタシーに溺れた。

「そろそろ時間か。これを繰り返せば、センパイは、わたしの言い成り、フフ」

ベッドの上で、『俺』の柔らかで肌触りのいい舌で、身体中を嘗め回されて、声を上げて、身をくねらせ悶え狂っている俺を、見つめながら『俺』は妖しく微笑んだ。

と、その時、ノックの音がした。

「和彦さん、いる?お客さまじゃないかしら、お茶をおもちしたの」

「ああ、どうぞ」

『俺』がドアの向こうの声に答えた。

ドアが開き、そこに立っていたのは、兄嫁の由香里さんだった。

「キャッ!和彦さん、一体何を・・・」

由香里さんは、ベッドに横たわる俺と覆いかぶさるようにして、俺の身体を嘗め回す『俺』の姿に驚き、ケーキやコーヒーの入ったカップの乗ったトレイを放し、両手で口を覆い、声を失って、その場に立ち竦んだ。

「ガシャン」

トレイは、由香里さんの足元に落ち、カップに入ったコーヒーや皿に乗っていたケーキが床に落ちて、飛び散った。

「ゆ、ゆかり・・ぁ・・さん」

俺は、『俺』に玩ばれる快感に意識を失いかけながら、由香里さんにこの場から逃げるように言おうと努力した。

「ゆ・かり・・ぁぁ・・あぁ・・」

呆然と立ち尽くす由香里さんを気にする様子もなく、『俺』が、俺の女の身体をなめまくった。身体を這い回る舌の感触に、 俺は意識を奪われた。と、突然、枕元にあった青いたぬきのストラップが、音を立て、点滅し出した。

「うわっ!」

俺は、さっきの事を思い出した。俺は、そのストラップを掴むと、思わず開いていたドアに向かって放った。

ストラップは、ドアのところに呆然と立ちすくんだ由香里さん目掛けて跳んで行った。由香里さんは、反射的に飛んでくるストラップを掴んだ。ストラップの音と点滅は激しくなっていった。

「ピコピコピコピコ」

ストラップを掴んだ由香里さんと、俺に覆いかぶさっていた『俺』の身体がループ状の光の輪に包まれた。俺はその光のあまりの眩しさに目をつぶった。

「ピコピコピコ(ワンワンワン)」

ピコピコという光の点滅と、何かを回すような音が重なり出して、やがて消えた。

恐る恐る目を開けると、目に前に俺に覆いかぶさる由香里さんの顔が・・・

「ゆ、由香里さん?」

俺は、顔をドアの方に向けた。そこには、唖然として立ちすくんでいる俺が・・・俺?

そこには、女の服を着た俺が立っていた。

「何で俺が・・由香里さん、どいてくれませんか」

俺は、覆いかぶさる由香里さんに頼んだ。だが由香里さんは、身体をどかす様子もなく、その豊満な胸で、俺の身体を撫で回した。

「由香里さん」

「ふふふ、ほんとうに、和彦さんってお馬鹿さんね」

「由香里さん」

俺は何がなんだかわからなかった。と、ドアのところに立っていた『俺』が、俺たちのほうを指差して、叫んだ。

「な、なんでわたしがそこにいるの?それに裸なんて・・・」

「わたし・・・え?ええ?」

俺は、目の前で身体をくねらせて、豊満な胸の乳首で俺の身体を撫で回す由香里さんと、女のような甲高い声で泣き叫ぶ『俺』を見比べた。と、由香里さんが、顔を俺に向けて、微笑んだ。

「ま、まさか・・・」

「やっと気付いたみたいね。でもコレはわたしがやったことじゃないわよ」

「お、お前は一体誰なんだ!何でこんな事をするんだ」

「あら、まだ私が誰かわからなかったの?本当に、和彦さんて、頭が悪いのね。今、貴方は誰になっているの」

「誰って、部の後輩の山本・・美穂か!おまえは」

「やっと気付いたの?ドンカ〜ン、でも、今のわたしは、あなたのお兄さんの妻の由香里よ」

「何を言ってるんだ。俺を、いや、俺たちを元に戻せ!」

俺は身体を起して、まだ俺の身体をいたぶる由香里さんになった美穂に掴みかかった。だが、逆に両手を押さえられて、 俺はベッドに押し倒された。

「あなたが、何もしなかったら、わたしたちは元に戻れたのよ。でも、あなたはあのストラップを、由香里さんに投げつけてしまった。だから、わたしと由香里さんが入れ替わってしまったの」

「なんだって、あれは俺と君を入れ替えるだけじゃなかったのか!」

「あれは、青を男性が、赤を女性が持って、威勢に成りたいとどちらかが言うと、ストラップを持った者の姿を入れ替えてしまうの。そして、10分経ったら、また姿を入れ替えるのよ」

「だったら、元に戻るのでは・・・」

「だから言ったでしょ。また姿を入れ替えるって、だから、わたしと由香里さんの姿が入れ替わったのよ」

「でも、でも」

「だから言ったでしょ。入れ替えるって10分経って、青のストラップと赤のストラップを持っている者同士の姿を入れ替えるのよ。あの時、青のストラップを持っていたのは誰かしら?」

「ゆかりさん・・・」

俺は、自分がとんでもないことをしてしまったことに気付いた。関係のない由香里さんを巻き込んでしまったのだ。

「無理よ。だって、わたし、由香里さんの姿が気にいってしまったから戻る気はないわ」

「そ、そんな・・・なんでもするから、戻してくれ」

「なんでも?」

「ああ、なんでもするよ」

「なんでもねぇ」

由香里さんの姿をした美穂が微笑んだ。

「じゃあ、あそこで、戸惑っている和彦さんのお相手をしてくださらないかしら?わたしのかわいい義弟が、あそこの処理に困っているの」

美穂がちらりと、部屋の入り口で立ちすくんだ『俺』の姿をした由香里さんを見た。由香里さんは、呆然と立ちすくんでいたが、その下半身は、ビンビンになっていた。

「あそこの処理って・・・いったいなにを」

「あら、決まっているじゃないの。あなたとわたしが、さっきまでしていたことよ。いいでしょ。」

「や、やだ、おとこと、男に抱かれるなんて・・・」

「あら、さっきまでかわいい声を上げていたのは誰かしら?」

「あれは、お前が嘗め回すから。」

「あら、ガマンすればいいのに、うれしそうに声を出してたわよ。」

「い、いやだ。ほかのことにしてくれ!」

「自分が言ったことなのに守れないの。そんなうそつきは。このままね。」

「いやだ、男に、男に戻してくれ」

「じゃあ、する?」

「そ、それは・・・・」

「私はこのままでもいいのよ。あなたもでしょう?」

「俺は・・・」

「気持ちよかったでしょう?もうこの感覚を味わえなくてもいいの?」

そう言われて、俺は返答に困った。確かにさっきまで味わっていた感覚は、男では味わえそうにないものだった。全身が性感帯になったあの感じは捨てがたいものだった。

だが、あまりにも異常な状況に呆然となってしまった由香里さんの姿を見ていると、かすかに残っていた理性が、俺を問うてきた。

『あの由香里さんを見捨てるのか?あこがれの人だった彼女を、自分の快楽のために・・・』

そう、由香里さんは、兄嫁になった人だが、最初に紹介された時から、あこがれていた。決して越えられない一線があると知っていても、この気持ちだけは消せなかった。その由香里さんを見捨てる事は、俺にはできなかった。

俺は決心した。俺の姿に成った由香里さんに、この身を任せる事にした。

決して、女のSEXを知りたいからではない・・・

決して女のSEXを・・・

 

俺がベッドの上に座り、心の中で自己弁解を繰り返していると、美穂はベッドから立ち上がり、俺の横から立ち去るとド部屋の入り口で呆然としている由香里さんに近寄った。

ドアを開けると、そこに、俺と美穂が全裸で戯れている姿が目に飛び込み、そして、突然それが、美穂と自分が戯れる姿に変わったのだから思考が停止してしまうのも仕方ないだろう。

何を囁いたのかわからないが、由香里さんの手が股間に伸びた。

「ひっ!」

短く一声上げると、由香里さんの動きがまた止まった。今までの自分の姿は、傍らに立ち、股間には、あるはずのないものがあったのだから。固まった由香里さんの身体は、その場に崩れ落ちた。

その場にしゃがみこんだ由香里さんは、ヒクッヒクッとあふれ出そうとする悲しみを抑えているかのように、しゃくりあげていた。また、由香里さんの耳元に、美穂が囁くと、由香里さんは静かにゆっくりと立ち上がった。そして、俺のほうを見つめると、ゆっくりとこちらに歩きだした。ベッドのそばまで来ると、ベッドの横たわる俺を見つめながら、身をかがめると、ベッドの上に上がってきて、俺の身体をまたいだ。

「いいの?和彦さん」

由香里さんは俺の声で問いかけてきた。俺は黙ったまま、小さくうなづいた。

「ゴメンね」

由香里さんは、申し訳なさそうにそう言うと、いきり立つ俺のアレを、美穂の・・イヤ、今は俺のアソコにあてがった。

「いたい!」

俺は思わず声を上げた。それが無理やり入ってこようとしたからだ。それはまるで、治りかけの傷口を無理やりこじ開けようとするかのような(チョット、ぴったりの表現が思い浮かばなかったので勘弁な)感じだった。

「ごめんなさい、美穂さん、始めてみたね。チョット待っててね。ここをこうして・・・と」

「あ、あん、あぅん」

由香里さんは、俺のアソコに手を伸ばして、優しく触った。まるでマッサージされているような感じもあった。

「フフ、気持ちよくなってきたみたいね。チョット指を入れるわよ」

何かが、アソコに入ってくるのがわかった。

「いやん」

俺は思わず、身構えた。

「怖がらなくてもいいのよ。わたしに身を任せて」

由香里さんが優しく俺に語り掛けた。その言葉に俺は、由香里さんに身を任せた。

だが、由香里さんのアレが、入ってくる時の痛さに思わず声を上げてしまった。

「い、いたい、いたい、いたい〜〜〜!」

由香里さんと俺が元に戻り為とは判っているのだが、あまりのイタさに我慢することができず、身を捩じらせて、この痛さから逃れようとした。

由香里さんがあまりにも身を捩じらせて痛がる俺の頬を、殴った。

「大人しくしろ!男だろうが」

突然、由香里さんに殴られ、怒鳴りつけられて、俺は唖然となり、抵抗する気を失ってしまった。

俺は大人しく由香里さんに去れるままに身を任せた。だが、本当の女だったら、耐えられるのかもしれないが、下から突き上げてくる痛みに、俺は耐えられなくなり、気を失ってしまった。

 

 

 

「・・、・・」

わたしは、身体が揺さぶられて、気が付いた。

「ん〜〜」

「・ほ、・ほ」

「ん?」

「美穂、目が覚めたかい?」

目を開けて横を見るとそこには、優しく微笑む先輩が・・・

「あ、先輩」

「もう、先輩じゃないだろう。美穂」

「かずひこさん」

彼は、優しく、私のおでこにキスをしてくれた。

部活で、知り合ってから、ずっと好きだった先輩とひとつになれた幸せに、わたしは酔いしれていた。私はコレで、先輩のただの後輩ではない。恋人なんだ。わたしはいま、とっても幸せ。

 

 

美穂を玄関まで見送り、ドアを閉めて、振り返ると、そこには、由香里が笑みを浮かべて立っていた。

「ゆ、由香里さん、帰ってたんですか?」

「ええ、さっきね。和彦さん、あの子は彼女?」

「え?いや、あの・・・」

「かわいい子ね。もうしちゃったの?」

「いえ、あの、ボ、ボク宿題があるので・・・」

俺は顔を赤らめながら、自分の部屋へと駆け戻った。自分の部屋へと駆け戻る後姿を見つめながら、由香里は、微笑んだ。

「あら、純情だったのね。だったら、わたしがお相手をしてあげてもよかったかな?いえいえ、いくらわたしが愛する旦那様の弟でも、駄目よ。わたしは、あなたのお兄様、幸彦さんの妻ですもの。ふふふ」

美穂は、いや、由香里はうれしそうに笑った。

「これで、やっと長い間の念願がかなうのね。幸彦さんの妻、なんていい響きかしら?わたしが一大決心をして告白したのに、まだ子供だの、フィアンセがいるだの言って、わたしの告白を無視したけど、もう、わたしは大人だしあなたの妻よ」

 

和彦の兄の幸彦は、和彦や美穂の部活のOBだった。時々、部活に顔を出す幸彦に一目ぼれした。それから、美穂は、部活に幸彦が顔を出す度にアタックした。だが子ども扱いされて相手にされなかった。そして、幸彦は、由香里と結婚してしまった。

 幸彦の結婚を聞いても、美穂は、幸彦の事を忘れられなかった。由香里から幸彦を取り戻す方法を求めてネット検索をしていた時に見つけたのが、この青と赤のたぬきのストラップだった。何でも40年ほど前にコレを使って、同じくらいの年齢の少年と少女が、入れ替わったという珠をけずって作られていた。

 「入れ替わりが起こるのは、異性の間だけで、その時間は20分。時間になるとストラップがひかり出す。でも、その時に、ストラップをどちらか片方でも、身につけていないと入れ替わりは起こらない。そして、大きな精神的ショックを与えると、その姿の記憶が上書きされて、元の記憶は消滅してしまう。ふふふ、計画通りだわ。あとは、わたしが、由香里ではないと幸彦さんに気付かれてもいいように、時々入れ替わって、女を教えてあげるわ。幸彦さん」

 美穂、いや、由香里は、青と赤のたぬきのストラップを、目の前に摘み上げると、妖しげに微笑んだ。

 「ふふふふふ、あはははは・・・・」