悲劇のラガーマン?

             

 誰もいないはずの真夜中のグラウンドで、ラクビー部のメンバーが、うら若き女性を追い掛けていた。

「キャプテン。待ってくれ〜〜。」

「おれにパスを。もう時間がない。」

「こら、ジャック。おれにパスを渡せ。すぐに渡せ〜〜〜。」

 彼らは、口々に叫びながら女性を追いかけていた。紳士のスポーツと言われるラクビーにはあるまじき行為だった。

「だれが渡すか。死んでも放さないぞ。」

だがそのとき、巨体の男がそのか細い女性にタックルをかけた。彼女は倒れ、持っていたラクビーボールはそのショックで飛んでいった。ボールは落ち、転々としていたが、脱兎のごとく走りこんできた男がボールを持つとゴールに向かって走り出した。

一方タックルされた女性は、圧し掛かった身体を跳ね飛ばして起き上がった・・・・・ん?

弾き飛ばされた男の下から現れたのは、その男にも負けないほどの大男だった。

「ばっきゃろう。さっさとどかねえか。くせえだろうが。」

「きゃ、キャプテン。すみませんです。」

「もし、俺があのままだったら、おめえは、殺人犯だぞ、殺人犯。わかってるかあ〜。」

「は、はいッス。でも、キャプテン。かわいかったス。」

「そうだろう。俺だからあれだけになれたんだ。と、今ボールはだれがもっているんだ。」

「は、はい。え〜と。四十万先輩見たいすね。」

「しじま〜〜ぁ。あいつ興味ないとか言ってしっかり参加してるんじゃねえか。くそ、時間も余りねえし、いくぞ。ジャップなんかに負けられるか。」

「はいッス。」

 二人は、ボールを持って逃げ惑う美少女を捕まえに走り出した。さっきとは違ったタイプの美少女が、ボールを持って逃げ惑っていた。

 必死で逃げ惑う美少女、それを追うむくつけき男たち。それはどうしても、兎を追いかける熊といった様相だった。

 また誰かが少女にタックルをかけた。そのとき、ボールは、彼女の手を離れ、空高く飛び、それをキャッチした少女が逃げ出した。彼女は決して、ラクビーグランドからは出ようとはしなかった。さっきまで、ボールを持っていた少女が倒れたあたりにはごっつい男が立っていた。あの少女の姿はさっきと同じように消えていた。

 ボールを奪う事にあせりだして彼らは時間を忘れていた。タイムリミットまで、後15分しかなかった。

 彼らは力の限り追い掛け回していた。それは、このボールに秘められた力のせいだった。

 今からさかのぼる事30年前、有望なラガーマンが、このグラウンドで死んでいた。彼は、ボールをしっかりと握り、ゴールする寸前に死んでいた。実は、この学校にはある伝説があり、ハロウィンの真夜中までにラクビーのゴールにタッチダウンするとなんでも望みがかなうと言うのだ。彼も何か望みをかけていたのだろう。悔しそうな顔をしていた。

 それから、だれが言うともなく、ハロウィンの夜にこのボールを持つと美少女になれるという噂が立った。死んだラガーマンは、ホモで、好きな男がいたが、相手にされず女になりたがっていたのだった。その執念からこのボールをハロウィンの夜にもつと美少女に変身した。そして、真夜中までにゴールにタッチダウンをするとその美少女になれると言うのだ。

 ラクビーは激しいスポーツで、確かに男らしいものだが、このスポーツをするものが誰しも男らしいとは限らなかった。本当の自分の気持ちを隠すためにしている者もいて、ここで走り回っている者たちは、かわいい女の子になりたい自分の気持ちを隠すためにしている者たちだった。そして、その願望を達成するために彼らは走っていた。

 ボールの争奪は苛烈を極め、ボールは御手玉のように中を舞い始めた。フラッシュのように彼らの身体は、ボールに触った瞬間に美少女に代わり、離れるとすぐに元に戻った。そんななか、ついに掴む者が現れ、ゴールへ奪取した。それを追って全員が走った。

 ゴールまで、10ヤード、5.4.3.2.1ヤードまで来たとき追いつくものが現れた。そして、タッチしようとする彼女に飛びついた。そして、二人は殻舞いながら、ゴールへと倒れ込んだ。

 その瞬間、真夜中を知らせるミドル・ベンの鐘がなった。

ゲ ー ム セ ッ ト

 男たちは、互いのプレイを称え、握手した。そして、ゴールへとなだれ込んだ二人のところへ向かった。そして、倒れ込んだふたりを抱き起こした。だが、立ち上がった二人を見て、誰もが言葉を失った。

 そこには、かわいい女の子の顔をしたごつい身体の男と、いかつい男の顔をした華奢な女がいた。いや、性格には、女の顔の下には厚い胸板と腰が引き締まり、きゅっと引き締まったかわいいお尻をしたカモシカのようなスラッとした長い女の脚があった。一方、いかつい男の顔の下にははちきれんばかりの巨乳と白くしなやかな腕とがっしりとした腰に毛むくじゃらなごつごつとした足があった。二人は、一人分の美少女を二人で分けてしまったのだ。

 そして、ボールは二人の巨体に押しつぶされてぼろぼろに裂け、破れていた。

 こうして、TS学園の変身伝説は、また一つ終わりを告げた。