ある裁判

  第125法廷で、ある裁判が行われていた。

 裁判長「検察側最終弁論をどうぞ。」

 検察席に座っていた初老の検事が立ち上がり、左手に持った書類を右手で叩きながら言った。

検 事「被告人は、このような行為を行ったにもかかわらず、まったく反省の色がありません。従いまして、検察といたしましては、被告の反省を促す意味も込めまして、禁錮15年を求刑致します。」

裁判長「弁護側最終弁論を・・・」

弁護席に座っていた中年のめがねをかけた美貌の弁護士が立ち上がった。

弁護士「弁護側といたしましては、被告が、犯行当時は未成年であったことを鑑み、検察側からの求刑から5年の減刑を要求して、最終弁論を終わります。」

弁論を終わり、席に着いた弁護士に、被告が食って掛かった。

被 告「よう、弁護士先生よ。俺は無罪じゃねえのかよ。」

最終弁論をした弁護士の隣に座っていたまだ若いサポートの弁護士が言った。

弁護士2「何言ってんだ。犯行は動かしがたい事実だし、それを吹聴して回っていて、無実はないだろうが。」

被 告「ふん。無能が・・・」

弁護士2「なに〜〜。」

裁判長「静粛に。弁護側と被告は静かに。それでないと、法廷侮辱で退廷を命じますよ。」

弁護士「申し訳ございません。二人とも静かにしなさい。」

弁護士2「すみません。」

被 告「ふん。」

裁判長「判決を言い渡す前に、10分間の休廷を取ります。」

法廷は10分間の休廷に入った。裁判官は別室に移り判決が決定した。10分後、法廷に裁判官たちが戻っ

て来ると、おもむろに席についた。

裁判長「被告は、厳粛に判決を聞くように。あまりにも凶悪、非常な犯行であり、社会的影響を鑑み、禁錮2週間、執行期間13年のTS刑に処す。以上、本法廷を閉廷します。」

被告は警護の警察官に両腕を取られ、法廷を出て行った。検事達がその席を立ち、法廷を出て行こうとすると、傍聴席でこの判決を聞いていた被害者の関係者たちが検事たちの行き先を閉ざした。 

親族1「検事さん。あの判決は何なのですか。あんな判決だったら・・・ダッタラ・・・(ウグ、ウウウウウ)」

検事に詰め寄った関係者は泣き出してしまった。

検 事「大丈夫ですよ。彼はこれから自分が行ったことを、いやというほど反省されることになるのですから。」

親族2「でも、禁固刑が2週間では・・・」

検 事「あれは、13年の執行期間の準備期間なのですから。あまり聞いたことがないでしょう。TS刑などとは・・・これは、最近制定された強姦事件では最高の刑罰なのです。その刑に執行方法とは・・・」

検事は、声を潜めて被害者の関係者に説明しだした。それを聞いた関係者は一応に信じられない顔をしたが、検事は満足そうな顔をして法廷を出て行った。残された関係者たちは、唖然とした顔つきで立ちすくんでいた。

 

裁判所を出た受刑者(元・被告)は、郊外にある何かの研究所らしいところに連れて行かれた。そして、裸にされると、シャワー室に連れ込まれ、手錠をかけられたまま、身体を隅々まで洗われ、身体中の毛をそられた。

「いったい何をしやがんだ。俺をどうしようってんだよ。」

「お前が受ける刑罰の準備だ。」

「2週間の禁固刑って、風呂にも入らせてもらえないのかよ。汚ねえ刑罰だな。ケケケケケ。」

高笑いする受刑者を軽蔑したような表情をしながらも、彼の濡れた身体を拭いていた。そして、彼を診察室のようなところに連れて行った。そこで、いろんな診察を受けて、最後に数本の注射を打たれ、SF映画に出てくるような、カプセルに寝かされ、スキンヘッドになった頭に数本の電極がつけられ、寝かされた。

「ここに寝かされたままで、2週間か。楽勝だよ。出たら、風呂にゆっくりとつかってやるか。」

そう嘯きながら受刑者はカプセルに横たわった。そして、いつの間にか眠りについた。そして・・・・

 

『ん。ん〜〜ん。もう2週間過ぎたのか。ねたばっかりの気がするが・・・』

受刑者は、カプセルのカバーが開くと起き上がった。そして、大きく背伸びした。

「ん〜〜んぁ。よく寝たわ。ほんと。〜〜〜ん?」

『なんだ今のは?誰かいるのか?』

受刑者は周りを見回した。だが、そこらあたりには、彼以外には誰もいなかった。

「どうしたというのかしら、女の人の声が聞こえるなんて・・・え?」

彼はその声が自分の口から出ているのに気がついた。そして、自分がしゃべる言葉もおかしいことも・・・

「どうしたというの。なぜ、私が女言葉をしゃべっているの?」

『本当にどうしたというのだ。まさか・・・』

手を胸に当ててみるとそこには、ふっくらとしたふくらみがあった。

「どうして、私の胸にふくらみが・・・まさか、あそこも・・・ない、ないわ。」

あれがなくなっている。そのことに、なぜか止めどなく涙があふれてきた。まるで、女のように・・・

彼が言い知れぬ悲しみにくれている時に、部屋のドアが開き、あの裁判のときの裁判官と検事と弁護士が、白衣の中年男性と一緒に入ってきた。

「起きたようだな。先生、どうでしょうか。」

検事の言葉に従うように、泣きじゃくる彼、いや、彼女の身体を診察した。そしていくつかの質問を彼にすると、満足そうに、検事のほうに顔を向けた。

「変身は完璧です。これで、刑の執行はできますよ。」

「ありがとうございます。先生。それでは、被告の刑罰をただいまより執行します。」

裁判官は、誰に言うとはなくそう宣言した。

「下田三郎。現在200X年2月16日午後2時32分より、ちょうど13年後の201X年2月16日午後2時32分までTS刑を執行します。これから13年間。あなたを誰が、強姦しようとも何人たりとも罪はとらわれません。それと、あなたの意識は決して、女性化することはありませんので、男性を愛することはできません。そして、性行為による快感も感じることはできませんので、女性との性行為もあなたを救うものではありません。そのうえ、あなたの脳はプロテクトが掛けられていますから、あなたは男からいつ襲われるかわからない恐怖を13年間体験するのです。それが、あなたがうけた判決です。言い忘れましたが、あなたにはマーキングされています。このマーキングは、どんなことをしても隠せません。あなたには見えませんが、あなた以外の人には、あなたが、TS刑受刑者であることはわかるようになっています。」

「そ。そんな。それでは、私の人権はどうなるのですか。非人道的だと思いますわ。」

「お前が、人権云々をいうのか。お前は、被害者の女性たちに何をしてきたというのだ。馬に発情剤を打ち、結婚間じかの女性を犯させ、脅して、愛犬のペニスをなめさせ、それをインターネットで知人に送られ、ビデオを売られた女子高生はどうなんだ。まだあるぞ。」

検事は、はき捨てるように彼の犯歴を数え上げた。

「先生、助けてください。」

三郎は、弁護士に助けを求めた。

「私も、国選じゃなければ、あなたなんかの弁護は引き受けないわ。裁判中も嬉々として自分の行いを話したのは誰なのよ。」

メタルフレームのめがねを光らせて、女弁護士は、三郎をにらみつけた。

「あなたの行動は、すべて女らしくなるようにしてあります。男らしく振舞おうとしても、自分の行動を女らしく変えてしまいますので、無駄なことはしないように。それでは、新しい人生を歩んでください。13年後にまたあいましょう。」

裁判官のその言葉を待っていたかのように、婦人警官が現れると、三郎・・・今は、うら若き女性になった彼女に下着や服を着せると、外へと連れ去った。こうして、世界初のTS刑は執行された。

 

 

「さて、彼が自分の行いを深く反省することを祈りましょう。」

裁判官のその言葉に検事も弁護士も頷いた。

「彼はこれから13年間、ありもしないマーキングにおびえながら暮らすのですね。」

「そう、だから、隠すことはできないのです。彼は自分が与えた恐怖を骨身に感じることでしょう。それに、ありもしない罪にならない強姦の恐怖にも・・・」

いくらなんでも、犯罪を奨励することはできないので、彼を強姦したら罪を問われた。これらはすべて、彼を脅す行為だった。だが裁判官の言葉に、検事も弁護士も心から彼の改心を祈るのだった。

そして、すべての結果は13年後に明らかになる・・・

 

 

あとがき

ふと、思いつきで書いてしまいました。卑劣で悲惨な犯罪、強姦。これは、被害者しかその恐怖はわからないでしょう。いくら刑務所に入ったとしても、開き直られてはどうしようもありません。だから、彼らにもその恐怖を・・・と思ったのです。

彼の改心を祈りつつ。また、いつかお会いしましょう。