館内放送「本日は、当劇場にお越しくださいましてありがとうございます。大変お待たせいたしました。冴えない中年監督・若旦那の第三回名古屋国際TSFフェスティバル参加作品「兄貴があの子で、あの子が兄貴。そして? シークレット?」をこれより上映いたします。

本作品、上映後、出演者の舞台挨拶がございますので、上映が終わりましても、お席を立たないでください。それでは、最後までごゆっくりとご鑑賞ください。

ブ〜〜〜〜

ブザ〜とともに会場は暗くなりはじめ、舞台のカーテンが開きだしたが、2/3開いたところで止まった。そして、映写機が動き出す音がして、映画館のバックステージから闇を引き裂きさいて光が走り、正面のスクリーンに映像を照らし出し始めた。

(スクリーンに絣の着物に袴姿のバンカラ学生が、チョコレートを口にほおばると、絣の着物は、赤い花柄の着物。青い袴の赤いリボンで長い髪を束ねた美少女にモーフィング。そして、ナレーションが流れてきた。)

ナレーション『「・・・・ない!」 この一言が言いたくて・・・ あなた、美少女になってみませんか。オフビーツTSミルクチョコレート。

TSミルクのあま〜くとろけるような香りが、あなたを美少女にメタモルフォーゼ!オフビーツTSミルクチョコレートは当館売店でも販売いたしております。』

 

(ピンクの帽子をかぶり、肩まである長い髪が裾でカールした少女が振り返って、そのかわいい大きな瞳を輝かせて、囁いた。)

ナレーション『いらっしゃいませ。TSF・CDは、ボイスの缶詰。あなたのお好みのCDは見つかりました?お好みのうるさいあなたでも、きっとご満足いただけます。あなたも、ボイスTSしてみませんか?』

 

(タイツ姿のマッチョな外人男性が、姿見を持って現れる。そして、その姿見を裏返しに中央に置くと、その影に隠れた。その瞬間、閃光が走り、姿見の影から現れたのはフリルのキャンディー・ドレスに白い前掛けのついたエプロン姿の長い金髪の美少女。)

ナレーション『喫茶・鏡の国の変わり娘 営業中。ここでは、あなたの憧れのTSF作家の人と出会えるかも?そして、秘術を聞き出して、あなたもTSギャルに仲間入り』

 

館内放送「これより本編が始まります。」

 

菜の花畑の中を蒸気機関車が走っている。白煙を上げて走る機関車は、5両の客車を引っ張っていた。客車の中はすべて満席だった。そんな中、向かい合って座っている二組のカップルがいた。若く幸せそうな二組のカップル。男性陣は通路側に、女性陣は窓際に座って、他愛のないおしゃべりで、その場は盛り上がっていた。

ナレーション「僕の名前は。下田健太郎。大学のクラブの後輩の彼女とこの春結婚することになり、そのお祝いに、兄貴夫婦と一緒に旅行することになった。ハンサムで頭がよく、弟思いの自慢の兄貴の隆と、美人で優しく、よく気がつく、僕の憧れでもあった兄嫁の麗華さん。それに、僕の妻となる小柄で美人と言うよりもかわいくて、ちょっとドジな神埼美弥と僕の4人は、友達や兄弟以上に仲のよい4人組だった。だけどそれがあの出来事で・・・・」

 

シークレット

 

         徳田 則之

        久遠時 若菜

         猫 伸朗

         鈴宮 静子

           

           ・

           ・

           ・

         監督 若旦那

 

「4人で旅行するなんて、楽しいわね。これからもしましょうよ。」

「そうだな、時間なんか合わせて、どうせ、家も隣どうしだからな。」

「そうか。これからも麗華さんのおいしい料理が食べられるんだ。・・・いて!」

「どうせ、料理は下手ですよ〜〜〜だ。」

ほほを膨らませてべ〜と舌を出す美弥。それに気づき、ひたすら謝る健太郎。それを見て、大笑いする隆とやさしげに微笑む麗華。

健太郎が、ご機嫌を損ねた美弥の機嫌を取ろうと、立ち上がって釣り棚の荷物を降ろそうとした瞬間。列車はものすごい金属音とともに急停車した。バランスを崩した健太郎は、麗華に倒れ掛かり、倒れ掛かる健太郎を、支えようと立ち上がった隆は、再び起きた激しい揺れのために、バランスを崩して、自分の頭を美弥の頭に激しくぶつけた。健太郎は、麗華に倒れ掛かり、再び起こった衝撃で、前のめりになり、健太郎は前の座席に、麗華は床に放り出された。そして、4人とも気を失い、その場に崩れて動かなくなった。

この衝撃で、列車の中は、棚や、座席の傍に置いてあった荷物が散乱し、衝撃で、座席から飛び出し、身体を打ちつけた人々のうめき声が、あちらこちらで、上がっていた。楽しくにぎやかだった列車の中は、阿鼻叫喚の地獄へと化していた。

やがて、どこからともなく、人々の呼ぶ声と救急のサイレンの音が、激しく鳴り響いてきた。 

 

「・・・・さん。」

「・・・・さん。」

ふと、目を開けると眩しいばかりの明かりが飛び込んで来た。

「ん?んん〜〜〜。」

メタルフレームのメガネをかけ、頭が薄くなってきた白衣の中年男性と薄いピンクの看護服を着たかわいい女の子が、左右に立って、顔を覗き込んでいた。

「ん?ここは?」

「病院ですよ。」

「あなたは、列車事故にあわれて意識不明になっていたのです。意識が戻ったようですからもう大丈夫ですよ。」

看護服の女の子と白衣の中年男は、笑みを浮かべながら交互に言った。

「あの?あなた方は?」

「この方は、担当医の章丹(しょうに)先生です。私は看護させていただいております久遠来羅(くどうらいら)です。」

「は?ありがとうございます。・・・?」

健太郎は、ベッドに起き上がるとぼんやりした顔をして、部屋の中を見回した。

「あの?他のみんなは?どうしたんですか。」

健太郎のその問いに、医師と看護婦の顔に、暗い影が差した。

「どうかしたのですか。美弥は?麗華さんは?兄貴は・・・どこです。」

健太郎は、章丹医師の胸倉をつかんで、身体を揺さぶった。医師も看護婦も彼の目を避けたままだった。

「もしかしたら、3人とも・・・」

健太郎は、章丹医師の胸倉をつかんでいた手から力が抜け、健太郎の身体は、前かがみにベッドの上に倒れこんでしまった。

「あにき〜〜〜。れいかさ〜〜〜ん。みや〜〜〜〜〜〜。」

そして、うずくまると、彼は、号泣した。

「下田さん。落ち着いてください。」

看護婦がやさしく号泣する健太郎の背中に手を当てた。

「やめてくれ、慰めなんか。みんな死んでしまたんだ。」

「死んではいないのよ。でも・・・」

「でも?」

「意識が戻らないのだよ。」

章丹医師が、申し訳なさそうにつぶやいた。

「それじゃあ、生きているのですね。あわせてください。みんなに、今すぐ。」

章丹医師は、なにか久遠看護婦に告げると、彼女は病室を出て行った。

 

車椅子に乗った健太郎が、久遠看護婦に押してもらいながら、病院の廊下を、みんなの眠る病室へと向かっていた。

「比較的様態の軽い麗華さんのところにご案内します。こちらですわ。」

久遠看護婦は、日当たりのいい個室に健太郎を案内した。そこには、ベッドの上で、眠れる森の美女のオーロラ姫のように、ベッドの横たわる麗華がいた。

「麗華さん。」

健太郎は、車椅子から立ち上がり、ベッドに横たわる麗華のそばに近づいた。その麗華の美しい寝顔に見入られ、健太郎は思わずその赤くふくよかな唇に、口付けしそうになった。

健太郎の唇が、麗華の唇に重なろうとしたとき、閉じられた麗華の瞳が開いた。

「健太郎君。目覚めさせる相手が違うでしょ。」

麗華は微笑んで、健太郎を見つめた。そんな二人を、ドアのところに立って見ていた久遠看護婦が、クスリと笑った。

健太郎と麗華は、車椅子に乗り、久遠看護婦と、もう一人の看護婦に、隆と美弥の眠る病室へと案内してもらった。

「隆さんも美弥ちゃんも眠ったままなの?」

「兄貴・・・美弥・・・」

身体中にコードとかチューブをつけられて横たわる隆と美弥。健太郎に出来ることは、そんな二人をただじっと見つめるだけだった。

「みや。」

「たかしさん。」

二人は思わずつぶやいた。だが、二人の声にも隆と美弥の瞳は、閉じたままだった。

二人は、いつまでも二人の傍に居たかったのだが、久遠看護婦に病室の外に追い出されてしまった。ふたりとも、意識が戻ったばかりだったのと、隆と美弥の様態に変化が見られなかったからだ。このまま二人が居ても、変化のない状況に失望するだけだった。二人は、仕方なく病室に戻ろうと、隆と美弥の病室を出た。久遠看護婦たちは、隣の部屋から顔を出した医師に呼び止められたので、健太郎と麗華は、二人だけで、自分の病室に戻ることにした。

だが、このまま帰っても、ベッドに横になるだけなので、二人は、すこし、病院内を見て回ることにして、車椅子を降りると、こっそりと廊下を階段のほうに曲がった。そして、一階下のフロアに行こうとしたとき、麗華が不意にふらつき、健太郎に寄りかかってきた。だが、まだ体力が戻っていなかった健太郎は、麗華を支えることが出来ずに、二人は、いっしょに階段を転げ落ちてしまった。

 

一ヶ月と三ヶ日後・・・

(集中治療室)

隆と美弥の眠る病室では、若い看護婦が、機械のチェックをしていた。と、ふと二人を見ると、隆と美弥の目がうっすらと開いていた。

「え?あ!先生、先生。患者さんの意識が・・・・」

若い看護婦はコードの足を取られて、こけ掛けながらも病室を飛び出していった。

その声に触発されて、二人は目覚めた。だが、まだはっきりとしない頭の中の靄を払うかのように左右に振った。そして、自分の隣に人がいるのに気がついた。そして、恐る恐るお互いの顔を見た。

「あら、隆さん。大丈夫でした?」

隆が心配そうに言った。

「美弥ちゃんのほうこそ大丈夫だったかい」

ふたりは、お互いにうなずくと、正面に顔を向けた。そして、ほっと一息つくと、またお互いに顔を見合わせて・・・

ん?おれが・・・・

え?わたしが・・・

いる〜〜〜!

 

病院の玄関で、麗華と健太郎が、章丹医師と久遠看護婦に礼を言っていた。

「本当にお世話になりました。」

「おかげさまで、兄も、美弥も元気になれました。」

隆と美弥は、落ち着かない様子で、麗華と健太郎の後ろに立っていた。

「昨日、意識が戻ったばかりで、お二人とも不安定な状態ですが、別段異常もなく、怪我もそうたいしたこともありませんので、この旅行でリラックスして、今回のことは、早く忘れたほうが言いと思いますから、退院を許可しましたが。何かかわったことがありましたら、すぐに連絡くださいね。」

「ハイ。ありがとうございます。」

四人は、医師と看護婦に深々と頭を下げると、玄関に止めてあったタクシーに乗り込んだ。タクシーは、4人を乗せて静かに動きだした。

 

タクシーの中では、後部座席に、隆と美弥が両側のドアのほうに座り、真ん中に麗華が座わり、健太郎は助手席に座っていた。隆と美弥は、お互いに窓の外のほうに顔を向けて、黙っていた。時折、隆への麗華の問いかけに、美弥が答えた。

「ねえ、どうして、美弥さんが答えるの?私、隆さんとお話しているのに。」

「だって、隆は・・・あ、私は美弥でしたわ。隆さん。麗華さんがお呼びですよ。」

何か言いかけた美弥はあわてて言い直した。だが、隆は、黙って窓の外を見つめたままだった。

「隆さん。たかしさん。」

美弥は、身を乗り出して、声を荒げて、外を眺めている隆の身体を揺さぶった。

「隆って、あなたじゃ・・・あ、そうか!なんだい。麗華。」

隆と美弥は取ってつけたような笑顔をした。

「もういいわ。」

麗華は、納得のいかないような顔をしながら、前を向いた。そこには後ろを向いて、成り行きを見守っていた健太郎の顔があった。健太郎も何か気にかかるような顔をしながら姿勢を戻して、前を向いた。

やがてタクシーは、4人を乗せて老舗の落着いた旅館の前に静かに止まった。

「ここが、鉄道会社が手配した旅館か。結構いいところだな。」

四人がタクシーを降りると旅館の従業員が総出で出てきて、彼らを迎えた。

「いらっしゃいませ〜〜」

壮大な出迎えに、4人は戸惑ってしまった。それから、出迎えに出てきた女将に案内されて、帳場で宿帳に記帳をすると、若い仲居に部屋へと案内された。ある部屋の前で、4人を案内してきた仲居が、軽くお辞儀をして、部屋の入り口を指した。

「御一組はこちらにどうぞ。」

そう言われて、麗華と美弥がいっしょに部屋に入りかけた。

「美弥ちゃん、あなたは健太郎さんとでしょう。隆さん。ぼんやりしてないで、部屋に入るわよ。」

麗華は、隆の手を取ると案内された部屋に入っていった。麗華に手を引かれて部屋に連れ込まれていく隆は、困惑と救いを求めるかのような目をして、美弥を見つめていた。だが、彼女はなすすべもなく、部屋の中に、麗華と消えていく隆を見つめているだけだった。

「美弥。僕たちも部屋に入ろう。」

後ろ髪を引かれる思いの美弥の気も知らずに、健太郎は、美弥と自分たちの部屋へと入っていった。

「いろいろあったけど、今日からが、僕たちの新婚生活の始まりだ。美弥、よろしくお願いします。」

服を脱ぎ、準備されていた浴衣に着替えた健太郎は、まだ、呆然として立ちすくんでいる美弥の前に正座すると、静かに頭を下げて、そういった。

「え、あ、いえ、その~こちらこそ・・・」

美弥は戸惑いながらもそう答えた。弟の妻になるとは・・・美弥になってしまった隆は、心の中でそうつぶやいた。そして、これから起こるであろうことを思うと、気が滅入って行った。だが、彼女は、まだ、肝心なことに気がついていなかった。美弥にとっても、隆にとっても、今夜が、本当の結婚初夜だということを・・・

病院のベッドの上で目覚めた時、二人は、自分達に起こった状況が、理解できなかった。

「わたしがいる」

「そこにいるのは、僕?」

お互いの目の前に、鏡に映った自分がいた。鏡に映った自分?それは、自分の意思に反した動きをする自分の影。

美弥は、目の前の自分に、右手を伸ばした。目の前の鏡の自分も、同じように右手を伸ばして、美弥の顔を触った。

「右手?」

鏡の自分は、右手を差し出したのだ。鏡なら、伸ばされた手が接触するはずなのに、お互いの手は、接触することもなく、平行に伸びていった。

「あなたは誰?」

「そういう君は・・・」

美弥の声で問いかける鏡の中の美弥。だが、鏡の自分に問いかける美弥の声は、いつもの自分とは違っていた。鏡の美弥に伸びていく手も、見慣れた自分のものではなかった。美弥は、いい知れぬ恐怖に包まれた。

「いや〜〜〜〜」

病室に、美弥の低くハスキーな悲鳴が鳴り響いた。

 

「美弥ちゃん、お風呂に行かない?あ、健太郎さんもどう?」

部屋の入り口から、麗華が顔を出していた。そして、部屋の中に入り美弥のそばに来て、しゃがみ、麗華は、美弥の手をつかむと、有無を言わさずに、引っ張っていった。目覚めた時のことを思い出していた美弥は、状況がわからないまま、麗華に引っ張られて行った。健太郎は、あわてて、麗華と美弥の後を追った。その後を、隆が、のろのろとついて行った。

「隆さんと、健太郎さんは、そっちね。美弥ちゃんは、わたしとこっちよ。さあ、入りましょう」

麗華は、美弥の手を握ったまま、有無を言わさずに、美弥を大浴場の女湯のほうへと引っ張って行った。女湯の脱衣場で、麗華は、着ていた浴衣を脱ぎ、下着を、あっという間に脱いで、浴場に入ろうとして、立ち止まった。まだ、浴衣を脱いだだけで、下着を着けたままで、もたもたしている美弥に気づいたのだ。

「もう、美弥ちゃん。なにやっているの。のんびり屋さんなのだから。そんなにゆっくり脱いでいたら風邪を引くわよ」

そういうと、手早く美弥の下着を脱がせ、麗華は、美弥を浴場の中へと引っ張って行った。

麗華は、湯船の淵にかがみ。かけ湯を身体にかけると、湯船に入った。まだもじもじしている美弥に、湯船の中から、お湯をかけると、湯船のなかに引っ張り込んだ。麗華が、あまりに勢いよく引っ張るので、美弥は、湯船の中に落ちてしまった。

「麗華!なにをするのだ」

「あら、美弥ちゃん。あんなところにいつまでもいたら、それこそ風邪を引くわよ」

麗華は、可笑しそうに笑った。美弥は、ふくれ面をしながら、湯船の中に沈んでいった。

「いいお湯ね」

「ええ」

美弥の隆は、本当にそう感じていた。男の時には、ぬるいと感じるだろうお湯なのに、今ではちょうどよかった。

「さあ、温まったから、お互いのからだの洗いっこをしましょう」

「え?」

麗華の提案に、唖然とする美弥を、湯船から引き上げると、洗面台に連れて行き、美弥を座らせた。そして、自分は、美弥の横に座った。

「美弥ちゃん、きれいね。女のわたしでも、惚れちゃいそう。あら、ごめんなさい。手がすべちゃったわ」

「あん、麗華さん。駄目だよ。そんなところを触っては・・・あ、あん」

麗華は、美弥の背中を洗うといいながら、滑ったといっては、美弥の胸や、あそこに手をやっては、さわりまくっていた。

「うふふ、美弥ちゃん。ほんとかわいいわ。その男の人みたいな言葉使いも。まるで、隆さんみたい」

「れ、麗華、やめてくれ〜〜」

「麗華?」

「いや、麗華さん。やめてください」

「あら、他人行儀ね。わたしたち、姉妹なのよ。お姉さんと、呼んで」

「お、お、おねえさん、やめてください」

「あらあら、妙に棒読みね。いいわ、美弥ちゃんとは、これからも一緒にお風呂に入れるのだから。今度は、美弥ちゃんが、わたしを洗ってくださる?」

「え、ぼくが・・・」

「ええそうよ。おいや?」

麗華は、美弥の前に、その見事なボディを惜しげもなく晒した。豊かな胸、引き締まった腰、形よく茂った秘部。これがすべて、隆のものになるはずだった。だが、今は、同性として、義理の妹として、麗華の身体を触るしか出来ないのだ。

「れ、麗華さん。後ろを向いてくださいよ」

「あら、女同士なのに恥ずかしいの。さあ、胸から洗ってくださらないかしら」

麗華は、美弥に、ボディソープを染み込ませたスポンジを掴ませると、自分の胸に当てさせた。麗華のふくよかな胸に当たったスポンジを持った美弥の顔が、真っ赤になっていった。そして、その可愛い鼻の穴から、赤いしずくが、ふたすじ、たら〜〜りと・・・

 

「うふふ、ほんと。美弥ちゃんは、かわいいわねぇ」

イジワルに、前を向いていた麗華を、何とか後ろ向きにさせると、美弥は、麗華の背中を洗いながら、ふと寂しくなった。もう2度と、麗華と愛し合うことは出来ないのだ。

だが、美弥は、おかしな感覚に気づいた。ありもしない股間に、あの感覚があるのだ。男ならだれでも感じたことのあるあの感覚。今は女である美弥に、あるはずのないあの感覚。美弥は、思わず自分の股間を抑えた。だが、そこには、アレがあるはずもなかった。押さえようにも、ないはずのものの膨張を抑えることは出来ない。美弥は、女でありながら、男として、麗華の身体に興奮して、麗華の背中を洗い続けた。足をすぼめ、前かがみになりながらも、麗華に、このことに気づかれないように気を使いながら洗い続けた。

「ふふふ」

だが麗華が、含み笑いをしているのを、後ろで、股間の興奮を抑えながら、一生懸命に背中を流している美弥は、気づいていなかった。

「あら、美弥ちゃん。ここも洗ってくれないと困るわよ」

そう言って、麗華は、背中を洗っていた美弥の手を掴むと、胸のほうに持ってきた。

「ここよ。よく洗ってね」

「ズキン」

ありもしない美弥のペニスが、疼いた。

「うぐっ、なんで・・・」

「くくく、かわいい・・・」

一層、この状態に対応しきれなくなってきている美弥の慌てぶりを見つめながら、麗華は、苦しそうに笑いを殺していた。

 

「どうしたのだい、兄さん。腰にタオルなんか巻いて。外しなよ。今ここには、僕たちしかいないのだから」

「え、いや、そんな。恥ずかしいわ。やめて」

隆は、腰をくねくねと動かして、タオルを取ろうとする健太郎の行為に抵抗した。

「恥ずかしいわ。とか、女みたいに腰をくねらすなんて、兄さんらしくないよ。どうかしたのかい」

「え?いや、その〜どうもしないよ。まだ、傷が残っているから見せたくないのだ」

隆は、もっともらしい言い訳を考えると、健太郎に言った。

「ふ〜ん、そうなのだ。でも、身体はよく洗っておかないと。今日は、麗華さんと久しぶりに、一緒に寝るのだろう。僕も、美弥と・・・」

健太郎さんが、わたしになった隆さんと、初夜を・・・隆になった美弥は、本当のことを告げようかと思った。だが、今、自分のこの身体は、男の身体。そのうえ、健太郎の兄の身体なのだ。もし、真実を告げたとしても、健太郎が信じてくれるとも思えず、もし信じてくれても、この身体のままでは、2度と彼と結ばれることはできない。それに、真実を告げると、彼を苦しめることになりそうだった。

実の兄の身体をした妻など、不気味で滑稽でしかなく、けっして、幸せには慣れそうもなかった。隆は、自分は死ぬまで、愛する人に抱かれ、愛されることはないのだ。彼の兄なのだから。

隆が、絶望に落ち込んでいると、いつのまにか、湯船につかっていた健太郎が、隆を呼んだ。

「兄さん、そんなところに立っていると風邪を引くよ。いいお湯加減だから、早く入りなよ」

健太郎の進めに、隆は、そっと湯船につかった。

「いいおゆだねぇ、にいさん」

「ええ。いいお湯」

以前の美弥の身体だったら入れないほど熱いお湯を、気持ちいいと感じている自分が、不思議だった。その反面、そのことをあたりまえだとも感じていた。

湯船につかって、お湯に温められて、すこし顔が赤くなってきていた健太郎の顔を見て、隆は、股間が濡れてくる感じがした。

「ジュン」

今そこには、健太郎と同じようなものがあるのに、なぜか、隆は、女として、健太郎を感じていた。

「なんで・・・」

隆は、つぶやいた。2度と感じることのないだろうと思っていたあの感じを、感じるなんて。それは、隆への切なく恐ろしい拷問でしかなかった。

「兄さん。背中を流すよ。さあ、湯船から出て」

健太郎に促されて、隆は、湯船を出て、流しのほうに歩いていった。

「兄さんの背中を流すなんて、何年ぶりだろう」

「そうだなぁ」

隆は、できるだけ男らしく短く答えた。自分が本当は、隆ではないことに気づかれないようにするためだ。

「なあ、兄さん。あの時のことを覚えている?」

「あのときの事?」

隆は、知るわけがなかった。自分は、本当は、彼の兄の隆ではなくて、妻の美弥なのだから。だが、ばれないように、あいまいな返事をして、健太郎に話を続けさせた。

「そう、あのときの兄さんの顔ったら。おかしかったなぁ」

「そうか?」

あいまいな健太郎の話に、隆は戸惑ってしまった。本当のことがばれないようにする事に懸命な隆は、彼の後ろで健太郎が、笑いをこらえているのに気づくはずもなかった。

 

その夜、隆と美弥は、まだ身体の調子が悪いからと言って、先に寝てしまった。麗華は、すやすやと眠る隆を見つめながら、縁側で、窓から見える夜景を眺めながら、携帯でメールをしていた。健太郎も、同じように、夜景を眺めながらメールしていた。

麗『美弥ちゃん、寝てしまったの』

健『ええ、身体の調子がまだ、悪いからっと言って』

麗『ウフフ、隆さんもなの。二人ともかわいいわね。自分たちのこと、まだ、ばれてないと思っているのだもの』

健『たしかに・・・でも、どうするのです。これから』

麗『さあ、それはわからないわ。でも、わたしこれ、結構気に入っているのよ』

健『僕のほうは、いろいろと大変ですが・・・仕方ないですね』

麗『あら、結構楽しんでいるみたいだけど。でも、そう、成るようにしかならないわ』

二人は、よく眠っている隆と美弥の寝顔を見ながら、うっすらと、その顔に微笑を浮かべた。

 

「おはよう。美弥」

美弥は、その声に目を覚ました。

「う〜ん、おはよう。麗華・・・・え!なんで、健太郎がここにいるのだ」

目を覚ました美弥の目の前には、健太郎のにこやかな顔があった。

「なに言っているのだよ。僕たちは夫婦じゃないか。おかしいぞ、美弥」

「美弥?わたしは・・・・美弥よ」

美弥は、自分は隆だと叫びそうになって、今、自分は美弥になっているのを思い出した。そう、今、自分は、健太郎の妻の美弥なのだ。美弥は、思いっきり顔に笑みを浮かべると言った。

「おはよう。健太郎さん」

 

「隆さん、起きてよ」

「う、う〜ん。健ちゃん、もう少し眠らせてよ」

「健ちゃんじゃないわよ。あなた、起きてよ。健太郎さんたち、朝食を一緒に取ろうとさっきから待っているわよ」

「あ、麗華さん。健ちゃんは?」

「健太郎さんはお隣の部屋よ。なにを寝ぼけているのよ。いやね、あなたったら」

「健ちゃんは、隣の部屋?隆さんといっしょ?」

「なに言っているのよ。隆さんはあなたでしょ。隆さん。まだ寝ぼけているの、いやね」

「え?わたしは、隆さんじゃあ・・・・」

そう言い掛けて、隆は、黙った。そう、今は、自分は隆になっているのだ。そのいまわしい事実を隆は思い出した。

「あ、ごめん、ごめん。寝ぼけていたよ。さあ、二人をあまり待たせちゃ悪いから、朝飯を食いに行くか」

「ええ」

隆は、麗華を連れ立って、健太郎たちが待つ宴会場へと向った。そこには、すでに健太郎と美弥の弟夫婦が、席について待っていた。

「ごめんなさい、隆さんが、なかなか起きないものだから」

起きたばかりで、薄化粧をしただけの麗華を見て、美弥のありもしないペニスが、興奮して勃起した。

「うっ」

思わず美弥は、前のめりになった。

「あら、美弥ちゃんどうしたの。身体でも悪いの」

目ざとく美弥の異変に気づいた麗華が言った。

「いえ、何でもありません」

そう言うと、美弥は、無理やり身体を置こした。まだ、ありもしないペニスが勃起して、妙な感じだったが、ムリやり身体を起した。

「そう、それならいいのだけど。あまりムリしないでね。退院したばかりだから」

そういうと、隆と麗華の夫婦も、健太郎たちの隣に座った。

「さて、今日は観光ね。楽しみだわ」

麗華は、妙にうきうきしていた。そんな麗華を見つめて、美弥は不安になった。いよいよこの姿で、人前に出るのだ。隆の顔も心なしか、青ざめているように思えた。

朝食も終わり、4人が部屋に戻りかけたとき、麗華が言った。

「それじゃあ、10時に、ロビーに集合よ。美弥ちゃん、目一杯おしゃれしましょうね」

麗華は、そう言うと、楽しそうに部屋に入っていった。

部屋に戻ると、健太郎が、着替えている間、美弥は、美弥の旅行かばんから化粧ポーチを取り出し、備え付けの鏡台の前に座った。美弥は、鏡に映った自分の顔を見つめた。そこには年令よりもずっと若やいで見える可愛い美弥の顔が映っていた。

「どうしたのだ、美弥。早く準備しないと、約束の時間に間に合わないぞ」

「う、うん」

美弥は、健太郎の言葉に頷いたが、動こうとはしなかった。いや本当は、美弥は、化粧の仕方がわからなかった。だから美弥は、ただジッと鏡を見つめていたのだ。

「どうしたのだ、美弥。早くメイクしなよ」

「う、うん」

美弥はそう返事したが、動こけなかった。

「美弥。化粧の仕方忘れたのか」

美弥は、その問いに戸惑い。どう答えようかと考えた。

「うん、まだ頭がぼんやりとして、思い出せないの」

「仕方ないなぁ。それじゃあ、僕がしてあげるよ。さ、こっちを向いて」

健太郎は、美弥の横に座り。美弥の顔を自分のほうに向けると、美弥が鏡台の上に置きっ放しにしていた化粧ポーチを開けて、なかから化粧品と化粧用具を取り出した。

「健太郎さん。化粧なんてできるの」

「ああ、簡単さ」

軽く言う健太郎に、美弥は疑問を感じた。

『健太郎は、ひょっとして、妖しげな所に行っていたのではないだろうなぁ』

鏡の前で化粧をする健太郎の姿が、美弥の脳裏に浮かんだ。

「忘れたかい。僕は、高校時代に演劇部に入っていたのだぜ」

そういえば、健太郎は、高校までは華奢な身体をしていて、今のがっしりした体格からは想像がつかないようなスリムなスタイルだった。そして、端整な顔立ちをしているので、男子校だった彼は、演劇部でも貴重な美女役の役者だった。そして、麗華も中学・高校時代は、演劇部に入っていた。女子校だったので、男役をやらされていたといって、ぼやいていたのを思い出した。

「そ、そういえば、そうだったわね」

美弥は、少しあいまいに頷いた。美弥は、化粧を健太郎に任せた。そして、30分後、健太郎は、手に持っていた紅筆を降ろすと、美弥に言った。

「出来たよ。鏡を見てご覧」

鏡台の方に振り向くと、そこには、きれいと言うよりも、チャーミングで、魅力的な女性が映っていた。

「これが、ぼく?」

美弥は、思わずつぶやいてしまった。

「またおかしなことを言うなぁ、美弥は。そうだよ、これが君だ。ステキだよ」

「ステキ?」

美弥は、健太郎のその言葉に、胸が疼くのを感じた。なぜだろう。男のはずの自分が、ステキとか言われることに、胸が疼くのは?

「きれい?」

「ああ、世界中で一番きれいだよ。僕のお姫様」

そういうと、健太郎は、やさしく美弥の唇にキスをした。

「ドキン」

実の弟にキスされて胸が高鳴るなんて、僕は、精神も女になって来るのかもしれない。ふと、美弥は、そう思った。駄目だ。自分は男なのだと思う一方、このまま、女になったほうが幸せかも。そんなことを考える美弥の隆だった。

隣の部屋では、麗華が、準備に忙しかった。

「隆さん。もう少し待っていてね」

備え付けの鏡台で、メイクしていた麗華が、鏡を見たままで、隆に言った。

「え?ええ、わかった」

隆は、メイクする麗華の後姿を見ながら、そう答えた。もともときれいな麗華が、メイクして、より一層きれいになっていく様子を見ていると、女としての嫉妬とはちがう感情が、湧き上がってくるのを、感じていた。そして、股間の間のものが、膨れ、固くなっていた。

抱きしめたい!そんな感情が、隆の中に起こってきた。女のわたしが、麗華さんを抱きしめる?なんで、そんなことを・・・今まで、感じたことのない感情に、戸惑いながら、隆になった美弥は、化粧をする麗華を見つめていた。

「麗華さんにこんな気持ちになるなんて。わたしは、男になってしまったの。健ちゃんとは、もう2度と愛し合うことは出来ないの」

麗華の後姿を見ながら、隆は、不安になった。

 

「さあ、出かけましょう」

誰もがおもわず振り向いてしまうほどの美女の麗華が、文字通り美少女と言う言葉が似合う美弥の手を引っ張りながら、旅館の玄関を出て行った。そのあとを、不安げな隆と呆れ顔の健太郎が付いて行った。そして四人は、旅館が手配してくれていたタクシーに乗り込むと、観光へと出発した。

天気がよく人の集まっている観光地では、四人は、注目の的だった。誰もが目を奪われるほどの美女の麗華、傍にいるだけで心和む美少女の美弥、精悍なスポーツマンタイプの健太郎、スマートでダンディな隆。彼らが、人の集まる観光地で目立たないはずはなかった。だが、最初は、遠目から見られるだけだったのだが、友だちと旅行していた一人の少女が、健太郎に、恐る恐る一緒に写真を撮って欲しいと言って、了解をもらってから、周りの環境は変わった。今まで遠目で見ていた人たちが、四人の周りに集まりだして、一緒に写真に写って欲しいとせがみだした。中には、サインをせがむ者さえいた。

「あの~おねえさん。携帯の電話番号を・・・」

と、調子に乗って、麗華に尋ねたニキビ面の少年は、麗華の回りに集まっていた男たちに袋叩きにされた。

「わたしが、男の人と・・・でも快感」

美弥は、不思議な感覚を味わっていた。男なのに男の人と一緒に写真を撮られることに、快感を、感じている。わたしって、なに?

それと同じことを、隆も感じていた。若い女性に、キャイキャイ言われながら、一緒に写真を撮られることに、言い表しにくい快感を、感じていた。それが、女としてか?男としてなのかは、わからなかった。でも、そのことが悪い気はしないのは確かだった。

「ちょっと疲れたわね。そこで、お茶でも飲まない」

麗華の提案に、三人は従った。レストランに入ると、美弥は、恥ずかしそうに言った。

「ちょっと・・・」

そういうと、店の店員に何か聞いていたが、そのまま奥の部屋に姿を消した。

「僕もその・・・」

そう言いながら、隆も店の奥へと消えて行った。だが、二人が、奥に消えるとすぐに、ちょっとした騒ぎが起こった。

「ぎゃ~~~、変態」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

あわてて、隆が奥から出てきた。それと、ほぼ同時に、男達が、顔を赤らめて出てきた。そのあとを、もじもじしながら、顔を真っ赤にした美弥が出てきた。

「麗華さん、出るよ」

「そうね」

二人を待っていた健太郎と麗華は、座っていた席からすばやく立ち上がると、隆と美弥の傍に歩み寄り、二人の手を掴むと、店の外へ連れ出した。そして、そのまま、近くの公園へと連れて行った。そこの公衆トイレの個室に二人を押し込むと、麗華と健太郎は、お互い顔を見合わせて、ため息をついた。

「ふう、どうもなれないわ」

「僕もだよ」

個室から出てきた美弥と隆が、誰に言うともなくつぶやいた。

「隆さん。隆さんは、今は女性なのだから、ちゃんと水を流してやってくださいよ。わたし恥ずかしいわ」

「でも、美弥ちゃん。男は、そんなことしないから・・・美弥ちゃんは、男なのだから、水を流さないで、個室でしないでくれよ」

隆の美弥と、美弥の隆は、お互いに、相手のトイレの仕方について注意した。

「隆さんチャンと拭いた?」

「あ、ああ、拭いたよ」

「ほんと?」

「本当だよ」

美弥の隆は、そう答えたが、本当は、恥ずかしくて、きれいには拭けなかったのだ。だが、これからずっとこういうことをしなくてはいけないのだ。だんだんと気が重くなっていく美弥の隆だった。

 

「今日は大変だったわね」

麗華は、健一郎たちの部屋での夕食の膳の前で、ふとそう漏らした。あの後、トイレのたびに小さな騒動があったが、何とか今日のスケジュールを無事こなす事ができた。

「あしたは・・・」

「明日は、わたし、残っている」

「僕も・・・」

「駄目よ。わたしたちの懇親旅行なのよ。それが、夫や、義理の妹がいないのじゃ、意味がないじゃないの」

「でも・・・」

美弥と隆は、口をそろえて、異議を唱えようとしたが、麗華の睨みに沈黙させられた。

「さてと。あら、この酢の物おいしいわよ。美弥ちゃんもどう?」

そう言って、麗華は、サバの酢の物を、美弥に進めた。だが、美弥になった隆は、サバが大の苦手だった。その代わり、隆になった美弥は、好物だった。

「わた・・・いや、僕も食べてみようかな」

そういうと、隆は、サバの酢の物に、箸を伸ばした。そして、それをつまむと口の中に放り込んだ。

「う、うぇっつ」

サバを口に入れたとたん。隆は、その生臭さにむかついて、サバを吐き出してしまった。

「な、な、なんで?」

隆は、不思議そうな顔をした。

「あら、隆さんは、サバが駄目じゃないの。無理しなくてもいいわよ。さあ、美弥ちゃんは、好物でしょう?召し上がれ」

麗華は、サバを箸につまんで、美弥の口元に差し出した。美弥は、泣きそうな顔をしながら、それを口に入れた。

「うぐっ」

美弥は、はきそうな顔をしたが、次の瞬間、おいしそうに噛みだした。

「おいしい」

「でしょ。さ、たんと召し上がれ。隆さんの分もどうぞ」

麗華は、そういって、隆の分を、美弥の前に置いた。美弥は珍しいものを差し出された子供のように、恐る恐る、食べだした。一方、隆は、信じられないという顔をしながら、自分が吐き出したサバを見つめていた。

 

夕食後、隆は、美弥を人目のつかないところに連れ出した。

「隆さん。どうするの?わたしの嗜好も変わってしまったわ。このままでは、本当に隆さんになってしまいそう」

「それもいいかもしれないな」

「何ですって、あなたは、実の弟に抱かれてもいいの?」

「でも、戻れる可能性がないのだったら、それも仕方がないのでは?」

「でも・・・わたしはいやよ。麗華さんと夫婦になるなんて」

「僕だって、実の弟に抱かれるなんて、いやだよ。でも、このままじゃ仕方がないじゃないか」

「でも、でも・・・」

美弥は、隆の目で、哀れみを請うように、美弥の隆を見た。ややっこしい関係に、この二人が悩んでいるころ、麗華と健太郎も話し合っていた。

「そろそろ限界かしら」

「そうですね。そろそろだと思います」

「でも、あの二人にも可能だと思う?健太郎君」

「どうですかねぇ。状況が違いますから。でも、原因があの事故だったら可能だと思いますよ」

「そうよね。ところで、どうする?今日はこのまま?」

「そうも行かないでしょう。麗華さんをそのままにしとくと、美弥が心配だ」

「あら、信用ないのだ。それじゃ、いつものようにお風呂から上がってからでいい?」

「はい。それと、あの実験ですが・・・」

「そうね。今日はショックで興奮しているでしょうから。明日にしましょう」

「そうですね。それでは、明日」

「ええ」

二人は、お互いに顔を見合わせて、微笑みあうと、自分の部屋に戻って行った。

 

翌日は、昨日の晴天とは打って変わって、土砂降りの雨だった。二組の夫婦は、旅館から出ずに、風呂に入たり、自分達の部屋でのんびり横になって、一日を過ごした。旅館の自分の部屋では、トラブルが起こるはずもなく、隆も、美弥も、退院以来の安らいだ時間を過ごしていた。

昼食を終え、自分達の部屋で、のんびりと安楽イスに座って外を眺めている美弥のところに、健太郎がやって来た。

「満腹かい」

「ええ、もう食べられない」

「そうか、それはよかった」

そういいながら、美弥の前に顔を出すと、健太郎は、自分のおでこを、美弥のおでこに、叩き付けた。美弥は、目の前に火花が飛んで、何か飛び出すような感じがして、そのまま気を失ってしまった。

「ねえ、あなた。起きている?」

隆は、昼食後、ごろんと畳の上に横になっていた。麗華の問いかけに、隆は、返事とも取れない唸り声を上げただけだった。

「う、う〜〜ん」

「寝ているのね。よかったわ。それじゃあ、失礼します」

麗華は、隆の頭を、両手で掴むと、隆のおでこに、自分のおでこを打ちつけた。

「う〜〜ん」

唸り声を上げながら、隆は、そのまま気を失ってしまった。

 

「・・起きなさい。・・起きなさい」

懐かしい名前を呼ばれたような気がした。でも、それは自分のことではない。自分は、今では、別人なのだから。

「・や、起きなさい。美弥、起きなさい」

「え?誰、わたしを起すのは?」

跳ね起きた美弥は、自分の傍に座っている隆に気がついた。

「あ、隆さん。ということは、わたしたちは元に戻ったの。隆さん、よかった」

美弥は、隆に抱きついた。隆に抱きついた時、美弥は、自分の胸にクッションを感じた。美弥は、入れ替わる前よりも自分の胸がふくよかになっている感じがした。

『あれ?男の人と入れ替わると、胸が大きくなるのかしら』

などと、そんなことを考えている美弥を、引き剥がすと、隆は、鏡台から、手鏡を取って、美弥のほうに差し出した。

「これがなに?自分の顔を見るの」

美弥の質問に、隆は、黙ったままうなずいた。美弥は、戻れたうれしさに顔をほころばせながら、言われるままに、鏡を見た。だが、そこにはうれしそうに微笑む綺麗な麗華の顔が映っていた。

「麗華さん。後ろから覗き込むなんて、悪戯が好きね。麗華さん、だめよ・・・・え?麗華さんは」

美弥は後ろを振り返ったが、そこには、麗華の姿はなかった。隆は、今度は、鏡台の方に美弥を招いた。美弥は、誘われるままに鏡台の前に座った。だが、そこに映っているのは、やはり麗華だった。

「何で、麗華さんが映っているの。なんで?」

「美弥。君は麗華さんになったのだよ」

「わたしが麗華さんに?じゃあ、あなたは誰?麗華さんなの。わたしは、麗華さんのお嫁さんになるの」

今にも泣きそうな顔になって、麗華の美弥は、聞いた。

「いや、美弥は、僕の妻だよ。僕は、麗華さんじゃない。健太郎さ」

「健ちゃん。でも、何で、隆さんになっているの。それに、なんで、わたしは、麗華さんになっているの」

「話せば長くなるけど、兄さんが起きたら話してあげるよ」

「いま、はなして、お願い。今聞きたいの」

泣きそうな麗華の顔を見て、隆、いや、健太郎は、こう言った。

「君達に起こったことが、僕たちにも起こったのさ。僕と麗華さんは入れ変わったのだ」

「健ちゃんと麗華さんが、それじゃあ、今までの麗華さんは・・・」

「僕のときもあり、麗華さんのときもあったのだ。詳しくは、もうちょっと待ってくれるね」

幼い子を諭すように言う隆の健太郎の言葉に、美弥は、うなずいた。

 

四人は、隆と麗華の部屋に集まっていた。

「つまり、あの事故で入れ替わったのは、僕と美弥さんだけだったのか」

今は、健太郎の身体に入った隆が言った。

「そう、わたしと健ちゃんは、入れ替わっていなかったの」

美弥になった麗華が、答えた。

「でも、それがどうして、麗華さんと健ちゃんが入れ替わったの」

「それはだ。兄さんと美弥の様子を見に行った帰りに、階段のところで、麗華さんがよろけて、僕に寄りかかったんだが、僕も急なことで、身体のバランスを崩して、二人一緒に転げ落ちたんだ。そして、気がつくと・・・」

「入れ替わっていたって訳よ」

「じゃあ、二人もずっと入れ替わったままで・・・健太郎。おまえ、麗華の身体を見たのか!悪戯はしてないだろうな」

健太郎は、そう怒鳴ると、隆の首を絞めた。

「く、く、くるしい。悪戯はしてないよ。大丈夫だよ」

「本当だな」

「本当だよ」

そんな二人を、美弥になった麗華は、ニコニコしながら見ていた。

「そういう兄さんこそ。美弥の身体で・・・」

「するか。義理の妹になる人の身体だぞ。大事にしているわ。でも、なんで、また入れ替わったのだ」

「それは、これから説明するよ。入れ替わった僕と麗華さんは、お互いになり済ますことにしたのだ。あの事故の後だから、脳に異常が出たと思われかねないからね。お互いに、演劇部で異性を演じたことがあるから、その時の経験を生かして何とかごまかすことにしたのだ。そんなある日、麗華さんは、僕の身体で、はしゃぎ回っていたのだけど・・・」

「こいつは、おとなしいお嬢様に見えるが、結構じゃじゃ馬だからなぁ」

「なによ。もう」

「いて〜〜〜、麗華さんひどいよ。兄さんは、そっちだよ」

「あ、そうか。ごめんあそばせ」

麗華は、間違えて、隆の健太郎をつねってしまった。

「もう、それで僕の身体ではしゃぎまわる麗華さんを止めようとした時、足を滑らせた麗華さんと僕は、お互いのおでこをぶっつけあって気を失ったのだ」

「そして、気がついたら、元に戻っていたの。それから、何度か試してみたら、おでこをぶつけ合うと入れ替わることがわかったの。でも、入れ替われるのは、二人だけで、他の人では駄目だったみたい」

「みたい?そうか、麗華が試したのだな」

「テヘッ」

美弥の姿で、舌をぺロッと出す仕草は、可愛かった。

「それで、僕たちは、ここに来てからも、時々入れ替わっていたのだよ」

「どんなときに?」

「風呂に入るときや、寝る時とかさ。お風呂のときは、お互い元に戻って、寝る時は入れ替わっていたのだ。そうしないと、麗華さんがなにをするかわからないからね」

「もう、わたしって、信用ないのだ」

「当たり前だ。こんなおもちゃをお前にもたすとなにをするか・・・ん?ふろの時って、麗華。おまえ、僕が、美弥さんになっていることを知っていながら、あんなことしたな」

「だって、隆さんたちと、わたしたちは、入れ替わった状況が違うもの。戻れるかどうかもわからないでしょ」

「それはそうだが・・僕たちが入れ替わっていることに、いつ気づいていたのだ」

「はじめからよ。だって、二人とも、演技が下手だもの。わたしが厳しく演技指導をするわ」

「何で、演技指導を受けなければいけないのだ」

「だって、こんなおもしろい事、もっと楽しまなくちゃね!」

「お前って奴は・・・」

三人は、楽しそうに笑う美弥の顔を見て、深いため息をついた。

「それにしてもどうしてこんなことが起こったのかしら?」

麗華の美弥が、素朴なそして、基本的な質問をした。

「これは仮説だけど、あの事故で、僕たちの魂を、身体に括り付けていた鎖みたいなものが断ち切れたんじゃないかな。だから、おでこをぶつけたショックで、入れ替われるようになったのだ」

「でも、他の人と入れ替われないのは?」

「他の人は、その鎖がしっかりしているからだよ。僕たちみたいに魂が自由になっていないのさ」

「ふ〜ん」

隆の健太郎の説明に、麗華の美弥は、納得したようなしないような、どちらとも取れる返事をした。

「さあ、今日が健太郎さんと、美弥ちゃんの本当の初夜ね。隆さん。さあ、わたしたちは、部屋に戻りましょう」

美弥になった麗華は、健太郎の隆の腕を掴んで、引っ張った。

「ちょっと待ってよ。健ちゃんをドコに連れて行くの?」

「あら、健ちゃんはそこにいるわ。そして、美弥ちゃんもね。ただ身体が違うだけ。でも、身体も正しいペアだからいいでしょ」

「そんなぁ」

美弥の麗華は、健太郎の隆を、引き続き、隣の部屋に連れて行こうとした。

「だめ〜〜」

麗華の美弥は、そんな麗華に飛び掛った。そして、おでこを自分の身体に叩きつけようとした。だが、麗華は、さっとよけて、美弥の入れ替わり作戦は失敗した。

「わたしの身体を返して!」

「だめ!」

健太郎と隆は、二人を止めようと間に入ったが、暴れまわる美弥と麗華を押さえつけられずに、四人の間で、おでこのゴッツンコが始まって、誰が誰だかわからなくなってしまった。

おでこのぶつけあいから、離れた美弥が、ふらつきながらいった。

「もうこんなのもう」

その美弥のおでこに、健太郎が、ぶつかって、美弥は、その場に沈んだ。そして、今度は、健太郎が大声で叫んだ。

「いや〜〜〜〜!」

 

 

 

                        

                        ts

 

 

 

アナウンス「最後まで、ご静聴ありがとうございました。只今より、出演者による舞台挨拶が始まりますので、お席を立たないようにお願いいたします」

そのアナウンスとともに、さっきまでスクリーンの中で動き回っていた人物達が、ステージに現れた。

アナウンス「最初は、下田隆役の徳田則之さん。次は、麗華役の美人女優・久遠時若菜さん。そして、健太郎役の猫埼伸朗さん。そして、最後は、映画初出演のアイドル・鈴宮静子さんです」

「え~ご紹介に預かりました。徳田・・・」

舞台では、出演者の舞台挨拶が始まった。

 

「ふう、やっと終わった」

「お疲れ様」

「ほんと疲れるよ。この胸の重いこと」

若菜は、自分の豊かな胸を持ち上げて、ため息をついた。

「猫埼クンはいいよ。僕なんか、寝る暇もないのだから。アイドルって大変だよ」

アイドルの静子が、その可愛い姿からは、想像がつかない男言葉で言った。

「まあまあ、仕方ないじゃないの。戻れなかったのだから」

「でも・・・・」

猫埼の諦めに似た言い方に、若菜と静子は不満そうに言った。

そう、彼らは入れ替わっていたのだ。あの列車の事故のシーンで、セットが崩れて、そのショックで、四人は入れ替わってしまった。

映画そのままに、若菜は猫埼と、静子は則之と入れ替わってしまった。その時以来、彼らは、入れ替わり生活を送っていたのだ。誰も知らないもうひとつの「シークレット?」は、こうして、ロングランを続けていた。

 

 

あとがき

 

TS映画制作者、TS映画ファンに捧ぐ・・・・と、言いたかったのですが、駄目ですね。まとまりもなくて、申し訳ありません。

でも、TS映像やTS映画ファンの方々。これからもがんばって!

 

最後に・・・

監督挨拶

 

~、本日は、わたくしのつたないシャシンを見に来ていただきありがとうございます。わたくしが、このシャシンを撮るきっかけとなりましたのは・・・・て、誰もいねえや。やっぱり俳優が帰ると、監督なんざ、刺身のツマにもならねえか。ま、いいか。

でもよぅ。このシャシンを撮らせてくれた「夢幻館」館主の愛に死すの旦那には、言い尽くせないほど感謝していますよ。

万年助監督のあっしに、一本撮らせてくださるんだから。

このシャシンは、TSムービーのジョニー大監督にあこがれて、どうしても撮りたかったものだから、あっしは、もう満足だよ。

今回の映画祭は、有名監督のシャシンが目白押しだから、いいよね。こんなへぼなシャシンがあっても。ね、愛に死す館主様。

最後に、このシャシンを撮ってくれた「れいん」カメラマンに御礼申し上げます。こんなシャシン撮らせてすんませんでした。でも、きれいな仕上がりだねぇ。さすが、名カメラマン。よ、ニッポンイチ!