戦争秘話2
昭和20年×月、戦況は悪化の一歩を辿り大本営は、ついに、本土決戦による戦局の打開を迫られるに至った。
だが、泥沼化し物資が底をついてきた大日本帝国においてこの不利な戦局を打開し、有利な立場へと持っていくにはあまりにも遅すぎた。新兵器の開発はおろか、奇想兵器の作製を行うにも必要な物資は使い果たし、最終決戦のために秘密裏に隠した物資はまだ使用する時期ではないという上層部の判断により某所に隠された。(でも、今使わないでいつ使うのだろう?)
限られた?物資でいかに本土決戦を戦い抜くか。それが、「本土最終決戦作戦本部」の最大の課題だった。兵器などの物資の不足もあったが、最大の問題は兵士の不足だった。戦線の拡大に伴って世界中の戦場に兵士となる成年男子を送り込むことによって、本土に残った者の年齢格差が大幅に広がり、兵士として使える中間年齢が減少し、戦局の悪化のため兵士への訓練期間をとることができなくなり、兵士の質の低下は否めなかった。それらの問題を解消し、敵の上陸部隊を殲滅するだけの大部隊を編成しなくてはならない。そのためにも兵隊の補充が最優先だった。訓練を受け、機敏に動ける兵士の育成。この難問にぶち当たったとき、ある、作戦将校が、奇想の中の奇想と言うべき作戦を思いついた。しかし、あまりの非現実的なところから一笑に付され様としたが、その将校の度重なる説得に上層部もこれを認め、この奇想計画が実行される事になった。
とりあえずは、試験的に20名から成る中隊を組織して、様子を見ることになった。
「佐久間中尉は、どうしとる。」
「は、中尉は、特殊部隊編成準備のために、青森に行かれております。」
「青森か。奴も忙しい事よのう。それで、特殊部隊の様子はどうだ。」
「は、何とか、兵達も身体になれ、訓練は進んでおります。」
「そうか、今度視察する事にしよう。そうだな、来週にでも覗いてみるか。」
「は、ありがとうございます。兵達も閣下のお越しを喜ぶものと思います。」
一週間後、豊新少将は、一昨年前、府から都へと変更になった東京の某所にある奇想戦略研究施設の体育館にいた。そこでは、秘密計画のための部隊が、外部に見られないように特訓を行っていた。
「これが、奇想部隊か。」
体育館の中には、16〜20までの妙齢の美女たちが、整列、行進などの訓練をしていた。
白い体操服と、久留米絣のもんぺ姿で訓練をする美女達の姿は、この軍事施設には似合わなかった。訓練を指揮していた美女が、少将の姿に気がついて他の美女にその指揮を任せて近づいてきた。
「これは、豊新少将閣下。ご視察感謝いたします。」
「君は?」
「は、第零特殊部隊隊長を任命されました菅谷正志少尉であります。」
「菅谷正志少尉?うむ、ワシの知っておる男と同じ名前じゃ。なにか縁でもあるのか。」
「自分が、その菅谷少尉であります。少将閣下お久しぶりであります。」
「なにを言っておる。貴様は英霊を侮辱するつもりか。菅谷は南方の海に沈んでおる。輸送船とともにな。」
「はい、自分は南方戦線に向かう輸送船上で敵の攻撃に遭い、輸送船とともに沈みました。しかし、また新たな肉体を得て、お国のために戦うべく、戻ってまいりました。」
「あくまで貴様が菅谷だというのなら試してやろう。奴とワシとしか知らない事だ。」
そう言うと、少将はいくつかの質問をした。しかし、この女性はそれらを全て的確に答えた。
「最後のはひっかけの質問であったがそれまでも、対応してしまうとは確かに菅谷だ。なんと変わり果てた姿になったものか。」
「なにをおしゃいます。これがこの計画の主点ではありませんか。自分はまた、お国のために戦えるのがうれしいのであります。」
「すまぬ、貴様達を安らかに眠らせられぬワシ達の不甲斐なさを笑ってくれ。」
「閣下。」
傍で見ていたら、涙ぐむろう将軍をいたわる孫娘に見えただろう。だが、本当は、上司をいたわる部下の姿だとは誰が信じるだろう。思わぬ部下との再開をして、少将は、この施設の所長の部屋を訪れた。
「これは閣下。連絡をいただければご案内いたしましたものを。門番入ったいなにをしておったのだ。」
「いや、門番にはなにもいうな。わしが命じて、連絡させなかったのだ。それより所長、零計画を見せてもらったぞ。」
「は、彼らにお会いになったのですか。」
「うむ。恐ろしい計画だな。国民兵士化計画は・・・」
「は、物資の乏しいわが帝国におきまして使える物資と言いますと人しかありません。それも、後に残されたのは、女子供がほとんどです。彼らをそのまま訓練しても兵士となりうる可能性は低いものです。」
「だから、英霊達を黄泉の国より呼び戻し、女子供に憑依させ、兵士として使うか。」
「はい、本土決戦となりましたら総力戦です。女子供と言えれども大日本帝国国民です。国民たるもの恐れ多くも陛下をお守りするのが、自らの命よりも大切な事であります。」
「うむ。」
少将は、所長の言葉を聞きながらもこの計画を進めてきたことに満足感を覚えた。
「ところで、彼らに身体を貸した者たちの魂はどうしておる。」
「は、残念ながらひとつの肉体にふたつの魂は存在できないので、消えてもらいました。」
「追い出したのか。」
「いえ、追い出してもまた戻ってまいりますので、消滅させました。」
「消したのか。なんとむごい事を、作戦終了後には元に戻す事になっていたであろうが。」
「はい、しかし。魂を残しておく方法がなく。そのままにしておくと呼び戻した者たちに影響を与えますので仕方なく・・・」
「そうか。」
ぽつんと、そう呟くと少将は満足そうに頷いた。
「して、肉体を提供してくれた女性たちの家族への保証はどうなっておる。」
「いたしておりません。」
「してない。それはどういうことだ。」
「これは、秘密計画です。そんなことをすれば秘密が漏れてしまいます。それに、あの娘達は、動員されていた工場が爆撃にあった際に死亡した事になっております。いわば、肉体のある幽霊と言う事ですか。」
「よし、わかった。この計画は進めてくれ。早急に必要になるやもしれんからな。大本営にはワシから言っておく。成功の暁には貴様は大出世するだろう。その上、陛下から、お言葉を頂くやもしれんぞ。」
「ありがとうございます。不詳わたくし、全力を尽くして計画に遂行をいたします。」
「よし、ところで、わしは少し疲れた。そこでだな。部屋を借りて休みたいのだが・・・」
「ハイすぐに準備させます。」
「ちょっと、身体を揉んでもらいたいので当番兵をよこして貰えぬか。零部隊でもいいぞ。」
「は、すぐに当番兵をうかがわせます。」
「うぉほん。零部隊でもかまわん。」
「は?あ、失礼しました。それでは、零部隊のものをうかがわせます。誰をうかがわせましょうか。」
「あ〜、菅谷少尉がおっただろう。あれは、ワシの旧知の者だからあいつを呼んで貰えるか。」
「ハイわかりました。それでは、菅谷少尉を伺わせます。兵にお部屋に案内させます。」
「うむ。」
少将は、頷くと案内の兵士に付いて部屋を出て行った。
「菅谷、お呼びによりまいりました。」
「よしはいれ。」
「失礼します。」
扉を開けて中に入ると、少将は、大きなベッドの上にふんどし一つになって座っていた。
「おおっ菅谷来たか。こっちに来い。」
「閣下。どういうことでしょう。」
「どうもこうもない。おまえに、わしの相手をしてもらうために呼んだのじゃ。」
「自分は軍人であります。このようなことはできません。」
「軍人だと、帝国軍にはこのようなものはおらん。」
そう言うと豊新少将は、菅谷の胸を掴んだ。
「この膨らんだ胸はなんだ。これでも帝国軍人だというのか。」
「何をするのです。自分は帝国陸軍の・・・・」
「まだ言うか。こんなに感じておってもまだ、軍人だとほざくか。」
菅谷は胸をもまれながらも抵抗しようとしたが、如何せん見知らぬ感触に自分を失っていった。
菅谷は、女にされ、豊新少将のそばになき疲れた顔で横たわっていた。
「ふふふ。どうだ女になった感触は・・・」
「なぜこのようなことをなさるのです。少将はこのようなお方ではなかったはずです。」
「そうさ。豊新少将はこのようなお方ではなかった。だから変わってもらったのさ。俺にさ。」
「え。」
菅谷は、裸にされ、もてあそばれた裸の胸を布団で隠した。
「気づかなかったか。俺は、豊新少将ではない。奴は、この計画に反対し、闇に葬ろうとしたから身体を頂いたのさ。」
「おまえは豊新閣下を・・・」
「この身体を頂いて、消えてもらったのさ。どうする。おまえはもう俺無しでは生きていけないはずだ。俺とともにいれば永遠の命が得られるぞ。」
「誰がおまえなんかと。」
「そうか。それでは仕方がないな。俺は、8月10日に出る船で、おまえと一緒に大陸に渡るつもりだったがおまえには消えてもらおうか。」
そう言うと豊新を名乗った男は、菅谷に拳銃を向けて、引き金を引いた。
「閣下どうされましたか。」
「うむ。こいつの憑依度は不安定だったようだ。ワシを襲ってきたので仕方なく射殺した。後は任せたぞ。」
そう言うと豊新を名乗る男は、部屋を出て行った。その顔には薄笑いが浮かんでいたが誰も気づく者はいなかった。
豊新少将は、8月はじめ、広島・長崎の軍港を視察予定。視察先の広島に8月5日に到着、3日間広島に滞在し、8月8日に長崎到着予定。
(豊新少将の予定表より)
大本営直属の奇想戦略研究所は、昭和20年の空襲にて崩壊。焼け跡から兵士にしては小柄な焼死体が、十数対発見された。
(東京空襲記録より)
あとがき
戦争秘話第2話です。シリアスに成ってしまいました。でも、可能だったらこの計画は実行されたかもしれませんね。当時の軍部には狂った人がいたと思いますから。
第1話・変身。第2話・憑依と来たからは、第3話は入替りですか。
それでは、9月の開校記念日までお元気で・・・