修 学 旅 行

 

 見学先で気分が悪くなったぼくは、気がつくと宿泊先の旅館の布団の中に横になっていた。

 「どうしたのだろう。」

 起き上がると、まだぼやけている頭を押えた。

 「あれ?」

 この旅行の前に散髪に行ったのに、僕の髪はいつの間にかのびていた。

 ぼくは、部屋のバスルームに備え付けられている大きな鏡の前に立った。

 「真紀さん。」

 その鏡に映し出されていたのは、セーラー服姿で隣のクラスの海江田真紀だった。

 「か、海江田さんがどうしてここに。それになんで、ぼくが鏡に映ってないのだ?」

 その答えをぼくはもう知っていた。でも、それを信じたくなかったのだ。好きな彼女になるなんて・・・

 ぼくが呆然と鏡の前に立っていると、どやどやどやと、音がして、彼女と同じクラスの女の子たちが部屋に入ってきた。

 「あら、真紀。もういいの。」

 「え、ええ。」

 とにかくぼくは、海江田さんの振りをする事にした。

 「もういいのだったら、こっちに来なさいよ。」

 「マクド買ってきたわよ。マクド。」

 「ミスドもあるでよ〜〜。」

 彼女達のクラスは、今日はフリータイムで、街でショッピングを楽しんでいたのだろう。応接台の上に買ってきたハンバーガーとかポテト、ドーナッツなどを真ん中において、だべっていた。ぼくも、彼女達の中に入っておしゃべりを楽しんだ。

 「でも、出掛けにいきなり倒れるのだもの、驚いたわよ。」

 「でも、良かったわよ。元気になって。」 

 「心配掛けてゴメンネ。」

 ぼくは、いつの間にか彼女達の中に溶け込んでいた。

 「ねえ、夕食前にお風呂に入らない。」

 「おふろ〜〜。」

 「大浴場や露天の岩風呂があって楽しいわよ。」

 わいわいがやがやと騒ぎながら、みんなでお風呂に入ることになった。ぼくは、誘われるままにお風呂へといった。

 引きずられるように、ぼくは、露天の岩風呂の入り口に立った。大好きな彼女の身体を勝手に裸にする事に戸惑いを覚えた。ぼくがお風呂場の脱衣場で立ちすくんでいると、いっしょに来た彼女達は、さっさと服を脱ぐと全裸になり、お風呂場へはしゃぎながら駆け込んでいった。

 その中の一人が、身体に巻いていたタオルを落とした。声をかけたけど、彼女は気づかずにお風呂場に入っていった。拾ったタオルを見て、ぼくはあることを思いついた。

 ぼくは、服を脱ぎ下着姿になると、大き目のタオルを身体に巻いて下着を脱いだ。彼女の身体に触らずに脱いでいったつもりでも、知らず知らずにあたってしまう。そのことでより一層感情が高まり、鼻血を出しそうになった。

 何とか下着を脱ぐと、みんなが入っているお風呂場へと入っていった。中に入るとみんな岩で囲まれた湯船の中で、岩を背に寝そべっていた。

 ぼくは、静かに身体にタオルを巻いたままで湯船の中につかった。やわらかで温かいお湯が肌にあたって気持よかった。ただお湯につかるだけなのに、男のときとは感じが違っていた。

 「ああ、真紀ったらお風呂の中にタオルを入れてはいけないんだぞ。」

 「これは、いけませんね。エチケットは守らないと。」

 「みんなではいじゃえ〜〜。」

 湯船につかっていた女の子全員で、ぼくのタオルを引っ剥がしてしまった。

 透明なお湯の中に透けて見える海江田さんの身体に、興奮のあまり気を失いそうになってしまった。

 「あら、真紀のおっぱいってかわいい。」

 彼女達の一人が、ぼくの小さくてかわいいおっぱいを優しく掴んで、揉みだした。ぼくは、体験した事のない感覚におかしくなってきた。

 「あん。」

 「あら、小さいけど、感じるのね。」

 「早紀さん。真紀さんはまだ、成ったばっかりなのだから、おかしな事をしてはだめよ。」

 その声の方に正気を取り戻して振り向くと、そのこには、美人で男子生徒に大人気の化学の莉路里香(りじりか)先生が、その素敵なプロポーションを惜しげもなく、さらして立っていた。

 ぼくは、先生のヌードに見とれてしまった。また、鼻血を出そうとした時、あることばが気に成り出した。なったばっかり?どういうことだろう。ぼくの事を知っているのだろうか。

 「真紀さん。どう、好きな女の子になった感想は?」

 ぼくは、どう答えたらいいのかわからなかった。

 「ウフッ、驚いているようね。あなたを真紀ちゃんにしてあげたのはわたしよ。彼女には相思相愛の彼がいる。あなたには振り向いてくれないわ。どう、憧れの彼女になった気分は・・・」

 ぼくは何もいえなくなってしまった。彼女は決してぼくのものにはならない。でも、今のぼくは彼女を手に入れている。

 「アッと、それと、隣のクラスの関君だけど、突然発狂して病院に入院したわ。当分出ては来れそうにないわね。」

 ぼくが発狂?ということは・・・

 「さあ、みんなが待っているわよ。あなたのお仲間が。早く行きなさい。海江田真紀さん。」

 精神病院では当分出られないだろう。それに、戻って来たとしても・・・それなら、このままのほうがいいかもしれない。それに、同じ仲間達の彼女たちもいるし、ぼく、いえ、わたしは今の自分を素直に受け入れた。

わたしは、さらに奥の露天風呂ではしゃぐ彼女達のところへと向かった。タオルは脱ぎ捨て、生まれ変わった新しい姿で・・・

 

 この修学旅行で、十数名の男性教師と男子生徒が精神異常で緊急入院した。彼らはみなこう叫んでいた。

 「わたしは、男じゃない!」

 わたしは、彼らの回復を祈る。合掌。