いたズラ?

 

 奴は、部屋の中で寝そべっていた。久しぶりの休み、有効に使おうと思ったのだが、何をするか思いつかず、ただ無駄に寝そべっていたのだ。そんな奴のそばに、三毛猫が寝そべっていた。

 パタパタと動かす長い尻尾をもてあそびながら、奴はこんなことを考えていた。

 『もし、こいつがオスなら結構な金になるんだがなぁ。』

 パタパタと動く尻尾をおもちゃにしながらひょいと股の間を覗き込もうとしたとたん、パタパタと動いていた尻尾が奴の顔をしたたかに打ち据えた。

 「いてぇなあ。」

 猫好きの彼としてはこんなことをされても、本当は痛くも痒くもなかった。さらに、この子がかわいく思えてくるだけだった。

 『ピンポ〜ン』

 「うちは、温泉旅館じゃねえぞ。」

 そんなボケをいいながら、彼は立ち上がると玄関のほうへと歩いていった。玄関のドアを開けるとそこには、パンダマークでお馴染みの宅配便の社員が、荷物を持って立っていた。

 「なんだおめえは?」

 「はい、×××の宅配便です。お届けものをお持ちしました。」

 「おれんところは、白猫しか入れねえんだ。けえってくれ。」

 大きな身体に5分がりの頭で凄まれて、宅配員もビビッてしまった。だがそこはプロ。負けてはいなかった。

 「それでは受け取り拒否ということで、お持ち帰りいたします。」

 「ああ、そうしてくんな。ちなみに、差出人はだれだ?」

 「はい、イニシャルしかありませんが、ダブル・○ュ〜というお方のようです。」

 「○・Q?なぜそれをさきにいわないんでぃ。おいてけ。それを置いてけ。」

 「でもさきほどは・・・・」

 「さきほども、さきっちょもねえんだよ。さっさと受け取りをだしな。サインでいいな。」

 「できたら、印鑑を・・・規則なもので。」

 「おめえもいうな。ちょっとまってな、印鑑とってくるから。逃げるんじゃねえぞ。」

 奴は、慌てて奥の部屋へと戻っていった。そして、「ふぎゃ!」という猫の声と「ぎゃ〜〜〜〜」という情けない男の悲鳴が聞こえてきた。その物音の結果はすぐにわかった。凄みの或る顔にクロスした蚯蚓腫れの爪あと。慌てて、猫の尻尾でも踏んづけたのだろう。宅配員はそのときのことを想像して笑うのをこらえるのに苦労した。

 「何ニヤついてやんでぃ。さっさと受け取りをだしな。」

 恐る恐る受け取りをやつの前に出した。奴は持ってきた印鑑をつくと、奪うように荷物を受け取ると、御礼を言う宅配員を表に追い出して、玄関のかぎをかけてしまった。

 「W・○さんから、何を送ってきたんだ?」

 もどかしく包みを破って、中に入っていた箱のふたを開けると、その中には・・・一個のカツラが入っていた。

 「こ・これは・・・」

 それを手に取った奴は、言葉を失った。すそがカールした長い赤毛のカツラ。それを見つめたまま、奴は、ある思いに浸っていた。甘く妖しい耽美な思い出。もう2度と味わえないと思っていたあの思いを再び味わえるなんて・・・

 奴はためらうことなく、そのカツラを被った。以前このカツラを被った時のことを思い出していた。あの時は、このカツラを被り、○・Q様に変身し、女王様に叱咤されながらも女王様の仕事を手伝いながら、女王様との甘い生活。あの時は、○明がいたために、女王様の身体を堪能することが出来なかったが、今は自分ひとりしかいない。咎める者も、女王様に告げ口するものもいないし、思う存分楽しむことが出来る。奴は歓喜に身を震わせた。

 

 「ククククク、奴のことだから、今頃は・・・頭突き以上のショックを受けるがいい。わははははは・・・」

 宅配員は、奴の部屋から離れたところで、隠れるように、奴の部屋の様子を伺いながら高笑いをしていた。

 「この罠を奴が気づかないように師匠に借りてきたマスクが役に立ったわ。」

 そういうと、宅配員はあごに手をあて、そこから皮膚をはがし始めた。そして、剥がれた顔の皮の下から現れたのは、さえない中年男の顔だった。

 「やっぱり、フイメール・マスクを借りればよかった。悪さをするからって、貸してくれないんだもの。」

 すねながらも、奴の部屋を見つめていた。

 「あ、しまった。変装する必要がなかったんだ。奴は、俺の顔を知らないんだから。」

 

 そのころ奴は・・・・

 「そろそろ身体が変化しだしたぞ。胸が膨らみ・・・?」

 胸周りが厚くなってきた。

 「背が縮み・・・え?」

 関節が音を立て、身長が伸びだした。

 「ウエストが引き締まり、ヒップが・・・・フミッ?」

 ウエストは硬く引き締まり、ヒップはきゅんと引き締まっていった。ウェ〜ブのかかった髪がちぢまり、おかっぱ頭に変わっていった。

そして、肌もファンデーションを厚塗りしたような白さになり、鼻の頭が赤く膨らんできた。奴は、あわててバスルームの鏡を覗き込んだ。そこには、あのハンバーガーショップのピエロのなりそこないの笑顔があった。

 「な、何で、こんなことが・・・」

 あの箱の入った破り散らかした包み紙の宛名を見るとそこには、「だぶる・きゅ〜」と、ひらがなで書かれていた。そのうえ、あの箱の中には2枚の紙が入っていた。その一枚には次のようなことが書かれていた。

 『マック・キュ〜変身カツラをお買い上げいただきありがとうございます。これは、MA○のアイドル、ド○ルドに簡単に変身できます。

どうぞ、変身をお楽しみください。』

 もう一枚は、奴宛の手紙だった。

 『この間は、結構なアイアンクロ〜をありがとうございました。おかげで、臨死体験が出来ました。御礼に〔インチ・キエスト製〕の○・キュ〜変身カツラを送ります。どうぞお楽しみください。』

 それを見た奴は、叫んだ。

 「詐欺だ。TSじゃ、ねえじゃねえか〜〜〜。」

 

 この日より彼を見かけたものはいない。だが、名古屋のあるハンバーガー・ショップでピエロもどきを見かけたという人もいるが、定かではない。

 

あとがき

うらやましくないもん。そんなWQさんカツラなんか。ほしくなんか・・・・・ほしくなん・・・・ほしくな・・・ほしく・・ほしい〜〜〜。わたしもほしい〜〜〜。