今日は、ボクの弟の5歳の誕生日。今日の主役の弟の前には、歳の数だけ蝋燭のたったバースディケーキが、置かれていた。
「ハッピバースディツーユー、ハッピバースディツーユー。ハッピバースディ、ディアたかしちゃん。ハッピバースディツーユー」
「おめでとう、たかし」
「おめでとう、たかしちゃん」
「おめでとう」
みんなにおめでとうと言われて、たかしは、恥ずかしいのか、頬がすこし赤くなっていた。
「さあ、一息で、消してしまうのだぞ」
「そのまえに、お願い事をしてね」
「うん。お兄ちゃんも好きだけど、ボク、優しくてきれいなお姉ちゃんがほしい」
「おねえちゃん?そうね、女の子がいてもよかったわね」
「ママ、ボクは要らないの」
「そうじゃないけどね。ゆうじちゃん」
ママは、ニコニコしながら、ボクを見て言った。
「そうだなぁ。女の子がいてもよかったな」
「でも、その子がお嫁に行くときには、パパ、涙もろいから泣き出すわよ」
「泣くか。俺は男だ。・・・でも泣くかもな」
パパとママは、顔を見合わせて笑った。パパもママは、たかしが言った事を笑って聞いていたが、パパもママも、ただ、蝋燭を消す前の儀式としてそうっているだけだろうが、一息で、蝋燭を消すことができると、本当に望みがかなうのだ。
そのことは、僕だけしか知らないことだった。なぜ、僕がそんなことを知っているかというと、一年前のボクの誕生日に、それは起こった。
「ハッピバースディツーユー、ハッピバースディツーユー。ハッピバースディ、ディアゆうじちゃん。ハッピバースディツーユー」
「おめでとう、ゆうじ」
「おめでとう、ゆうじちゃん」
「おめでとう。さあ、願い事をして、ろうそくを一息で吹き消して。」
孝子お姉ちゃんは、ボクにそう言った。そして、ニヤニヤしながら、ボクが、ろうそくを吹き消すのを見ていた。なぜなら、ボクが、7本のろうそくを吹き消せないと思っているからだ。いつも、僕の嫌がることをする孝子お姉ちゃん。ボクは、そんなイジワルな孝子お姉ちゃんが嫌いだった。ボクのほうが、お兄ちゃんだったら。
そんなことを思いながら、ボクはろうそくを吹き消した。
「お兄ちゃんになりたい。かわいい弟がほしい」
心の中で、そんなことを思って、ボクは、ろうそくを吹き消した。ボクは、一息で、すべてのロウソクを消すことが出来た。すると、横に座ってニヤついていたおねえちゃんの姿がぼやけだして、それと共に縮んでいった。
だけど、誰もそれに気づかなかった。そして、孝子お姉ちゃんが座っていたところには、いつの間にか、小さな男の子が座っていた。
「おにいちゃんすごい!ぜんぶけしちゃったよ。ママ」
「そうね。お兄ちゃんだからよ」
「ボクもけせるかな?」
「たかしちゃんも大きくなって、お兄ちゃんになったらね」
「うん」
孝子おねえちゃんは、ボクの弟の孝になっていた。だけど、誰もそのことを不思議には、思っていないようだった。
それから、ボクは、お兄ちゃんとして、孝子お姉ちゃんにしてもらったことを孝にしてあげた。といっても、男同士だから、優しくしてあげることもあった。
ああ〜、からだが、溶ける・・・
「ぜんぶ吹き消せたよ」
「すごいなぁ、たかしちゃん、すごいね」
「ありがとう。ゆうこおねえちゃん」
わたしは、ロウソクをぜんぶ吹き消して、得意げな表情の弟を見つめながら、ふと思った。
『優しいお姉さんがほしいなぁ。ファッションとか、男の子の事とかが相談できるお姉さんが・・・』
再来月は、わたしの10歳の誕生日です。
『ふぅ〜〜〜〜〜〜』
『ハッピバースディ』