う ら な い

 

 あなたは、占いを信じますか。それとも、信じない? でも、これを見たら、どうでしょうね・・・・

 

 「ふん、今日のあなたの運勢は、人生が変わる出来事に出会いますか。結婚を考えていた女に振られて、自棄酒を飲もうと入った店で金をむしりとられてすっからかんですよ〜だ。確かに人生変わったよ。後6日はすっからかんだからな。」

 その日、俺の運勢は最悪だった。ひょんなことから知り合い、付き合いだした彼女とつまらないケンカで別れてし、そのことを忘れるために飲みに入った店が暴力バーで持ち金をすべて取られ散々な目にあったのだ。まさに、人生変わりそうだ。

 そして、朝、駅の売店で買った新聞の占いコーナーに書いてあったのが、『あなたの人生が変わることが起こります。』だ。

これ以上どう変わるというんだ。そんなことを考えながら、俺は、駅のほうへと歩いていった。幸い、定期までは持って行かれなかったので、何とか最寄の駅までは帰ることが出来る。後は家までは歩くことになるが・・・

 駅に近づいたとき、俺を呼び止めるものがあった。

 「そこなおひと、ひとつ占って進ぜよう。」

 それは、最近では、TVでも出てきそうもない服装をした辻占いだった。筮竹房をジャラジャラと言わせながら、耳に輪ゴムで留めた丸眼鏡越しに、俺を見つめてそういった。

 「俺の人生は最悪なの。占ってもらわなくてもわかっているよ。それにもう金もないしな。それじゃあ、あばよ。なんでい、人が金持ってるかどうかもわからない占い師を誰が信じるかよ。」

 そうつぶやきながら、俺は駅の構内に入っていった。

 「めずらしい相をしておったから知らせてやろうと思っておったのだが、運命じゃ仕方があるまい。」

 そうつぶやくと辻占いは、筮竹棒を直し、次の客の来るのを待った。

 

 俺は構内に入ると、急に腹が痛くなってきた。

 「あの店、料金をぼりあがった上に、腐ったもの食わせやがったな。くそ〜、トイレはどこだ。」

 俺は構内を探しまわった。やっと見つけたトイレは、男子用は清掃中だった。かといって、他のトイレを探すには、我慢の限界に近づいていた。もらしてしまうか。いや、そんなはずかしことは出来ない。とすると、選ぶべき道はひとつ。

 俺は、隣の女子トイレを覗いてみた。誰もいないのを確認するとそっと中に入って、開いていた個室に飛び込んだ。間一髪間に合った。

 「ふう、助かったさてと・・・」

 俺は、用を済ませ、個室を出ようとしたとき、人の声がした。そっと戸を開けて覗くと、そこには、清掃人が2人立っていた。

 「絹さん。さっさと終わらせるよ。」

 「は〜い。」

 絹と呼ばれた少しとろそうな女が答えて、二人は奥のほうから一個ずつとを開けて清掃を始めた。俺は出るに出れなくなってしまった。

 だんだんと、俺のいる個室へと清掃が進んできた。もし、俺がここにいることがばれたら、変態扱いされてしまう。俺は近づいてくる音を聞きながら冷や汗があふれ出してきた。音は隣まで近づいてきた。

 「どうすればいいんだ。知ってて女性専用のトイレに入っていたのがわかったら、俺は、俺は・・・・神様、仏様、どうにかしてくれよ〜。」

 俺は日ごろ信仰などしないのだが、心底神に祈った。だが、無常にも音は、俺のいる個室の前まで来てしまった。

 「那美さん、あの〜あかんのですが・・・」

 「誰か入っているんだろ。ノックして出てもらいな。」

 「はい。」

 外の清掃員は、ドアを激しく叩いた。だが、俺は、しっかりととの鍵を閉めて、コートをかけるバーをつかんで、開かないようにした。

 「那美さん、返事がないんですけど・・・」

 「のきな、変ってやるよ。まったく、ここもしなくちゃ終わんないんだよ。あんたは他のところをしてな。すみませんが出てきてくれませんか、清掃が終わんないので。」

  俺は黙っていた。

 「イジワルしないで出てきて遅れよ。ここがすんだら、あたいらは帰れるんだ。でてきな。」

 俺は、戸を揺さぶって叫ぶ女にどういったらいいかわからなかった。そこで、うめき声を出すことにした。

 「う、う〜〜〜ううう〜〜〜う〜〜〜。」

 それを聞いた女たちの反応が変った。

 「那美さん、中の人うなっているよ。病気じゃないかな。」

 「そうなったら面倒だ。おい、絹さん、駅員を呼んできな。あたしは、様子を見ているから。」

 「はい。」

 一人がどこかに駆けて行く物音がした。だが、もう一人が戸の向こうにがんばっている。これでは、俺が見つかるのも時間の問題だ。俺のうなり声はさらに苦しくなっていった。

 

 「あの男はどうしただろうのう。今宵夜半に願ったことはどんなことでも、ひとつだけ叶う珍しい星の下に追ったが・・・願えば、大富豪にも、世界の征服者にも、どんな女も手に入れられるのじゃが・・・。ま、わしには関係ないことか。千年に一度の相を見れただけでもよしとするか。」

 

 俺は願った。この場を逃れられることを、そして、そのためにはどんなことをしてもいいとさえ思った。腕時計の時刻盤が0時を指したとき、俺の体に変化が起こった。身体中がぎしぎしと鳴り出し、腕や足が細くなってきた。そして、胸が膨らみだして、股間では、あそこが体の中に引っ込んでいく感じがした。そして、おなかが膨らんできた。・・・・ん?おなかが膨らむ?

 俺は膨らんでくるおなかが、ズボンのベルトに押さえられて苦しくなった。思わずベルトを緩めると、おなかのふくらむ速度は加速された。そして、地グロだった俺の肌は、白く滑らかになり、股間のあれは。消えてしまった。俺はどうなったんだ。そのとき、膨らんだおなかの中で何かうごめくものがあった。激しくおなかを蹴った。

 「わたしの赤ちゃん。」

 俺の口から思わず出た声は、高く優しい響きがあった。俺はなんだか優しい気持ちになってきた。と、激しい痛みが俺を襲った。さっきまでのうなり声が本当に成った。俺はそのとき、知った。自分が出産間近の、妊産婦になったことを・・・・そのとき、俺はふと思った。

 「この子の父親は誰だろう?う、う、うう〜〜〜〜生まれる〜〜〜。」

 俺は処女解任をし、人類は、新たな救世主を女子トイレで、得ることになった。   ○―メン。

 

 

あとがき

間違えて、女子トイレに入ろうとしたことがあります。そのときの体験を元にして書いて見ました。でも、女性には変身しませんでしたが・・・