バレンタイン・キッス♡♡
今年もあの厄介な日が近づいてきた。
そう『バレンタイン・デー』だ。
ただ女の子からチョコを貰うだけなのに、何でこんなに悩まなければいけないんだろう。来月は、ホワイト・デーでお返しを取られるのに・・・まったく割に合わない話だよ。
俺の名は仲間博之(なかいひろゆき)。県立玉里(たまり)高校二年で玉里高イケメン五人衆の一人なんだけど。女の子たちの間で密約があるらしく、誰も俺たちと付き合うことはおろか、バレンタインのチョコさえもくれなかった。
いつもはキャアキャア言って来るのに、こういうときは無視されることに俺たちはいい加減、堪忍袋の限界に来ていた。俺たちも年頃の男の子だ。可愛い女の子の彼女も欲しいし、デートもしたい。でも、俺たちが女の子と一緒に歩いていると、必ず連れていた女の子が嫌がらせをされて、二度と会ってくれなくなっていた。それは、俺たちの周りの女の子だと思うのだが、証拠もなくとめることも出来なかった。だから、俺たちにはガールフレンドもなく、寂しい高校生活を送るしかなかった。
でも、それも今日限りだ。明日のバレンタインは、学校の創立記念日で休みだし、近所の遊園地・とよみ園は、うちの学校のカップルで賑わう。その時、特定の女の子とデートすれば、この見えない拘束から逃げることが出来るに違いない。それも、彼女たちの嫌がらせにも負けない女の子と・・・
そこで、俺はある計画を実行することにした。あとは、奴が来るのを待つだけだ。俺は計画実行の時をワクワクしながら待った。
「仲間先輩いますか?」
「ちわ〜〜」
玄関のほうから声がした。そして、気が狂ったように呼び鈴のボタンを押してブザーを鳴らしながら、俺の名前を叫んでいる。
「修吾のやつぅ〜〜」
俺は、あまりにうるさい呼び鈴と怒鳴り声に腹が立ってきた。玄関のドアのカギとチェーンロックをはずすと、勢いよくドアを開けた。
『ゴンッ』
何かがドアにあたる鈍い音とともに、情けない男の声がしてきた。
「ひどいですよ。せんぱい〜〜」
おでこをさすりながら、ドアの影から現れたのは、一年下でイケメン五人衆の一人、草笛仁(くさぶえひとし)だった。
「仁はドン臭すぎるんだよ」
笑いながら、仁の後ろから、イタズラ小僧のような笑い顔をしたこれも、一年下の香東修吾(かとうしゅうご)が顔を出した。
「先輩。おは〜〜!」
まだ痛がっている仁にお構いなく、修吾は元気に挨拶をした。
「修吾。もう少し静かにしろよ。近所迷惑だべ」
「でも、今日は先輩の家の人誰もいないんでしょう?先輩が寝ていたら困ると思ってやったんですよ」
修吾は悪びれる様子もなく、俺に答えた。俺は笑顔の修吾を睨もうとしたが、どことなく憎めない彼の笑顔を見ていて、ついつい顔がほころんでしまった。
「まあいいや。さァ上がれ!」
俺はまだ額をさすっている仁とニコニコ笑っている修吾を家の中に招いた。
「卓也さんたちはまだですか?」
リビングに案内されて、ソファに座ると、俺のほうを見上げて仁が聞いた。
「卓也は来ないよ。あいつには、研修生の志藤先生がいるからな。あと来るのは小五郎だ」
「あ、ゴロちゃん来るんだ」
「修吾。小五郎はお前の先輩だぞ!言い方に気をつけろ」
「へ〜い」
修吾は首をすくめて、謝った。まったく最近の奴は礼儀を知らない。俺が修吾の態度に腹を立てていると玄関のほうで声がした。
「こんにちは」
少しのんびりとした声が聞こえてきた。
「おう、上がれよ!」
俺が叫ぶと、玄関のほうから声がして、ドアが閉まる音がした。
「失礼します」
玄関から足音がリビングのほうに近づいてきた。
「こんにちは」
リビングに顔を出したのは、イケメン五人衆の一人。稲村小五郎だった。端正な顔立ちだが、視線がどことなくぼんやりとしていた。
少しぼんやりした二枚目の小五郎、やんちゃなイタズラ坊主の修吾、真面目が服を着ているような仁。これで卓也を除いたイケメン五人衆がここにそろったことになる。計画の成功を確信して、俺の顔が思わずほころんだ。
小五郎は、俺の隣に座ると、手にぶら下げてきたコンビニのビニル袋をテーブルの上に置いた。
「差し入れだよ。みんなで食べよう」
袋の中には出来たてのハンバーガーが三個入っていた。
「僕は食べてきたから、君たちだけで食べてくれたまえ」
小五郎の差し入れを合図に修吾と仁もテーブルの上にコンビニのビニル袋を置いた。
「こういうの、先輩たち好きでしょう?」
「どうぞ。食べてください」
そう言って二人がテーブルに取り出したのは、ミルクだけを使ったプリンと普通のプリンが二個ずつだった。
「それじゃあ、飲み物を準備するよ。コーラでいいべ」
俺は三人にそう言うとリビングを離れキッチンへと向かった。
「先輩!手伝いますよ」
不意に後ろから声がした。驚いて振り向くとそれは、修吾だった。
「びっくりした。いいべ、いいべ。俺一人で大丈夫だからリビングで待っていてくれ」
このまま修吾にいっしょにキッチンに来られてはまずいので、俺は押し返した。そして、一人でキッチンに行くと準備を始めた。
コップをトレイの上に四つ出すと、俺は胸のポケットから紙袋を取り出すと、その袋の中からカプセルを三つ取り出し、そのカプセルを指で慎重に開けると中身を三つのコップの中にこぼした。
そして、冷蔵庫からコーラのボトルを取り出すと、蓋を開けコップの中に注ぎ込んだ。コーラの炭酸とコップの中の粉末が入り混じって溶けていった。
「これでよしっと」
俺は薬の入ったコップにストローをさして目印にした。そして、トレイを持つとこぼさないようにリビングへと運んだ。
「お待ちどう。さァ、始めようか!」
俺は三人の前にストローを刺したコップを置いた。仁と修吾に向かい合って、小五郎の隣の椅子に座った。
「まずは乾杯すべ」
「なんに乾杯するんだ」
小五郎の突っ込みに俺は口ごもってしまった。早くコーラをこいつらに飲ませたいと思ったのに・・・すると、修吾が言った。
「あしたのバレンタインに乾杯!俺たち4人に彼女ができるように」
「うん、それで行こう」
小五郎は、まだ何か言いたそうだったが、無視して俺たちは乾杯をした。おいしそうにコーラを飲む三人を見ながら、俺は心の中でほくそえんだ。
「さあ、ハンバーガーを食べてくれよ。冷めるとおいしくないよ」
小五郎は、持ってきたハンバーガーを俺たちに勧めた。いつも腹をすかしている省吾が真っ先にハンバーガーを手に取った。
「チーズバーガーもらい!」
「じゃあ、てりやきを」
「ボクは・・・普通のでいいです」
俺たちはハンバーガーを手に取ると包みを開けてパクつきだした。
「うまいうまい」
修吾は、あっという間に食べてしまい。もそもそと食べていた仁のハンバーガーを欲しそうな目で見つめたが、仁は、そんな修吾の視線を無視して食べ続けた。ハンバーガーを食べ終わると、今度は修吾が、俺と小五郎の前にミルクで作ったプリンを置いた。
「おいしいですよ。デザートにどうぞ」
「あ、ありがとう」
ちょっとハンバーガーで塩辛くなった感じがしたので、俺はプリンに手を伸ばした。蓋を開け、スプーンを刺すと乳白色の肌がプルンと揺れた。
「あま〜い。うま〜〜い」
俺の口の中で、ミルクの甘さと優しさが広がった。しぶしぶプリンを食べだした小五郎も思わずうなっていた。
「でしょう」
仁と修吾が顔を見合わせて微笑んだ。ちょっと薄気味悪い感じがしたが、俺は気にせずにプリンを食べつくした。
それからしばらく俺たちは他愛もない話で盛り上がった。最後になるかもしれない一緒の時間をすごした。
どれくらい経っただろう。仁が、身体をくねらせ始めた。そして、修吾も・・・
「あれ?身体がむずむずしてきたぞ」
横に座っている小五郎もモゾモゾと動き出した。来た。ついに、薬が効き始めたのだ。俺は顔がほころびそうになるのを必死で我慢した。もう少ししたら、彼らは変わり始めるのだ。俺の計画通りに・・・
フフフ、わかるかい?俺の計画が。それは、彼女を手に入れること。それも、親衛隊に邪魔されることなく、会いたいときに会える彼女。そして、彼女たちが絶対に手を出せない彼女。そう、そのかのじょがあと少しで誕生する。
それはこいつらを女にすること。こいつらなら、デートしたいときに、女にすればいいし、彼女の正体はばれることはない。これが俺の計画だった。素材は悪くないから言い女になるぞ。だから、俺はこいつらにインターネットで手に入れた性転換薬をコーラに混ぜて飲ませたのだ。
身体をもぞもぞさせる三人を見ながら、俺は笑いがこみ上げて仕方なかった。と、ふしぎなことに、俺の胸の辺りがモソモソして来た。
「あ、あれ?」
俺は両腕で胸を押さえた。すると胸をおさえたうでが何かに押し戻され始めた。すると今度は仁と修吾の顔に笑いが浮かんだ。
「ニヒヒ、先輩たち。胸が膨らんできたでしょう。さっき食べたプリンは、男の胸でも色白で綺麗な巨乳になるTSプリンなんですよ」
「な、なに?!」
「先輩たちに俺たちの彼女になってもらおうと思いましてね」
なんと、こいつらも俺と同じことを考えていたのだ。それに引っかかるなんて・・・と、修吾の様子がおかしくなった。彼の肌色が白くなり、髪も伸びだしていた。元々金髪に染めていたのだが、生き生きとした綺麗な金髪になっていった。それと同じように仁にも変化が現れていた。
「くくく、効いてきたみたいだね」
さっきまで黙っていた小五郎が笑い出した。
「気付いていないみたいだけど、博之君も変わってきているよ」
俺はその言葉に反応して頭を触った。いつの間にか俺の髪は肩まで伸びていた。
「修吾君、君がさっき食べたチーズバーガーは金髪の白人女性になるバーガーなのさ。そして、博之君のは、純日本的な女性に、仁君のは、そのまま女性化するんだ。君たちが食べたのはTSバーガーなのさ。でも、大丈夫だよ。三日で元に戻れるから」
なんと小五郎も同じことを考えていたのだ。でも・・・
「でも、ごろ〜ちゃん。あなたも胸が膨らむんだよ」
「フフフ、胸ぐらいならさらしでも巻いてごまかせばいいんだよ」
小五郎は風船のように膨らんだ胸を揺らしながら、何事もないみたいに修吾の突っ込みに言い放った。
「だから、女性化する奴にしようといったんだよ」
「でも、先輩にそこまでは出来ないじゃないか」
修吾と仁は言い争いを始めた。だがその姿はもう金髪の白人女性と真面目そうな女性の言い争いにしか見えなかった。
「君たち三人とは明日、とよみ園で三人一緒にデートしてあげるよ」
小五郎はうれしそうに声を出して笑った。だが、それは長くは続かなかった。
「なんだか、さっきからモゾモゾするんだけど・・・あれ?髪が伸びてきているぞ。それに身体中の骨がきしみだした。これはいったい」
仁や修吾の身体もきしみ出したみたいだ。俺の身体も小五郎のハンバーガーのせいだろう。身体中の骨がきしみ出していた。
「それは、俺の薬が効いてきたためだべ」
「くすり?」
小五郎は怪訝そうな顔をして、俺に聞き返した。
「ああ、俺もお前たちと同じことを考えて、コーラの仲に性転換薬を入れたのさ。それが効き出したんだ。あと30分もすると三人とも完全に女になってるよ」
「それじゃあ、俺たちは・・・」
「四人とも同じことを考えたみたいだな」
「そんなぁ〜〜」
俺たちは四人ともさっきまでとは違う姿に変わって行った。肉体の変化にともなう激痛に、俺は意識を失いそうになっていた。
「お、おかしい・・な。痛みなどないはずなのに。スムーズな変身が出来ますと言ってたのに・・」
彼らにも痛みが襲っているのだろう。修吾が、苦しそうに言った。ほかの二人も激痛に苦しんでいるようだった。
確かに、俺が使った薬も無痛のはずだった。痛みなんかあったら、以降使えなくなるからだ。だが、俺と彼らが感じているこの痛みは一体なんなのだろう。激痛に飲み込まれていく意識の中で俺は玄関の開く音が聞こえたような気がした。そして、誰かがこちらに歩いてくるような足音が・・・そんな幻聴を効きながら俺は意識を失った。
「お前らバカか?いや、バカだ。バ〜カ!!」
玉里高イケメン五人衆の最後の一人、木戸卓也が病室のベッドに横たわる俺たちを睨み付けた。
激痛で身動きの出来なくなった俺たちを見つけたのは、卓也だった。彼以外のメンバーが俺のうちの集まっているのを知って覗きに来て、俺たちを見つけたのだった。
「だいたい異なる性転換物質を二種類も服用するなんて何を考えているんだ。へたしたら死ぬぞ」
そう、あのときの激痛は異なる性転換物質を服用したことによる副作用だったのだ。よく効く様にと二種類以上の異なる性転換物質による事故は時々聞かれた。まさか、俺がその事故を起こすとは思わなかった。
俺たちは卓也が呼んでくれた救急車で、この病院に運ばれた。そして、この病室に入院することになった。俺の隣のベッドには金髪の白人ハイティーン美少女になった修吾、向かいのベッドには韓国の美人女優チェ・ジュに似た美人になった仁、ショートカットのちょっと眠そうな瞳をしたアンニュイな美女になった小五郎が卓也を見つめていた。
「だいたいだなぁ。仲間を女にして・・・」
凛々しく端正な顔立ちをしたちょっぴりワルの雰囲気を漂わせた卓也は、素敵だった。チラッと見せる優しさは乙女心をキュンとさせた。
乙女心?俺は何を考えているんだ。男の俺が卓也にキュンと・・・ス・テ・キ!あん、いいわ・・・ん?なんだいまのは。俺は男・・じゃないわ。今は女。彼にアタックも出来るオンナ。男のころには気付かなかったけど、今はわかるわ。彼ってステキ!抱かれたい・・
「・・・ということで、32日で元に戻れるそうだ。その間は決してHなんかするなよ。処女でなくなったら男には戻れないそうだからな。気をつけろよ!」
そう言うと卓也は病室を出て行った。もう、ステキなんだから。病室を出て行く前に何か言っていたけどいいわ。わたしのバージン彼に上げる。そして、彼はわたしのものに・・・て、あら、隣の修吾や、小五郎、仁の目付きが何かおかしいわ。まさか、あの人たちも卓也を狙っているんじゃないでしょうね。男の癖に不潔!卓也はわたしのものよ。
わたしは、卓也の後を追おうと、ベッドから飛び起きた。と、ほかの人たちも同じことを考えていたみたいで、ベッドから飛び起きると病室のドアに殺到した。押し合いへしあいして廊下に飛び出ると、卓也のあとを追った。
「たくや〜〜わたしのバレンタイン受け取って!」
ホワイト・デーの夜、卓也はベッドの上でへばっていた。
「何でこんなことになるんだよ。お前ら何を考えているんだ!もう知らないぞ」
喚く卓也の左右に寄り添うように4人の美女が微笑みながら横たわっていた。
イケメン五人衆解散。超アイドル4人組誕生?!