あなたは、だれ?

 

奴が、キッチンからはなれた隙に、ぼくは、シチューに、友達から手に入れた薬を入れて、かき回した。

 「あら、マー君、どうしたの?」

 「いや別に、おいしそうなシチューだね。かあさん。」

 「ええ、きょうも、かあさん、がんばちゃったから。でも、マー君。どうしても、出かけなければいけないの。」

 「うん、奴がどうしても来てくれって言うので・・・」

 「そう、お友達は大切ですものね。あなたの分は、残しておきますから、帰ってきて、おなかがすいてたら食べてね。」

 「うん。」

 いつものやさしい母を演じる奴を見ながら、ぼくは、憎らしさが高まってきた。

 『母さん、必ず助けるからね。』

 そう、心に誓った。

 

 時間を見計らって帰ってみると、母と妹は、居間で眠っていた。口を開け、よだれをたらしながら眠って居るその姿は、あの清楚で、いまでも美しくやさしい母の姿ではなかった。そして、妹も、だらしない格好で、眠っていた。

 「姉さんは、まだ帰っていなかったのか。仕方がないから、この二人だけでも、あれをやろう。」

 ぼくは、自分の部屋から、隠していたロープを持ってくると、母と妹の着ていた服と下着を剥ぎ取り、全裸にすると手を背に回し、その両手を縛り上げ、体をぐるぐるまきにした。母は、ソファーに、妹は、対面のレザー張りの椅子に、うつぶせに、寝かせた。まだ薬が効いているのか、いびきをかきながら、眠る、母と妹の姿に、涙が込み上げてきた。

 ぼくが、家族の異変に気づいたのは、偶然だった。中間前の勉強に疲れ、部屋を出て、一階のキッチンに、ジュースでも飲もうと、降りかけたとき、隣の姉さんの部屋から、何か声が聞こえてきた。それは、いつもの姉さんとは、違った声だった。部屋に近づき、声をかけようとしたとき、姉さんの笑い声が聞こえてきた。

 『がはははは、ついにこの女を俺のものにしてやったぞ。お高くとまりやがって。声をかけても、知らん顔をしやがり、俺の出した手紙を、みんなに回し読みさせたくせに、知らないだと。ふん、おまえの生活は、俺がいただいてやる。俺の人生をめちゃくちゃにしたのだから、当然の報いだ。う、う、ぐぐ、んんんあ〜〜〜ん、ああああ。す、済ました顔をして嫌がるくせに、結構感じやがるぜ。このからだ。』

 いつも、物静かで、おしとやかな姉さんとは信じられない言葉遣いだった。ぼくは、ドアを開けて、声をかけようとしたが、次の言葉に、固まってしまった。

 『いくら、ストーカーだったとは言え、俺を突き飛ばしたことが、よほどショックだったんだろうな。そうだよな。おかげで、俺は線路に落ちて死んでしまったのだから。だから、ショックで、空になったこの身体に、入れたのだが、記憶はそのままだから、ちょいと、こいつのまねをすれば、誰も気づきはしない。へへへ、女って奴は、たのしいね。特にこんな美人で、頭がいいとなおさらだ。ケケケケケ・・・・』

 なんと、今、姉さんの体の中には、別人が居るというのか、それも変態の男が。ぼくは、このことに驚いた。そして、母さんのところに、急いだ。だが、そこで、ぼくは、さらに、驚愕することになった。

 姉さんに気づかれないように、静かに、母さんの部屋の前に来ると、母さんの部屋の中から、話し声が聞こえてきた。

 『あ、兄貴。結構いいぜ。この女の体。う、うう〜〜〜ん。う、う。く、くる〜〜。』

 『ちえ、こいつは、まだおねんねだから、あんまり感じねえや。でも、これから、だんだんよくなってきやがるんだろうな。さあ、おっぱいを吸ってやるぜ。』

 くちゃくちゃ、ぺちょぺチョという音が聞こえてきた。そして、母さんの、悶える声が・・・

 『この家に入って、2階の窓から落ちたときは、もうだめだと思ったけど、まさか、この身体で、生き返るとはなぁ。』

 『静かにしろよ。あのガキは、まだ、そのままだからな。だが、あの姉ちゃんは、俺たちの仲間だがな。今度は、あの姉ちゃんもいれて、3Pをするか。ぐへへへへへ』

 なんと、母さんたちも、入れ替わっていたのだ。それも、2ヶ月前、隣に空き巣に入り、見つかって、慌てて、2階の窓から落ちたどじな空き巣のコンビに、身体をのっとられていたとは。この家でまともなのは、ぼくだけ。海外に出張中の父さんには、相談はできない。したとしても、信じてもらえないだろう。大好きな母の姿で、まだ、小学6年の妹の身体を汚す空き巣たち。それに、自慢の姉の体をもてあそぶ変態野郎。そして、僕は、誰にもいえない孤独な戦いを、ぼくは、たった一人ではじめることを決意した。

あの日から、ぼくは、あらゆる文献を読んだ。僕の大事な家族を取り戻すために・・・神秘学、超心理学、神経医学、宗教逸話、憑依学、映画に、小説、漫画。そして、ネットで「憑依」に関係しそうなものは、ありとあらゆるものを調べた。だが、決定的な解決方法は、わからなかった。だが、最善と思われるものを、ぼくは、見つけた。だが、その方法は・・・

 

 「やっと起きたか。」

 ぼくは、目が覚めた母に吐きつけるように言った。

 「ま、まさしさん。これはどういうこと。それにあなたのその格好は・・・」

 ぼくは、全裸で母の前に立っていた。母と妹は、全裸で、体を縛られて転がされていたのだ。母は、いや、母の格好をした奴は、まだばれていないと思っているのか、母の真似をし続けていた。

 「ふん、まさしさんか。お前の招待はもう知っているんだ。さあ、母さんから出て行け。出て行かないのなら、出て行かせてやるぞ。」

 「まさしさん、何をするつもりなの。早くこのロープをはずして、お願い。ねえ、まさしさん。」

 「だまされるものか。これからおまえに屈辱を味合わせてやる。母さんになったことを後悔するように。」

 ぼくは、母の裸を見て、言い知れぬ興奮を覚えていきり立ったペニスをつかむと、コンドームをつけて、母の後ろの穴に突っ込んだ。

 「だだめよ。そんなところに・・・いやいやいや〜〜〜〜。」

 泣き叫ぶ母を見ていると、ぼくは、自分のやっていることに疑問を感じた。本当に正しいのだろうか。でも・・・ぼくは、心を鬼にして、母の中に差し込んだ。

 「いいや〜〜〜〜〜。」

 母の悲しそうな叫びが、部屋中に響いた。それからぼくは、思いつく限りの屈辱を母に与えた。そして、母は、あまりのことに気を失った。今度は、妹の番だ。ぼくは、まだ眠っている妹のそばに立った。

 家族を取り戻す方法。それは、死にたくなるほどの屈辱を与えて、体から、彼らを追い出すこと。これが、ぼくが、行き着いた方法だった。だが、それは、ぼくをさらに一生消すことのできない深く暗い傷をぼくの心に残すことになった。そして、それは、母たちが元に戻ったときにも、彼女たちの上にも振るかかるものなのかもしれない。

 妹に取り掛かろうとしたとき、近くで物音がした。ふと見ると、そこには、姉が、呆然となって立っていた。

 「見たな!」

 ぼくの声に震えながら、首を振りながら、姉は、震えて立ち尽くしていた。

 「お前もこっちに来い。」

 そのときのぼくは、姉に見られたことよりも、逃したと思っていた姉が、自分から現れたことを感謝した。姉は、首を横に振りながら、逃げ出した。ぼくは、姉の後を追った。

 「待て!」

 姉は、いや、姉に憑ついたものは、玄関から外に飛び出した。ぼくもその後を追って、外に飛び出し、姉に憑ついたものに飛び掛り、押さえつけた。と、そのとき、怒鳴りつける声がした。

 「その人を放せ。おとなしくしろ。」

 それは、母に成りすました奴の叫び声に異常を感じた近所の人の通報で、やってきた警官だった。全裸のぼくと、震えおびえる美少女。この展開では、どちらの言うことが信じられるか、言うに及ばないだろう。それに、このまま捕まったのでは、家族を取り戻すチャンスは、二度と来ないだろう。ぼくは、最終手段に出ることにした。姉だけでもあの屈辱から助けたい。ぼくは、姉の首に、腕を回して、絞めた。

 「やめろ!やめるんだ。」

 やめられるはずがなかった。家族を助ける最後のチャンスなのだから。ぼくは、満身の力を出して、首を絞めた。抵抗していた姉の体から力が抜けていった。と、そのとき、ぼくの頭に衝撃が走り、ぼくの身体中の力が抜け、後ろのほうに仰け反った。

 『まさし』

 『まーくん』

 『お兄ちゃん』

 なつかしいあのぼくの家族が、母が、姉が、妹が、あのころのままに、手を差し伸べて、ぼくを呼んでいた。ぼくは、彼らに手を差し伸べた。ぼくの目から、涙がこぼれた。そして、後ろに倒れこみ、二度と起き上がれなかった。

 

 「あの子がこんなことをするなんて・・・もう何もお話したくありません。」

 警察に事情を聞かれていたまさしの母は、うなだれて、顔を伏せてしまった。

 やがて、警察から出てきた悲しみにくれた三人家族は、警官の先導で、警察署の玄関を取り囲んでいた報道陣の中を、通り抜けると準備されていたタクシーに乗った。タクシーの運転手は、悲しみにくれる三人を直接見ることもできず、ルームミラーで、三人を見た。と、そこには、顔を伏せながらも、肩を震わせて笑みを浮かべている三人がいた。運転手は、それが、悲しみに身を震わせているのだと思い直して、車を静かに動かした。