愛は しとやかに

 

 あるファッションビルの5階にあるAKIMIX‘Sは、朝からてんやわんやに
なっていた。「WAVE−2」の世界市場の全てを握っていた「本部」が、長年、企画課長として貢献してきた眞田あきみ嬢に極東の「WAVE−2」代表権を譲渡し、いままで極東支部として活動を続けていた、東京支社の全権を譲ったのだ。こうして、あきみ氏は、新会社「AKIMIX’S」を設立したのだが、如何せん個性の強い集団だったために、その統率に苦労があると見受けられた。

だが、その心配はなかった。仲間意識の強い彼らは、新社長の下に結束し、新会
社「AKIMIX‘S」の創設まで何とかたどり着くことができたのだが、ここに一つの問題が起こった。元マーケティング室長のいわきのぞみ嬢に専務に就任して頂いたのだが、(本人はかなり渋ったが、何とか就任してもらったと言う裏がある)元々「でべそ」の(出たがりの意味)の彼女を会社に縛り付けるのは困難だった。新会社創立の記者会見の日なのに朝から彼女の行方は杳としてわからなかった。

そして、時は過ぎ、真夜中の忍ぶ池公園のほとりにあるベンチに、一つの人影が
あった。この忍びの池は、昔、葦が足の踏み場もないほどに生え、人目を忍ぶものたちの逢引きの場であった。だが、それらの者を闇から闇へと葬った場所でもあったため、ここを公園に改造するときに、この池から大量の白骨死体が発見されたのも有名な話だった。

そんなことがあっても、ここがいまも昔もデートスポットである事は変わりな
い。ただ、このような外灯がほとんどないこの公園に、深夜にいるものはほとんどなかった。ベンチに座るこの人影は、粋狂というよりも、変人と言うべきだろう。

「悪かったわね。変人で、いいじゃないの。いつここにいようとも。」

あれ、わたしの声が聞こえましたか?

「聞こえているわよ。え〜え、どうせわたしは「でべそ」ですよ。」

え、ということは、の、の、のぞみさん。いや、のぞみさま?

「ふん、いまさら「様」付けしても遅いわよ。後で お話があるから ちょこっとセットの裏にいらっしゃい。」

どき、今日は体調が悪いのでまた今度・・・それではさいなら〜〜〜

「ちょっと、語り手が居なくなってどうするのよ。ちょっと〜〜〜。あ〜あ行っ
ちゃった。どうしよう。仕方がないから、わたしが、二役するか。」

わたしは悩んでいた。新しい会社に、わたしみたいな古い人間がいてもいいの
か。これからは、あきみたち、若い人たちの時代だし、わたしが居ては、新社長として、あきみが、わたしに気を使い、やり難いのではないかという事だ。そんなこんなを考えていたら、いつの間にかここに来ていた。別にどうするわけでもないのだが、わたしは、ぼんやりと池の中を眺めていた。池の中では、蓮のつぼみが、顔を出していた。

「蓮の花か・・・」

わたしがそう呟いた時、湖面に波が立ち、水の中を動く音とそれが重なり合って
いった。わたしは、その音のするほうを見た。そこには、池の中に入って行こうとする人影があった。

わたしは、ベンチから立ち上がると、その人影のある方へ駆け出した。よくは見
えなかったが、その人影は男のようだった。

「そんなとこで何しているの。早く出なさい。」

その影は、わたしの声に一瞬立ち止まったけれど、また、池の真中に向かって動
き出した。

「この ばかたれがぁ・・・」

そう叫ぶと、わたしは、池の中に飛び込んだ。やわらかいドロに足をすくわれな
がらも、何とかその影にたどり着くと、肩を掴み振り返らせると、その頬を2・3発平手で叩き、岸へと連れ帰った。平手打ちを喰らった彼は、憑き物でも落ちたかのように、素直にわたしについて来た。

岸に上げると首根っこを掴み、さらに2・3発食らわせると、わたしは怒鳴りつけ
た。

「命を粗末にするんじゃないの。死にたいなら、精一杯、生きてからにしなさい。」

わたしの怒鳴り声には、かすかに反応するのだが、彼の目には生気は感じられな
かった。わたしは、ある思いから、彼の口の中に手を突っ込み胃の中のものを吐かせると、トイレの水道で全身の汚泥を洗い落とした、どうせ 夏の夜なんだ。すぐ乾くわよ。

そうこうしてから、 そいつの首ねっこを 引きずって公園の出口まで連れて行
き、通りすがりのタクシーに乗り込むと、知り合いの病院まで運んだ。

「のぞみ。あんた また変なもの拾ってきたんだってね。」

「へんなもんってさ、ちょっと、それはないじゃないの静香。仮にも 人助けしたの
よ。「じんめーきゅーじょ」って奴。」

「あのね、、そりゃあ確かにうちは、救急病院ですけどね、わたしは仮にも外科医なのよ。外科、、、解る?」

「んな事言ってもさ、がっこー出てんならさ、一様、一通りの事はできるんでしょ
?」

「そ、、それは、まあ、、、ね。」

「んだったらいいじゃないのさ。 んじゃ、おねがいね〜。」

「こら逃げるな。患者の意識が戻るまでここにいろ。」

「へ〜い。」

緊急治療室で、胃の洗浄を受ける細身の青年の横で、若く美しい女医と、その青年を連れてきた見目麗しい女性の(そりゃ言い過ぎだって?いいじゃないのよ。こうやってナレーションもやってんだから、役得ってもんよ。)二人の立ち姿は、一枚の絵画のようだった。(若旦那・・・・これをあたいに 校正しろってかや・・・)

「ちょっと言いすぎじゃない。わたしだけならわかるけど、のぞみが一緒では・・
・」

うるさい!登場人物はナレーションに文句をいわない!はい、お芝居 お芝居

「あれ、のぞみの得意技じゃなかったっけ?」

ん?たしかに、、って、だから黙って、ほら、患者の意識が戻ったわ。

「へいへい、やっと気がついたようね。あなたを助けてくれた人の機転に感謝することね。ここに運ばれる前に、あなたが飲んでいた薬を吐き出させていなかったら、あなたは死んでいたわ。でも、のぞみ。珍しく機転がきいたわね。」

「うるさい。人を助けたのだから素直に誉めなさいよ。岸に上げた時にあまりに ぼ
んやりしていたから こりゃ もしかしてと思ったのよ。」

「綾奴がラムネ菓子と間違えて、あなたの精神安定剤を食べた時と一緒?」

「そうそう。って、変なことを思い出させないでよ。あれは 勝手に食べる方が
いけないじゃん。 」

「でもさぁ、普通、お菓子用の容器に精神安定剤なんて入れる?」

「良いじゃん、何にいれようとさ。だって かわいかったのだもん、あの だるまさんの菓子器。それに箪笥の上の隅に置いといて、本人もケロっと忘れていた10年前の精神安定剤を見つけて食べるとは普通、思わないでしょう。それを、あの子ったら、あまり甘くないですねって、ボリボリ食べてるんだもん。信じられない。」

「それでもかわいい妹には違いない。でしょ。」

「う、うん。」

「あの〜」

「あらあら、あんたしゃべれるんだ。なになに。」

わたしたちに にらまれ、気が弱そうなその青年は口篭もってしまった。

「竹谷センセイ、のぞみさん。患者さんを怖がらせては困ります。」

わたしたちは、さっきまで、洗浄処置の指揮をとっていた霧島婦長に怒られた。

「すみません。」

わたしたちはしょぼんとして、頭を下げた。

「さあ、もう大丈夫よ。何が言いたかったの。」

「どうして、僕を助けたのですか。あのまま死なせて欲しかったのに。」

青年の口から出たのは予想通りと言うか、定番というか、新鮮味のかけらもない
言葉だった。

「あのね。あのままあなたの自殺を見ていたら、それだけで、わたしは、自殺幇助の罪に問われるの。わたしを犯罪者にしたいの。」

「いえ。」

「それなら、他に何か言う事があるのじゃないの?」

「ありがとうございました。」

「ちゃんと言えるじゃない。それでは、静香。後は任せたわよ。」

わたしが、治療室を出掛った時、後から声がした。

「あの〜。僕がなぜ自殺しようとしたか聞かないのですか。」

「へ?なぜ、わたしが そんな事、聞かなくちゃいけないの。そんなこと関係ないも
の。」

一度助かった自殺者を相手にするときは、相手より上に立つことだ。そうでなければ相手はずるずると甘えてくるからだ。

「また自殺するかもしれませんよ。」

「ほ〜、したけりゃしろ。た・だ・し・・良い!その時は、わたしは関係ないから
ね。」

「自殺幇助になりますよ。」

「ならないよん。わたしの目の前でやらない限りはね。」

「じゃあ、自殺の原因にあなたの名前を書いた遺書を残します。」

これだから、自殺者は始末に終えない。わたしは、あきらめて振り返った。

「だからなんだ。自殺の原因は?」

「それは・・・」

「それは?」

「いえません。」

「ムカっ!・・・駄目だ あたい切れた、、もぉ〜切れた!この〜〜。おい、静香。メス貸せ。メスを。こいつの動脈をたたっ切ってやる。あ、その前にカテーテル、麻酔なしでやっちゃお。治療中の事故にすれば、ばれないばれない。それにここ 外科なんだし」

「おいおい、わたしに後始末させる気。落ち着きなさいよ。ちょっと!あなたも男ならちゃんと言いなさい。」

「そりゃね、この のぞみ姉さんは、気が短くてお調子者で、能天気でどうしようもない、ハッキリ言って アホな人だけどね、単純な分、義理人情に厚く、頼まれた事は何が何でもやりとおす人なのよ。それで、だいぶ損もしているけど、それでも、この性格だけは死ぬまで変わらないのよ。」

「ちょっと・・・・・、あのね・・・静香。それってさ、誉めているの、
けなしてるの。」

「そんな、のぞみが好きなだけよ。」

そう言うと、静香はわたしの頬にキスしてくれた。まあ、許しちゃるか。

「そんな単純さもね。」

あのな〜〜〜〜。

「おちゃらかしているけどけっこう頼りにはなるわよ。話してごらんなさい。」

霧島婦長まで〜。
とおもったら、彼はポツリポツリと話し始めた。わたしたちの説得はいったいなんやねん。 も少し どついたろか。

「僕の名は、本間俊一と言います。あるカルチャースクールで、エアロビクスのインストラクターをしていました。そこで知りあった同僚の女性と結婚の約束までしていたのですが・・・」

「ふられた。」

「はい、先日、今後の事を話し合おうと彼女の家に行くと、彼女は別の男と出かけた後でした。そして、その男は彼女の婚約者だと言うのです。彼女の両親には今度の日曜日に挨拶に伺うつもりでしたから、まだお会いしてはいなかったのです。」

「あなたの親には・・・」

「僕のほうは早くに両親を無くし、僕一人でしたから。いえ、叔母が一人いるのですが、夫を無くし、一人娘も行方不明になっていて、それ以来おかしくなって、病院に入っています。」

「そう、その娘さんはどうして行方不明に?」

「外国資本のデパートに勤めていたのですが、そこの火災事故で行方不明に、遺体も発見されていません。」

静香や婦長、その後ろのあまり目立たなかった看護婦3人も、その言葉に、身体をビクンとさせた。

「いまはその彼女の事は・・・」

「愛しています、いえ、いました。かわいさあまって憎さも憎しです。それに、僕から彼女を奪った男も・・・」

「でも、復讐ってやっているうちは感じないけど、終わると空しいものよ。」

わたしは、諭すように彼に言った。だが、そんなわたしの肩を優しく掴んで、静香
は、わたしの耳元でささやいた。

「のぞみ。今は、それが彼の生きる糧なのよ。事の善し悪しの理屈なんかどうでも良いじゃん。ね、させてあげよう!それから後の事は、終わってから考えよう。」

少し無責任に聞こえるけど、そうなのかもしれない。わたしは、黙ってうなずいた。

「任せなさい。ここにいるのは、そういうことのプロだから。わたしたちの指示通りにすれば完璧な復讐ができるわよ。」

そう言う静香の眼が異様に燃えていた。こう言うときの彼女はなにをやらかすか
判ったものではなかった。だが、霧島婦長がいるから大丈夫だろうと、婦長のほうを見ると、婦長の眼も燃えていた。はたまたどうなることやら。

わたしたちは場所を移し、彼の復讐計画を練ることにした。そして、綿密に計算
しスケジュールや準備をして、いよいよ実行する事にした。


「岸真人さんですか。」

「そうですが、あなたは?」

「わたしは、美也子の友達で、真紀といいます。今日は美也子、急に都合が悪くなったとかでこれなくなったので、わたしが伝言を頼まれて・・・」

「そうですか、美也子さんのお友達ですか、それはご丁寧にありがとう。お礼に、お茶でも如何です。」

「は、はい。」

真人のその精悍な顔立ちからこぼれる笑みは、女心を引き付けるものがあった。だ
が、それを本人は気づいてはいないようだった。

真紀と真人は近くの喫茶店に入り、お茶を飲み、他愛のない会話を楽しんだ。と、そのときオフコースが流れてきた。

「あら、オフコースですわね。」

「オフコースお好きですか。」

「ええ、この語るような静かな歌い方が。」

「僕もです。ですが、美也子さんはお嫌いなようで、出会ったころは好きだと言っていたのに・・・」

「わたしの時もそうでしたわ。そのうちに長淵とか かけ始めて・・・」

「あなたの時もそうですか。それに、最初は、美術館などでデートをしていたのですが、最近では、ボクシングとかプロレス観戦です。わたしも見はしますがあまり好きでは・・・」

「わたしも、美術館や博物館の方が好きです。それに、青少年科学館とか面白いですし・・・子供っぽいですか。」

「いえ、ステキです。」

二人の中が進展していくのにそんなに時間は掛からなかった。そして、美也子と
真人の婚約が解消されるのにも・・・


「ちょっとあんた誰よ。真人、これはどういうことよ。」

夜の忍びの池公園で、デートしていた二人の前に突然、美也子が現れたのだ。二人はあまりのことに呆然となってしまった。

「美也子」

「美也子さん」

怯える真紀を、真人は優しく抱きしめた。

「全て僕が悪いのだ。君の友達と知っていながら、この真紀を愛してしまったこの僕が・・・」

「ともだち?わたしにはこんな友達はいないわよ。」

「え。」

驚いて真紀の顔を見つめる真人を優しく振りほどくと、真紀は静かに言った。

「真人さんごめんなさい。わたし真紀のともだちじゃないの。」

「そうらごらんなさい。あなたはだれよ。」

「美也子。これを見たら思い出すでしょう。」

そう言うと、真紀は、髪の生え際に手をやると、髪を掴んで引き剥がし、今度は、首の後に手をやり、何かをつまむと引き上げた。ジーッという音とともに、真紀の顔はたるみ、生気を失った。そして、そのたるんだ顔を引き剥がすと、その下から現れたのは優しい顔をした細面の青年だった。

「俊一。」

「真紀。君は男だったのか。」

「ごめんなさい真人さん。わたしは、この美也子の元婚約者なの。この子に復讐するために近づいたけど、あなたが好きなのは本当よ。」

「そ、そんな。」

「わたしに振られた腹いせに、こんなことをするなんて最低な男ね。」

「それはあなたでしょ。見栄でわたしに近づき、金と男ぶりもいい真人さんが現れたら、わたしを捨てて彼に乗り換えたくせに。」

「ふん、男はルックスだけではダメなのよ。力よ。お金。これがあるほうが言いに決まっているわ。さあ、真人、こっちに来なさい。」

「美也子さん。僕に金がなくなったらあなたはどうするつもりだい。」

「なにを言っているのよ。あなたは、青年実業家でしょ。お金なら唸るほどあるで
しょう。」

「いや、事業拡張の運営資金でほとんどないよ。その上、僕の知らないうちに株の買占めをされて会社も乗っ取られそうなのだ。もうすぐぼくは無一文。いた、多額の借金を背負う事になるだろう。そのことを真紀に話して、今日別れるつもりだったの
だ。」

「そんな・・・そんな貧乏ぐらし なんか、わたしはいやよ。借金まみれなんて。
婚約解消でいいわ。慰謝料は取れそうもないから、あきらめてあげるわよ。2度と
わたしの前に現れないでね。さようなら。」

美也子はさっさとその場を去っていった。そこには、正体を明かした俊一と真人だけが残っていた。

「君を殴る元気もないよ。どこかに行ってくれ。」

「殴ってください。殺してもいいです。その代わり、あなたのお傍に
いさせて下さい。」

「なにを言っているのだ。君の目的は果たしたじゃないか。これ以上僕のそばにいる必要はないだろう。」

「あります。あなたが好きです。あなたの傍にいたいのです。」

「なにをいまさら。哀れみならいらないよ。」

「いえ、本当です。男を捨てます。女として愛されなくてもいいです。奴隷としてこき使ってもいいです。あなたの怒りの捌け口でもいいです。だから、あなたのお傍にいさせて・・・」

泣きじゃくりながら俊一は、真人の胸に抱きついた。そんな俊一を真人はやさしく抱きしめ頭を撫でた。

「無一文なんだぞ。」

うなずく俊一。

「多額の借金で新婚旅行はおろか、結婚式も挙げられないし、新居はボロアパート
だ。」

「それでもいい。あなたがいれば。」

真人は、俊一を強く抱きしめた。

と、そこに、おじゃま虫が現れた。

「なによ失礼な。このきれいなお姉様方を捕まえておじゃま虫とは。仕事が忙しいからっていいかげんなこと言うんじゃないわよ。のぞみ。」

ふんだ。おいしいとこだけ持っていってさ。わたしはナレーションだけよ。

「ま、いいからいいから。ところで、おふたりさん。正式に結婚したくない?」

「あなたがたは?」

「わたしが、美也子に振られて自殺しようとした時助けてくださった病院の方々で、わたしがいま着ているボディスーツを貸してくださった方よ。」

「え、それでは、真紀の、いや、俊一の命の恩人。その節はお世話になりました。」

「そんな挨拶は言いから、どうなの、正式に結婚したいの。」

「それは・・・できれば。ね。」

二人は顔を見合わせて赤らめた。

「そう、それなら、彼がどんな姿になっても愛せる。」

「ハイ。愛せます。僕は真紀という女性を愛していますから。」

「真人さん。」

「はいはい。それまで。わかったわ。それでは、そう、半年ちょうだい。この子を立派な女性にしてあなたのところに返してあげるから。勿論、2世も期待していいわ
よ。」

「本当ですか。真紀。」

「真人さん。」

またもや二人の世界を作り出してしまった。今度は、さすがの静香も何も言わなかった。二人をほっとくと、静香は振り返り、二人の准看護婦に捕まった美也子にむかって言った。

「さてと、あなたの番だけど。これから、あの二人のちょっかい出せなくしてあげましょうね。そして、2度と他の男を騙せなくもね。」

「ちょっかいなんか出さないわ。あんな貧乏人。」

「あら、彼が、元の金持ちになったら違うでしょう。だからよ。さて、どうしようかしら・・・」

「やめてよ。やめて。いや〜。」

「さあ、ワゴンに乗せて、出発よ。あの二人はあのままにしておきましょう。」

泣き叫ぶ美也子を乗せたワゴンは、静かな公園の闇の中から雑踏とした都会の光の中へと消えていった。


それから半年後。岸真人と本間俊一の従姉妹、戸田真紀の結婚式が行われた。教会の階段を新郎のエスコートで静かに降りる新婦の姿は幸せそのものだった。行方不明の娘の生還におかしくなっていた母親の精神も徐々に回復していった。

それに付け加えておこう。真人の会社の乗っ取りは危惧に終わり、彼の事業は順調に発展していった。

新婦の投げたブーケは空高く舞い上がり、ひとりの女性の手元に落ち着いた。ふたりは、準備された白い馬車に乗りはなやかに、新しい旅路に旅立っていった。


カーテンコールはしめやかに・・・・・

「おい (の)。何か忘れてないかい。ブーケ貰ったからって浮かれて。お前さ
んはどうだったのだい。」

 「どうだった、、って、なにがさ。」

 「なにがってさ。あきみ社長にお願いして、あのWAVE−2を作ってもらいの。真人の会社の偽の乗っ取り工作をしいの。いろいろしてもらったんだろう。
それに、離れたがっていた会社に戻ったのだから、どんなかなと思ってさ。」

「あきまへん・・・うちのメンバーってさ、再編成の後、社長以下 とことん
お人よしで、ドリンクバーで冷たいもん飲み過ぎるし、どうしようもなく人が
よくって、すぐ人を信用して、そのうえ・・・」

「やさしくて、か。。。よかったね。帰れて。」

「あ?うん、、、まぁねぇ。
本物の仲間が誰なのかも解ったしね。」

「見方を変えたら味方が増えたって奴だな。
まあ、飲もうや。今夜はとことんと。」

「うん、飲む飲む。ところで、真紀ちゃんの身体は、大丈夫なんだろね。」

「まかせな。この中谷静香とその一党が完璧に仕上げたよ。」

「ふぅん、んで?あの美也子は・・・」

「前の奴は、もう2度と、日の目は見られないだろうね。それに、新しい美也子の方は、優しくて思いやりのある子だから両親もうれしいだろうさ。」


「そかそか、んじゃ良かった。」


 どこか、見知らぬ場所から

「出して〜〜〜。わたしを出して〜〜〜〜〜。」