か・ん・づ・め (後編2)
名作・うさ改めうさ吉さん
傑作・上野のぞみ
駄作・よしおか
「あのさ〜。」
と俺が言いかけたとき、後から声がした。
「買って来たよ〜。」
G美が息を切らせて立っていた。急いでいったのだろう。K代は何かと言うとすぐ切れるからだ。絶好のチャンスだったが、俺は作戦を少し変更する事にした。
俺たちは、テーブルについて、G美が買って来たお菓子とドリンクを飲みながらだべった。
「でさ、R子がさ〜。」
G美は、俺たちの関心を引こうと一生懸命おかしい話をした。だが、K代は俺のさっき言いかけたことが気にかかるらしくG美野問いかけにも生返事をしていた。パシリをやらされている奴にとって、無視される事は、死を意味した。(つまりいじめの対象だ。)
G美は、懸命にK代の気を引こうとしたが、K代は無関心だった。そして、あまりにしつこいG美についに切れた。
「うるせ〜な〜。ぴちゃぴちゃと、もちっと静かにしね〜と、袋にするぞ。」
K代の剣幕にG美は黙って小刻みに震えだした。そんなG美を見て、また、K代が怒り出した。そろそろいいタイミングだ。俺は、作戦を決行することにした。
「あ、ごめん。コンタクト落としちゃった。探して。」
この言葉にG美を怒鳴りつけようとしていたK代はタイミングを外され、床に屈んだ。G美もホッとして一緒に探し始めた。この隙に俺は二人のドリンクの中に睡眠薬を入れた。ククク、コレからが見ものだぜ。
「あ、ごめん。あったわ。目の裏に行っていた。」
「もういいかげんにしろよな。」
「コンタクトも大変ですね。」
二人は席に戻ると、また、お菓子を食べ、ドリンクを飲みながら他愛のない話を始めたが、しばらくすると二人は、テーブルの上に伏せて、眠ってしまった。
完全に眠ったのを確認すると、俺は二人を椅子から引きずり降ろし、床に並べると服を脱がせた。K代とG美は同じような体形だからそんなに問題もなく制服はおろか、下着まで、そっくり入れ替えられた。そして、最後の仕上げに持って来ていたマスクを二人に被せた。G美は、K代に、K代は、G美になった。そして、俺はさっきとは逆の席に二人を坐らせた。クククククク、コレからが本番だよ。
俺はまだ眠っている二人を起した。K代になったG美を起し、G美になったK代を起して、K代(元G美)に言った。
「K代どうしたんだい。居眠りなんかして。G美、お前、なにねてんだい。焼きいれたろか。」
K代と呼ばれたG美はきょとんとしていた。G美と呼ばれたK代は、俺に向かって笑っていった。
「なに、冗談こくってるんだよ。また、コンタクトがずれたのかい。」
「ぼけてんのは、おまえの方だろうがG美。寝ぼけてるんじゃないよ。」
そう言うと、俺は飲み残しのドリンクをG美(元K代)の顔にぶっかけた。ドリンクをいきなりかけられて怒ったG美(元K代)が、テーブルを飛び越えて俺に掴みかかろうとしたが、俺がとっさに差し出したコンパクトの鏡に映る自分の顔を見て、固まってしまった。
「コ、コ、コノ顔ハG美。エ、ソコニイルノハ、アタイ?」
G美とK代はお互いに顔を見合わせて、恐る恐る相手の顔を触った。そして、この現実を確信した。
「やい、G美。あたいの顔を返せ。」
「なにいってるんだい。G美はあんただろうが、あたいは、K代だよ。えらそうなことを抜かすな。このくずが・・・」
「なに〜」
G美になったK代が、K代になったG美に飛び掛ったが、相手にならなかった。いつもの二人なら飛び掛ったほうが勝っただろうが、今は、形勢は逆転しているのだ。
不思議に思うだろうがそう言うものだ。ダメなものでもやれると思うとやれるのと同じで、この顔の入換えは、二人に立場の入替りを二人の心の中に刷り込んでしまったのだ。だから、G美になったK代は、G美以上の力は出ず、K代になったG美は普段以上の力が出るのだ。そして、弱者がはるかな権力を手にしたとき、異常と言うまでの権力の誇示と、残忍さが現れるのだ。その言い例が、『豊臣秀吉』であり、『アドルフ・ヒットラー』、そして、『戦前の軍人』だ。人は思いがけない力を有すると正常さを失う。G美も例外ではないだろう。俺は、そっと部室を出て行った。これから起こるであろうことを想像しながら・・・