HP【エステサロン・ラバーみゆき】

 

久しぶりの休日。俺は朝からネットサーフィンをしていた。これと言って当てはないのだが、ただなんとなく行った先のホームページのリンクにあるバナーをただ気まぐれにクリックしては、見知らぬホームページを覗いていた。ただのひまつぶしに見ているだけだから、特に「お気に入り」に登録することもしなかった。

そんなとき、あるホームページにアクセスした。そこに行ったのは、「何とか閲覧所」とかご大層な名前のところのリンクからだった。

「ラバーみゆき?」

エステサロンのホームページらしいのだが、何か違っていた。なぜならトップページに飾られた写真は、鏡に囲まれて戸惑うヌード姿の若い女性の写真だった。そしてそこには、【会員用】と、【新規会員用】と二つのアイコンがあった。俺は試しに【会員用】のアイコンをクリックしてみたが、パスワードを聞いてきたので閉じて、改めて【新規会員用】をクリックした。

ページが開いて、画面が変わった。

【ようこそ!「エステサロン・ラバーみゆき」に ただいま「みゆき」では、新規会員を募集しております。入会ご希望の方は、『入会する』をクリックください。入会申し込みの手続きが出来ます】

「て、それ以外には選択の余地は、ないんかい!」

だが良く見るとロールダウンできたので、俺はロールダウンしてみる事にした。すると底の方にもうひとつアイコンがあった。そこにはこう書かれていた。

【お試しをご希望の方は、ここをクリックください】

それは、小さな文字で書かれていた。下手をしたら見逃してしまうかもしれないほどだった。俺は、試しにそこをクリックしてみた。すると、若い水着の美女が並んだ画面へと変わった。写真の下にはアルファベットと数字が並んだコードが付いていた。

「何だ、これは?新手の出会い系サイトか?」

かなり可愛い子ばかりだが、これのどこがエステサロンなのか、俺にはわからなかった。どう見ても出会い系サイトなのだが、それらしきことはどこにも書いてなかった。ただこのページのトップにこう書かれていた。

【一度だけ、どれでもお気に入りのものをお試しいただけます。お気に入りのものをクリックしてください。後日お届けいたします】

お気に入りのものをお試し?そして、後日お届け?『お連れします』の間違いだろう。そう思いながらも、俺は写真を物色した。どの子も可愛く選ぶのが大変だった。

「ん?この子がいいかな?ナンバーはT−004か」

モスグリーンのワンピースの水着を着て、ちょっと腰を浮かせて立っている髪を肩までたらした女の子が写った写真をクリックした。

『お申し込みありがとうございました。数日中に届きますのでお楽しみにお待ちください』

そうメッセージが出たかと思うと画面は最初の画面に戻り、ロールダウンしても、あのお試し画面を見つけることは出来なかった。

それから数日がたった。メールアドレスも、名前も記入していないのに、応募承諾したあのサイトの手抜き加減をあきれながらも、心の奥底では少しだけ期待している自分があった。送り先もわからないから来る訳ないのに。

ゴールデンウィークの初日。俺は、日頃できない贅沢を堪能していた。それは、朝寝。いつもなら会社への出勤時間を過ぎても、まだこの心地よい寝床に横たわっていられる贅沢は、誰でも賛同してもらえるのではないだろうか。俺は窓から差し込む陽射しを、俺は寝床からぼんやりと眺めていた。ふと、横に置いてある時計を見ると午前11時を指していた。

「ふう、もう11時か。あとちょっと寝てよう」

俺がまた寝床の中でまどろんでいた時に、玄関の呼び鈴がなった。

『なんだよ。こんな時間に』

俺はそう思いながら、呼び鈴を無視した。だが、呼び鈴は止むこともなくしつこく鳴り続けた。そのうえ、怒鳴り声まで加わってきた。

「・・・さん、お留守ですか?お届けモノです」

「まったく、こんな時間に誰だよ」

こんな時間と言える時間ではないのだが、至福の時間を中断されて俺はイラつきながら玄関に出て行った。玄関のドアを開けるとそこには、宅配業者の格好をした十八・九歳ぐらいの深津エリに似た綺麗な女の子が立っていた。

「お届けにあがりました。受け取りにサインお願いいたします」

その女の子は、俺の前に伝票とボールペンをのせた荷物を差し出した。俺は、荷物を受け取りながら伝票にサインして荷物を受け取った。差出人は、この間のホームページのエステサロンの名前が書き込まれていた。そして、名前も住所も間違いなく俺のものだった。どうやってここの住所を調べ上げたのだろう?俺は疑問を感じた。

「俺の個人情報が漏れているとしたら、これは問題だ。プロバイダーに文句言ってやる」

そんなことを考えながらも、届けられた荷物の中身が気になってきた。厳重に梱包された包みを開くと中から有名洋菓子店の菓子箱が出てきた。

「なんだ。これは?」

俺は、菓子箱をテーブルに置き、ふたを開けた。そして、菓子箱の中の物を手にとってみた。薄っぺらな肌色の薄いゴムのようなものだった。それに顔を近づけて良く見るとそれには毛が生えていた。

「い?これは、まさか・・・うわぁ〜〜〜」

それはまさしく人の皮だった。それも、産毛が生えた女性の皮のようだった。俺はあわててそれを放り捨てた。

「な、なんで人の生皮が送られてくるんだ。まさか猟奇殺人?」

俺はあのホームページを覗いたことを後悔し、この厄介物の処分に思い悩んだ。

「やはり生ゴミかな?それとも、荒ゴミ?どう分別したらいいんだ。役所に聞いて・・・て、なに考えているんだ。おれは!こんな物を捨てて、もし中身が見つかったら大事件になるぞ。それに、捨てたのが俺だとわかったら・・俺は変態猟奇殺人鬼?いやだ〜〜」

俺はこの厄介物のおかげで俺の頭の中の正常な思考は止まってしまった。

「落ち着け、落ち着け・・・ン?アレはなんだ」

さっき開けた菓子箱のそばに何か紙切れが落ちていた。近寄って手にとって見ると、それは、何かの案内文だった。

『この度は、当エステの試着モニターにご応募いただきありがとうございました。早速お選びいただいた商品を遅らせていただきます。この商品の使用に関しては・・・』

「ふむふむ、口の部分を思いっきり広げてお着込みください。着込み終わりますと、自動的にお身体に自動的に密着します。試用期間は装着から三日間。どうぞお楽しみください。か」

俺は、床に放り出した生皮を再び手に取って広げてみた。それはまさに若い女の子の皮を剥いだ着ぐるみのようだった。産毛はもちろん、髪の毛や眉、睫毛、あそこの毛までも綺麗に生え揃っていた。そして、どう見てもそれは俺の身体よりも小さかった。

「こんなもの着ても変に伸びるだけなんだけどなぁ。でも、どんな感じになるか着て見たい気もするな」

俺はちょっと迷ったが、着て見る事にした。本物の人間の皮ではないとわかっても気味悪い物はあったが、その着ぐるみの肩の部分を持つと軽く叩いた。

「それでは着て見ますか。へんし〜ん!なんてね」

女の皮を着るという倒錯行為に俺の息子はいきり立ったが、俺は気にせずに、その着ぐるみの口を思いっきり広げた。それは、縮むことはなく、広がったままになった。顔の部分の皮は間が抜けた感じになった。俺は、右足をそっと着ぐるみの中に入れてみた。着ぐるみの中は思ったよりすべりが良く、着易かった。締め付けられるという感触はなく、俺の脚に吸い付くようだった。俺の脚は細くしなやかな女の足に変わっていった。

「完全に物理を無視した製品だなぁ。俺の脚はこの脚よりも太いのに締め付けられる感じがしないなんて」

俺は、綺麗な女性の脚になった自分の脚を見つめながらつぶやいた。この着ぐるみの性能に驚きと不安を感じながらも、俺は着るのをやめなかった。イヤ、止められなかった。自分の黒くごつごつと太い身体が、白くすべすべした綺麗な女の身体に変わっていくのが嬉しいのと、オンナに変わった自分を見て見たい気がしたからだ。俺はいつのまにか女に変わっていくのを楽しんでいた。腰の辺りまで着込んだところで、俺は着ぐるみのたるみやシワを直した。弛んだり伸びたりしているところに違和感を感じた。息子の辺りも綺麗に直すと違和感は消えた。と、同時に、着ぐるみを着ているという感じも消え、下半身は、まったく別物に変わったのにおかしな感じはなかった。女に変わった下半身も俺の身体なのだ。触ってみるとたしかに触られている感触があった。そして、女のものに変わった俺の股間も、男の物とは違う感触があった。女のあそこを触った時、今までの感触との違いへの不安と喪失感、その未体験の感触をもっと味わいたいという気持ち、さらに他の感触も味わって見たいという気持ちが、俺の頭の中に渦巻いた。俺は何とか今の欲望を抑えると、着ぐるみを着込み続けた。腕を通し、ふくよかな胸を持ち上げた。

「女の胸って、結構重いんだなぁ。これじゃ肩がこるはずだ。でも、感触は・・・グフフたまらん」

女の細腕になった俺の手で触る自分の胸は、言葉に言い表せない快感があった。男の胸にある女の乳房。その倒錯がまた、たまらなかった。俺は、首の下まで着ぐるみを着込むと洗面所へと急いだ。洗面所の鏡に映し出された姿は、俺が思った以上におぞましい物だった。そこには倒錯というよりも醜悪な物だった。

「やはり女の身体に男の首というのはいただけないか」

俺は首のところでフードのように垂れ下がっている頭の部分をスッポリと被った。伸び切った口の周りの皮を引き締めて、口の形に整えると皮が張り付きだし、弛んでいた口の周りも縮んで、ぴったりと顔に張り付いた。鏡の中を覗くとそこには、あのホームページで見たセミロングの女の子が映っていた。ただ、あの写真の女の子に似てはいるのだが、どこかおかしかった。

「な、なんだ?あの子は可愛かったのに、どこかおかしな顔だなぁ」

顔を鏡に近づけてよくみると、鼻が少し歪み、そのために目の淵が少しずれていた。そこを修正すると、そこにはあの女のこの顔があった。女に変わった俺のすることはただひとつ。早速あたらしい身体を試しだした。胸を小さな女の手で揉みだすと鏡の中の女が赤い顔をして恥ずかしがりながらも、胸をもまれる快感が交じり合った男心を刺激する表情に、自分の顔といいながらも男の自分は欲情してしまった。俺は、その日は、そのまま一日女の快感にどっぷりと浸った。

翌日起きると、早速洗面所へと走った。洗面所の鏡には、昨日と同じあの女の子が写っていた。

「おはよう」

声も変わっているので、この子が俺に朝の挨拶をしているかのような気になったりした。俺は寝床に戻ると、布団を頭からかぶり、蒲団の中で、もそもそと身体を触りだした。身体を触っているとついつい手が股間と胸に伸びてしまった。そして、ちょっとでも触りだすと、もう止まらなかった。朝の八時に起きたのに、午後一時を過ぎるまで寝床の中でもそもそとしていた。

「あ〜腹減った。気持ちいいからついついやってしまったけど、もう昼か。メシでも買いにいってくるか」

俺は寝床から起き出して、着替えをしていて不都合に気がついた。男の服と女の服では作りが違うのだ。ズボンでは腰の辺りが窮屈で、シャツも胸の辺りに余裕がなく着心地が悪かった。何とか着られる服を探して着替えを終えると、洗面所の鏡を覗いた。そこには可愛い女の子が映っているのだが、何かが違っていた。それが何なのかと鏡を見ていて、ふと気がついた。

「そうだ。化粧だ」

そう、すっぴんでも可愛いのだが、どうしても化粧っ気がないと幼さが強調されてしまうのだ。それに着ている服も有り合わせなので、どうしても野暮ったくなってしまう。

「女は、なんで化粧や着る物にあんなに時間をかけるんだと思っていたけど、これは、大きな思い違いだった。化粧とか服とかで印象がかなり変わるんだ。でも、そうなると金を卸して買い揃えるしかないか。楽しめる時間は少ないんだから、とことん楽しまないと」

俺は、財布を掴むと部屋を出た。

 

「いかがです。こんな感じですとかなり変わりでしょう?」

俺は差し出された手鏡に映る自分を見て目を見張った。そこには美しい女性が映っていた。

「こ、これが、おれ・・いや、わたし?」

「そうですよ。お肌を手入れしなくても、まだまだ若かいので、お化粧をされなくてもお綺麗ですが、ちょっとお化粧をするだけでこんなに変わるのですよ」

「は、はぁ」

俺は、鏡に映る自分の顔に見とれて化粧コーナーの販売員の声が耳に入っていなかった。化粧で女は変わる。そして、ファッションでも。俺は、そのことを実感した。綺麗にメイクしてもらい、いくらかの化粧品を買うと、その使い方を習って、今度は、俺は女性服売り場へと行った。そこで、ブラすらもしていないことを指摘され、俺は、下着売り場と女性服売り場の売り子達のおもちゃにされた。

「この子には、このブラなんかどう?」

「そうそう、このパンティなんかもいいわよ」

「それならばこのドレスね」

「アクセサリーはこれかしら」

「靴はこれね」

いつの間にかアクセサリー売り場や靴売り場の店員達も集まってきた。彼女達に弄繰り回されて、俺はまるで着せ替え人形になったような気持ちだった。そして、完成した彼女達の作品は、ゴロゴロとした幼虫から変態して成虫になったアゲハ蝶のように美しくなった。かなりの散財だが、デパートを出て表の通りを歩くと、それが決して高い物でなかったことを実感した。表を、いや、俺の周りにいるすべての男たちの熱い視線を感ずるのだ。そればかりではなく女性の視線も感じるのだ。自分に自信がなさそうな女の子の羨望の視線。それに、俺を敵視する女のオーラ。それは、男にはわからない言葉に表せないエクスタシーだった。

「こ、これが女か。女は、こんな快感を味わっていたのか」

俺は、さらにこの視線を強く感じてみたくなってきた。そこで、デパートの店員達がアドバイスしてくれたヘア・サロンに行って見る事にした。手入れをしていないぼさぼさの髪だった俺は、綺麗にカットされ、さらに綺麗になった。俺は、男の時には感じたことのない自分が綺麗になっていく快感を体験していた。

『綺麗になるって、こんなに感じるものだったんだ』

俺は、帰りがけに買い求めたスタンド型の鏡を持って、急いで家に帰ると、玄関のドアを開けるのももどかしく、家の中に入ってテーブルの上に買って来た鏡を立てて、自分の顔を映してみた。そこには、朝とは比べ物にならないほど美しくなった女の顔があった。

「き、きれい」

わたしは、思わず鏡に写る自分の顔にうっとりとしてしまった。もっと綺麗になりたい!湧き上がる美への追求に、わたしは時間を忘れていった。

だが、そんな快感も四日目の朝に悲劇に変わった。

「な、なんだこりゃ」

朝起きて、洗面所で鏡を見た俺は絶句した。俺の顔は、イヤ私のあの美しい身体は、ムサイ男に戻ってしまっていたのだ。そして、私の寝床にはくすんだ肌色の粘ついたジェル状のものが溜まっていた。

 

 

「秋子なにしているの?」

「え?ああ、店長に言われた増客計画よ」

「て、それって、ホームページでしょう?そんな物で増客するわけがないでしょう。それよりも、この間、本部から届いていたバイオスーツの試作品知らない?見つからないのよ」

「し、知らないわよ。それがどうしたの?」

「あれね。三日しか持たないし、溶けてしまうらしいのよ。それで、回収になったんだけど・・・秋子知らない?」

「知らないわよ」

「そう、どこに行ったのかしら?」

秋子の声をかけた女性店員は、キョロキョロと辺りを見回していた。

「秋子さん、只今帰りました」

店の入り口のドアが開いて、深津エリにそっくりの女の子が入ってきた。

「あら、ヒロくんどこに行っていたの?」

「え?秋子さんのお使いで・・・ふがふご」

「ちょっと、お使いを頼んでいたの。あなた、早くスーツ探さなくていいの?」

「そう、スーツスーツ。どこに行ったのかしら?」

そうつぶやきながら、その女性店員は、店の奥のほうへと去っていった。

「ふう、危なかった。ばれたらお目玉だわ。でも、証拠は消えてしまうから大丈夫ね」

「これで、お客様倍増ですね」

「そう。これで、ボーナスは、うはうはよ!」

二人は手を取り合って小躍りしだした。

 

数日後、数人の男性が『みゆき』に訪れては、その日を境に姿を消した。そのかわりに綺麗な女の子が店から出て行ったことは、「みゆき」の店員しか知ることはなかった。だがなぜ彼らが『みゆき』を知っていたかは、店員達には、謎だった。ある二人の店員を除いては・・・