フィメーリアン
地下室の天井から鎖で吊るされたポールに全裸で両手を固定された髪を後ろで束ねて、ポニーテールにしたブルネットの白人美女が吊り下げられていた。その傍らには黒のブーツにTバックのパンティ、レザーのベルトをしただけで、ほとんど全裸姿の黒髪のラテン系の美女が立っていた。
「あら、ジュリエット。お目覚め?」
「お、お姉さま。これはどういうこと?」
目覚めたジュリエットは、その青く澄んだアクアマリンの瞳に戸惑いの色を浮かべ、自分が置かれた状況が理解できず、傍らに立つ黒髪の美女に聞いた。
「あら、お気に召さなかったかしら?ジュリエット。いえ、FBI潜入捜査官、ジュリアーノ・ロベルト」
ジュリエットの顔色は青ざめ、傍に立つ美女から視線をそらした。
「な、何を言うのお姉さま。私は、お姉さま、アンジェリカ・ババロネ様専属のメイドのジュリエット・ロメンスよ」
「ふふふ、あらそうだったかしら?でも、わたしの可愛いジュリエットは、女よ。女にはこんなモノはないわ」
そう言うと、アンジェリカは、手を下に伸ばしてジュリエットの股間にあるものを強く握り締めた。
「こんな醜いものはないのよ。これでもあなたは、私のジュリエットだと言うの?」
「あ、い、痛い、お姉さま、痛い。ゴ、ゴメンナサイ。私は、本当は男だったの。でも、女だけのこのコロニーに入りたくて・・・特製のヴァギナパットで隠していたの。騙していて本当にゴメンナサイ。お姉さま」
「あら、まだそんなことをいうのね。でも、その強情なところが可愛いわ。そこまで言うのならいいわ。私の妹にしてあげる。この忌まわしい物を取り去り、あなたの、その特性ラテックスで覆われた身体を本物に変えてあげるわ」
ジュリエットは、アンジェリカの言葉に驚き、彼女を見つめた。
「な、何のことかしら・・・」
「あらいやだ。気付かないとでも思っていたの?あなたのその顔や、この胸、そして可愛いお尻もフェイクだとすでにばれているのよ。ただ、男のあなたが一生懸命に女のふりをしているのが面白いから今まで黙っていたの」
「な、なんだって」
ジュリエットの口調が変わった。
「い、いったい何時ばれたんだ。この特殊メイクは完璧なはず」
「最初からよ。あなたがこのコロニーに来る前から」
「そ、そんなバカな」
「あら、信じられないの?このコロニーは、フィメーリアンの拠点なのよ。全世界に、わたしたちの仲間がいるわ。醜い男たちを美しい女に生まれ変わらせるために活動をしている私たちフィメーリアンのね」
「ということは・・・まさかFBIの中にも・・・」
「当然よ。それにわたしたちの仲間は女性の姿をしているとは限らないわ。たとえば、わたしみたいにね。ロベルト捜査官」
ジュリエットは、自分の名を呼ぶアンジェリカの口調に聞き覚えがあった。
「ま、まさか、その口調は・・・そんなはずがない。そんなはずが・・」
「うむ?どうしたのかね。ロベルト捜査官。今回は君には重要な事件を担当してもらわなければならない。そのためには気を引き締めて取り掛かってくれたまえ」
「ジャーマン課長。課長の口真似などするな。俺は騙されないぞ」
「騙すも騙さないも、わたしは、FBI潜入捜査課課長のフリーエンス・ジャーマンよ」
「まさか、ジャーマン課長が、フィメーリアンのスパイ?」
「スパイじゃないわ。わたしは元々フィメーリアンの幹部なのよ。男なんて醜い生き物は根絶されるべきなのよ。だから、わたしたちが男を変えてあげるのよ。美しい女にね」
「男を女に作り変えると言うのか。まさか、FBIの男性署員の中にも・・・」
「いっぱいいるわよ、フィメーリアンがね。あなたがしているような特殊メイクじゃなくて、もっと精密なメイクをしたわたしたちの仲間が」
「そ、そんな・・何故わざわざ俺にこんな格好をさせて、潜入させた」
「あなたにも、わたしたちの仲間になってもらうためよ」
「なにぃ!いやだ。俺は女なんかになりたくはない!」
「あらそうかしら?これでもそう言える?」
そう言うと、アンジェリカはパチンと指を鳴らした。すると、ジュリエット・・・いや、ジュリアーノ捜査官の目の前の壁が開き、そこにモニターが現れ、映像を映し始めた。それは、姿見の前でいろいろなポーズを取ってみたり、はずかしそうな表情の中にも、少しいやらしい笑みを浮かべながら胸や、お尻を触っているジュリエットの姿をしたジュリアーノだった。
「こ、これは・・一体いつ録ったんだ」
「これでも、女になりたくないと言うの?」
「単なる好奇心だ。健全なる男だったらだれでも・・・」
「するかしら?」
アンジェリカは意地悪く微笑んだ。ジュリアーノは、アンジェリカから顔を背けた。
「こんなフェイクの身体じゃなくて、きれいにしてあげるわ」
「や、やめろぉ~!」
喚きちらすジュリアーノを無視して、彼女(?)の身体は上へ吊り上げられて行った。
「今度会うときは、わたしたちの仲間ね」
アンジェリカは、叫びながら吊り上げられていくジュリアーノを笑顔で見送った。
数日後
「具合はどうかしら?」
「ア、お姉さま」
姿見の前で身体中を撫で回して、身悶えていたジュリアーノ・・いや、ジュリエットは、自分のはしたない行為をアンジェリカに見られていた事に気付き、両手で顔を伏せ、恥じらいに頬を染めた。
「ふふふ、気に入ったみたいね。どう、男の呪縛から放たれた本当の自分の身体は」
「・・・」
ジュリエットは、両手で顔を隠したままでなにかごにょごにょと呟いた。
「あら?聞こえないわよ。なんていったのかしら?」
「お姉さまの意地悪」
「フフフ、男に戻りたい?」
「わたしはオンナ・・・あんな醜い男じゃないわ」
ジュリエットは、はき捨てるように言うと、アンジェリカを睨んだ。
「アラアラ、すっかり変わってしまったのね。あんなに男に戻りたがっていたのに」
「おとこなんて、おとこなんて。絶滅してしまえばいいのよ」
「まぁなんて過激な事を言うんでしょう。これが、FBIから潜入した捜査官だなんて」
「私をこんなにしたのはお姉さまでしょう。私たちは、哀れな男たちをその呪縛から解放する者・フィメーリアン」
「フフフ、そうね、ジュリア・・・いえ、ジュリエット」
二人のフィメーリアンは、顔を見合わせ、声高らかに笑い続けた。それは、滅び行く『男』への鎮魂歌のようでもあった。