欽ちゃん・慎吾の仮装大賞
「欽ちゃん」
「慎吾の」
「仮装大賞!今年も始まりました。欽チャン・慎吾の仮装大賞。今回で・・・回です」
軽妙な司会と、笑いで番組ははじまった。何とか掴んだこのチャンスだったけど、胸がどきどきしていた。
頭のウサギの耳を直し、白のストッキングにシワがよってないか、チェックしながら、出番を待った。
「あら〜残念だったね。せっかくがんばったのに・・・」
欽ちゃんの出場者へのインタビューを聞きながら、後ろに立って、合図を待った。
「それじゃあ、また来てね。それでは、次の作品」
その声に、わたしは、落ちた出場者を楽屋へと案内していった。
落ちた人は、声を掛けづらいほど落ち込んでいる人もあった。逆に合格した人は、その喜びではしゃぎまわり、合格席へ案内するのが、大変な人もいた。そして、中にはこんな人もいた。
「ねえ、おねえさん、名前教えて。この番組がすんだら、お茶でもどう?」
「え、私を誘っているのですか」
「そう、お姉さんを誘っているの。どう、お茶でも・・・」
「そうですねえ。こんな私でもよろしければ・・・」
「いい、こんなかわいいお姉さんとお茶が飲めるなんて、サイコー」
合格以上に、その人ははしゃぎながら、合格席についた。
『かわいい』だなんて言われると、なんだか、うれしくなっちゃう。わたしは、思わず笑みがこぼれてしまった。それに気づいた、お茶に誘ってくれた合格者の人が、思わずこう言った。
「その笑顔もかわいい」
うふふふ・・・そう?わたしは、蔓延の笑みになった。笑顔もかわいいて、フフフ・・・・
「さて、各賞の発表です」
慎吾さんが、緊張しながらも、各賞の発表を、大きな声で宣言していました。いよいよクライマックスです。
ごく隠した人たちの中から歓声と拍手が起こって、何組かの人たちが前に出てきて、審査員から、記念品と賞金を受け取っていきました。
そして、「大賞」の贈答。これで、今回の「仮装大賞」も終わりです。わたしをお茶に誘ってくれた人は、賞はもらえませんでしたが、去り際に、わたしに玄関ロビーで待っているからといって、帰っていきました。
さて、跡片付けもすんで、わたしは、更衣室へと戻ってきました。更衣室では、他のアシスタントたちが、着替えていました。
「あら、遅かったじゃないの。お先に。ロビーで待っているわ、早く来てね」
「お先に!」
「ごめんね。玄関のロビーで待っているから」
着替えをすませた彼女たちは、わたしに声をかけて更衣室を出て行きました。
「ええ、じゃあまた」
わたしも更衣室を出て行く彼女たちに返事をしながら、誰もいなくなった更衣室の中に入りました。私以外は誰もいない更衣室の中。物音一つしない静かなものでした。
「あら、何の音かしら?」
誰もいないはずの更衣室に物音がしたの。
「ガサゴソガサガサ」
わたしは音のした方へと近づいていった。そして、音のするロッカーの前に立った。それは使われていないロッカーだった。わたしは恐る恐るドアに手を掛け開けてみた。するとその中には、下着姿で縛り上げられた女の人が入っていました。その女性は、さっき更衣室を出て行った美人アシスタントの一人に似ていた。
「あら、目がさめたの。もう少し静かにしていてくれると思ったけど仕方がないわね。ちょっと、チクッとするけど我慢してね」
わたしは、彼女に麻酔薬を注射した。
「もう、福娘ったら、また薬の量を間違えたわね。困った子ね、後でお仕置きをしなくっちゃ」
わたしは、彼女を眠らせるとそのロッカーの戸を閉じた。そして、自分のロッカーの前に立ち、戸を開けた。ロッカーの中には、下着姿にされて縛り上げられたわたしにそっくりの女性が眠らされて、閉じ込められていた。
「この衣装気に入っていたんだけどなぁ。今度は、春ね。その時はまたよろしくね」
そう言いながら着ていた衣装を脱いで、ロッカーに掛けられていた服に着替えると、意識を失っているもう一人のわたしに声をかけてロッカーの戸を閉めた。
「さて、急がないと師匠たちが待っているわ」
わたしは、更衣室を出るとみんなの待っている玄関ロビーへと急いだ。
「あ、ロビーには彼がいるんだわ。ウフフ・・・新年会のいい玩具になるかもしれないわね」
ロビーで、美人のわたしを待っているであろう彼のことを思い出して、わたしは微笑んだ。
さあ、福助ファミリー恒例の「欽ちゃんの仮装大賞アシスタント」への仮装コンクール優勝はわたしかしら?だって、デートに誘われたのだもの。
こうして、超変装集団・福助ファミリーの一年がはじまった。