うれしはず化し身体検査

 

春の大行事の入学式も無事に終わり、今日は、もうひとつの行事である新学年全校身体検査の日だった。

女子は午前中、男子の検査は午後からの予定だった。

朝から全校の女生徒が体育館に集まっていた。体育館は、外から覗かれないように暗幕が張られ、入り口には、内側からカギがかけられていた。

春先とはいえ、全校の女生徒の体温と暗幕で締め切られた体育館の中は暑かった。勿論特別にクーラーは動いていたが、若い乙女達の熱気にはかなわなかった。

だが、そんな事も気にならないのか、あちらこちらで女生徒達のキャピキャピのおしゃべりが盛んに行われていた。

「ねえねえ、由香。去年より大きくなったんじゃないの?何カップ?」

「もう、マリエこそ、ウェスト引き締まったじゃないの?どんなダイエットしたの?」

「もう、太っちゃった。明日からダイエットしなくちゃ?」

「うふふ、美樹。君の胸はふかふかで柔らかだな」

「もうやめてよ、ミグ。そ、そんなに胸をも、もまないで・・・よ。あっはぁ〜ん」

身体測定してくれる医師や看護士も、ノートパソコンで測定を記録している教師も女性だった。この体育館の中には同性しかいないとなると、異性の前では、決して見せないあらわな姿や、大胆な会話が体育館の中にあふれていた。

そんな女生徒の中で、妙にそわそわしている女の子がいた。

髪を肩まで伸ばし、左から左右に別けて、ヘヤクリップで止めた可愛い女の子は、回りの女の子に気付かれないように手の中に隠したデジタルカメラで、身体検査を受ける女生徒達を盗み撮りしていた。

「ぐふふ、すごいな。このボディスーツは、四世代前のモデルで、70%オフで特売していたとはいえ、だれも、このオレが・・いえ、わたしが男だとは誰も気付いていない。どう見ても年頃の女の子だからな。ぐふふ、この写真をネットで売れば・・・(ニヤリ)、リリカルこのはの、グッズを集める資金は十分だぞ。いや、超プレミアのデック・B製作のHフィギュアを手に入れることも出来るぞ」

彼女は薄気味悪いほどのいやらしい笑みを浮かべた。

誰にも気付かれないことに調子に乗って、彼女は、大胆にあちらこちらに移動しながら写真を撮り捲った。

「シャッキ、シャッキ、シャッキ」

動き回っていると、お腹の辺りで妙な音がした。

「ビリッ」

だが、彼女はその音に気付かずに、さらにこまめに動き回った。

と、「ビリリッ」

また音がした。

「あれ、窮屈だったお腹周りが楽になってきたぞ。うむうむ、このボディスーツに慣れてきたんだな」

などとのんきな事を言っていると、穿いていたスカートの止め具が外れ、シャツの端の部分がはちきれんばかりに膨れ上がり、ボタンがとび、シャツがはだけた。

 

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(絵師:あさぎりさん)

「はあ、腹が楽になった・・・て、ど、どうしたんだ?」

楽になった腹を見ると、そこにはでっぷりとした脂肪の塊の腹が飛び出していた。

「わ!や、やべぇ、出腹が・・・ば、ばれてしまう」

彼女は、タップンタップンと波打つ腹をはだけたシャツで慌てて隠した。

「あら、どうしたの?・・・あれ?あなたはだれ」

彼女の様子がおかしかったので、心配そうに声をかけた女の子は、彼女の顔をまじまじと見た。そして、はだけたシャツで隠そうとするお腹を見て、悲鳴を上げた。

「きゃぁ〜〜〜」

その悲鳴に驚いた彼女は、悲鳴を上げる女の子の口を両手で塞いだ。

「・・・・・」

「ふう」

驚きの表情で固まってしまった女の子の口を塞いだままで、彼女は一息ついた。

と、いつの間にかあちらこちらでうるさいほど聞こえていた女の子たちのおしゃべりが止んでいた。彼女が恐る恐る周りを見ると、腕を組み、彼女を恐ろしい顔つきで睨みつける女の子や、女性教師、女医や、女性看護師が彼女を取り囲んでいた。

彼女はその視線に冷や汗を滝のように流しながら、微笑んで自分を取り囲む彼女たちを見た。

だが、彼女たちは自分を睨み付けたままだった。

「およびでない?およびでないね。こりゃまた失礼いたしました。アハハ・・・・」

笑いながら、その場から離れようとすると、彼女を取り囲んでいた女のこの一人が、足を出して彼女を転ばせた。

「どす〜ん」

彼女は、体育館の床にすっ転んでしまった。

「それぇ〜〜!」

誰かが上げた掛け声と共に、彼女を取り囲んでいた女の子たちは、床に倒れている彼女に飛び掛り、彼女の着ているものを引き剥がした。

「いやぁ、やめて。え、え、えっちぃ〜〜〜」

撒き餌に群がる養殖の魚の群れや、特売会場に殺到するおばさんたちが、可愛く思えるほど、彼女は女の子たちにもみくちゃにされた。

「「いやぁ〜〜」」

絹を引き裂くような女の子の悲鳴が響き渡り、彼女に群がっていた女の子たちが、それを合図にさっと身を引いた。

「いやぁ〜ん」

女の子の引いたあとには、さっきまで床に倒れていた少女の姿はなく、醜く太ったニキビだらけの全裸の男の子が、両手でぷよんぷよんの胸を隠しながら身を捩じらせた。

「うぇっ!」

「いやぁ〜〜ん、なにこのデブ!」

「きも〜〜い」

女の子たちは思わず汚らしいモノを見てしまったことに後悔した。

「コイツ誰?」

「確かこいつは・・・2C組のオタク豚よ」

「いやぁ〜〜こんな変態に、わたしの素肌を見られた!もう、お嫁にいけないわ」

どさくさにまぎれて、誰がお前なんかを・・・と突っ込みを入れたくなるような女の子に、そんな事を言われてしまった。

オタク豚が着ていたボディスキンの切れ端を、つまみ上げて、生徒会役員の女生徒が言った。

「こんなモノを使って、わたしたちの身体検査を覗くなんて許せないわ。二度とこんな事をしないように懲らしめましょう!」

「お〜〜!」

気勢を上げると、女の子たちは、モップやブラシを持ってくると、オタク豚を袋叩きにして、全裸のまま、マットにくるむと、体育館の外に放り出した。

そこまでする女の子たちを止める事もせずに見ていた女性教師や、女医、女性看護師は、体育館からマットに簀巻きにされて叩き出されるオタク豚を見送りながらささやきあった。

「馬鹿だなぁアイツ。安物のボディスーツを使ったのだろう」

「それも、いもしない女の子の姿で紛れ込むなんて、計画性がないんだよ」

「まったく、でも俺たちも急がないと保健室で、寝ている先生たちが起きてしまうぞ」

「データは大丈夫か」

「ああ、パソコンからちゃんとデータ送信しているからカメラが見つかっても、もう遅いさ。まさか、自分たちの身体測定をしている医師や看護師、それに顔見知りの女性教師までもが、偽者と入れ替わっているとは・・・」

「お釈迦様でも気がつくめぇ」

「あはははは・・・・」

彼女たち(?)は、女生徒に気付かれないように静かに笑いあった。