帰宅した母と娘

 

その事件は、帰宅した大学生の長女によって発見された。

身体を縛り上げられ、猿轡をされてキッチンに転がされていた親子。

母親は買い物を終え、外出先から帰宅したガレージで襲われ、娘は、帰宅した時、玄関先でいきなり襲われたようだった。だが不思議なことには、屋内には、物色された後も、盗まれたものも発見できなかった。この犯人の目的は発見できなかった。

そう、目に付く点においては・・・

 

 

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いらすと:HIROさん

 

「お母さん、大変だったわね」

その夜、二人を発見した大学生の長女・里美は、食事のときにそのことを話題にした。

「由香もいきなりだものね。犯人の顔は見てないの?」

ただ黙々と食事をする二人に里美は聞いた。だが、二人はその声が聞こえないのか。ただ黙々と食事をするだけだった。里美は、あの恐怖で、二人が話せないのだと思い、その話題をやめることにした。少し思い雰囲気の食事を終え、里美はリビングへ、母の美幸は後片付けを、妹の由香は、風呂を入れるためにバスルームへと別れた。里美は二人が来るのを待ちながら、リビングのテレビを眺めていた。いつも明るい二人なのに、あの出来事がかなりショックなのか。いつになく無口になっている母と妹に、どう接すればいいのか。里美にはわからなかった。

やがて、由香が、それに続いて母の美幸が片付けものを終えて、リビングにやってきた。二人は押し黙ったまま、里美のそばに座った。テレビには、由香の好きなアイドルが映っていた。いつもならはしゃいで見ている由香なのだが、今日は妙に静かだった。里美は食事のとき以上に重苦しい雰囲気に息が詰まりそうだった。

と、風呂の入ったブザーの音がした。里美は、この場を離れたい一心から先に風呂に入ると告げるとバスルームに向かった。服を脱ぎ、バスルームの湯船に、引き締まった見事なプロポーションの裸体を沈めると、ふとつぶやいた。

「もう、お母さんも、由香もどうしたというの。あの出来事のせいでおかしくなったの?」

里美は、いつもと違う二人の様子に戸惑っていた。まるで別人のような雰囲気さえするのだ。これから二人とどう接していいのか。里美にはわからなくなってしまった。里美は、ぶくぶくと湯船のお湯に身体を沈めた。

 

温かなお湯のおかげで、気持ちの落ち着いた里美は、バスローブを着て、濡れた髪をタオルで拭きながら二階の自分の部屋へと歩いていた。するとリビングのほうから笑い声がした。それは、母と妹と、もう一人女の笑い声だった。

お客でも来たのだろうか?里美はちょっとはしたないとは思ったが、夜の八時に訪問してくるくらいの人物だから、自分も知っている人物だろうと思って、リビングに顔を出すことにした。それよりも、元気になった母と妹の姿を早く見たかったというのが本当のところだった。里美は、リビングのドアから顔を出した。

「こんばんは。こんな格好ですみません」

リビングの中には、母と妹に挟まれて一人の若い女性がいた。その女性は里美がよく知っている人物だった。

「あ、あなたは・・・」

「あら、里美。お風呂から上がったの。こっちいらっしゃいよ」

その女性は笑顔で里美を招いた。母も妹も笑顔でドアから顔を覗かせる里美を見ていた。その笑顔に里美はぞっとした。

「さあいらっしゃいよ」

その女性は、さらに里美を招いた。

「お姉さん、こっちよ」

由香がすばやく動いて、里美の腕をつかんだ。そして、無理やりリビングの中に引きずり込んだ。

「これは一体どういうことなの。なぜあなたがここにいるの?ねえ、お母さん、由香、この人は誰なの」

「この人は、わたしのお姉さんの里美よ。里美姉さん」

由香がこともなげに、里美の腕をつかんだままで答えた。そう、リビングの中にいたもう一人の女性は里美自信だったのだ。自分が二人いるのに驚きもしない母と妹に里美は訳がわからなくなってしまった。

「そう。正確にはこれからの里美なのよ。今までの里美ちゃん」

母の美幸がいやらしい笑いを浮かべながら答えた。

「一体どういうことなの。今までのわたしと、これからのわたしって。それにお母さんも、由香もおかしいわ」

「おかしくないよ。お姉さん。古いものはまとめてポイなの。安心して、古いお母さんと由香といっしょに捨ててあげるから」

そう言うと由香は掴んでいた里美の腕をねじ上げた。

「い、いたい。由香やめてよ」

「さて、古いものは梱包しないといけないわね」

いつの間にかロープとタオルを持った美幸と里美が、由香に腕を捻じり上げられ身動きの取れない里美のほうに近づいていた。そして、彼女は梱包されて、リビングの床に転がされた。

 

「もう、お前が遅いからこんなことになるんだぞ。せっかくの休暇なのに台無しになるところだった」

「急にこの娘が帰ってきたものだから、あわてて二人で縛りあって事なきを得たのだが。やばかったぞ」

縛られて、床に転がされた状態の里美は、この会話を聞きながらあることに思い当たった。あの縛られた二人はすでに偽者だったのだ。そうとは知らずに自分は・・・

「俺なんかあまりあわてたものだから、奪った靴玄関に持っていくのを忘れて履いてしまった」

「そうそう。俺もガレージに美幸の荷物を取りに行っていたから、靴は履いたままだ。そのうえ俺たちの変装も中途だったから、あのまま会っていたらすぐにばれてしまうところだった」

「ごめんごめん。つい、ストッキングの似合う子がいたものだから・・・」

里美が、頭を掻きながら由香に謝った。

「しかし、ストッキング好きは、師匠譲りだな、三世」

美幸があきれたような顔をして言った。

「申し訳ない。HIRO氏に、ひろぽん氏。でも、ココの家族は掘り出し物だろう」

里美は美幸と由香に聞いた。

「ああたしかに。実年よりは若くて綺麗だし。スタイルも子供二人も生んでいるようには思えないほどいいしな」

といいながら美幸は自分のふくよかな胸を持ち上げたりしていやらしい笑みを浮かべた。

「それに、由香の行っている学校にはターゲットに出来る美少女が結構いるしな。それに、女性教師も若くて美人ばかりだ」

「こちらに廻すのもお忘れなくな。ひろぼん」

「それはHIROの旦那もでしょうが、旦那の勤めている編集部には若い編集員がごろごろしてるし、女性雑誌の編集部だから、モデルも・・・グフフ」

美幸と由香の会話を聞いていた里美が二人に言った。

「お楽しみはこれからだよ。この家族には、男っ気がないからばれる心配はないし、女装にかけては天才的な三人がそろっているんだからな」

「確かに」

美幸と由香は声をそろえて同意すると、三人は声を上げて楽しそうに笑った。その足元には猿轡をされ、体中を縛り上げられた里美が転がされていた。そして、一階奥の美幸の寝室には、猿轡をされて背中合わせに縛られた美幸と由香がクローゼットの中に閉じ込められていた。

こうして、三人の怪人たちの一年ぶりの休暇が始まった。