かよちゃん

 

 最近インターネットで、噂になっていることがある。それは・・・

 

 「ねえねえ、知ってる?」

 「なになに?」

 「あの子のこと」

 「え、あの子って?」

 「あの子でしょ。あら、あなた知らないの」

 「そう、あの子」

 「華代ちゃん」

 そう、いま、インターネットのあるサイトで、話題の女の子のことだ。

 かなりの有名人で、かなり危険な人物でもあるらしい。ボクは、その子に会ってみたいのだが、会った事のある男性は少なく、女性から、あの子の情報を聞き出すのは、直接会ってはいないとは言え、なんだか聞きにくいものがあった。あの子の特技を考えると・・・

 そんなもやもやした思いをしながら、ある日、ボクは、あるカキコを見つけた。それは・・・

 

 『あなたの、心や体の悩み、解決します。メールください』

 まるで、何かの怪しげな宗教団体か、キャッチセールスのようだった。だが、そこに書かれた名前を見て、ボクは、すぐにメールを送ることにした。その名前は、『真城 華代』

 しばらくすると、すぐにメールが帰ってきた。そこには、こう書いてあった。

 『すぐにおうかがいする』

 といっても無理な相談だ。彼女がどこにいるかは知らないが、ボクは、実際の住所を連絡していないのだから。だがそれは、すぐに、間違いだと思い知らされた。

 「こちらでよろしかったかしら?」

 メールの返事が返ってきてすぐに、ボクの後ろで、女の人の声がした。振り返るとそこには、胸の開いたカクテルドレスというのだろうか、黒のシックなドレスにその豊満な胸と、抜群のスタイルを包んだ、美女が立っていた。

 「あ、あの〜あなたは、どなたです。いったいどこから入ってきたのです」

 ドアの開く音もしなかったのに現れた美女に、ボクは、怪しい気配を感じた。

 「あら、あなたが、呼んだから来たのよ」

 「え、まさか、あなたが華代ちゃん」

 「ええ。わたしはこういう者よ」

 そういって、彼女は名刺を差し出した。そこにはこう書かれていた。

 『あなたの心や体の悩み、解決します  真城華代』

 そう、噂の華代ちゃんの名刺に間違いなかった。

 「あなたが・・・まだ幼い女の子かと思っていました」

 「あら、あなたは、ロリコン。それなら、今度からそういう子を来させようか?」

 「いえ、ロリコンというわけでは・・・噂とは違うもので、戸惑ってしまったのです」

 「噂ってそういうものよ。さっさと、お仕事を終わらせましょう。あなたのお望みって、なに?」

 「それは・・・」

 あまりにも、率直に聞かれるもので、言いにくくなってしまった。まさか、あんなことを、言うのは、はばかれた。

 「その、この姿を見られてどう思います?」

 「あなたの姿?デブね。それに、脂ぎりすぎて、わたしの好みじゃないわ」

 「そ、そうですか」

 あまりにそっけなく言われて、ボクは、言い知れぬ怒りを覚えた。

 「つまりカッコよくなりたいのね。いいわよ。それじゃあ、ランクを決めましょうか」

 「そうじゃなくて・・・え?ランク」

 「そうよ。松・竹・梅とあるわ。このセンスわたしはいやなのだけど、決まりだから仕方ないけどね」

 「松・竹・梅?」

 「ええ、松が、10万。竹が5万。梅が1万よ。どれにする?」

 「お金取るのですか?ただでは・・・」

 「あら、この世の中に、ただなんてないわよ。どうするの?わたしは、これでも忙しいのだから」

 「はあ」

 ボクは、今のボクの財布の中身を考えた。それに、金を払うのなら、完璧に願いをかなえてもらわなくては。

 「それじゃあ、竹でお願いします」

 ボクは、今月落ちるいろいろな支払いのことを考えて、願いが叶った後のことも考慮に入れて、言った。

 「竹ね。わかったわ。それじゃあ、いくわよ」

 「あ、ちょっと、待ってください。ボクの願いを言っていませんが」

 「あら、カッコよくなりたいのでしょ」

 「え、いえ、カッコよくというよりも、かわいくなりたいのです。ボクの望みは、かわいい女の子になりたいのです」

 「女の子?かわいい?性転換に、容姿変貌。う〜ん、望みが二つか。それなら、料金が変わるわよ。特別料金を貰わないと・・」

 「そんなぁ。ボクが出せるのは、5万までです。それに、この子みたいになりたいのです」

 そういって、ボクは、雑誌の切抜きを、華代ちゃんの前に差し出した。それは、最近人気のアイドルの雑誌に載ったスナップの切抜きだった。

 「この子そっくりに?肖像権が生じるわね。似ているのなら、何とかなるけど・・・でも、5万なら半分よ」

 「半分?」

 なにが半分なのだろうか。ボクは、返事しかねていた。

 「ねえどうするの?わたしは忙しいの。さっさと決めてよ。それじゃないと、わたし帰るわよ」

 彼女が帰る。こんな機会は2度とないかもしれない。ボクは、迷った。そして、決断した。

 「お願いします」

 「それじゃあ、前金ね。後払いだと、何かと問題が起こる場合がありから、いいわね。それに、この契約書をよく読んで、ここにサインしてね」

 それは、これはボクが望んだことであり、結果に対しては、何も文句は言わないというものだった。いやな予感はしたが、ボクは、契約書にサインして、なけなしの5万円を支払った。

 「45・46・47・48・49・50と、確かに5万円とサインいただきました。千円札か。ま、いいか、この間は、1円や5円まで混じって、硬貨で10万円だったものね。じゃあ、はじめるわよ。なりたい子の姿を強くイメージしてね。いくわよ」

 そういうと、華代ちゃんは、なにやら呪文を唱えだした。すると、ボクの身体は異様な音を立てて、きしみだした。

 『ゴキ・ガキ・グキ・ゴキキ・・・』

 締め付けられる感じと共に、胸が膨らんでいくのを感じた。そして顔もひきつけられるような気がして、身体中から、汗というか、脂が滲み出すのを感じた。まるで、鏡の部屋に閉じ込められた四六のガマだ。

 「さあ、おわったわ・・・・ま、仕方ないわね、半分だもの」

 彼女は、唖然とした表情をして、僕に言った。まだ身体の感じがおかしかったが、ボクは、近くにあった小さなスタンド式の鏡を手にとって、新しい自分を見た。

 「うわぁ〜〜、かわいい」

 ボクは、思わず叫んでしまった。鏡に映ったのは、あのアイドルの姿だった。

 「ということは、下も・・・ん?」

 下のあそこには、触りなれたものがあったのだ。以前のままのボクのものが・・・

 「な、なんでこれがあるのだ」

 「だって、料金半分だもの。これでも、かなりサービスしたのよ。それじゃあね」

 「チョちょっと、待ってよ。華代ちゃん」

 「なに、あなたが望んだことでしょう?」

 「でも、あなたは、ココロとからだの悩みを解決してくれる『ましろ かよ』ちゃんでしょう。なんとかしてよ」

 「『ましろ かよ』?だれよ、それ。わたしは、『まじょう かよ』よ。ちゃんと、名刺の裏に書いてあるでしょう」

 ボクは、貰った名刺をひっくり返すと、そこには、英文で書かれたコメントの下にこう書かれていた。

 『Kayo Majyo』と・・・・

 「それでは、今回はありがとうございました。それでは・・・もう、会うこともなさそうね。バイバイ」

 そういうと、彼女はかき消すように姿を消した。ボクは、一人残され、ただ呆然としていた。

 

 『キーコ キーコ』

 誰もいない真夜中の子供公園のブランコに乗って、何もするでもなしに、ブランコをこいでいた。上半身は、望みの姿なのに、下半身は、元のまま。へその辺りでくびれたその姿は、ハクション大魔王に出てくるつぼに似ていた。

 「どうすればいいんだよ。この姿で・・・」

 声は、あのアイドルに似てかわいい声になっていた。

 「これじゃあ、どこにも出れないよ。どうしたらいいのだよ。ボクは・・・」

 

 「おねえちゃん?どうしたの」

 かわいい女の子の声に、伏せていた顔を上げると、そこには、幼い少女が、立っていた。

 「君は?こんな時間にこんなところにいちゃいけないよ」

 「わたしは、こういうものです」

 そういうと、少女は、名刺を差し出した。そこにはこう書かれていた。

 『ココロとカラダの悩み、お受けします 真城 華代』

 「また、華代ちゃんか。君は、なに華代なの。シンジョウ?それともシンシロ?」

 「え?わたしは、『ましろ かよ』ですが・・・」

 「『ましろ かよ』?じゃあ、本物なんだ。そうなんだ」

 ボクは、なんだか目頭が熱くなってきて、涙がとめどなく流れてきた。ボクは、華代ちゃんに、今までのことを話した。

 「そうなんだ。おねえ・・いえ、おにいさんは、元に戻りたいの?」

 「どうなのか。ボクにもわからない。でも、この姿だけはいやなんだ」

 「わかったわ。わたしにまかせて!」

 そういうと、華代ちゃんは、目を閉じて、手を合わせて、念じ始めた。すると、どこからともなく一陣の風が吹いてきて、ボクを包んだ。足が締め付けられる感じがした。そして、あそこが縮みだし、体の中にもぐりこみ、でぶっとしたお尻も引き締まってきた。そして、風が吹き去ると、ボクは、あそこに手を当てた。

 「な、ない!それに足もスリムでキレイになっている。う、う、ううう・・・・女になってるぅ」

 うれしくて涙が出てきた。これで、あの子になれた。ボクはそう思った。だが・・・

 「む、胸がない」

 昔のようなだぶついた胸じゃないが、硬く厚い胸板。これは、男の胸。ということは・・・

 「あれ、下は女の人に変わったけど、今度は、上が男に人になっちゃッた」

 「そ、そんなぁ〜」

 下半身は、女になったけど、今度は、上半身が、たくましい男に変わってしまった。ボクが、泣き叫ぶ間に、あの女の子はどこかに姿を消してしまった。

 「もとにもどせ〜〜〜!」

 

 今回は、失敗かしら?でも、あの姿から変わったのだから、依頼通りよね。だって、おねえ・・・いえ、おにいちゃん、あの姿以外になりたいって言っていたのだもの。

「まじょう かよ」さんか。似た名前の人っているのね。どんな人だろう?