思いがけないアルバイト

 

 木津マコトが某SNSで知り合った人にバイトに誘われたのは、12月も中旬にさしかかろうとした頃だった。
 マコトは身長が163センチで本人としては高校時代から悩みの種だった。入学した頃、おなじぐらいだった友人達はどんどん背が伸びていくのに対して、自分はそのような気配は皆無だった。大学に入ってから地元から離れ、友達もおらずただ、学校と家でネットという生活のサイクルを確立してしまった。
しかし、さすがに社交性が落ちてきたのを自分で感じ、この話に乗ったのだったが、時給一万円、よく考えなくても怪しいだけなんだけど、ま、その時に断ればいいかと安易な考えで待合い場所であるビルの前に立って、携帯で時間を確認しながら流れゆく車を眺めていた。

 キッっと甲高い音と共に、紺色のBMWが目の前にとまった。窓が開き、中から痕の背広を着た男性が顔を除かせた。

「えーと、木津君?」
「はい、吉田さんですか?」
「え?あーうん、そう吉田。まあいいわ、乗って。現場までいくからさ」
「は、はあ」

 自分が聞いていた名前を確認したところ、吉田?と名乗る男はどもりながらも、笑顔で助手席を指さした。そのまま、逃げようとも思ったが、逃げたらヤバイという感じを受けそのまま助手席へ乗り込んだ。
 車は走り始めた。吉田は、信号待ちの時に後部座席に置いてある鞄から一枚のパンフレットを出してマコトに差し出した。

「これ、今日のバイト。いや〜、なかなか希望の背丈の人に会えなくてさ。ま、男性でも補正すれば何とかなるらしいから」
「はあ」

 マコトは手にしたパンフレットの無地の表紙を開いてみると中には女性形をした人形と「ラブセリナZ型」発表会と書かれていた。

「ラブセリナ?」
「ウチの会社が扱う、ラブドール?ま、あの人形だけど、進化してるだろ。駆動部分も多いしね。どのようなポージングも可能ってね。特殊シリコン素材で皮膚感から胸の弾力だって良いもんだ」

 そういうと吉田はカカッと笑う。マコトは何をさせるのかとまどっている間にも、吉田はその人形のすばらしさを説明し続けている。
 やがて、車は郊外の雑居ビルに到着して、二階の展示場に案内された。

「うわっ!」
 
 部屋の中には数体の人形が並んでいた。胸の大きいタイプ、白人のタイプ。

「り、リアル、ですね・・・・うわっ、何だ、この感触!」

 軽く人形の頬をさわってみた感じに驚きの声を上げると、吉田はうれしそうに笑った。

「すごいだろ。さて、今日の君の仕事はこの人形に入って貰い、その振りをして貰いたいんだよ」
「人形の?」
「そ、手違いで日本人ギャルタイプのA−6型の骨格が間に合わなくてさ。ま、それに入って貰いたいんだよ。ただし、今日はVIPのお客様の内覧会だから絶対にばれないようにというが条件。どう?」
「いや・・・とは・・・」
「だから頼んでるんでしょ。な、ほんと、この通りや」

 吉田は声を低くしながら拝むような振りをする。マコトは小さく頷くと、一転、口調が戻り隣の部屋へ肩を抱かれるように連れて行かれた。
 4畳半くらいの小さな部屋に背の高い女性と、先ほどの人形が潰れたようにころがっていた。

「あ、来たね。私はミカって読んで。イヤだったらアケミ。ま、どれでもいいけど、それじゃ、まず脱いで」
「え!ここで?」
「どこでよ。時間がないから早く脱ぐ!」
「すみません、脱ぎます、脱ぎます!」

 女性は苛立ったようにマコトのジャンパーをはぎ取るとマコトは観念したように下着になると、それも脱ぐぬがないでさらに揉め、内股で前を押さえながら壁に張り付いて立っていた。

「はい、まずこれ」

 そう渡されたのは白い全身タイツ。

「まずあそこをその穴に差し込んで着てって、そうそう、次は上半身にあげていって、顔を覆う前にクビの所からチューブとマウスピースが出てるでしょ。それそう、チューブを鼻に、マウスピースを銜えて顔を覆って、そう、もうしゃべれないから」
「ふごっ!」
「じゃ、次はスーツね。一応本物だから伸縮性もあるから、骨格入れるときとおなじにお尻の穴から入って」

 そのスーツはマコトが思っているよりも延び、アケミの手助けで、ゆっくりと着込んでいく。ただ、もともと人が着るような設計ではないから細部ではなかなかきつかったが、なんとか着ることが出来た。

「どう?見える?

 アケミの言葉にマコトは頷く。

「OK、じゃ、ここに座って」

 アケミはマコトを鏡の前に座らせると、マコトは自分の姿に驚嘆した。スキンヘットの頭に長いまつげの瞳、濃いめのメイク。指には長い爪にネイル アート見てる間にも、アケミは長いウェーブのウィッグをかぶせ、整えていく。そのまま立たせて、下着、ハイネックのニット、ミニスカート、ニーハイのブーツを手際よく着せていくと、展示場へと手を引いていく。はじめてはいたヒールのブーツにふらふらしながらアケミにしがみつきながら、マコトは足を進めた。
展示場で他の人形に混ざり立たされると、吉田がそれを見つめて満足そうに頷くとマコトに近付いてきた。

「良い出来だ。もうすぐお客様が起こしになられる。たのむよ」

 しばらくすると吉田は禿頭の初老の男を連れて入室してきた。マコトはテレビで見たことがあったが名前までは思い出せないが、権力のある人間であることは確かだ。
 き、緊張してきた・・・・
 マコトはマスクの下で呼吸が荒くなるのを必死で落ち着けようとしていた。その間にも男は値踏みするように一体づつ人形を見て、胸を揉んだりしながら近付いてきた。
 ま、マジか、あんなにべとべとさわるのか?
 ついにマコトの前に男が進んできた。そして顎に手を当て、のぞき込むように顔を近づけると、

「北川君。やっぱり日本人タイプだな。これをよく見たい」

 吉田となのった男、北川は笑顔ではいと答えると、周囲のスタッフに指示し、マコトを抱えさせ、隣のベッドルームに運び込むように指示し、ベットルームではアケミが手際よくマコトの服を脱がし、彼女と入れ替わりで男が入ってきた。

「では、先生、お楽しみください。一応、断裂防止のためにローションを塗って
おきますので」

 北川はローションをあの部分に流し込んだ。その冷たい感覚が全身へと刺激となって伝わり、うなり声を上げそうになる。北川が退出すると、老人がバスローブ姿で入室してきた。年齢に似つかわしくない鍛えられたからだと、あそこがまだ現役であることを物語っている。

「やはり、日本人タイプが一番じゃ」

 そう言って唇を押し当ててきた。マコトは心の中で悲鳴とマスク越しではあるが初キスがジジィという現実に晒される。そして、老人はマコトを軽々と裏返すといきなりあそこへ挿入してきた。もともと、その目的のためにつくられているが、何故かその感覚がフィードバックされる特殊素材のスーツのために、体中に電気が走る感覚に繰り返し晒されていた。

「リズミカルにのぉ」

 し、しかも無駄に上手いし・・・マコトは声が出そうなのを必死で耐えるが、老人の手は体中をはい回っている。

「まるで本物とまぐわっているようじゃ」

 あ〜だめ〜、老人が絶頂にいくと同時にマコトもうなり声とも喘ぎ声ともいえない声を上げてしまったのだった。

「なんだこれは!」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
「本物出はないのか!・・・・」

 室内を怒号が飛び交う中、マコトの意識は次第に薄れ落ちていった。

「マコ、今帰ったよ」
 老人が書斎に入ってくるとドールに入ったマコトに口づけをした。あれから、何故か気に入った老人にマコトは就職したというか、買われた。スーツ 自体も体中の刺激を内蔵者にフィードバックするように強化され、最初に着用したプロトタイプとは段違いに進化している。
 仕事も、老人が在宅時のみの相手で、話し相手から夜の相手と幅広いものの、老人の出張が多いせいか、自由時間も多いが今ではこの姿の方が楽しめている。就職難のこの折、これはこれで良いかとマコトは思っているし、当初、偽名を使っていた北川も新たな商売ということでデータを取りにこの家へと足を運んでいる。
 みんなが幸せならいいのだろう。マコトは今日もベットに横たえられる。


18禁?久々に書いてみました。どうでしょうか

慶二