俺がその少女に初めて会ったのは、裏山の奥にあるゴミの不当廃棄場だった。
そこは俺の幼い頃からのあそび場で、いつの頃からか行かなくなっていたが、高校受験の終わったこの春、懐かしくてぶらりといってみた。
以前は、土砂の採掘場だったがいまはゴミの宝庫だった。
そんな、ゴミの中にあの少女はひとりぽつんと立っていた。
ゴミの中に立つ妖精。俺には自然の妖精が、汚れきったこの場所を嘆いて立っているように思えた。
俺は恐る恐るその少女に声をかけた。
彼女は俺の声に反応するでもなく、ただ小さな声でつぶやいていた。
 
ゴミ捨て場
いらなくなったもの、壊れたもの
たくさん置いてある。
 
少女は、ゴミの中からガラス製のコップを取り出し、それを頭の高さまでもってくる。
そして手を離す。
コップは地面に着くと同時に、粉々に砕けた。
 
「そう、最後にはどんなものも壊れてしまう・・・」
 
そう呟いて、僕を見る。そして話を続ける。
 
「昔、私の家が火事になった時。その時に気付いたの。
 私が家に帰った時には、何もかもなくなっていた。
 おかあさんも、おとうさんも、弟も・・・。
 夢も、希望も、愛も・・・・そう、全て。」
 
やっとわかった。こいつが今まで誰にも心を開かずに、この場所に留まっていた理由が。
 
「だから私はね、もう何もいらないの・・・・」
 
俺は言葉がでなかった。
ただ立ち尽くすことしかできなかった・・・。
それから毎日、俺はあの場所へいった
だが、それから数日間、彼女はあの場所へこなかった。
それは彼女の心になんらかの変化があったことを表していた。
でも、まさかなんかことになるなんて・・・・・・。
ある日の夕方、電話があった。
 
「よぉ、元気だったか?」
 
「・・・・・・・」
 
「どうした?ゴミ捨て場に行かないのか?俺はずっと待ってたんだぞ。」
 
「・・・・・・」
 
「お〜〜〜い」
 
まるで無言電話だった。
でも俺は彼女だと知っていたから、声をかけ続ける。
 
「・・・・・・・あのね。」
 
ようやく聞こえる言葉、やはり彼女だった。
 
「どうしたんだよ?」
 
「お別れを言おうと思って・・・・・」
 
「え?」
 
「さようなら・・・・・・・・。」
 
電話はそこで途切れた。
何が何だかわからなかった。
でも嫌な予感がする。
俺はあの場所へと向かった・・・。
ゴミだらけのあの場所で彼女を探す。
ゴミを掻き分けどんどんと中へ入っていく。
そして、一番奥で、彼女は横たわっていた。
真っ赤な血を流しながら・・・・・。
 
「あれ・・・?来てくれたんだ・・・。」
 
かすれた声で彼女が呟く
 
「何やってんだよ!!お前!!」
 
「だって、私には何もないから・・・
 何もいらないから・・・」
 
「そんな悲しいこと言うなよっ!!まだまだこれからだろ!!
 いろいろ楽しいことあるだろ!!」
 
「ううん・・・・
 それも、最後には全部壊れちゃう・・・。
 だから私、欲しいものなんて一つもないの。
 だから私、ここにいてもしょうがない・・・
 私ね、ちょっとだけ後悔してるかも・・・。
 今ここで私がいなくなったら、もう君とは会えないもん。
 でも、なんでそんなこと思ったんだろ・・・
 どうせ・・・最後にはみんななくなっちゃうんだから・・・。
 私も、あなたも・・・・・。だから何も・・・・・・」
 
「・・・・それは違うぞ。」
 
「・・・・・・・え?」
 
「すぐ壊れるから・・・脆いから・・・。
 だから、大切にするんだよ
 夢でも愛でも、どんなものだって壊れたら悲しいだろ?
 だから、壊れないように、ずっと大切にするんだよ・・・。」
 
「でも、私は・・・なくすことに慣れてしまったから・・・
 壊れることになれってしまったから・・・・。
 何があっても、悲しくないはずなんだと思う・・・・・。」
 
「じゃあ・・・何で・・・・何で泣いてるんだよ。」
 
「え?あ・・・・、ホントだ・・・・。何年ぶりだろう・・・・ずっと忘れてた・・・・。
 こんな思い・・・・・・。」
 
「お前はなくしたんじゃない。忘れようとしてたんだ。壊れる事を恐れて・・・」
 
俺は、そっと彼女にそっと手を差し伸べた。彼女は、血の止まった手を俺のほうに差し伸べた。
色白の彼女の手はさらに白く冷たくなっていた。俺の手の温もりさえも奪うかにように、彼女の手は白く冷たかった。
 
「そうね。でも、もうわたし本当に壊れたみたい。」
 
「そんな、死ぬな。死ぬな〜。」
 
「わたしみたいな者のためにあなたまで壊れてしまったのにゴメンネ。」
 
彼女はそう言うと、俺に微笑みかけた。そのとき、俺は彼女がそのことに気づいていた事を知った。
そう、俺は彼女の電話の後で、家を飛び出し、大通りに出たところで、出会い頭にダンプに跳ねられ、身体が壊れてしまっていた。だが、彼女のところに行きたいという気持ちが、俺の心だけをこうして彼女のそばに来させたのだった。
 
「やっぱり、わたしの心が壊れているから、私な大事なものをすべて壊してしまうのね。」
 
「そんなことはないぞ。」
 
「いいのよ。ねえ、この身体をあなたにあげる。あなたは、身体が壊れただけだから、新しいからだがあったら、生き返られるわ。さあ・・・」
 
俺は彼女の身体に吸い込まれ、気がつくと、俺の目の前に裸の彼女が浮いていた。
 
「さあ、これでいいのよ。心の壊れたわたしは消えるわ。あなたは、この身体で生きて。今までとは勝手が違うかもしれないけど頑張ってね。」
 
そう言って、消えていこうとする彼女の手を俺はしっかりと掴んだ。
 
「壊れたら、直せばいい。お前の壊れたところは、俺の心で埋めてやる。一緒に生きよう。ひとりの心では壊れやすくても、二人分の心なら大丈夫さ。」
 
「いいの、壊れたわたしでも・・・」
 
「壊れたのはお互い様さ。さあおいで・・・」
 
俺は、掴んでいた彼女の手を引いた。彼女の心は吸い込まれるように俺の中に入っていった。
 
「よろしくな。わたし。」
 
「こちらこそ。俺。」
 
いつの間にか朝日が昇ってきた。まぶしい光が、わたしたちを照らし出していった。
 
 
あとがき
りじ〜さんのきれいな文章を汚してしまったみたい。ごめんね。
原文は、りじ〜さんです。好評は、りじ〜さんに、苦情はよしおかにどうぞ。