淫らな憑き物 3


真理絵は、紗枝と姉の咲子の話を聞きながら、時折自分の考えも述べていた。話が進むにつれ、姉の顔に笑顔が見えるようになって、探偵クラブに行って本当に良かったと思っていた。今朝までの咲子は、ひどく傷ついていて、うっかりすると、自殺してしまうのではないかというほどだった。
そんな姉を、真理絵は段々ぼーっとした様子で見るようになっていた。
「・・・あっと」
真理絵の手からティーカップが落ちた。それは床に触れると、ガチャンという音ともに、砕けてしまった。中身はすでに無かったが、その破片が無残にも放射状に広がっている。
「まあ、大丈夫」
咲子が慌てて真理絵の手を取る。
「へへへ・・・大丈夫、大丈夫。ちょっとぼーっとしちゃって」
真理絵がそう言って、笑う。咲子はほっとした様子で、片付けるための道具を取りに出て行った。咲子が部屋を出て行くのを、笑ったまま見ていた真理絵だったが、ふと、紗枝に向かって言った。
「ちょっと、一緒に来ていただけますか」
「え、ええ」
紗枝は突然の真理絵の言葉に、一瞬訝しんだが、部屋を出て行く真理絵に従った。
「こっちかな。いや、こっち・・・」
真理絵は、まるで何かを探すようにあちこちの部屋を見て回る。一度は納戸を開けたりもした。
「あぁ、ここがいい」
そして、そこがいいと真理絵が頷いたのは、トイレだった。
「真理絵ちゃーん、紗枝さーん。どこへ行ったのー?」
2階から、咲子の声が聞こえてきた。
「ちょっとトイレー」
真理絵がそう答える。そして、紗枝にトイレに入るよう手招きするのだ。しかし、紗枝は別にトイレを案内してと頼んだ覚えは無い。そんな紗枝を、真理絵は強引にトイレに引っ張りこむ。
「ちょっとお礼がしたかったの。さ、入って」
「だけど・・・トイレで何をするの?」
ますます訝しがる紗枝だったが、彼女の腕を掴む真理絵の力は思いのほか強い。
「いいから、いいから」
抗うこともできず、便座に座らされてしまう。伊勢家のトイレは洋式だった。トイレはきちんと清掃が行き届いていて清潔を保っており、小物類も目立たぬように纏めてある。便座とペーパーホルダーには、刺繍のカバーが掛けられていて、同じ犬の模様が編みこんであった。良く見ると、床のマットでも大きなサイズの犬が笑っている。
けれども、今トイレに入っている二人の目には、犬など入っていないだろう。真理絵は、紗枝に続いてトイレに入ると、後ろ手に鍵を掛けた。
「ずっと前から好きだったんだ」
「え?」
真理絵の突然の告白に、きょとんとする紗枝。自分が何を言われたのか、一瞬理解できなかった。真理絵は、そんな紗枝に向かって微笑むと、手を差し出して紗枝の頭や頬をなでたり、髪を掬ったりする。
「真理絵さん? ・・・あっ」
そして、呆然とする紗枝に、真理絵はすばやく口付けをした。真理絵の突然の行動に、またしても動けなくなってしまった紗枝だが、口内に進入してくるものを感じると、とっさに真理絵を突き飛ばしていた。
「きゃっ」
「あ、ごめんなさい。でも、こんなことするなんて・・・」
「こっちこそ、ごめんなさいね。でも、本当の気持ちを知ってもらいたくて」
真理絵は床に倒れていたが、起き上がると、今度は上着のボタンに手を掛けると、次々と外していく。ふわりと、ブラウスが床に落ちた。紗枝は逃げ出すことも忘れて、突然始まった目の前のストリップショーに釘付けとなる。もっとも、逃げ出そうとしたところで、異様とも思える真理絵の怪力の前に、むなしく捕まるのがおちだろう。トイレのドアは真理絵の背後にある。真理絵の隙を突いて、鍵を開け、ドアも開けるのは不可能に近い。
「ふふふ。怖がらないで。ただ一緒に気持ちよくなりたいだけだから」
「あ、やだ。やめて」
いつの間にか下着姿になった真理絵が、今度は紗枝の胸に手を伸ばして、服の上からやさしく揉み始める。左手は、紗枝の肩に置かれており、そのため立ち上がることができない。そして、再び顔を近づける真理絵。紗枝がうーとうめくが、今度は力いっぱい押しても真理絵の体はびくともしない。真理絵の異様さと、胸からの感触で力がでないというのもあるだろう。それでも、紗枝は、限界まで抵抗を続ける。
「体は正直、ってほんとだね。ほら、ここ、もうこんなになっているよ」
真理絵は口を離すと、胸の先端を摘み上げた。その拍子に伝わる鋭い刺激に、紗枝は思わず、あぁ、と嬌声を上げていた。乳首はすでに服の上からでもわかるほどに立っていて、真理絵の手の動きを快感にして、紗枝に伝えていた。
「どうして・・・どうして、こんなことをするの?」
紗枝の問いかけに、真理絵はまるで恋人を見るめるかのような笑みを浮かべる。そして、再び愛撫を続けるのだった。
「ねぇ、やめて。お願い」
紗枝の抗議は真理絵に届かない。上げた腕は、力なく振られるだけで、真理絵を押し戻すことができない。大声を出そうにも、そのための力さえ出ない。もはや、紗枝に逃れるすべは無いのだった。
「はあ、はあ。う・・・あん」
次第に、紗枝の口から荒い息が吐き出されるようになった。すでに、抵抗する気力が失せてしまった紗枝は、真理絵のなすがままである。上着を脱がされて、上半身はブラジャーを残すだけだった。そんな紗枝の頬に、涙が一筋落ちた。
「どうして泣くの?」
紗枝は、しかし、何も言わずに下を見る。真理絵の手が止まる。
「・・・突然だもんね。ごめんなさい」
真理絵の言葉に、紗枝は視線を上げる。
「まずは、こっちのことを良く知ってもらわなくっちゃ」
しかし、真理絵は怪しく微笑むと、今度は自分の胸に手を当てた。そして、ブラジャーを外す。まだ発達途中といった小ぶりの胸だったが、興奮のためか、全体がほんのりと桜色に染まっていて、すでに乳首も硬く尖っていた。真理絵は自らの手で、胸をゆっくりと揉み始めた。
「ああ、気持ちいい。ん」
乳房は小さくても、手の動きに合わせて、形を変える。
「はぁはぁ。あぁん。ん・・・あっ、ああああ」
そのうちに、左手が下半身に伸びていった。そこはすでに下着を濡らしており、指先がそこに触れただけで、真理絵は大きく声をあげた。
紗枝は、自分への危害が無くなっても、そのまま動けなかった。食い入るように、真理絵の行為を見つめるばかりである。
「あぁぁぁ・・・だ、だめぇ。いっちゃうよーー!
さ、紗枝さんが、見てるから。こ、こんなす、すぐに・・・ぁぁああ」
真理絵は、下着の上から自分の一番感じる部分を探し出すと、そこをやさしく数回擦り上げた。その効果はたちまちのうちに発揮された。
「いく、いく・・・紗枝さぁぁぁーーーん、ああああぁっ」
真理絵はそのままびくっと震えると、紗枝に寄りかかるようにして倒れた。紗枝は、自分のことを好きだといいながら自慰をするこの後輩を、呆然としたまま、ただ支えるてやることしかできなかった。真理絵が落ち着くまで、何も言葉を掛けてやることもできない。

「・・・真理絵。紗枝さん。どうしたの?」
それから数十秒も経っていない。紗枝は、トイレのドアをノックする咲子の声に、ふと我に返った。おそらく、真理絵の嬌声を聞きつけて、咲子が様子を見にきたのだろう。
「ど、どうしよう」
女二人がトイレで半裸になっているのだ。一体どうしてこういうことになったのか、紗枝自身にも良くわかっていなかったが、とにかく真理絵を起こさなくてはならない。
「紗枝さん?」
「あ、あの。真理絵さんが気持ちが悪いというので、その」
紗枝は、とっさにそう言った。確かに、今の真理絵は息を切らしており、火照った体も、気分の悪い様子に見えなくも無い。
「あら、大丈夫・・・? お薬用意しましょうか」
咲子は多少の疑念があったものの、特に信じられないこともないため、そう言って、薬を取りに行こうとした。
「違う・・・違うの!」
そのとき、真理絵が急に叫ぶような声を出した。
「ま、真理絵さん?」
「えっ、何ですって?」
咲子は、何が起こったかわからないことに、紗枝は、真理絵の突然の変わりように驚いた。
「う・・・うわーーーーん。わあぁぁーーー」
真理絵は紗枝にぎゅーっとしがみ付くと、声を上げて泣き出したのだ。
真理絵の泣き声だけが、家の中にしばらく響いていた。
紗枝は、今度は、そんな真理絵をぎゅっと抱きしめた。