代わってださい


 僕は駅の階段で、恋人が来るのを待っていた。平日の午後2時なので、人影はまばらである。
「・・・と代わってください・・・そうですか・・・」
 僕は、ゆらゆらと煙草を吹かして、ぼーっと遠くのビルを見ていた。
「あの、すみません」
 僕が、3本目の煙草に火をつけようとしたとき、女性に声をかけられた。先ほどから、近くの人に同じように声をかけていたのだが、どうやら僕にまで順番が回ってきたらしい。
「何でしょう」
 僕は、時計をちらと見て、待ち合わせの時間まで、まだ大分あることを確認した。暇つぶし程度に、話を聞くのも悪くない。
「あの、私と代わってもらえませんか?」
「は?」
「少しの間だけでいいんです。私と代わってください」
「はあ、別に構いませんが」
 僕は、そんな大変な事じゃないだろうと、うっかり返事をしてしまった。
「あぁ、良かった。今日、彼女に会う約束していたんです。・・・それじゃ、三日後に、またここで」
 そう言うと、僕は、向かいのホームへと走り去っていった。
「あれ?」
 僕は、何だか呆けた顔で驚きの声を挙げた。何か、勘違いしていたのだ。僕になって行ってしまったその女性は、体を僕と交代して、 そして、少しの間とは数日間のことだったのだ。
 僕は、その女性になってしまった自分の姿を見て、大変困ってしまった。僕だって、これから彼女とデートなのだ。どうしよう。
「あぁ、そうだ。僕、じゃなかった・・・私と代わってもらえませんか。ずっと見ていたあなたなら、事情はわかりますよね?」